盛和塾 読後感想文 第104号

毎日を“ど真剣”に生きなくてはならない

一度きりの人生を真摯な姿勢で“ど”がつくほど真剣に生き抜いていく。そのたゆまぬ継続が人生を好転させ、高邁(こうまい)な人格を育(はぐく)み、生まれ持った魂を美しく磨き上げていきます。 

今日一日は一体何をするのか、どういう仕事をするのか、準備は充分か、仕事のはじめから気を引き締めてスタートラインに着く。一生懸命に仕事に打ち込む。一日の終わりには、仕事は計画通りに進んだか、道具、机の整理整頓は済ませたか。同僚との共同作業はどうだったのか。明日への準備は整っているかを反省する。 

こうした一日一日を丁寧(ていねい)に点検することを習慣にすることが大切です。一歩一歩継続していくことが人生を豊かにし、人格を磨いていくことにつながります。 

日本航空の現状と課題 

日本航空を再建する三つの大意

稲盛塾長は日本航空と企業再生支援機構からの要請を受け、再建の仕事を引き受けられました。その時、何故引き受けるのか、熟慮されました。家族からも友人からも、大反対されました。しかし、悩んだ末、“世のため人のために役立つことが人間として最高の行為である”という人生哲学が稲盛塾長を動かしたのでした。再建の仕事を引き受けた理由は三つありました。 

  1. 日本経済への影響

日本航空は日本を代表する企業です。その日本航空が倒産し、さらに再建不可能となって二次破綻でもすれば、日本経済への影響はたいへん大きなものになります。日本経済の活力を甦(よみがえ)らせるためにも、日本航空は何としても再建しなければならない。 

  1. 日本航空の社員のため

倒産をしてしまった結果、多くの社員に辞めてもらわなければならなくなりました。それでも三万人の従業員が残っています。その社員の雇用を守っていくことが第二の理由でした。 

  1. 国民へのサービス

日本航空が倒産すれば、日本の航空業界は一社だけとなります。大手航空会社が一社だけになれば、独占状態となり、競争原理がなくなります。その結果、航空運賃は高止まりし、サービスも悪くなっていくだろうと思われました。健全な競争があってはじめて正しい経営が行われ、国民のメリットになります。 

以上三つの意義・大善があると考えられ、稲盛塾長は日本航空の仕事を引き受けたのでした。 

フィロソフィーの浸透と意識改革

稲盛塾長は2011年2月に会長に就任し、日本航空で仕事を開始しました。着任して見ますと、いろいろな問題に驚かれました。 

  • 民間企業は実績数字をベースに経営していかなければなりません。ところがその数字が数ヶ月遅れでしか出てこない
  • 経営幹部の方々でさえ、採算意識が希薄で、誰がどの部門の収益に責任があるのか明確になっていません
  • 本社と現場、企画部門と現場部門、経営幹部と一般社員がバラバラで、一体感がありません 

倒産したという意識もなく、再建に向けて一致団結して死に物狂いでがんばろうという熱意もありませんでした。 

企業再生支援機構が中心で作成した路線の見直し、人員削減などのリストラ案について、具体策を決めていかなければなりません。その為、連日のように早朝から夜遅くまで会議が続きました。 

その会議の中では、数字の裏付けのない議論や、単に過去の慣例を踏襲(とうしゅう)しようと意見、自己弁護に終始したり、結論を先送りにしようという議論が出て来ました。 

企業再生支援機構から派遣された管財人の方々が中心となり、作成された再生計画が出来上がりましたが、再生計画が実行に移されなければ、絵に描いた餅では意味がありません。 

連日の会議で、日本航空の幹部も経営に対する意識が少しずつ変わってきました。しかし、元々官僚的で、ある意味で無責任な体質がある会社です。そう簡単に変われるわけがありません。しかし再生計画を実行するのは、日本航空の幹部社員です。頼りない幹部社員がはたしてこの再生計画を実行していけるのかと稲盛塾長は思われたと思います。しかし実行するのはこの幹部社員なのです。そうであるなら、彼等に立派なリーダーになってもらうしか方法はないのです。その為、幹部社員50名を集め、六月から一ヶ月間にわたり、リーダー教育と称した徹底的な教育を行いました。 

経営者としてのあり方や、経営をするために必要な会計の考え方などを中心にしたリーダー教育でした。 

  • 現場の状況を数字で把握できるようにならなければならない
  • 経営の要諦は売上最大、経費最小にあり、リーダーは率先して実行していかなければならない
  • リーダーは部下から尊敬されるような素晴らしい人間性をもつと同時に、立てた目標はどのような環境の変化があってもそれを達成しようとする強い意志、強い熱意を持っていなければならない 

