盛和塾 読後感想文 第七十四号

アメーバ経営には、フィロソフィーが欠かせない 

アメーバ経営はフィロソフィーの共有からはじまる

  1. 自ら考え方、哲学を構築し、従業員と共有せよ

経営にとって一番大事なのは、経営者と従業員の考え方を同じくすることがアメーバ経営を行うことの最初のステップです。企業内で経営者と従業員が同じ考え方、哲学を共有することが経営にとって一番大事なことです。

その為には、社長が立派な考え方、哲学を自分自身で構築していく必要があります。“人生・仕事の結果 = 考え方 x 熱意 x 能力”という方式を塾長は説いています。絶えず、フィロソフィーを勉強していき、自分の信念にまで高めていくことが必要です。

自分の信念にまで高めたフィロソフィーを、機会あるごとに、熱っぽく語ることで、全従業員が共鳴し受け入れてくれるようにするのです。朝礼や会議、社内報、コンパを通じて従業員に考え方を共有してもらおうと努力することが大事です。

  1. 使う者” “使われる者の関係から家族的な関係へ

社長として会社を率いていかなければならない経営者と従業員とは、置かれている立場に大きな違いがあります。経営者はその責任を自覚すればするほど、緊張感と責任感に押しつぶされるような思いで頑張っています。 

この緊張感、責任感を誰かに分担したいと思うのですが、担ってくれる人はなかなかいません。従業員に語りかけ、みんなを自分と同じような考え方にしていこうとしても、なかなか、そうはなってくれません。中には、全く無視するもの、不平不満をぶつけてくる者、ついには辞めてしまう者もおります。残った従業員はあまり頼りにならない。 

経営者は労働者を搾取している。経営者・資本家の言うことを聞いても、結局搾取されることには変わりないと考える従業員もいるでしょう。 

大企業の中でも、経営者と従業員が共通した考え方を持っているような例は少ないと思われます。共有しようという努力をしていないところでは、経営者と従業員の間では、考え方が大きく乖離しているのが普通です。 

そうではなく、経営者と従業員が家族のような関係であればよいと塾長は考えました。単に“使う者”と“使われる者”という関係ではなく、親が子を思い、子も親を思うように、経営者と従業員が互いに相手のことを優しく思いやる、家族のような関係を会社の中に作ればよいと考えます。“大家族主義”という考えを会社の中に導入し、共有してもらうようにするのです。所詮は赤の他人ですから、簡単に従業員が分かってくれるわけではありません。 

経営者はどのような考え方のもとで会社を経営していくのか、考え方・哲学を確立し、その共有を図ることで、仲間意識を持てるようにします。勉強会、“気づき”ノート、朝礼、コンパ、社員旅行等を通じて、アメーバ経営の話をする中で、“大家族主義”の浸透を図るのです。 

ところが、“考え方は自由じゃないか”人がどんな考え方で会社に勤めるか、どんな考え方で人生を歩くのか、個々人の自由ではないかと考えるのが通常だと思います。“大家族主義”の考え方に同意・共感してくれるようになるのには、時間も労力も費やさなければできないことです。確かにどのような考え方をしようとも自由ですが、うちの会社で一緒にみなとやっていくと思うのなら、是非理解してもらいたい。理解してもらえない、逆に反発する人は、この会社にいてもらう必要はないとまで、言わざるを得ないこともあります。 

  1. フィロソフィーを共有し、成功を収めている塾生企業

京セラフィロソフィーでもって、考え方、哲学を経営者が勉強し、社員と共有するようにすることが大切です。そうすれば、社員との間に一体感、連帯感が生まれ、運命共同体として、会社の団結力が強まっていくのです。 

アメーバ経営はこうして、考え方、哲学を社員と共有することから始まります。まずは経営者自身がフィロソフィーを確立し、それに従って日々の経営判断、行動ができるまで高めていくことが大切です。 

平和堂の夏原さん、マルゴイの澤田さんは盛和塾でのフィロソフィーを勉強され、それを従業員と共有することができ、会社を大きく発展させることが出来ました。創業者や先代が成し得なかったような高みに企業を押し上げることができたのです。 

