盛和塾 読後感想文 第九十三号

純粋な心からの情熱

強い思い、情熱は成功をもたらします。しかし、それが私利私欲から生じたものであれば、成功は長続きしません。自分だけがよければ良いという方向へ突き進むようになると、はじめは成功をもたらしてくれた情熱が、やがて失敗の原因になるのです。 

利己的な欲望の肥大化を抑制するために努力をすることが必要になってくるのです。働く目的を“自分の為に”から“集団のために”へと考えるべきです。利己から利他へと目的を移すことにより、願望の純粋さが増すことになるのです。利己の心が左端にあり、右端に“利他の心”があると考え、そのシーソーができるだけ右に傾け続けるように努力するという感じではないでしょうか。 

純粋な願望を達成する為の努力をし、苦しみ、悩み抜いている時、天からヒントのようなものが与えられることがあります。成功するというのは潜在意識に到達する願望の純粋さにかかっているのです、と稲盛塾長は語っています。 

強く清らかな心で不況を乗り切る

2008年、2009年と大変な不況になっています。今回の経済危機は“百年に一度”の不況だと言われています。特に輸出比重の高い自動車関連や電子工業関連の業界では市況が激変し、苦慮された企業が多いと思われます。 

中村天風に学ぶ“強い心” 

  1. 尊く、強く、正しく、清い心

我々人間の行動というものは、すべてはその人の心によって決まっていきます。心がどういう状態であるかによって、その人生、その人の周辺に起こすすべての現象がすべて決まってくると思います。 

天風さん、ヨガの達人、人間の心というものは、もともとは尊く、強く、正しく、清いものだと言っています。誰もが持っている心というのは尊いもので、強いものであり、正しいものであり、そして清いものである。 

  1. 苦しくても、決して悲観的な思いを抱いてはならない

不況になりますと、受注が減り、作るものがなくなり、人が余ってきます。派遣社員の方に辞めてもらったり、正社員の方にも希望退職を募ったりしなければ、経営維持できなくなります。 

そうしますと、経営者はどうしても愚痴が出ます。“こんな状態ではダメだ。どうしよう”と弱音を吐きます。天風さんはそういう悲観的な思いがその人の人生を暗くし、うまくいかなくさせると述べています。厳しい経済環境であればあるほど、積極的な、明るく強い心を自分で打ち出すようにしなければなりません。 

経営者は悲観的な、愚痴っぽいことは、つゆほども口に出してはなりません。口に出せば出すほど、自分の運命というものは暗くなっていくということを、天風さんは語っています。 

  1. インドの聖人に出会い、悟りを開く

日露戦争後、日本に帰国した天風さんは、結核で喀血します。その結核病を治すために、アメリカ、ヨーロッパに渡りました。体が弱り切った天風さんは、自分の病気を治したい一念でアメリカ、ヨーロッパ各地を訪ね歩くのですが、どうしても治らないのでした。あきらめてフランスのマルセイユから日本行の貨物船に乗り込みました。 

途中、スエズ運河で座礁事故があり、数日カイロで停泊することになったのでした。カイロのホテルでスープを飲んでいる時、ターバンを巻いた人が、指をぐっと指すだけで、ハエが動けなくなるのを見て驚いたのでした。5,6メートル先のそのターバンの人の様子を見ていました。するとターバンの人が天風さんに、こちらへ来いと言うのです。するとその人は天風さんに向って“ああ、お前さん、肺に穴が空いているね。血を吐いているだろう。それでどうせ死ぬのだったら、日本へ帰って死のうと思っている”と言い当てます。 

この方はインドのヨガの聖人カリアッパ師で、英国の王室に呼ばれて講義をした帰り道であったというのです。 

カリアッパ師は続けて“おまえさんはまだ死ななくてもいいんだよ。もしまだ生きていたいと思うなら、私についておいで”と言います。天風さんは反対も何もなく、ただびっくり仰天してついていきます。その修行の中で、悟りを開き、それまで大量の喀血を繰り返して死に至るはずだった結核もすっかり治ってしまいました。 