リーダー教育は毎週四回、合計十七回行いました。稲盛塾長も六回ほど出席し、直接講義をすると同時に、一緒に酒を酌み交わし、議論をしたそうです。 

この教育の結果、幹部社員の経営意識が変わりはじめ、目の色が明らかに変わって来たと同時に、同じ教育を受けた仲間としての一体感が生まれました。 

しかしこのような座学、机に向かっただけの教育だけでは本当のリーダーにはなれません。学んだことを現場で生かすことで、リーダーとして成長ができるのです。この七月から“業績発表会”という月例会議が始まりました。 

航空輸送業はサービス産業です。実際にお客様と接している社員や、チケットを販売している社員の意識も変わってもらわなければなりません。また安全確保のために日夜奮闘している整備の方々、裏方として荷役などの作業をして日本航空を底辺で支えている方々の意識も変わってもらわなければなりません。 

七月から稲盛塾長は現場回りをしたのです。社員の方々に直接話をしました。たいへんなリストラをして辞めてもらわなくてはならない人たちが出てしまいます。お詫びしました。“安全確保のためにも、お客様へのサービス向上のためにも、現場で働く皆さんが最も大切なのだ。厳しい状況は続くけれども、頑張ってほしい”“日本航空の経営の目的は全従業員の物心両面の幸福を追求することなので、今度は二度とリストラをすることなく全社員が生き生きと働けるような会社にしたい。その為に更生計画を着実に実行し、財務体質を改善していかなければならない。ぜひ協力してほしい。必死になって再建しましょう。”と話されました。 

頼りない幹部社員に対しても、決してあきらめずに、必死に教育していく稲盛塾長。自分の手元にある人や物を何とかして生かそうとする、しかも、教育したリーダーがその教育された内容を実際の経営に生かすようにシステムを作り出しているのです。 

それのみならず、現場の方々にも、自ら現場に出かけ、話しかけていきました。それも現場の方々が理解できるよう再生計画の目的を説明し、協力を依頼して回ったのです。 

八月には“新しき計画の成就はただ不屈不撓(ふくつふとう)の一心にあり、さらばひたむきにただ想え、気高く強く一筋に”を標語にして、ポスターにして各現場に掲示し、社内報の表紙にも掲げました。この更生計画を達成する為には、どのような環境の変化があろうともそれを言い訳にすることなく、社員全員が強く、気高い思いで、目標達成に向けて必死の努力を重ねる以外はないという意味を全社員に伝えました。 

業績改善への感謝の思い

稲盛塾長会長就任以来、11ヶ月が過ぎました。日本航空の雰囲気が大きく変わってきたのです。官僚的な体質も少しずつ払拭され、更生計画を着実に実行できるようなビジネス感覚をもったリーダーも育ってきました。何よりも全社員が同じ思いで経営改善に一生懸命に取り組んでいます。 

                             2010年4月~9月    2009年10月~2010年3月

収入                       7,665億円              7,639億円

営業利益(損失)          1,096億円              (957億円)

 

なんと約2千億円の改善でした。これは債権者の方々や盛和塾の皆さんの支援があり、日本航空社員の大きな励みになりました。 

更に円高により、燃油などのコストが下っています。これも再建に大きく貢献しています。そして何よりもリストラに協力していただいた多くの社員の方々、“売上最大、経費最小”のために各職場で懸命に努力をしていただいた方々など、この厳しい経済環境のなか、必死になって日本航空再建のために努力を重ねてくれた全ての社員のおかげなのです。 

航空産業型“アメーバ経営”の導入

経営体質を強化するために重要なことは、経営実績の詳細がリアルタイムでわかるようなシステムを作り、その数字をベースにして全員でいかに経営を改善していくかを考え、創意工夫をしていくことです。 

当初、日本航空にはそのような仕組みも、またどの便が収益を上げているのかわかるようなシステムはありませんでした。稲盛塾長は部門別採算制度を導入し、航空事業の収益源である各路線の採算がほぼリアルタイムでわかるような管理会計システムを構築する予定です。つまり、すべての路線の、また路線ごとの収支が翌朝にはわかるような仕組みを作り、路線別の経営責任者を決め、その責任者が中心となり、あがってきたデータをみながら各路線の収益性を高めるための創意工夫を重ねていく。 

整備や空港窓口などの直接売上をあげない部門でも、組織を小集団に分け、それぞれの部門で経費を細かく管理できるようにする。この場合、経費の明細を全員で共有して、無駄はないか、もう少し効率的な方法はないか、全員で知恵を出し合い、全員で経営改善に取り組めるようにしようとしています。

経営内容と社員の質で世界トップのエアラインに

現在、たいへん厳しい経済環境のなか、忍耐強く日々一生懸命働いてくれている社員の方々が、近い将来“日本航空で働いて本当によかった”と心から思ってくれる会社にしたいと思っていると、稲盛塾長は述べています。そのような社員が働いてくれるならば、必ずや安全性もさらに高まり、サービスも向上し、日本航空は規模ではなくその経営内容で、また社員意識のレベルの高さでも世界トップクラスのエアラインになれるはずです。