  1. アメーバ経営は経営のパートナーを育成する

経営者と従業員がお互いの気持ちを理解でき、お互いがお互いの為に尽してあげようと思う心が社内にできれば、さらに経営者に欲が出てきます。自分と同じように経営責任を担ってくれる人、パートナーがほしいと思うのです。

経営意識を持つ人材の育成

どんな会社でも、経営者とは孤独なものです。トップとして最終的に決断をし、責任を負わなければならないので、つねに心細さがつきまといます。自分と苦楽をともにし、共同経営者としての責任を感じてくれる社員が心の底から欲しいと思います。

会社が小さいときには、たとえ忙しくても、経営者が会社全体をひとりで見ることができます。しかし会社が大きくなるに従い、製造、営業、開発、会社のすべてをひとりで見ていくことは次第に困難になります。製造はA君、営業はB君、開発はC君、総務経理はD君と各部門ごとに責任者を任命していくことが必要になってきます。営業部だけでも、会社が大きくなりますと、東部、西部、中西部、南部というように組織を分けていくことになります。製造部門でも、採算を細かく見ていこうとしますと、製造部の責任者がひとりで管理していくことは不可能になります。製品品種別、工場別に責任者を配置することが必要になってきます。

会社が大きくなったとしても、組織を小さなユニットオペレーションに分けて、独立採算にしておけば、そのリーダーが自分のユニットの状況を正しく把握できるようになります。小さなオペレーションを任されたリーダーも、少人数の組織であるが故に、日々の仕事の進捗状況や工程管理などの組織運営を容易に行うことができ、特別な経験や能力や専門知識がなくても、自部門の運営が的確に行われます。

それだけではなく、小さなユニットであっても、そのリーダーは経営を任せられますと“自分も経営者のひとりだ”と意識を持つようになります。そうしますと、リーダーに経営者としての責任感が生まれてきます。と同時に業績をよくしようと努力をします。従業員として“してもらう”立場から、リーダーとして“してあげる”立場になります。この立場の変化こそ、経営者意識の始まりです。

そうしますと、“一定時間を働けば、一定の報酬がもらえる“という立場から180度変わって、今度はメンバーの報酬を払うために自らが稼ぐ立場になります。こうして経営責任をともに負ってくれる共同経営者がリーダーの中から次々と誕生してきます。

これがアメーバ経営を行う目的の、二番目の目的です。アメーバ経営の目的のひとつは、一般の従業員を経営者意識をもった共同経営者に育成していくことにあります。

会社を小さなユニットに分割し、その経営を社員に任せることにより、今までは“してもらう側”にいた人が、リーダーとしてひとつの部門の管理運営をしなければならなくなります。その管理責任をしなければならなくなる瞬間から、今度は“してあげる側”として考え方が180度変わり、経営者としての自覚を持つようになるのです。

ベテランの人をリーダーとして配置していきます。しかしその時点ではまだ経営者としての力量は分かりませんから“このくらいのオペレーションであればこの人は経営できるだろう”と考え、その人に見合ったユニットの運営を任せていきました。このように ON THE JOB TRAINING、まさに現場での実践を通じて育てていきます。

会社組織を分割し、“あなたはこの部門の経営責任を持つのですよ”といわれても、その人たちは経営を知りません。損益計算書が理解できなければ、小さな組織も経営することは出来ないのです。会計の素養のないユニットリーダーに経営者としての一翼を担ってもらうために社長は誰にでもわかるような損益計算書を作る必要があるのです。一言で言えば、時間当たりの採算表を作り、誰が見てもすぐに経営状態がわかるようにするのです。

  1. 組織分割の条件は独立採算ができる単位

アメーバ経営では、会社の組織をそれぞれ独立して採算を見ることが出来る単位に分割します。明確な収入が存在し、その収入を得る為に要した費用も明確に算出できるような単位でしか分割をしてはならないのです。 

製造業の場合、会社は営業と製造に分けられるとします。製造部が大きくなりますと、製造Ⅰ、製造Ⅱ、製造Ⅲというふうに分け、営業部は支店A、支店B、支店Cというふうに分けていきます。こうして組織を分割して、それぞれの組織に経営を担ってもらう責任者を任命していきます(図参照)。

