盛和塾 読後感想文 第四十四号

もうダメだという時が仕事の始まり 

稲盛塾長は塾長理念として次のように述べています。物事を成し遂げていくもとは、才能や能力というより、その人の持っている熱意や情熱、さらに執念です。 “もうダメだという時が、本当の仕事の始まり。” だそうです。 

人は出来ないことの理由をあげて自分自身を慰め、失敗することに対して自分自身を納得させようとします。お金がない、人材がいなかった、不況だった、競争が激しかった等、ほとんどの場合は、そういう言い訳をします。良い環境が逆に仕事をやり遂げる事を妨げていることに気が付かないのです。ありすぎる為に人間は努力をしないのです。 

“素晴らしい仕事には、燃えるような熱意、情熱を持って最後まであきらめずに粘り抜くことが必要。” と塾長は述べています。 

リーダーの在り方について 

1. リーダーシップの重要性 

国際戦略研究所(CSIS)のデービッド・M・アブシャイアさんが、“リーダーシップ、創造性、価値観” という題でシンポジウムを開催されたそうです。その際、彼、“ジョージ・ワシントンが初代大統領になった最大の理由は、ワシントンが素晴らしい人格者だったからだ。” と強調されたそうです。イギリスから独立したアメリカ合衆国が素晴らしい国家を形成できたのは、ワシントンが素晴らしい人格者であり、国をまとめることが出来たからで、リーダーとして一番大事なことは、その人が持つ人格であるという事をアブシャイアさんは言われたと塾長は述べています。 

塾長はスピーチの中で “人格はつくられると同時に、時と共に変わるもの。変わらないような強固な人格を形成した人をリーダーに選ばなければならない。” と述べています。強固な変わらない人格を形成した例として、二宮尊徳の功績を塾長はあげています。 

2. リーダーはいかにあるべきか 

リーダーは人格で決まると言われますが、組織を引っ張っていくときには、卓越した戦略、戦術が不可欠だと塾長は述べています。その為には、“こうでなければならない、こうありたい。” という確固たる信念(見識(けんしき)というそうです)が必要です。それと同時にリーダーには、統率力が求められます。 組織を率いていくには、勇気、豪気、決断力、実行力が備わっていなければなりません。(胆識(たんしき)というそうです)いくらこうでなければならないという信念を伴った見識を持っていても、それを実行できる胆力が備わっていなければ、実現は出来ません。 

私は昔のことわざ “言うは易く行うは難し。” と毎日のように思います。 

リーダーが集団を引っ張っていく為には、ビジョン、目標を掲げることです。そして、その使命を明確にすることが必要です。目標を達成するという事の意味、すなわちそれはどういう使命を果たすことなのかを、組織のメンバーに解りやすく説得することが出来なければなりません。 

3. リーダーが持つべき 考え方

 a. 人間として何が正しいか

リーダーの基本的な判断基準とは “人間としてやっていい事、悪い事。” “人間として何が正しいのか。” であり、塾長はこれを実践、実体験の中から考えられ、この判断基準を貫き通したと言われています。

 b. 人生方程式を考え付く 

実践の中で人生方程式(人生の結果、仕事の結果=考え方×熱意×能力)を考えられました。人生の結果、仕事の結果はその人の持つ能力、熱意と、その人がどういう “考え方” で人生を歩んできたかによって決まります。 

リーダーは戦略、戦術を考える為の知識が必要です。その為には、頭の良さ、健康でタフな仕事をこなせる能力が必要です。 

リーダーは知識を得る為、戦略、戦術を磨く為に人一倍の努力、目標達成に向けての努力=熱意が不可欠なのです。 

この能力熱意は0点から100点まであります。例えば頭の良い優秀な大学を出た人は90点の能力があり、たいして頭の良くない人は50点の能力があるとします。しかし、頭の良い人はうぬぼれの為、努力を怠り30点、その一方で頭のさほど良くない人は、自分がそんなに頭が良くない事を知っていますから、努力をし、熱意は90点。能力と熱意の点数を掛け算しますと、頭の良い人は2700点、頭のさほど良くない人は4500点となります。このように、能力がさほどない人でも努力をすれば、能力のある人以上に素晴らしい結果をもたらすことが出来ます。 

次に考え方という要素が加わります。考え方にはマイナスとプラスがあります。わずかな否定的な考え方であっても、その人の人生結果がマイナスになってしまうのです。 

能力もあり、熱意もある人が否定的な悪い考え方をしますと、その人の人生結果に致命的なマイナスになり、その人は人生の敗北者になることがあります。“人間の考え方、人間性、人格、その人が持っている思想、哲学というものが人生にとって最も重要な要素である。”

と塾長は語っています。  

c. どの山に登るか 

組織のリーダーは各自異なった目標を設定します。どの山に登るかによって準備する装備が違うがごとく、どういう人生、経営を目指すかによって、その人が持つ“考え方”のレベルも違います。 

“険しい山に登ろうと思えば、落伍する人がいるかもしれません。それでも目指す山に登ろうと思うなら、それに見合う厳しいトレーニングや周到な準備をしなければなりません。その為、社員にも会社の高い目標に見合うだけの考え方、哲学を持つように要求しなければならない。” と塾長は言っています。 

d. 高い目標とそれに見合うプロセス 

京セラは創業時から “世界一” を目指すと公言し、従業員に繰り返し説き続けてきたと言われています。説き続けるだけではなく、“京セラフィロソフィ” を作り、アメーバ経営のシステムを作り、目標達成のプロセスを実行してきました。こうした高い目標を達成する為には、辛酸をなめ、苦難の道を歩くというような生き方、生き様がどうしても京セラには必要だったのです。 

面白おかしく人生を生き、また、面白おかしく経営をしたい人が目指している会社とは、京セラが目指したものとは異なっていたのです。 

e. リーダーの考え方が組織の運命を決める 

成功を収めると傲慢になり、名誉欲にとらわれ、謙虚さを失うリーダーをよく見かけます。中国の古典に “ただ謙のみ福を受く。” ということわざがあるそうです。謙虚でなければ幸せは得られないという意味です。謙虚さを失った為に、会社が倒産した例は枚挙にいとまがありません。人間はどんな考え方をしようと、その結果を自分自身で負う限り自由です。しかし、組織のリーダーの場合、その結果は自分ひとりだけではなく、企業が倒産すれば従業員、その家族、顧客、取引先にも類が及びます。集団を率いるリーダーというのは、どんな考え方をしても自由、ではないと思います。集団を幸せにしていく為には、リーダーは立派な考え方を持つことが義務だと塾長は言っています。リーダーは自分が成功しても謙虚さを失わず、幸せになったことに感謝しなければならなりません。その幸せを他の人と共に分けてあげる “利他の心” を持ち続けることが大切です。 

4. 心を高め続ける 
a. 六波羅蜜 

お釈迦様が悟りを開かれた方法として “六波羅蜜” という修行を説いておられます。

布施-他人のために尽くす “利他の心”

持戒-足るを知る、煩悩、欲望を抑える

精進-一生懸命努力をする

忍辱-耐え忍ぶ

禅定-心を静かにする

智慧-悟りを開く

b.  精進 

私が一番大事にしていることは、精神です。“働くことは生活の糧を得る為である。” と教わったと思いますが、それだけではなく、社会と関わり、人を知り、働くことを通じて自分の人格を磨くことも大切なことです。“艱難汝を玉にす。” という言葉があるように、苦労があって初めて人間が磨かれていくと思います。 

c. 普遍的な経営哲学 

グローバルな経営や海外で事業経営に携わっている経営者は、国際的にも通用する普遍的な経営哲学を持つことが大切だと思います。