盛和塾 読後感想文 第114号

リーダーに求められる“情”と“理”

明治維新の指導者には西郷隆盛と大久保利通の2人がおります。西郷隆盛は“情”に生き、義を貫いて死ぬことを選びました。大久保利通はまさに“理”の人でした。“理”詰めの人であったからこそ、混乱した状況の中にあって、新政府の中心にあって、誕生したばかりの国家の制度や体制などを構築することができたと思われます。 

人を魅了してやまない素晴らしい心根を持った西郷の“情”、合理的で緻密(ちみつ)に物事を詰めていく大久保利通の“理”、あるときは情愛に満ち溢れた優しさ、あるいは泣いて馬謖(ばしょく)を斬(き)る厳しさ、両極端を兼ね備えることこそが、リーダーに求められる条件ではないでしょうか、と塾長は語っています。 

リーダーの資質 

幌馬車(ほろばしゃ)隊が示すリーダーの五つの要件

稲盛塾長は、経営における哲学の重要性、経営の原理原則、経営管理の考え方と仕組みについて、以前に語っています。しかし高邁(こうまい)な経営哲学を掲げ、精緻(せいち)な経営システムを構築したとしても、それが正しく運営されるかどうかは、ひとえにリーダーにかかってきます。 

アメリカ開拓時代の幌馬車(ほろばしゃ)隊の運命を握っていたのがリーダーである隊長でありました。卓越したリーダーシップを発揮した隊長に率いられた幌馬車隊のみが、目的地である西部へ到達することができたのです。 

幌馬車隊の隊長が示したリーダーシップとは、次の五つに集約できるのではないかと稲盛塾長は考えられました。 

第一に 使命感を持つ

第二に 目標を明確に描き、実現する

第三に 新しいことに挑戦する

第四に 信頼と尊敬を集める

第五に 思いやりの心を持つ。 

  1. 使命感を持つ

強烈な願望を持つ幌馬車隊の隊長は、強い使命感を持ち、襲い来る様々な艱難辛苦(かんなんしんく)を克服して西部を目指したのです。 

当初、北アメリカ大陸の東海岸に上陸した移民たちの大半は、もともとはイギリスをはじめ欧州において、恵まれた生活を送っていなかった貧しい人々でした。貧しい彼等は、豊かな生活を実現してくれるであろう新天地を求め、リスクを覚悟して、大西洋を西へ西へと渡っていったのです。 

米国の西部開拓には、元々その根底に、豊かになりたいという願望があり、そのような強烈な願望の頂点に、幌馬車隊の隊長は位置していました。 

  • 集団の幸福を実現するという大義名分

現代のビジネスの世界においても、企業経営者をはじめ、集団のリーダーとは幌馬車隊の隊長のように強烈な願望を持った人々です。その時大切なことは、これらのリーダーが唯、単に私利私欲に満ちた強い願望の持ち主であったとすればどうなったかということです。 

私利私欲に満ちた隊長は、おそらく、人々の協力が得られず、また集団が四分五裂し、新天地に到着することはできなかったと思われます。 

集団を導いていくには、まず強烈な願望が必要ですが、同時に大義名分が必要なのです。“自分達はこの崇高な目的のために働く”という大義名分が、“使命”がなければ、多くの人々の力を集結して、その持てる力を最大限に発揮させることはできないのです。 

京セラでは“全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する”という、全社員が共有する経営理念があります。 

京セラの従業員たちも、会社の目的に心から共鳴してくれ、一致団結して会社発展に身を粉にして尽してくれるようになりました。また、そのような公明正大な目的・使命があるからこそ、稲盛塾長もリーダーとしてなんら掣肘(せいちゅう)されることなく、自らを奮い立たせ、また部下を叱咤激励(しったげきれい)し、事業に邁進(まいしん)することができたのでした。 

誰もが心から納得し、共有できるような目的を掲げることで、集団の全員が一致団結して“このすばらしい理念をともに実現していこう”と懸命に働くことができるのです。 

幌馬車隊の隊長も、自分が豊かになりたい、という自分自身の願望だけでなく、それを集団の願望にも拡大し、自らが率いる集団一人ひとりを無事に西部の新天地に送り届けることで、豊かになりたい、幸福になりたい願望を何としても実現するという強い使命感をもって隊を率いていったと思われるのです。 

