盛和塾 読後感想文 第五十七号

愛と誠と調和の心をベースとする 

人生・仕事において、素晴らしい結果を生み出す為には、ものの考え方、心の在り方が決定的な役割を果たします。 

人を成功に導くものは “愛” 、 “誠” と “調和” の心です。

 “愛” とは、他人の喜びを自分の喜びとする心。

 “誠” とは、世のため人のためになることを思う心。

 “調和” とは、自分だけではなく、周囲の人が幸せになるように願う心。 

愛と誠と調和の心は、誰でも人が魂の中に持っているものなのです。この思いが、私達を成功に導いていく基盤となるのです。 

新しい企業文化創生のために-役割分担の違いを認識する 

京セラが通信事業に参入した時のことです。日本高速通信、日本テレコムが同じく参入してきました。これら2社は光ファイバーを敷くインフラを持っており、大きなアドバンテージがあったのに対し、京セラの第二電電(DDI)は、何のアドバンテージも持っていませんでした。 

DDIはマイクロウェーブによる通信ネットワークの構築を目指して、大阪 - 名古屋 - 東京に致る幹線を6月に完成する予定です。本年10月には東名阪の専用回線サービスを開始する予定ですと、塾長は述べていました。2004年のことでした。すると次第に、通信回線の再販ビジネスが登場してきたのです。東京電力や関西電力などが、市内中の電柱を活用して通信事業に進出するようになってきたのです。厳しい競争状況下にあるのでした。 

DDIは、京セラ、NTT、一般企業のミドルマネジメントにいた優秀な人達等、様々な人達と通信サービスの開始に向け準備をしてきて、300人もの様々なバックグラウンドの違った集団で事業を開始しました。混成部隊から始まったのです。 

企業文化の重要性 

通信インフラの整備の問題がありました。東京から大阪までマイクロウェーブの回線を引っ張っていったのですが、東名阪を結ぶ山々の頂にパラボラアンテナを次々に立てる工事をこの冬中に終了させることが必要でした。それと同時に、土地買収問題、海外から輸入する無線通信機器や交換機などの購入費用の調達問題もあったのでした。 

三井物産、三菱商事、東京電力などの会社からも派遣していただいたので、社内調整には苦慮されたそうです。派遣社員はそれぞれ別の会社から来ていますから、異なった考え方がありますので、各部門の調整には時間と労力が必要だったようです。DDIにはまだ、企業文化、社風というものができていなく、同じ価値観、判断基準、座標軸は確立されていなかったのです。 

創業2年目のDDIには、そういう企業風土が確立されていませんでした。

 “三菱商事ではこうです” 、 “NTTではそうではありません”  “通星省ではこうです” と皆、自分の出身企業の名のもとに、意見を述べるのでした。そしてそれらが本当に、出身会社の価値観なのかというとそうでもなく、自分の考えに基づいて勝手に自分の都合のいいように、前の会社ではこうでしたと主張しているのでした。DDIには企業文化や経営理念というものがなかったのでした。 

NTTの初代社長は真藤恒(しんとう ひさし)さんですが、 “合理化の魂” と言われた人ですから、新しいNTTの社風までも変えていかれたのです。真藤さんの影響で、NTTはずいぶん雰囲気が変わり、サービスも良くなり、幹部の働きぶりも良くなってきたそうです。1人のリーダーが変わるだけで、会社全体の社風が変わり、社員の働き方までも変わってきました。これが企業文化です。 

DDIもNTTに負けずに企業文化、フィロソフィーを作り上げねばならないと考えました。しかしDDIの社員は、今DDIは機能しているし、今更企業文化は必要ではないと考えている状況でした。今は従業員が300人ほどですが、将来は何万人となります。南は鹿児島、北は北海道とDDIの従業員が入社してきます。その時に、本社のトップと末端とが同じ価値基準でモノを判断し、行動する為の規範というものができているのかいないのか。もしそれができていないとすれば、DDIはガタガタになります。鹿児島の所長はNTT出身でNTT流、大阪支店長は三菱商事流、他の支店長は自分流で仕事をしていたのでした。ですからDDIには共通の判断基準が必要だったのでした。 

見えざる部分が企業格差を生む 

経営哲学や経営理念、企業文化とは、思想的にも立派なものでなければならないと誰もが思っています。それは感覚的に思っているだけで、実際に仕事の中で経営哲学を適用して、役立てていることは少ないのです。 

