盛和塾 読後感想文 第五十八号
常に謙虚であらねばならない
人間は誰でも少し成功しますと、自分を過大評価して、傲慢不遜になることがあります。そうしますと、周囲の人達の意見に耳を傾けなくなってしまうことがよくあります。周囲の人達からは協力を得られなくなり、孤立化してしまいます。また、人の意見を無視しますから、自分自身の成長の妨げにもなります。
会社の成功には、社員の方々からの協力を得、会社のベクトルを合わせて、社員皆の協力があることを忘れず、いつも謙虚な姿勢を保つことが大切なのです。 “皆のお陰だ” という気持ちを事あるごとに社員に伝えることが大事なのです。
何故経営に哲学が必要か - 経営の心は万国共通 - パラグアイ
塾長はブラジルのみならず、パラグアイ商工会議所の要請に応えられて、講演しました。
京セラの紹介
京セラは1959年に創業しました。京セラは、塾長の開発したファインセラミックス部品の開発から事業を開始しました。
京セラグループには、第二電電(KDDI)の傘下に、長距離電話会社、携帯電話会社もあり、素材、部品、機器、サービスまで垂直展開をする、世界でも類を見ない営業形態の企業グループです。1997年の業績は以下の通りです。
1997年 売上高 税引前利益 営業利益率
京セラ 7,253憶円 1,054憶円 14.5%
第二電電(KDDI) 12,000憶円 650憶円 5.4%
この2つのグループ以外にも、カラオケやアミューズメントの事業を行っています。3社とも株式は上場されています。時価総額は約3兆円です。
先進国に荒廃をもたらした倫理観の希薄化
第二次大戦後、日本ではお互いに切磋琢磨して経済が発展してきました。そして、敗戦後20年もしない内に、世界有数の工業国になりました。
しかし、ただ利潤を追求するという日本企業の経営思想/姿勢が、社会に多くの歪みをもたらしました。企業活動による公害の発生です。地球環境や国民生活を無視した生産活動の為、日本の川、海は汚染され、日本の空まで空気汚染にさらされました。
公害問題は少しづつ解消されていますが、利益のみを追求する姿勢はますますエスカレートしてきています。こうした風潮は、バブル経済を巻き起こし、経済界、政界、官界の多くのスキャンダルに連なってきています。目を覆うような不祥事が多く発生しています。
日本以外の先進国でも、同様のことが発生しています。これらの主な理由は、資本主義社会における倫理観の希薄化があります。
キリスト教の宗派の中で、プロテスタントの人々の倫理的な教えに基づいて、資本主義が、発生してきたと思われます。資本主義が勃興し始めた時は、日常生活は出来るだけ質素にする、労働を尊び、労働で得た利益は社会の発展の為に活かさなければならないという社会的規範があったのです。つまり、世のため人のため、利潤は追求されていたのでした。
こうした倫理観も、利益を追求することが目的となり、利益を上げる為、自分の利益を確保する。自分だけ良ければよいという風潮となり、次第に本来の倫理観が希薄化してしまったのです。
経営哲学の共有化
社会のリーダーや経営者の方々が、資本主義の原点にあった自分の為ではなく、社会の為に利潤を追求するという基本的な哲学を学ぶことが必要になっているのです。
社会全体に、正義とはなにか、公正であるとはどういうことなのか等を、真剣に考える風潮や、謙虚さ、努力、思いやりを大切にするという意識を高めることが必要なのです。
そうだとしたら、ただ単に批判するだけではなく、自分の会社の中でもこうした立派な倫理観・経営哲学を育てるように実践していく事が大切です。
京セラグループの成功は、経営者が正しい経営哲学を持ち、それを全従業員が自分のものとして理解した上で、その経営哲学に適う(かなう)行動をとり、誰にも負けないくらい一生懸命に努力したからだと思います。また、成功しても謙虚さを失わずにきたからこそ、今日まで発展し続けられました。
判断基準のベースは “人間として何が正しいのか”
塾長は27歳で京セラを創業しましたが、経営をした経験も、経営の勉強もしたこともなく、毎日の経営判断に困り果てていたそうです。その時、経営は知らないのだから “人間として何が正しいのか” をベースにしていこうと考えました。人間として正しいことなのか、善い事なのか悪い事なのかという、大変原始的で幼稚な判断基準を経営の判断基準にしたのでした。
プリミティブな倫理観、道徳観が成功をもたらす
経営の経験がない塾長は、最もベーシックなプリミティブな倫理観、道徳観をベースにして、経営を進めてきたことが、現在の成功をもたらしていると述べています。
人間として何が正しいのかを原点に置き、どのような状況に置かれようとも、正義や公正さを追い求めていく姿勢を失わず、勇気、努力、謙虚さ、思いやり等、最も大切な価値観を尊重するという経営哲学が稲盛塾長の哲学です。
常に正しいものを求める心、理想を追い続ける心を持たなければなりません。
物事に対処するには、誠意、正義、勇気、愛情、謙虚な心を持たなければならないのです。自己中心的な発想に基づいた行動をとったり、つい謙虚さを忘れて尊大な態度をとったりしてはなりません。他人に対して嫉妬心や恨みを抱きがちなのが人間です。このような心では正しい判断はできません。人間は自分にとって正しい判断をしますが、そうではなく、人間として正しい事、人間が持っている誠意、正義、勇気、愛情、謙虚な心を持って人間として正しい判断をすべきなのです。