  1. 不況の時こそ積極的な心を持て

天風さんは、自分が結核で血を吐いてのたうちまわっている苦しい時でも、痛いとか苦しいとか口に出してはいけない、愚痴をこぼしたくなるような時でも感謝をしなければならない、と言います。 

“今弱気になっているのは、君の心が強くないからだ。もっと積極的に人生を生きていこうという強い思いがあれば、そういうことにはならない” 

積極的に人生を生きる、感謝の念を忘れないと言われても簡単にはできるものではありません。自分の心というものをかねてからトレーニングしておかなければいけません。かねてから心のトレーニングができていれば、愚痴をこぼしたくなるような苦しい時でも、感謝することができると天風さんは言っているのです。 

天風さんが一番力を入れているのは、積極的な心を強く持つべきであるということです。 

同時にその思いというものは、自分が金儲けをしたいという利己的な心ではなく、利他的な、美しく清らかなものでなければいけません。 

  1. 経営者の心構えが企業の運命を決める

この不況の中で、我々経営者たちがどういう心構えでいるのか、どういう思いを抱くかによって、その企業の運命がすべて決まってしまいます。 

厳しい状況の中でも、必死に努力して黒字を確保していく、それにはやはり、積極的な強い心、そして正しく、清らかな心が必要です。 

  1. 善き思いを“強く一筋に”抱けば道は必ず開ける

心に描く思いは何でもないように見えるけれども、実は大きな力を持っているのです。どういう思いを心に描くかによって、その人の人生も決まってしまうぐらい、大きな力を持っているのです。心の中に浮かぶ思いというものを自分で制御して、善き思いというものを抱くようにしていかなければなりません。 

善き思いとは、人様に対してよかれと思うことであり、つまり、人様のために何かをしてあげたいという、親切で愛情に満ちた思いです。 

美しい思いやりに満ちた心の土壌に芽生える思いというのは、自分の人生をもっと豊かにするだけではなく、周辺の人たちももっと幸せにしてあげたいという、美しい、清らかな思いです。 

因果応報の法則が人生にはあり、優しい思いやりに満ちた心をベースに善きことを思い、善きことを実行すれば、その人の人生にはきっといいことが起きるのです。 

天風さんは言いました。“新しき計画の成就は只不屈不撓(ふくつふとう)の一心にあり、さらばひたむきに只思え、気高く強く一筋に”。この不況を乗り越えていこうとする時、その成就は不屈不撓(ふくつふとう)の一心、つまり、どんなことがあろうともくじけない強い心にかかっている。その計画を何としてでも成功させよう、どんなことがあっても負けないという強い思いを一筋に、そして気高く抱かなければならないと、天風さんは言っているのです。 

資本主義の運用には“清い心”が不可欠 

  1. 中小企業の経営者が日本を支えている

この不況の中で、消え去っていく会社もたくさんあります。そうした企業の中では、この不況を境にさらに強くなっていく企業もあります。それはまさに経営者の心のありようによってその会社の岐路が決まってくるのではないでしょうか。 

この不況の中、派遣労働者の方々が解雇になるということで、一時大変な騒ぎになりました。京セラでは製造現場では正社員しかいません。同じ仕事をしながら、待遇が異なるのでは、人心の乱れにつながりかねないため、派遣労働者は製造現場では使ってはならないと考えているそうです。 

正社員の他に工場ではパートの方々がいます。パートの方々は、子供を学校に出してから子供が学校から帰ってくるころまでしか勤められないという事情で、パートタイマーとなっています。こうした特殊な勤務形態もあります。京セラの場合は、もともと社員を守っていくということが会社の経営の中心にあります。 

中小零細企業であっても、五人でも十人でも従業員を雇って仕事をしているとすれば、その人には家族がいるはずです。家族全員で三十から四十人の家族を養っているわけです。経営者は自分の家族を守ると同時に、五人十人と少ない従業員ですが、その家族も守って、給料を払い続けていくという大変な社会事業をしているのです。 

