盛和塾 読後感想文 第九十一号
きれいな心で描く
強い情熱は成功をもたらしますが、それが私利私欲に傾いているのでは、永続性はありません。世の道理に無感覚になり、成功の要因である情熱をもって強引に無軌道に進み始めるからです。成功が持続するためには、描く願望が、情熱が世の人々に喜んで受け入れられるものでなければならない、また、きれいなものでなければならないのです。
潜在意識に浸透させていく願望というものの質が大切です。人間は私利私欲を完全に払拭することは難しいですが、せめて自分だけの為だけではなく、周りの人々、集団のためにということに目的を置き換えることができるはずです。つまり目的が世の為、人の為という目的に近づけることによって、願望の質が高まり、願望の純粋さが高まるのです。
そうした世のため人のためという願望は多くの人に受け入れられますし、また、支援を申し出てくる人も出て来ますし、社会が、政府が、その願望を受け入れてくれるようになると思います。そういうきれいな心で描く、強烈な願望でなければ、天がかなえてくれないような気がするのですと、稲盛塾長は語っています。
純粋な願望を持って苦しみ抜き、悩み果てているときに、ひらめき、道が開けることがあります。“何としても”という切羽詰まった純粋な願望が天に通じ、潜在的な力まで引き出して成功へと導いてくれるのです。
未曾有の経済危機とその対応
従業員を大事にする京セラの実践例
際限ない人間の欲望が金融危機を招いた
- プライムローン問題
アメリカでは、信用度の低い人たちに対して、住宅の購入資金を貸し出していました。債務者の返済負担を軽減する為、最初は低い金利で貸し出し、数年後、金利が急激に上昇していくという、サブプライムローンと呼ばれる住宅貸付でした。住宅購入した人たちは、近年高騰しているアメリカの不動産市場があったものですから、自分の購入した住宅は将来値上りすると信じていたのです。ところが、アメリカ不動産のバブルが弾け、住宅の価格が下落していきました。
金利は年毎に上昇、住宅価値は下落、住宅購入者は、たちまちローンの返済が出来なくなりました。
アメリカでは住宅貸付は債権として証券化するのが通常です。貸付けした金融機関は、証券化した債権を半官半民の連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)に、連邦住宅金融抵当金庫(フレディマック)に売却したのです。ファニーメイも、フレディマックも、今度はそれを民間の投資家に売却したのです。貸付けたけれども、返済できないかもしれない債権を大量に、世界中に売り出したのです。
リスクの高い商品は、金利が高くなります。世界中の金融機関がこれに飛びついたのです。金融機関は一般大衆から集めた預金をなるべく高い利回りで運用して利益をあげたいと考えたのです。
巨額の不良債権を抱えたアメリカの金融機関は、自己資本をほとんど失いました。自己資本が薄くなれば、銀行業務はできません。リーマン・ブラザーズが倒産し、その他の大手金融機関も倒産寸前に陥りました。
- 飽くなき欲望が生んだ“デリバティブ”
金融界は、近年技術的進歩をしたと言われています。金融商品を近代的な商品にしていこうと努めてきました。金融界は高等数学を使って証券化するという手法を編み出し、金融派生商品(デリバティブ)という商品をつくりあげてきました。こうしたデリバティブを利用して、銀行からの融資を受けたり、金融市場から融資を受けることにより、実体経済の何十倍もの金額の取引をし、生まれてくる利益も大きくなります。
金融機関のトップに“デリバティブ”について尋ねますと、“私もよくわからないのです”と答えが返ってきます。
実体経済の中では、原材料を購入し、人材を集め、朝から晩まで仕事に打ち込み、大変な苦労をします。しかしデリバティブの世界では、コンピューターの操作だけで、巨万の利益を得ることが可能なのです。そうしますと、金融工学を使うことによって、経済が活性化する、進歩すると考えるようになりました。産業界の中でも、金融も手掛けるべきだとして、金融に進出した企業がたくさんありました。