努力には限度がありません。限度のない努力は、本人が驚くような偉大なことを達成します。努力こそが偉大なことを実現します。努力とは、限度のない、つまり誰にも負けない努力、また持続した努力の事です。努力についてはこれくらいでいいという限度はありません。際限のない努力を積み重ねていく事によって、初めて偉大なことが達成できるのです。
経営哲学の欠如から生ずる企業の歪み
経営者に明確な経営哲学がなく、経営手法や技術力を重視し、ただ単に利益の増大を目指し、合理性や効率性を追求して経営をしていると多分、儲かればよいという風潮が生まれ、利益の為だから少しぐらい不正をしてもいいだろうとなるのです。
利益を上げることの出来る有能な社員は、会社の地位と権力を手中にして、不正な行為をしてまでも、利益を追い求め、ひいては自分の収入さえも増やそうとします。
社内で不正が見過ごされますと、会社のモラルは堕落してしまします。
こうした堕落した風潮は、会社の業績を悪くしていきます。
人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力 の方程式で表される
人間は生まれながらにして、良い性格を持っています。しかも人間は、自分自身の欲望に負け、環境に負け、対面を気にして、知らず知らずの内に人間の道に反することを平気でやってしまうのも事実です。その為に、私達には困った時に判断基準となるべき、哲学が必要なのです。経営者は、高い倫理観に裏打ちされた経営哲学を持ち、それに基づいて自分自身を戒めると同時に、それを社員と共有できるようにするべきなのです。
人生・仕事の結果は、考え方、熱意、能力によって決まります。能力は先天的なものですから、変えることは困難です。熱意はどうしたいという強い願望に裏打ちされたものです。能力も熱意も0点から100点まであります。
しかし考え方には、マイナス100点か~プラス100点までがあるのです。考え方とは、どういう心構えで人生を送り、仕事をするかという事です。つまり、怒りや嫉妬、妬み、恨み、不平不満はマイナス、明るく前向きな思い、相手を思いやる優しい思いを抱く場合は、プラスなのです。この考え方がプラスですと、人生・仕事の結果はプラスとなるのです。
能力があり、熱意もあり、自分の目標を大きく掲げ、正しい考え方をすれば、大成功するのです。能力が劣っても、熱意や正しい考え方を持っている経営者は、成功の道を歩むのです。
経営12カ条
以下の経営12カ条を実践しますと、必ず経営は成功します。
- 事業の目的、意義を明確にする
なぜこのような事業をするのか。目的を明確にすることが必要です。その目的には、一緒に働く従業員が心から受け入れてくれるような公明正大な大義名分が必要です。もし、事業目的が経営者自身の利益だけを増大させようとするものであれば、従業員は一生懸命に働く気はしなくなります。
- 具体的な目標を立てる
今月の売上や利益等、目標を数値化し、必ず達成するように全従業員に訴え続けます。従業員の経営への参画を図るのです。
- 強烈な願望を心に抱く
強烈な願望とは、心の底からその実現を心に描き、それが自分の潜在意識にまで透徹していくような願望のことです。
- 誰にも負けない努力をする
具体的な目標を立てていますと、それに向けて限りない努力をするのです。地味な仕事を一歩一歩堅実に行うのです。
- 売上を最大限に、経費を最小限に抑える
- 値決めは経営
経営者は値決めをしなくてはなりません。値決めを軽く扱い、利益が獲得できなくなるようではいけないのです。
- 経営は強い意志で決まる
建てた目標を安易に諦めてはいけません。目標達成の出来ないことの言い訳を決してしてはいけません。目標は必ず達成するのだという強い意志が経営者には必要です。
- 燃える闘魂
常に厳しい競争にさらされている企業は、毎日が真剣勝負です。絶対に負けないという激しい闘魂が必要なのです。
- 勇気を持って事に当たる
周囲の人から反対されたりしても、 “人間として正しい” と考えた時は、自分の主張を堂々と主張するべきです。正しい事を貫くためには、勇気が必要なのです。
- 常に創造的な仕事をする
- 思いやりの心で誠実に
- 常に明るく前向きで、夢と希望を抱いて、素直な心で経営する
経営者は、決して物事を否定的に見たり、批判ばかりしてはなりません。暗い表情、不平不満、愚痴を部下に漏らすようでは失格です。否定的な言葉や心は、不運を呼び寄せてしまいます。
“動機が善” は、電気通信事業の成功を導きました。塾長は自分に厳しく問いかけました。そして、自分の為ではなく、世のため人の為に電気通信事業に参入しました。不利な条件下ではありましたが、移動体通信事業も成功しました。首都圏をどうしてもシェアしないトヨタグループの主張を受け入れ、首都圏以外で事業を開始したのです。争ってばかりでは、移動体通信事業が日本では育たないと考えたのです。こうした争いは日本国民の為にはならないと考えたのでした。