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ラーメン屋展開で3店舗のラーメン屋を経営しているとします。ラーメン屋は麺がいります。麺は自分で作った方が、買うよりも量も多いので、自分のところで作る場合もあります。自社で麺をつくったときの原価と、外部から仕入れたときの価格と比べてみて、自社で作ったほうが安いとなれば、自社で作る部門を設けることになります。スープも自社でつくることもあります。面もスープも自社でつくることになりますと、各店舗の店長は支給された麺とスープを使って、店舗ごとの独立採算で経営をしていくことになります。 

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製麺部も独立採算です。小麦粉を仕入れて麺を作り、外部の製麺業者の作る麺よりも安く店舗に供給します。安く供給しても製麺部門に利益が出るように、部門長に経営を任せます。スープもなるべく安くておいしいものを独自に作って各店舗に供給します。スープ部門も独立採算で運営していきます。 

製造部の製麺部とスープ部は、それぞれの売上がいくら、経費がいくらかを算出して、各部の損益を算出します。製造部全体としては、この2つの部門の売上と経費の合計が損益となります。同時に営業部はA店、B店、C店それぞれ売上・経費を合計し、損益を算出します。それらを合計すれば営業部全体の損益を算出することができます。この製造部・営業部の売り上げ、経費、利益が合算され、この会社全体の業績になります。

アメーバ経営と採算表

  1. 素人経営者にもわかるように勘定科目を細かく分けていく

会社の部門別に採算管理をする、どこが儲かっているのか、儲かっていないのか、はっきり分かるように、部門別に採算管理していくことが非常に大事です。売上や経費の中味については、細かく細分化して誰にでも内容が理解できるようにしておきます。 

アメーバ間の利害対立を融和させるのはフィロソフィー

  1. 製造部門と販売部門の利害は対立する

組織を分割していくときに、部門間の利害の対立という問題が発生します。製造部は少しでも高く売りたい、営業部門はなるべく安く買いたい、と利害が対立します。 

会社という同じ船に乗っているのに、協力し合わなければならないにも関わらず、製造と販売の間で利害が対立してもめてしまいます。 

  1. 利害対立を抑えるため、利益配分を工夫する

商品を販売する場合であれば、営業部はコミッションを得るようにして営業部内の採算をあわせようとします。例えばコミッション10%は営業部の収入です。営業部は、在庫負担や広告宣伝費を負担する場合はコミッションは15%~20%等に調整する必要があるかも知れません。 

受注品の場合は、営業部は在庫負担、広告宣伝費用はありません。その場合は、コミッション10%で営業部は採算を合わせるようになります。営業部には営業マン、社内には受注担当者、買掛金担当者、会計担当者の給与、レント代、公共料金、電話料金等、経費が発生します。コミッション収入と上記の経費を引き、採算を見ることになります。 

営業が高いマージンを取りますと、製造部は“だから利益がでないのだ”と言い、逆になりますと営業部へのマージンを再考せざるを得ないことも発生します。 

  1. マージンの設置のみでは利害対立は解消できない

合理的にマージンを設定しても、営業担当と製造担当がそれぞれ自分たちの取り分を増やしてくれと主張し、社内に対立関係ができてしまいます。この利害をスムーズにするために、経営哲学、フィロソフィーが必要になるのです。相手のことを思いやる、利他の心など、フィロソフィーが必要になってきます。相手の事情も聞き、自分の事情も話していき、その中で妥当な線を見つけ、納得のいく一致点を見出す。幹部も、従業員がフィロソフィーを理解し、体得し、それを全員で共有する必要があるのです。 

  • まず経営者は社員とフィロソフィーを共有する。共有する為に絶えず勉強会、コンパ等を通じて、また仕事の中でフィロソフィーを実践していく努力をします。
  • 共同経営者を育てていくためには、会社組織を小さなユニットに分割し、それを任せていく。
  • 任せていく為には、素人でもわかる損益計算書をつくる。

こうした条件を考えながら、共同経営者育成を目指すアメーバ経営を実践していきます。

  1. 無責任な標準原価方式

営業部と製造部の間で、お客様とメーカーという形で激しい値段交渉が行われますと、社内の調和が乱れて会社が立ちいかなくなってしまうことがあります。一般に社内の組織同士を独立採算で運営しないのは、社内での売買交渉が大変難しくなるからです。 