アメリカを代表する企業の一つ、ゼネラルエレクトリック社(GE)は本来、エレクトロニクスの会社ですが、現在GEの利益の多くは自社の持つ金融部門からのものだと言われています。ゼネラルモータース社(GM)も金融部門からの利益が大きかったようです。
楽をして儲けるには金融だ。と思い始めて、肥大化していきました。“楽をして儲ける”とどまることを知らない欲望が、新しい金融商品を生み出し、これを次から次へと世界中に拡大させていったのです。元をただせば、人間がもつ際限のない欲望そのものが金融危機を招いたのです。
人類の発展過程は欲望肥大化の歴史
- 人間は、生物圏に属する一員だった
人類の歴史を俯瞰的(ふかんてき)に見てみます。この宇宙は約百三十億年前ビッグバンをきっかけとして誕生したと言われています。この地球は約四十六億年前に誕生したそうです。四十六億年の歴史の中で、人類がアフリカに誕生したのは約七百万年前です。人類は進化してホモサピエンスになってから、そう時間が経っていないそうです。
初期の人類は狩猟採集の生活をしていました。地球上の生物圏の中で循環、共生をする生き方をしていたのです。自分達だけがたくさん食べてしまえば、周囲に食べるものがなくなり、死んでしまいますから、生物圏の中で調和をとりながら生きていかざるを得なかったのです。時には飢え死にしてしまうこともあるような厳しい環境下です。
- 農耕牧畜によって獲得した“人間圏”
今から一万年前、人類は狩猟採集の生き方から農耕牧畜の生活を営むようになりました。野生の動植物を食料とすると同時に、家畜を飼うことを思いつきました。同時に農耕も始めました。
自分で生産手段を持ち、穀物を作り、家畜を飼って食べていく。そうした農耕牧畜の時代に入った人類は、安定した生活が営まれるようになりました。それまでは自然から得られたものだけをもらい、他の生物たちと共生しながら、食物連鎖の中で生きてきた人類が、その“生物圏”から独立して、自分で生産し、食べていくというスタイルをつくりあげていきました。つまり人間圏というものをつくり、その中で、独自に生きていくスタイルを確立しました。狩猟採集の時代は、人間は自分の意思だけでは生きることができませんでした。自然の掟、自然の意思に従って生きるしか術がありませんでした。ところが、人間圏というものを作ってからは、人間は、自然の掟、自然の意志に従って生きるのではなく、人間の意志で勝手に生きていくことができるようになりました。
- 駆動力の獲得で加速する欲望の肥大化
今から二百数十年前、イギリスで産業革命が起こりました。蒸気機関が発明され、人類は駆動力を手に入れました。人間圏の中で、駆動力を手に入れた人間は、以降、地球の物質循環に能動的に関わるようになりました。
駆動力の獲得により、人間は自分の意思、思い、望みの赴(おもむ)くままに自然を征服し、利用しました。さらにもっと豊かで便利な社会を作りたいという欲望をベースにして科学技術を発展させてきました。この科学技術の進展に伴い、さらにすばらしい近代文明社会を作り上げてきました。その文明社会が危機に瀕しています。
大量生産、大量消費こそ善であり、経済を発展させ、人類の生活を豊かにしていく根本であると信じて、この道を突き進んでいます。経済のパイを大きくすることが善だと信じ込み、大量生産、使い捨てを続けています。このことが地球環境問題に暗雲をもたらしています。
もっと豊かになろう、もっと便利な社会を作っていこうとしてきたことが、実は今回の金融危機につながっていったのです。
- 人間の英知ですばらしい社会を構築できる“という幻想
一万年ほど前、人類はこの地球システムの中に“人間圏”をつくり、それまで生きていた“生物圏”から踏み出しました。人間の知恵と意志で、地球上のあらゆる資源を利用し、自然を征服し、すばらしい文明を作ってきました。しかし、それは地球を破壊することとは当初誰も知らなかったのです。
欲望の命ずるままに発展していくことが進歩であると思ってきたために、我々人間は環境問題で地球に暗い影を落とすこととなり、今回は金融問題を突きつけられることになったのです。