使命感を持つこと、またそれを集団で共有すること、それがリーダーにとって最も基本的な要件となります。 

  1. 目標を描き、実現する
  • 具体的な目標を全員で共有する

幌馬車隊は広大な米国西部の大地にそれぞれ目標を定め、東部を出発しました。隊長にはその地まで全員を安全に導くことが求められていました。しかし地図もない未踏の地であり、過酷な自然が立ちはだかっていました。先住民のインディアンとの戦いもあったはずです。 

そのような困難に直面しても、目標を失うことなく、メンバーを叱咤激励(しったげきれい)し、集団を目的地へと導いていくことが、幌馬車隊の隊長には求められたのです。 

まず求められるのは、どのような目標を設定するか。幌馬車隊の隊長は西部のどの地域に向けて進むのか、具体的に毎月、毎週、毎日どこを目指してどれくらいの距離を進むのか、どこでキャンプするのか、食料手当はどうするのか、等を考えたに違いありません。それらをメンバーの人々と共有して、西部へ進んだに違いありません。 

企業経営の場合は、目標は全員が納得できる範囲の中で、最高となる具体的な数字を見出し、それを目標とすべきです。そして、その次にその目標をブレークダウンして、集団の全員が自分の目標として共有できるものにすべきです。 

その為には、目標を全体の漠(ばく)とした数字ではなく、組織ごとにブレークダウンしたものにしていかなければなりません。組織の最小単位にいたるまで、明確な目標数字があり、一人ひとりの社員にとっても明確な指針となる具体的な目標とするべきです。 

一人ひとりのメンバーが“自分の目標はこうであり、自分は今、その目標に対してどの程度進捗している”ということがわかるようになり、自発的にキャッチアップすることが可能になるはずです。 

  • エネルギーを移転する

リーダーは目標を指し示すだけではなく、その目標は達成できる、いや達成しなければならないと皆に思わせ、さらにどうやって達成するのかという具体的な方法について指し示す必要があります。 

目指すべき目標が決まったら、その数字が意味することはもちろん、目標を達成することの意義や、そのためにはどうすればいいのかという方法論について徹底して部下に伝えることが必要なのです。 

自らの事業に対する考え、目標達成に向けた思いを、情熱を込めて語り、職場の一人ひとりが燃え上ってくれるようになるまで、心を込めて話し続けなければなりません。 

“いくら話をしても、部下は誰もわかってくれない、どうしようもない者たちだ”と考えるリーダーが多いようです。そのような人は“自分は相手が納得してくれるほど、よく考えて話をしていたのか、相手が解かるように相手の考え方に沿って話したのか、どのくらい情熱を込めて相手に伝えたのか”今一度、自問自答してみる必要があるのです。 

高く掲げた目標はリーダー1人では達成できないのです。リーダーが情熱を込めて部下に事業の意義や進め方について話し、自分と同じレベルにまで部下の志気を高めることができて、はじめて全員の力を結集することができ、どのような困難な目標であろうとも、それを達成し、成功を手にすることが可能となるのです。 

  • 強い意志で目標を達成する

ビジネスでは予期せぬ課題や障害が次々と発生してきます。強い意志を持っていなければ、少しの環境の変化を口実に、容易に目標の達成を断念してしまうことになります。 

集団のリーダーとは、いかなる障害があろうとも、目標に向けて強い意志、一切の妥協もせず、ひたすらに邁進していかなければなりません。経営者の中には目標を達成できないとすぐに言い訳をしたり、目標を下方修正したり、なかには目標そのものを撤回してしまったりする人がいます。 

立案した経営計画は、本来は従業員や株主、また社会への約束です。それなのに、予期せぬ経済環境や市場動向の変動を理由に、目標の撤回や下方修正をすることをためらわない人がいます。こうした状況変動型の経営者、リーダーはすぐにでも交代しなければなりません。 