企業には見える部分と見えざる部分があります。見える部分は、資金、設備、技術、人材、商品、経営マネジメントの能力です。見えざる部分は、経営者や社員が持つべき思想、モラルや意識、企業文化であり、経営哲学なのです。社員の持っている使命感や意欲、情念、根性、仲間意識、愛社精神等の、社員の人間性等が見えざる部分なのです。 

投資家、銀行、経営者は、見えるものをベースとしていろいろな経営判断をします。一般には軽視される見えない部分、企業文化も、企業が存続発展していく為には必要なのです。欠くべからずものと言えます。 

21世紀の優れた企業は、この見えない部分を重視し、企業目的や使命を社内で共有することに努め、社内の意識統一を図るようにしています。そういうことが出来る企業こそが、21世紀に生き残り、隆々と栄えていく企業なのです。 

大企業は立派な見える部分、資金、設備、人材、技術者を持っておりますが、中小企業は、この見える部分に関して劣ります。しかし中小企業にとっては、見えざる部分で素晴らしいものを作り上げることが大切なのです。 

会社の使命と目的を明確にして、社員の意識を統一していくことに最大の経営能力を注いでいくべきです。立派な経営哲学に基づいて意識統一を果たした集団を作ることができれば、集団の持つエネルギーは強大なものになります。企業の優劣はこの見えざる部分によって決まるのです。 

普遍性のある価値観とは 

仕事の中では往々にして、それぞれ自分に都合の良い価値観を持ち出す、ご都合主義の人がいます。中堅幹部クラスの人々はDDIが新しい経営理念を作ろうということに対して、あまり関心は示さないのです。しかしトップは、就任してみて従業員を養っていかなければならなくなって初めて、理念の必要性を感じるのです。トップだけが理念が必要なのです。 

DDIのトップも稲盛塾長にとって代わっていきます。トップになったからといって、社員共通の価値観をつくり、従業員の共感が得られるものではないのです。DDIはDDIの理念、価値観を正式に作らなければならないということに直面したのでした。 

企業文化、理念、価値観は経営者と従業員の双方ともが満足してはじめて、受け入れられるものなのです。つまり、普遍的な価値観であるべきものなのです。経営理念にそのような普遍性を与える為には、経営者側も労働者側も共に、共通の束縛を受けるものでなければなりません。共にある種の約束事があって、お互いに守る義務があるというものでなくてはなりません。価値観は全社員が共鳴し、共有したいというものでない限り、企業内には定着しませんし、実行もされません。 

役割分担の違いを認識する 

経営理念とは経営者と働く側にとって、それぞれ一方に都合の良いというものではなく、両方を満足させる普遍性のあるもので、会社での公平、平等を唄っているものです。公平平等性というのは、会社では皆同じ仕事をし、同じ待遇を受けるという機械的なことを意味するわけではありません。会社に働く人全てが守るべき考え方を共有するという意味です。会社の中の仕事は多岐にわたり、それぞれの役割があります。役割によって仕事が、待遇が違うのです。 

創業者だから、社長だから社用車が与えられ、運転手がつけられる、或いは勝手に交際費を使っても許されるということではないのです。仕事上の役割がある為に、社用車があり、交際費が発生するのです。会社の経営陣が勝手に会社のお金を使いますと従業員は、役員だから彼らは勝手なことが許されるのだと諦め、反発もしないかもしれません。しかし、末端の社員は経営陣の言動をしっかりと見ています。公私混同をするようなことが社内で起きてきますと、従業員も同じ事を考えてしまいます。 

社長には社長としての役割があり、その役割を演じてもらわなくてはならないのです。社用車、服装、言動にも気を配り、社長として会社の主役を演じてもらわなくてはなりません。 

仕事を開始するけじめをつける 

仕事の開始によく朝礼をやります。 “さあ、仕事の時間だ。家庭生活から頭を切り替え、心機一転頑張ろう” という “ けじめ” が必要です。心を引き締めて今日一日もしっかりと仕事に取り組もうとする心の準備が “朝礼” だと思います。 

物事をするのには、始まりと終わりに “けじめ” が必要です。仕事の始めには服装、道具、材料を確認しますし、仕事が終了する時は明日の仕事の準備が出来ているか。今日した仕事に落ち度がなかったか等と見直しをします。これらはすべて “けじめ” だと思います。 

 “けじめ” が習慣化していき、皆が暗黙のうちに納得するようになりますと、それが皆が納得する経営哲学、経営理念になり、共通の価値観、判断基準が生まれ、一人ひとりがそれを自分のものとし、実践するということが末端にまで浸透していったならば、会社の企業文化となり、社風となります。それは強制されたものではなく、自発的な行動を促し、素晴らしい企業としての力になります。 