人類のすばらしい知恵と意志を使えば、もっと豊かな社会、すばらしい社会が構築できるのだと信じてきたこと、そのこと自体、人類が抱いてきた幻想ではなかったのかと思われると、稲盛塾長は語っておられます。
今から三十年後の2050年、世界人口は百億人を突破するかもしれないと言われています。百億人の人口を養う食料、水は、その時果たして地球上にあるのでしょうか。このことについて多くの人々が警鐘を鳴らしています。“何とかなるだろう”と思っている人が大半ではないでしょうか。“人間は今まで英知を使いながら一生懸命に努力してた。色んな科学技術を使えば何とかなるだろう”と。
エジプト文明、メソポタミア文明にしても、古代文明はすべて廃墟となって現代のわれわれの前に存在しています。あの廃墟の姿は、現在の我々の文明に対する警鐘ではないかと、稲盛塾長は考えます。
従業員とその家族を守るためにこそ経営者がいる
- 利他の心が文明の危機を救う
我々中小企業の経営者は、五人であれ十人であれ、従業員を抱えています。従業員にはそれぞれ家族があります。その家族を含めた従業員たちを守っていく責任があります。五人でも十人でも従業員がいれば、その従業員、家族たちを路頭に迷わせてはならないと必死に経営をしているはずです。“すばらしい経営”をしていくためには、すばらしい経営者になるよう努力する、自分自身の心を高めていくことがどうしても必要なのです。
経営とは利益を追求しなければならないのだから、えげつない心、貪欲な心がなければ経営はできないと、つい思いがちです。その反対に、やさしい思いやりの心、つまり美しい心にならなければ、経営というものはうまくいかないのです。
利他の心、相手を思いやる心が大事なのです。その心を抜きにしては経営はできないのです。利益をあげることもできないのです。
“利他の心”を世界中の人類が受け入れ、今までの生き方を根本から変えて行く大転換の時がきているのです。
変えるべきは経営者が持つ“心”
規則強化をしても過ちは繰り返される
アメリカ政府も、金融界も、世界中の経済界も、“制度、ルールに不備があったから金融破綻が起きたのだ。だからルールをもっと厳しくして、規制し、法律を整備して、今回のことが二度と起こらないよう制度を変えていくべきだ”と主張しています。
エンロン、ワールドコムをはじめとして、アメリカの大企業が不祥事で倒産して行った後、アメリカ政府、経済界は、企業トップによる不誠実な行為によって企業を倒産に追い込むことが二度とあってはならないとして、ルールを改めたはずです。インチキな経営者が大企業を経営したのでは、社会はたいへんな迷惑をこうむってしまう。アメリカはSOX法というものを制定しました。二重、三重のチェックシステムを構築したのです。しかし、いくらルールを厳しくしても、規制を強化しても、悪いことをしようとする経営者は後を絶たないのです。問題は経営陣の心なのです。心そのものが変わらなければならないのです。
“動機善なりや、私心なかりしか”を座標軸にすえ判断する
人間として何が正しいのかを常に考え、物事を決めるときには“動機善なりや、私心なかりしか”ということを自らに問う。私心にまみれた考えで物事を決めていったのでは、社会にに対しても害毒を流しますし、働く従業員たちにもたいへんな迷惑をかけてしまいます。
江戸時代の近江商人は、売り手よし、買い手よし、世間よしという“三方よし”を商いの極意だとしてきました。ものを売っている自分だけがよければよいというのではなく、売っている私にもよいけれども、それを買ってくれる人にもよいし、社会にとってもよい商いを追求する。
全従業員が一致団結してオイルショックを乗り切った京セラ
金融危機に面している全世界の経営者は、どうこの危機を乗り越えようかと苦慮されています。個人、企業、社会、国も厳しい経済環境におかれているわけです。金融機関からの貸し出しも、簡単ではなくなりました。苦しい中で、みんなが協力して耐えていくのだという生き方が大切です。
- 雇用を死守するのが正道
