盛和塾 読後感想文 第105号

新しい計画を成就する

人間の持つ“思い”がいかに大切かということを深く心に留めておくことが、新しい計画や目標を達成する為には、必要なのです。 

“新しい計画の成就には、ただ不屈不撓(ふくつふとう)の一心にあり。さらばひたむきにただ想え。気高く強く一筋に。” 

新しい計画の成功を望むならば、どんなことがあろうとも決してあきらめずにただひた向きに気高く、強烈に思い描き続けることが大切であり、そうすればどんなに難しい目標であろうとも必ず成就できるのです。 

人間の“思い”にはものごとを成就させる力があるのです。特にその“思い”が気高く美しく純粋で一筋なものであるなら、最大のパワーを発揮して困難と思われた計画や目標も必ず実現させてくれるのです。

 日本航空の再建 及び日本の再生について

 日本航空の再建 

  1. 採算意識を持つ

日本航空再建を引き受け、会長に就任した稲盛塾長は、JALの社員、経営陣が、自分の会社が“倒産した”という実感があまりなかったようです。倒産した企業には倒産した原因があったはずです。それは中に住むリーダーもしくは全従業員の意識に問題があったのです。JAL社員の方々の“倒産した”という意識が非常に希薄でした。債権者と事前協議しながら、飛行機を飛ばし続けて再生するという形であったため、“会社が潰れた”という実感が幹部にも会社全体にもありませんでした。幹部社員に“JALは倒産したのですよ、本来ならば全社員が職を失くし、路頭に迷わなければならない”、と稲盛塾長は話したそうです。 

JALの幹部社員は再建に向けて、リーダーとして強烈な願望と責任感、または使命感というものを持ってもらわなくてはなりません。 

リーダー教育を実施しました。経営幹部50名ほどに定時後、休日に集中的にリーダー教育を実施し、どういう使命感を持ち、どういう意識を持つべきかを説きました。 

航空運輸事業は安全でなければ成り立ちません。しかしその安全を維持していく為には、企業が充分な収益を上げて、良い経営ができているという前提があってはじめて安全が守られ、社員の雇用も確保されるのです。 

経営には会計学をはじめ、経営全般についての知識が必要です。営業や整備など、各部署のJALの幹部たちが、損益計算書や貸借対照表をみられるようになってもらわなくてはなりません。その中で大切なことは、売上を最大に、経費を最小にするということです。 

  1. 善悪を判断基準にする

非常に判断の難しい事業運営をやっていくときに、リーダーは善悪で判断しなければなりません。善悪とは自分の会社にとって、また自分自身にとって善いか悪いかではなく、“人間として善いか悪いか”という判断基準に基づき、経営判断をすることを真のリーダーは身に付けていなければなりません。リーダーは己を捨てて、集団のために、社会のために、国のために、常に善悪で判断できるという純粋な心を持った人でなければなりません。 

“人をだましてはいけない”“嘘をついてはいけない”等、プリミティブな倫理観を子供の頃に大人から教えられて育ちました。そうした倫理観を幼稚な教えだと思い、実践しようとしません。こうした幼稚な倫理観を守らなければならないにも関わらず、経営の最高幹部が蔑ろにして経営判断を誤ることが多いのです。 

  1. 不屈不撓(ふくつふとう)の一心で計画を成就する

JALでは“業績発表会”という月例会議が始まりました。営業や整備等、各部の責任者が売上をどのように伸ばし、経費の無駄をどのように削減してきたかということを、月例会で説明してもらうのです。社員が一生懸命に業績を説明してくれるようになりました。“一生懸命がんばってほしい。現在、企業再生支援機構による再生計画が組まれていますが、その計画を着実に実行する。それ以上の実績を上げていくようにがんばろう”と稲盛塾長は社員に語りかけました。 

ヨガの達人、中村天風さんの言葉

新しき計画の成就は只不屈不撓(ふくつふとう)の一心にあり。さらば、ひたむきに只想え、気高く強く一筋に 

日本航空社員三万五千人を守っていかなければならない。そういう新しい計画を成就するのは、ただ不屈不撓の一心である。ひたむきにただ気高く強く一筋にと思い続けることが何よりも大切です。その思いというものが計画を成就させるのだということを述べています。 