経営は企業文化で決まる 

従業員がよく働く会社は、従業員が自ら、心の底から燃え上がってくるものを持っている会社です。社員が一生懸命に働いてくれるということは、そのような勤勉さを尊ぶ企業文化というものが、それぞれの従業員の心に染み渡っていて、自発的に燃え上がり、積極的に行動してくれる風土が出来ているからなのです。 

こうした企業風土は待遇や会社規則だけで育つものではありません。どんなに高い給料やボーナスで釣っても、人間は身を粉にしてまで働くものではありません。会社規則で縛っても、決して人間は自ら積極的に考え、行動するものではありません。内なる魂に火を点け、それを燃やし続けてくれるような価値観を作ることが必要なのです。価値観とは、人間として正しいことを貫くもの、普遍的なものであり、社員が人間として共鳴し、それを自分自身のものとして毎日の生活に、職場に取り入れていこうと思ってくれるものなのです。 

企業が高い目標を掲げ、その目標を達成する為には、従業員の自発性に依存することが必要であり、多くの燃える従業員を作り出し、ベクトルを合わせていくことが必要なのです。燃える従業員が燃え続ける為には、高邁(こうまい)な理念が不可欠なのです。 

私が塾長から教わったこと               京セラ株式会社会長 伊藤 謙介 

京セラ創業の時の話です。塾長はよく “ちょっと集まれ” と言って彼の机の周りに20~30人を集めて、2、3時間かけて我々を教育してくださいました。 

主な話は “人生とは何か”  “仕事をするとはどういうことなのか” と物事の本質を問うような話が大半でした。仕事のことについても、どういう注文が入り、どうすればその仕事を完成できるのか、どうすればもっと注文がくるのかと一生懸命に話されました。 

我々の顔が紅潮する、つまり私達が本気になるまで丹念に話をしてくださいました。 “これは魂の転移だ。自分が一生懸命に喋り、それが君たちに伝わって君たちの顔が赤くなったのだ。その代わり、自分は話し疲れて顔が青ざめてきた。しかしそれくらい情熱を込めて話さなければ、意志というものは伝わらない” 

 “未来進行形で仕事をする” 難しい注文をとってきますと、今は出来なくても、必ず出来ると信じてやり遂げなくてはならない。例えば、6ヵ月後には必ず出来るはずだと信じて努力を重ねていけば、我々の能力も上がってくるはずだ。こういうチャレンジ精神を持って、全従業員が夢と希望を持って仕事に励んできました。 

ファインセラミック業界では、日本ガイシ、日本特殊陶業が先発企業としてそびえ立っていました。塾長は、相手にドクターが50~100人いたとしても闘争心を燃やして夜も寝ないで努力をすれば、必ず競争に勝てるはずだと、全従業員を鼓舞してくださった。負けるものかと闘争心を燃やして、一生懸命に努力をしてきた結果、いつの間にか業界の先頭に立っていたのでした。 

こうした中で、経営には次のようなことが大切だと考えるようになりました。

  1. 価値観の共有を図る
  2. 革新の風土を作り、現場主義を貫く
  3. 意志のある経営を行う

 

  1. 価値観の共有を図る

企業とは従業員の意識の集合体であり、どういう意識を社員が持つのか、その意識の集合したものが企業なのです。社員がどういう意識を持って仕事をしていくのか。その意識が集まって企業文化、企業風土を作り、その会社の業績となって結晶化するのです。従業員1人ひとりが会社なのです。価値観を共有する集団こそ最強の集団なのです。 

京都にある大手企業、京セラ、村田製作所、ローム、日本電産の業績は、他の大手電機会社と比較して利益率で圧倒的に上回っているのです。これらの企業には創業者の理念というものが脈々と息づいているとしか考えられないのです。この理念こそが一番大切なのです。 

イギリスの豪華客船タイタニック号は、カナダ沖で氷山に衝突して沈没してしまいました。約2,500名の乗客の内、7~800名が亡くなったそうです。氷山はその9割が水面下にあり、水面上に出ていたのは約1割に過ぎないといいます。企業でいいますと、水面上にある目に見えるものとは、技術力、営業力、財務力等であり、水面下にある目に見えないものとは、経営理念、経営哲学だと思います。 

企業の成長を左右するのは技術力だと言われますが、それは水面上のことなのです。素晴らしい技術があり、他社にない特許を持っているというような水面上だけを見て経営をする。ここに誤解があるのです。目に見えるものは、目に見えない水面下の経営哲学、理念を持った集団が作り出したものです。従業員の意識を支える経営哲学、理念こそ、目に見えるもの – 技術力、営業力、財務力を生み出す源泉なのです。 

