盛和塾 読後感想文 第115号

人と企業を成長発展に導くもの-日本航空再建の要因と日本経済の再生について- 

日本航空再建の真の要因

  1. 再建を後押ししてくれた“JAL応援団”

2009年末、稲盛塾長は日本政府と企業再生支援機構から強い要請を幾度も受けていました。 

最終的に再建の任に当たることを承諾した理由は、

日本航空の従業員を救う

日本経済再生

国民の利便性

のためでした。 

再建を引き受けると言っても、日本航空の再建について、稲盛塾長に自信や勝算があったわけでは決してありません。日本航空が破綻した当初は、報道関係者をはじめ、誰もがこの会社が長年抱え、なかなか解決がつかなかった様々な課題から“決して再建はうまくいかないだろう、二次破綻は必至であろう”と考えていました。 

航空運輸業の経験のない塾長は、京セラの2人の役員と“京セラフィロソフィー”と経営管理システム“アメーバ経営”だけを携えて向かっていきました。 

初めて訪れた日本航空は、想像をはるかに超え、企業としての体を成していませんでした。稲盛塾長も疲労困憊(ひろうこんぱい)していました。稲盛塾長が日本航空の再建に携わると聞いた当時すでに五千五百人の盛和塾生の皆さんがひとり百人の仲間を集め、合計五十五万人で日本航空を応援しようと動いてくれました。 

“JAL応援団”という名刺を作り、塾生、その友人に“日本航空に乗ってあげよう”と無理してでも日本航空を使ってくれました。また搭乗の都度、日本航空の社員たちを励ましてくれました。日本航空のマーク、千羽鶴を折ってくれたり、贈り物も送ってくれました。 

このようなことは、破綻で傷ついた日本航空従業員たちの心の支えとなったばかりか、採算面でも大きく貢献し、日本航空再建に向けた最初の一歩を盛和塾生の方々が後押ししてくれたのです。盛和塾生の応援は“利他”の心の反映です。利他の心の発露そのものでした。 

稲盛塾長は過去三十年“経営とはいかにあるべきか”ということを話されてきました。塾生の皆さんは“今まで塾長にお世話になったのだから、今こそ恩返しをしよう”という思いで動いてくれたのです。稲盛塾長は無償の愛で、塾生に経営に何らかの貢献をした、それに対してのお返しをしてくれたのです。

  1. 盛和塾生による“利他の心”の実践

稲盛塾長が三十年近く、多忙なスケジュールの合間を縫って、懸命に塾生の経営のお手伝いをしてくださいました。今度は塾生が、日本航空再建に懸命に携わる塾長の背中を押すようにして、お返しをしてくれました。 

このように相手を思いやる、やさしい心と心が呼応し合い、それが日本航空再建ということに結実したのです。 

西日本、東日本塾長例会で“心を浄化する手段、盛和塾で何を学ぶか”と題して塾生が自分の心を浄化していくことが、塾生自身の企業を良くしていき、社会を立派にしていくということだと塾長は述べられました。このことを塾生がよく理解し、それが“JAL応援団”となったのです。 

盛和塾では“利他の心”という言葉が良く使われています。盛和塾では“利他”という言葉が日常会話で交わされる、これは塾生が“人によかれかし”ということが人生や経営で大事であることだと理解し、実践している証拠ではないかと思われるのです。 

日本航空を応援してくれる塾生は、恐らく従業員に対してはもちろんのこと、会社をとりまく人々のため、さらには世のため人のため、日頃から尽力している証拠なのです。 

稲盛塾長は京セラの社長を務めていた時に第二電電を創業し、稲盛財団を設立し、京都賞を開始しようとしていた時、多忙を極めていたときに盛和塾を設立しました。およそ三十年の盛和塾での活動に粉骨砕身(ふんこつさいしん)努めてきたことは、決して無駄ではなかったのです。盛和塾の塾生が“利他の心”を持って、日航再建のあとおしをしてくれたことは、稲盛塾長が三十数年手がけてきた苦労が報われた証拠なのです。 

  1. なぜ日本航空再建は順調に進んだのか

昨年三月に終了した日本航空の再建初年度は、千八百億円を超える営業利益をあげることができました。“倒産した会社がどうしてわずか一年で、業界ナンバーワンの高収益企業に生まれ変わったのか”と世間が驚き、奇跡が起こったとまで賞賛されました。 

東日本大震災による、大幅な旅客数の減少にも関わらず、再建初年度を超える二千億円以上の営業利益を出すことができました。再建三年目に当る今期も予想を上回る業績をあげており、この秋には東京証券取引所第一部に再上場を果し、日本航空再建をほぼ終了する予定です。 

稲盛塾長は、再建二年後には会長職を辞し、代表権のない名誉会長となりました。今後は名誉会長として新しく誕生した会長、社長をはじめ若手幹部で真の経営者に育てるべく、その育成に努め、来年決算後には日本航空を退(しりぞ)こうと考えられています。 

しかし、この二年余りの短期間に日本航空再建に一応めどをつけることがどうしてできたのか、稲盛塾長は考えていました。“なぜ、ここまで来ることができたのか。” 