決して大企業だけが日本の経済を支えているのではなく、日本の経済を支えているのは中小企業なのです。 

  1. ROE重視の経営では従業員がないがしろにされる

今回の経済危機の元凶の一つとして、ROE重視(Return on Equity)のアメリカ型の資本主義があります。アメリカの投資家グループが、資金が豊富な日本企業の株を取得し、株主の権利として配当をもっとよこすように主張します。株主の目先を重視して、配当を要求し、株主資本(自己資本)利益率(ROE)を高め、株価上昇を狙っているわけです。 

内部留保を厚くして、安定経営をしていくという日本企業とは異なった考え方がROE重視のアメリカ資本主義なのです。“こんなにお金を貯め込んでどうするのだ、配当しなさい”というわけです。 

株価の評価は一株当たりの利益が何倍か。PER(Price Earning Ratio)でするのが企業評価の指標にしていました。最近ではROEの数値が重視され、ROEが高い企業が優秀な企業だと評価されるようになっています。 

少ない資本で多くの利益を稼ぐ企業の方が効率がいい。だからROEを基準にして企業評価をしていこうとなっているのです。自己資本が少なければ少ないほど、一年間の利益が多ければ多いほど、ROEの値が高くなりますから、なるべく内部留保を抑えて自己資本を少なくし、短期的に利益を確保していこうとします。 

株主利益優先が企業の目的となり、企業に住む従業員はないがしろにされ、場合によってはモノ扱いになってしまうということが往々にして行われてきました。企業の所有者とされる株主が喜ぶような経営をすることが、経営者の役割だと誤解されてきたのです。 

  1. 極端な成果主義は社会に格差を生む

アメリカでは経営者を選ぶ時には、優秀なビジネススクールを出た経験のある人を高い給与で登用します。 

雇われた経営者は、株主の為に、株主の要求に応えるべく、精いっぱい頑張って働きます。その見返りが莫大な報酬です。株主は経営者に例えば利益の1パーセントを報酬として払います。それから株価が上がればストック・オプションもありますと、お金で経営者を使うのです。資本家と経営者の2人の欲に基づいた経営となります。株主は莫大な利益を、経営者はこれまた莫大な報酬を得ようとします。 

それだけの成果をあげれば、それだけの報酬を出してあげましょうというのが成果主義、成果配分の考え方です。 

ROE重視、成果主義重視の姿勢、さらには欲望をエンジンとする資本主義が行きつくところまで行ってしまって、今回の不況の原因の一つとなっているのです。 

アメリカでは低所得者の人たちが多くいる一方では、何百万ドル、何千万ドルの報酬をもらっている大富豪がいるのです。 

  1. 報酬だけをもらい、失敗の責任はとらない

こうしたアメリカのエリート経営者が事業経営に失敗しても、責任を執らないのが当たり前なのです。つまり、もうかった時は一割の報酬をもらうという契約はあるが、損をしたらその弁済をするという契約はないのです。そして失敗しますと、辞めればよいと考えるのです。 

  1. 清らかな心があって、はじめて資本主義は正常に機能する

欲望をベースとしてきたからこそ、資本主義はどんどん発展して来ました。また、その欲望がとんでもない金融派生商品を作り上げて、世の中に売りさばいた結果が今日の金融危機、経済危機をもたらしたのです。 

中村天風さんの話のように、資本主義というものは、思いやりに満ちた、尊く強く正しく清い心で運用していくように考えるべきだと稲盛塾長は語っています。 

人間の欲望の赴(おもむ)くままに利益を追求しても、正しい競争が行われるかぎり、そこに見えざる神の力が働いて正常に機能するという資本主義の原理があります。つまり、みんなが自由放任の状態で競争しても、資本主義は正常な運用がなされるという考え方です。 

ところが、それが正しく清い心で運用されていなかったら、とんでもないことになってしまうのです。今回の不況の中で、様々な反省がされると思いますが、どこまで行き過ぎた資本主義が修正されるのかが問題です。 

最も大切なことは、この不況の時、人間の心というものは、尊く、強く、正しく、清いものに変わっていかなければ、つまり、みんなのためにという思いをベースにしたものに変わっていかなければならないということです。欲の皮の突っ張ったようなことではだめだということがわからなければ、何度でも今回のような不況、苦しい状況を作り出していくのです。