タイタニック号は、目に見える氷山の一部、氷塊だけを見て大したことはないと思いました。しかしその下には、巨大な氷塊が潜んでいたのです。技術過信に陥り、経営哲学を軽視して衰退していく、昨今のベンチャー企業と同じことなのです。 

企業文化、風土とは、一企業だけに当てはまるだけではないのです。例えば、浜松にはオートバイメーカーが集中しています。鹿児島の加治屋地区からは、明治維新に大活躍をした人材を多く輩出しています。一つの磁場がその地域に出来ていたのです。このように会社の中に、経営哲学、理念を共有する磁場を作ることが大切なのです。 

  1. 革新の風土をつくり、現場主義を貫く

“企業寿命三十年説” とよく言われています。大企業病です。企業は三十年も経つとだんだんぬるま湯のような居心地のいい状態になっていき、社員がそこに安住しているうちに、いつの間にか衰退してしまう。常に緊張感のある職場を作ることによって、企業の活力を蘇らせなければならないのです。 

例えば、車を運転している時、いくつ信号があったかはほとんど気がつかないと思います。しかし、注意してみると10箇所信号があったことに気がつきます。40マイルで運転していますと信号に引っかからない。しかし、50マイルだと信号に引っかかるということがあります。こうしたことは些細な事ですけれども、仕事の中でもこのように有意注意で見ますと、改善点がいくつも見えてくると思います。 

意識さえあれば、創意工夫や改善の余地は限りなくあるのです。ところが、少し努力しただけで “これ以上は無理です” とすぐに諦める。そうではないのです。可能性は限りなくあるのです。 

松下幸之助さんがまだ40代の頃、現場を回られた時のことでした。事務員の方が鉛筆の芯を向こう側に向けて机の上に置いていたのです。それを見た松下幸之助さんは “おかしいやないか。鉛筆の芯は手前に向けておかんか。何をやっとる。教育がなっとらん” と言われたそうです。新を向こう側に向けて置いておくと、使う時に鉛筆の向きを手で変えて、手前に向けて使うようにしなけらばならない。それでは時間がもったいない。鉛筆の芯は手前に向けて置き、すぐに使えるようにしなさいということでした。 

わずかコンマ数秒のことを伝えることにより、モノづくりの哲学を言われたに違いないと思います。現場が、こうした問題意識が沸き起こるような緊張感のある職場となっていなければ、革新的なことも決してできないのです。 

机の並べ方についても塾長は厳しく指導されていました。糸を引っ張って机が真っ直ぐになっているか何回もチェックされました。 “机の際がビシッと揃っていなければ、手の切れるような製品は作れない。心が曲がれば製品も曲がる” 私も退社する時はできるだけ書類は置かないように、また置く場合には直角に置いて帰るというのが習慣になっています。条件反射です。 

  1. 意志の経営

1995年、急激な円高になり、1ドル160円から79円になりました。京セラは輸出依存度が40%と高いのです。しかも京セラでは “為替リスクは全て京セラが被る” と言う考え方ですから、1ドル167円で作っていたものを半値で作らなければならなくなったのでした。京セラ創業以来初の赤字に転落すると考えたのでした。しかし京セラは絶対に白旗は上げない。 “リーダーが厳しい環境を意識するのはよいが、決してもう駄目だという事は口が裂けても言ってはいけない” と幹部に指示しました。 

 “経営とはメンタルゲームだ” と塾長は言いました。まさにどういう心理状態の集団になるかによって、業績は変わっていきます。リーダーが白旗を上げたらその集団の業績が良くなるはずがないのです。とにかく円高を乗り切る為にどうするか、皆で考えようと必死になって働いたのです。 

日本海に佐渡島があります。罪人が遠島の刑に処せられた未開の孤島でした。そこに日蓮上人や世阿弥達が流されたのです。逃げ場のない所に自分を置き、島に流された時、自分に対峙することで自分の内面を凝視し続けていったのです。 

京セラは円高に対して絶体絶命のところに自分を追い込んで見事に従来の半値で作ることが出来るようになり、円高を乗り切ることが出来たのでした。自分の心の中に逃げ場のない言い訳のない世界を作ったのです。半値で作る事を誓い、逃げ場のない所に自分を追い込むことで達成不可能と思われたことでも達成できたのです。こうした中にこそ、本当の人間成長があると思いました。