リーダーは目標達成のため、本当に強い意志を部下に伝えるだけではなく、態度で示していくことが重要です。“われわれのリーダーがあんなに必死に努力しているのだから、。何とか自分が助けてあげたい”と部下から思われるくらい、リーダー自身が“誰にも負けない努力”を払っているのかということが問われているのです。 

  1. 新しいことに挑戦する
  • 常に変革を志す

常に未開の土地を目指し、困難に挑み続けた米国の西部開拓史は我々に挑戦することの大切さを教えてくれます。 

経済環境が激変し、技術革新が急速に進む現在では、リーダーはクリエイティブやチャレンジな考え方、姿勢を持ち、それを集団に感化していくということがなければ、集団は時代から取り残され、ダイナソーになってしまいます。 

リーダーが変化を恐れ、挑戦するマインドを失ってしまっては、その集団はやがて衰退の道を歩み始めることになります。リーダーが現状に満足することなく、常に変革と創造を行うことができるかどうかが、集団の運命を左右するのです。 

我々自身が、また歴史ある大企業の中で、職場のリーダーが旧来のやり方にとらわれたり、新しいことに挑戦する気概を失っていないか、今一度確認してみる必要があります。 

様々な形式的な手続きに手間取り、意思決定が遅くなっていないか、若い力を活かすことなく、職場から活力が失われていないか、上司の顔色をうかがい保身をはかることに汲々(きゅうきゅう)としていないか、また自分の部署のことしか考えていないナショナリズムがはびこっていないか。 

  • 能力を未来進行形でとらえる

“人間の無限の可能性を信じる”という考え方が大切です。自分の持つ能力を現時点でとらえるのではなく、今から磨き上げることによって、それは限りなく進歩するものであると信じるのです。 

現在の自分の能力を持って“できる”“できない”を判断しているのでは、新しいことは何もできません。たとえ今はとてもできないと思われるような高い目標であっても、未来のある一点で達成すると決めてしまい、それを実現する為に現在の自分の能力を高める努力を日々続けていく。

京セラ創業時はなかなか注文をいただけませんでした。生まれたばかりの小さな会社に注文を出してくれるお客様はなかなかありません。引き合いを頂けるのは他社ではできないと断られた注文、技術的に難しいもの、あるいは採算のあわないものばかりでした。そういうものを“われわれならできます”と言って受注し、設備も技術も人材もない、まさに“ないないづくし”の状態から全員で苦心惨憺(くしんさんたん)して製品をつくりあげ、納品していったそうです。

  • 楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する

誰しもが不可能と思えるような。新しいことへの挑戦を単なる無謀なチャレンジで終わらせないようにするためには、その進め方が大切になってきます。 

“楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する”というプロセスで創造的な領域での仕事を京セラでは進めてきました。 

お客様のニーズに応じて、新製品開発や新市場開拓などを考えて、常に新しいテーマを稲盛塾長は考えていました。ある程度考えがまとまると、会社幹部と会議をします。 

目を輝かせてうなずいてくれる人、いくら話をしても冷ややかに聞いている人もおります。冷ややかな人は有名大学出身の優秀な人です。一生懸命に語りかけていきますが、冷徹な人が、稲盛塾長の構想がいかに無謀であるかと言い出すことがよくあったそうです。その為、もしかしたら大きく花開いたかもしれないビジネスの種が芽を出す前に終わってしまうのです。

優秀な人はなまじ豊富な知識がある為に、新しいテーマであっても現在の常識の範囲内で判断して、いつも否定的なことばかり考えてしまうのです。 

ところが、こうした優秀な人ではなく、すぐに情熱を燃やしてくれる人に新しいテーマを話しますと、新しい構想がますます夢あふれるものになっていくのです。構想段階では夢と希望を抱き“やれる”と信じることができなければ、挑戦しようという気にはならないのです。

ただし、そのまま楽観的に仕事を進めていっては必ず失敗します。具体的に計画を練る段階では、悲観的にあらゆる条件を徹底的に考えつくします。ここで知識豊かな、冷徹で優秀な人に登場してもらいます。

構想を話しますと、次から次へとネガティブな条件を並べてきます。このマイナス要因をすべて列挙させ、ひとつずつその解決法を考えていきます。こうして改めて計画を綿密に練り直し、実現の可能性を高めていきます。