派遣社員に辞めてもらう、寮から出ていってくれ。人件費/人間も物として考えてしまうのが資本主義の社会です。経費削減の為に、雇用にも手をつけることが当たり前のようになっています。経営陣はそのまま居残っています。
もし利他の心、思いやりや慈しみの心というものを経営者が経営の中枢に据えているならば、不景気でつくるものがなくなり、派遣社員達が要らなくなったとしても、正社員も含めて、社長から一般社員までみんなの毎月の給与をカットしてでも社員として残ってもらう、不景気が戻った時、カットした分を追加して支払うということも考えられます。何とかこの不景気をみんなで乗り切ろうと言ってくれる社員もいると思います。
- わずか六ヶ月で受注が十分の一に
1973年オイルショックの機、京セラの受注数が二十七億五千万円あったものが、その六ヶ月後には二億七千万円にまで落ちてしまいました。つくるものが十分の一にまでなったのです。製造現場の従業員が九割遊ぶことになります。その時京セラでは、“つくるものが十分の一になった。後の従業員は工場の中を清掃してもらう”となったのでした。
- 賃上げ凍結の決断と京セラ労組の勇断
稲盛塾長は係長以上のものを集め、全員の賃金カットを申し入れました。賃金カットをして、雇用を守っていこうと言いました。翌年四月には春闘があります。京セラ労組には、“翌年四月の賃上げは勘弁してくれないか”と申し入れました。当時の組合はこの申し入れを受け入れてくれました。
京セラ労組の上部団体ゼンセン同盟は、京セラ労組の判断を認めませんでした。京セラ労組は“我々は労使一体で企業を守っていこうと思っている。現在の状況を見れば、社長が凍結してくれと言うのも無理はない。そのことがけしからんというならば、我々はゼンセン同盟を脱退する”と応えたのでした。
一年半ほど経って、景気が回復し、同時に会社の業績も向上していきました。ボーナスは組合の要求に一ヶ月分の給与を上乗せし、合計三・ 一ヶ月分のボーナスを支給しました。翌年には随時賞与を一ヶ月分支給しました。昇給時には二年分、22パーセントの昇給をしたのでした。
この時、京セラの株価はソニーを抜き、日本一となったのでした。
不況を乗り切る五つの対策
盛和塾機関紙第86号にも詳しく不況を乗り切る対策が述べられております。最大の方策は高収益企業を目指すということです。不況になってもビクともしない高収益を維持することが、最高の不況対策であると、稲盛塾長は述べられています。
- 従業員との絆を強くする
- あらゆる経費を削減する
- トップ自らが営業の最前線に出て行く
- 新製品、新商品の開発に努める
- ありとあらゆる創意工夫をする
経営の原点十二ヶ条
経営の原点十二ヶ条は、毎日唱和していますが、日々の仕事の中で実践をしていくことが大切です。唯、知っているだけではなく、実践していくことが肝要です。実践していく為には、週一回、幹部社員と一時間、実行できているか検討して、確認していくことが必要と思います。
経営の原点十二ヶ条
- 事業の目的、意義を明確にする
公明正大で大義名分の高い目的を立てる
- 具体的な目標を立てる
立てた目標は常に社員と共有する
- 強烈な願望を心に抱く
目標達成のためには潜在意識に透徹するほどの強く持続した願望を持つこと
- 誰にも負けない努力をする
地道な仕事を一歩一歩、堅実に弛まぬ努力を
- 売上を最大限に、経費は最小限に
- 値決めは経営
値決めはトップの仕事、お客も喜び自分も儲かるポイントは一点である
- 経営は強い意思で決まる
経営には岩をも穿つ強い意志が必要
- 燃える闘魂
経営にはいかなる格闘技にも勝る激しい闘争心が必要
- 勇気を持って事に当たる
卑屈な振る舞いがあってはならない
- 常に創造的な仕事を行う
今日より明日、明日より明後日と、常に改良改善を絶え間なく続ける。創意工夫を重ねる
- 思いやりの心で誠実に
- 常に明るく前向きで、夢と希望を抱いて素直な心で経営する
六つの精進
- 誰にも負けない努力をする
- 謙虚にして奢らず
- 反省ある日々を送る
- 生きていることに感謝する
- 善行、利他行を積む
- 感性的な悩みをしない