  1. 究極のサービス産業を目指す

稲盛塾長はJALの各職場にも出向いて現場の社員に直接語りかけました。皆がそれぞれの飛行機に乗って世界各地を飛び回っていますので、一堂に会することはできません。勤務が終わって搭乗員の方々に“皆さんが最前線でお客様に接しているわけですから、お客様を大切にする皆さんのおもてなしの心が最も重要になっています。ぜひ、感謝とおもてなしの心で接遇(せつぐう)していただきたい。お客様の心をつかむのは、それしかないのです。幹部社員がいくら威儀を正してものを言ったところで、意味はありません。お客様から“あの人たちが働いているから、あの飛行機に乗りたい”と思っていただけるような、そういう接遇(せつぐう)をしていただきたい“と話しかけました。 

パイロットの方々にも語りかけました。

“通り一辺のアナウンスをするだけではなく、お客様に対する心からの感謝の言葉をアナウンスして頂きたい。さすがJALは違う、と言われるような会社にしてほしい” 

こうした結果、お客様からパイロットや搭乗員に対して感謝の便りが届くようになってきました。 

  1. 部門別採算の導入へ

2010年の4月から12月までを合算しました損益は売上一兆八百八十八億円、営業利益が一千五百八十六億円でした。更生計画で見込んでいた利益を八百億円上回るすばらしい業績が出ました。 

JAL社員の努力と為替レートが円高で推移したこと、また燃料費が抑制されたことも追い風になったのです。同時に会社更生法の適用を受けて減価償却費など経費削減も進み、資産売却を行ったことで損益計算書の上で良い数字が出来るような体制になっていた恩恵を受けることができたのです。 

一方、路線別の採算を詳しく見て行く必要があると考えており、目下路線別の収益が見えるような経営を目指しています。それぞれ部門別の採算を細かく見ていくアメーバ経営という経営管理手法を独自に考えております。JALでも路線ごとに収益が見え、そしてそれをコントロールして経営できるような部門別採算の仕組みを構築して、2011年4月からは幹部社員が路線毎に経営の舵取りができるようにしたいと考えています。 

しかし忘れてはならないのは、金融機関の方々には巨額な債権放棄をしていただいたこと、従業員に整理解雇をお願いしたことです。今日のJALはこうした犠牲の上にあることも忘れてはなりません。 

  1. JALの企業理念とフィロソフィー

JALの経営陣、社員の意識改革が進むなかで、JALフィロソフィーができあがりました。 

JALグループは全社員の物心両面の幸福を追求し、

一.お客様に最高のサービスを提供します

一.企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します

JALフィロソフィーを社員みんなが共有し、一丸となってベクトルを揃えることで、今までにない強固なJALとして再生できるのではないかと稲盛塾長は述べています。

添付のものがJALフィロソフィーの目次です。         

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日本経済再生へ向けて

現在、日本経済は低迷しています。今まで安住していた日本企業が海外企業から挑戦されるようになってきました。

サムソン、LGに代表されるように、韓国産業界はたいへんな躍進を遂げています。中国の産業界も発展しています。しかも日本は人口減に直面しています。

日本経済の低迷も産業界のリーダーの“自分の企業はこうするんだ”という強い思い、つまりどんな問題があろうともそれを跳ね飛ばして不屈不撓の一心で会社を立派にしようとする思いが欠落していたことに起因しているのではないのでしょうか。

明治維新の時代、国力が充分でなかったにも関わらず、欧米列強に伍していく近代国家を何としても建設しなければならないという一心で、日本は近代化を成し遂げました。

第二次世界大戦の敗戦により、日本全土が焦土と化しましたが、その中から多くの我々日本人の先輩が立ち上がってくれ、多くの中小企業をつくっていきました。お金も、技術も、何もない中で、徒手空拳で立ち上がって奇跡といわれる戦後日本経済を復興させました。

しかし、バブル経済崩壊の後、日本経済リーダーは日本経済再生の為、“不屈不撓の一心”に欠けていたと思われます。JAL再建のプロジェクトもそのJAL経営陣が“不屈不撓の一心”に欠けていたために、発生したものです。

日本再生の為に、日本企業が勇気を持って、私心を離れて大同団結を図るべき時にきています。グローバルに展開できる強い企業群が続々と誕生していくべきなのです。もし経済界がそのように目覚めれば、政治の世界でも若者の間でも、視野が広がり、日本の未来を想像していく、すばらしい力になると思われます。