長年様々な経営課題が絡み合い、誰も解くことができなかった伏魔殿(ふくまでん)のような企業、小説で揶揄(やゆ)されるくらい評判が地に落ちた企業、誰もが二次破綻(はたん)必至と考えていた倒産企業の再建が、これほど順調に進んだのはなぜか、と稲盛塾長は考えました。 

  1. フィロソフィーによる意識改革

日本航空のような会社再建を果たす為には、まず全従業員の考え方を変えてもらう必要があるのです。その為、京セラ五十年の歴史の中で生み出された、実践に裏打ちされた京セラフィロソフィー、日本航空の幹部に熱く、語りかけました。 

その意識改革を図るべく、まずは最高経営者幹部数十名を集め、一ヶ月間にわたり、フィロソフィーに基づき、集中的に、徹底的にリーダー教育を実施しました。 

“売上最大、経営最小”具体的な経営の要諦とともに、リーダーは部下から尊敬されるようなりっぱな人間性を持たなければならない、その為には日頃から心を高めつづけていかなくてはならない。人間としての生き方に至るまで、集中的に学んでもらったそうです。 

稲盛塾長も直接講義をし、日本航空幹部の人達と一緒に膝(ひざ)を突き合わせ、酒を酌み交わし、ときには厳しく叱責(しっせき)も行い、徹底的に考え方のベクトルを合わせるようにしました。回を重ねるごとに、違和感を覚えていた日本航空の幹部たちも、“フィロソフィー”への理解を深めていきました。 

一般社員への教育も行いました。最前線でお客様に接する社員の意識が変わらなければ、航空会社は決して良くならないのです。稲盛塾長は現場に出かけ、直接社員に語りかけるようにしました。 

受付カウンターの人、キャビンアテンダント、機長、副操縦士、整備の人達、手荷物係の人たち、日本航空の社員達が働く現場を回り、どういう考え方を持ち、どういうように仕事をするのか、等、直接話しかけたのでした。 

意識改革に目覚めた幹部、リーダー、社員の意識改革が進むにつれて、業績も飛躍的に伸びていったのです。           

  1. アメーバ経営による組織改革

航空会社の経営を安定的なものにする為には、路線別、または路便別に採算がわかるような仕組み、いわゆる“管理会計システム”の構築に努めました。今までは日本航空の全ての路線、路便ごとに翌日には採算がわかるという世界の航空会社には類を見ない精緻(せいち)な管理会計システムを構築しています。 

アメーバ管理会計システムを活用して、実際の経営実態に基づいて、自分達で創意工夫をしながら経営を行うような体制に組織改革を実施したのです。 

経営者は自分の会社のどの部門がどのくらいの売上をあげ、どのくらいの経費を使っているのかをできるだけ迅速に詳細に見えるようにしなければなりません。それはあたかもパイロットが各種の計器を見ながら、飛行機を操縦しているのと同じなのです。 

プロフィットセンターの各部門で路線別、路便別の採算がわかるようにした他、たくさんの子会社でも部門別の採算ができるようにしています。また、管理部門などのコストセンターである非採算部門でも、経費実績が明確にわかるようにし、できるだけコスト削減に努めることができるようにシステムを構築しました。 

それらの各部門の数字は毎月の経営会議で三日間にわたって発表されることになります。この発表に対して、稲盛塾長(会長)は、“あなたの部門はこうすべきだ。リーダーであるあなたはこうすべきだ”と経営指導をされました。 

このようにして“フィロソフィー”による意識改革、また“アメーバ経営”による組織改革により、日本航空は見事に再生していきました。 

  1. “神の助け”が日本航空の奇跡的な回復をもたらしてくれた

稲盛塾長は自分が生まれ、育まれ、今ここにあることに感謝する、そんな思いをベースにして、人生や経営において、世のため人のために様々なことに取り組んできました。 

盛和塾活動もそうです。稲盛財団の京都賞などの活動も、世のため、人のための活動なのです。日本航空再建も、そのような思いで取り組んできました。日本航空再建の際、稲盛塾長は八十歳を迎えても、そういう心を持って、給料も含め一切の見返りも求めず、ただ必死になって難しい日本航空再建に取り組んでこられました。 

その健気な姿を見て、神さまが、天が、自然が応援してくれたとしか考えられないのです。日本航空の再建は、稲盛個人がやったものではなく、この世の絶対的存在、神様が稲盛塾長にやらせたとしか考えられないのです。そうでなければ、あのような奇跡的な回復ができるはずがないのです。人の力ではなく、何か偉大なものが、大きな存在が応援し、後押しをして再建を可能にしたとしか考えられないのです。 

自分の力ではなく、この世を統(す)べる偉大な存在が応援してくれるような、あるいは宇宙の意志と同調するような経営や生き方を、塾生の皆さんも目指してほしいと稲盛塾長は語っています。美しいピュアで正しい心で経営にあたり、人生を生きていけば、必ず神の助け、いわゆる天祐(てんゆう)があるのです。