日本の大手メーカーではよく標準原価計算方式をとっていることがあります。売上目標があり、それに基づき製造原価を決めていきます。その製造原価で本当に製造できるかも検討します。営業部の方からも、来年のマーケット情報を予測して、製造部に、この製造原価で製造してくれるよう依頼があります。こうして標準原価が決まります。製造部の目標は、この標準原価となるわけです。この標準原価で製造できれば、製造部の業績はよしとするわけです。 

しかし、競争が激しく、想定していたマーケットプライスよりも下がってしまい、製造部から引き取った標準原価以下で売らなければならないこともあります。不良在庫にするよりは、原価割れの方がましだからと売ってしまいます。利益が大巾に減少、又は赤字になったとか決算の下方修正が起きます。 

この場合、利益を減らし、赤字をつくった責任は誰にもないということになります。製造部は営業から依頼された原価 = 標準原価で作ったのです。営業部にすれば、競争が激化して誰にも予想ができなかった価格になってしまい、当初の値段では売れなかっただけで、営業の責任でもないのです。製造部の責任でもありません。責任は外部のマーケットということになってしまいます。 

  1. 時間当り採算表

各アメーバ部門ごとに損益を見ている方法として、時間当り採算表を使います。この時間当り採算表は、素人にでもわかる損益計算書に相当するものです。付加価値(労働1時間当りどれだけの価値を生み出したか、その価値をドルで表現したものです)計算書とも呼べるものです。  

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総出荷額から総生産額までが売上についての項目で、総生産が製造部の売上高です。控除額が生産に必要な経費項目です。

控除項目を細かくわけていきますと、経費の中味がよく理解できます。自分の部門で利益が少ないのは、控除額のこの項目がかさんでいるからだと、すぐにわかります。このようにして何にお金を使ったのか、すぐにわかるような勘定科目でなければならないのです。

上の例ですと、製造部の純生産額は$100,000、控除額$30,000、差引売上高(付加価値)は$70,000、当月時間当り(総労働時間)1400時間、時間当り生産高は$50となっています。人件費(給料、給与税、健康保険、年金等)が1時間当り$35としますと、製造部は1人当り$15/時の利益をあげていることになります。

経営は飛行機の操縦と同じです。パイロットはコックピットを見て飛行機を操縦します。経営者は採算表を見てアメーバ経営をしていきます。

  1. 採算表は全員で見る

採算表はアメーバの経営を任されたリーダー、経営責任を分担してくれるパートナーだけがみるのではありません。 

各アメーバで月初に予定表を作成します。自分達の部門はいくらの売上をあげようと予定を作り、その為に原材料、電力、水道料金、等を予測します。自分のアメーバの従業員は、もちろんパートの人までも入れて全員で予測していきます。 

月末には、採算の結果が出ます。アメーバのリーダーが自分ひとりで採算表を見るのではなく、部下全員とみていきます。部下の意見も入れて、知恵を出し合いながら、アメーバ経営の採算向上を図ります。 

  1. 社会の調和を保つために、時間当りの付加価値で評価する

採算表を見ますと、総生産(売上)から、経費項目が並んだ控除額(経費)を差し引いた残りである差引売上高があります。これが付加価値です。アメーバに所属する全員がその月には垂らした総労働時間を算出します。この付加価値をこの総労働時間で割れば、その月は1時間当りいくらの付加価値を生み出したのかがわかります。これをアメーバ経営では“当月時間当り”と呼びます。 

アメーバの業績は、利益の絶対額ではかるのではなく、1時間当りいくらの付加価値を生み出したのかで評価されます。採算を利益の絶対額で評価しますと、アメーバ間に利益の差が出ます。そうしますと、利益が多く出ているアメーバは“うちは利益を多くしているのだから、うちのアメーバの人たちの賃金を上げてもよいのではないか”と考えてしまいます。そこでアメーバ経営では、時間あたりの付加価値で評価することになっています。 

総労務費を総労働時間で割り。時間当り労務費と時間当り付加価値を比べると、黒字か赤字か判断できます。こうしますと、パートの人でも自分の部門がどういう採算になっているか分かるわけです。全員参加の経営がアメーバ経営の目的の一つなのです。