問題点をすべて洗い出し、シュミレーションを繰り返し、計画を完全なものにした後、実行段階ではまた楽観的な人に交代し、計画を推進します。

  1. 信頼と尊敬を集める
  • 深く物事を考える重厚な性格をもつ

幌馬車隊の隊長はいくつものグループや家族からなる集団をひとつにまとめ、目的地まで導いていく求心力が要求されます。 

旅の途上、隊長は大勢の人々の食糧や水の確保、その分配、ときに発生する争いごとの仲裁、病人や怪我人の世話、道中に幌馬車隊で起こるあらゆる出来事を、誰もが納得できるような形で解決していくことが求められたと思われます。 

その為には、常に公平で公正な判断を下すことができるなど、隊長は人々の信頼と尊敬を集められるだけの立派な資質の持ち主でなければならなかったはずです。そのような隊長だけが幌馬車隊を統率し、安全に目的地まで導くことができたのではないかと思われます。 

  • リーダーは公正でなければならない

集団の運命を左右するような重大な判断を行う立場にあるリーダーには、何よりも公正であることが求められます。公正さを阻害するものは、自分の都合を最初に考える利己心、あるいは私心です。私心が入ることで、判断が曇り、デシジョンは間違った方向へ行ってしまいます。 

明治維新という革命の立役者、西郷隆盛はこの私心がもたらす弊害について、次のように述べています。 

“自分を愛すること、すなわち自分さえよければ人はどうでもいいというような心は最もよくないことである。修行ができないのも、事業が成功しないのも、過ちを改めることが出来ないのも、自分の功績を誇り高ぶるのも、皆自分を愛することから生ずることであり、決して利己的なことをしてはならない” 

  • リーダーには勇気がなければならない

人は往々にして成功を収めると、それが自分の能力によるものだと過信して、傲慢(ごうまん)になっていくものです。そして周囲に感謝することを忘れ、努力を怠ることになってしまうものです。 

京セラでは“謙虚にして驕(おご)らず、更に努力を”を経営スローガンとして何度も従業員に伝えています。京セラが飛躍的に成長発展し、稲盛塾長も社会から高い評価を受けるようになった頃のことでした。そのような好調時にこそ、謙虚さを忘れ、驕り高ぶり、努力することを怠ってはならないと考えたのでした。 

  • リーダーはポジティブでなければならない

夢と希望にあふれ、常に明るく前向きに集団内に明るい雰囲気を醸成するということもリーダーの重要な役割です。 

経営に携(たずさ)わっていると、次から次へと難題に遭遇します。しかしそのように苦しければ苦しい局面ほど、夢と希望を失ってはなりません。 

今はどんな逆境にあろうとも、自分の将来をポジティブに見ること、これがリーダーにとって必要な要件であるばかりか、人生の鉄則であり、人間として生きていく要諦でもあります。 

  1. 思いやりの心を持つ

大きく深い愛をベースとするキリストの“愛”、仏様の“慈悲”に例えられるような相手に対する愛情に満ちた、優しい心をリーダーは持っていなければなりません。 

部下やその家族がすばらしい人生を送ることを願い、また取引先やお客様、さらには地域社会に至るまで、自分をとりまく全ての人が幸福であることを願う、そのような深い愛をベースに持ち、仕事や事業に当るなら、周囲の人々の協力を経て、さらには天の力をも得て、必ずビジネスはうまく進行していくはずです。 

  • 思いやりの心と強いリーダーシップをあわせもつ

リーダーが集団のメンバーの意向ばかりを尊重し、個々人に楽な方向や、安易な姿勢を許容していくなら、その集団は規律を失い、やがて機能不全に陥ることになります。 

リーダーは目標達成のために、強いリーダーシップを発揮していかなければなりません。ただし、そこに留まるのではなく、温かい思いやりの心をもって、集団を構成する人々の考え方や思いを確認しつつ、そのベクトルを合わせることにも懸命に努めていく、そのようにして集団を目的とするところへと導いていくことが、リーダーに要求されるのです。