盛和塾 読後感想文 第122号

経営十二ヶ条(第五条-第十二条)

経営十二ヶ条は短く簡単平易な言葉で構成されているために、中には“果たしてこれだけで経営はできるのか”といぶかるかも知れません。しかし日本航空再建の際、その意識改革の活動が経営幹部への経営十二ヶ条だったのです。この経営十二ヶ条の理解を通して日本航空の幹部はその官僚的な意識を拭い去り、高収益企業の経営幹部にふさわしい意識、考え方を身につけるようになりました。 

日本航空では今もこの“経営十二ヶ条”を学び続けています。最高経営幹部が月に一度集まり、フィロソフィーを勉強する“リーダー勉強会”という研修会があり、この経営十二ヶ条がそのテーマです。 

経営十二ヶ条は、多くの人が認め、その力が実施された実践的な経営の要諦です。 

今回は、経営の十二ヶ条の第五条から第十二条についての話です。 

5. 売上を最大限に伸ばし、経費を最小限に抑える 

入るを量って、出ずるを制する、利益を追うのではない、利益は後からついてくる。 

京セラ創業時、稲盛塾長は経営の経験や知識もなく、企業会計については何も知りませんでした。経理課長が使う専門用語が理解できませんでした。そして議論の後、“とにかく売上から経費を引いた残りが利益なのですね。それなら売上を最大にして、経費を最小にすればいいのですね”と結論づけたのでした。 

経営の常識として、売上を増やせば経費もそれに従って増えていくものと考えておられると思います。しかしそうではありません。売上を増やせば経費も増えるという誤った“常識”に捕らわれることなく、売上を最大限に、経費を最小限に抑えていくための創意工夫を徹底的に続けていく、その姿勢が高収益を生むのです。 

現在の売上を100として、そのための従業員と製造設備を持っているとします。受注が150まで増えたとすると、一般には従業員数も五割増員、と五割増の設備で150の生産をこなそうとします。 

このような足し算式の経営はしてはならないのです。受注が150まで増えたら、生産性を高めることによって、本来なら五割増やしたい人員を二~三割増に抑えるのです。そうすることによって、高収益の企業体質を実現することができるのです。 

受注が増え、売上が拡大して会社が発展する時こそ、徹底した筋肉体質を図り、高収益企業とする千載一遇のチャンスであるのに、ほとんどの経営者は、その好沢期に放漫経営の種を蒔いてしまうのです。足し算式に“注文が倍になれば、人も設備も倍にする”という経営を行っていては、一転受注が減り売上が落ち込むような事態を迎えるならば、たちまち経費負担が大きくなり、赤字経営に転落することになってしまいます。 

売上最大、経費最小を実践するためには、業績が組織ごとにリアルタイムに明確にわかるような、管理会計システムがなければなりません。そのような会社の業績向上に貢献するシステム・仕組みを構築することも、経営者の大切な役割の一つです。 

経営者の熱い情熱、そして誰にも負けない努力と絶えざる創意工夫があれば、企業は成長発展していきます。しかし成長発展し、組織が拡大していくなかで、経営の実態がわからなくなり、行き詰ってしまうことがよくあります。組織が拡大しても、その実態がリアルタイムに解かるような、きめ細かい管理の仕組みが必要です。 

経営を盤石のものとするために、精緻(せいち)でしかも全員が経営に参加できるような管理会計システムの構築が必要不可欠なのです。京セラでは創立間もない頃から“アメーバ経営”を導入して、その目的を達成してきました。 

一般の財務会計とは異なり、経営者が経営をするための管理会計手法が“アメーバ経営”です。数名から数十名ほどで構成される“アメーバ”と呼ばれる小集団が千以上も存在し、それぞれの組織のリーダーが、あたかも中小企業の経営者のように、自分のアメーバの経営を行っています。 

アメーバ経営では、収支をアメーバが一時間当りいくらの付加価値を生んだのかという独自の指標で表現しています。付加価値(売上から使った経費をすべて差し引き、残った金額)を月の労働時間で割った数字を指標としています。これを“時間当り採算制度”と呼んでいます。 

この時間当り採算制度に基づき、月末に締めますと、翌月月初に各部門ごとの実績が“時間当り採算表”として詳細に出てきます。この時間当り採算表を見れば、どの部門が収益をあげているのかということが、手に取るようにわかります。 

この時間当り採算表は、経費を最小限に抑えるために、経費項目を細分化しています。財務会計の勘定科目よりもっと細かく分類した、現場に則した実質的な経費項目になっています。光熱費と大くくりではなく、電気代、水道代、ガス代と細かく分かれているのです。なぜなら実際に仕事をしている現場の従業員たちが、すぐに理解でき、経費削減のための行動が具体的に起こせるものでなければならないからです。 

このアメーバ経営も日本航空の再建に大いに貢献しました。幹部から従業員/社員に至るまで、意識改革の勉強会を進めていくと同時に、航空運輸業に適応した管理会計システムを構築してきました。 

日本航空では、経営実績の報告が数ヶ月後に作成され、それもマクロ的なもので、一体だれが責任を持っているのか、責任体制も明確ではなかったのです。航空業界の利益は、フライトから生まれますから、路線ごと、路便ごとの採算がどうなっているのかと聞いても、一向にわかりません。 

その為、路線ごと、路便ごとにリアルタイムに採算が解かるようなシステムを作らなければ、会社全体の採算向上を図ることはできません。部門別、路線別、路便別に採算がリアルタイムに見えるような、またそれぞれのアメーバの責任者が中心となって、その収益性を高めるために、創意工夫を重ねていけるような仕組みを、現場の社員と一緒に構築しました。 

その結果、詳細な部門別の実績が翌日には出るようになり、全社員が自部門の実績を見て、それぞれで少しでも採算を良くしようと懸命に取り組んでくれるようになりました。また全てのフライトの路線ごと、路便ごとの採算が翌日にはわかるようになり、需要に応じて臨機応変に機材を変えたり、臨時便を飛ばしたりすることが現場の判断でできるようになりました。 

整備や空港カウンターなどにおいても、組織をできるだけ小集団に分け、それぞれが経費を細かく管理できるようにしました。経費の明細を全員で共有し、“少しでも無駄はないか”“もう少し効率的な方法はないか”など、衆知を集めて全員で経営改善に取り組めるような体制にしました。 

この管理会計システムの数字をベースとして、各本部、子会社のリーダーに集まってもらい、自部門の実績について発表する“業績報告会”という月例会議を始めました。毎月二日~三日にわたって朝から夕方まで開かれる“業績報告会”では、部門別、科目別に実績予定がびっしりと記された膨大な資料をもとに、会長・社長が“なぜこのような数字になっているのか”と徹底して追求することになっています。 

この“業績報告会”を続けていくうちに、数字で経営することが当たり前になり、現在ではリーダーがいかに採算の向上に努めてきたか、これからどう採算をよくしていくかなど、経営者としての思いを数字に込めて発表できるようになりました。 

京セラの成長発展は、独創的な技術があり、付加価値の高い製品を作ってきたことということはありますが、それだけではないのです。経営の実態がよく見える経営管理システムを構築・運用し、さらに全社員をあげて“売上最大、経費最小”という経営の要諦を、ただひたすら追求してきたことが、最大の要因だったのです。 

6. 値決めは経営

値決めはトップの仕事。お客様も喜び、自分も儲かるポイントは一点である。 

値決めをするには、事業の全体と具体的な仕事の内容、原材料、労務費、製造間接費、仕入業者、お客様、競争、様々な側面を考えなくてはなりません。 

うどん屋の屋台の例をとってみます。

うどんを出すとすれば、だし汁は何からどうしてとるのか、麺は手打ちなのか機械打ちなのか、具のかまぼこはどれくらいの厚みにするのか、何枚のせるのか、ネギはどこで仕入れるのか、うどん一杯でもいろいろなコストが考えられます。 

屋台はどこに出すのか、出店立地の問題、繁華街でのお客か、学生相手なのか、決めなければなりません。 

製品の値決めには、競争も考えなければなりません。価格を下げ、利幅を少なくして大量に売るのか、それとも価格を上げ、少量販売であっても利幅を多く取るのか、その価格設定は無限です。ある価格を決めた時に、どれだけの量が売れるのか、どれだけの利益が出るのかということを予測することは、困難なことです。したがって、値決めをひとつ間違えると、大きな損失を被ることになるのです。 

この一点を見抜けるのは、営業マンではなく、経営トップでなければならないはずです。 

しかし、その値段で売ったからといって、必ずしも経営がうまくいくとは限りません。お客様の求める最高の値段で売ったけれども、利益が出ないこともあります。問題は決まった価格の中で、どのように利益を出すかということになります。 

営業が単に安い値段を出して注文を取ってきたのでは、製造がどんなに努力しても利益は出ないかもしれません。しかし、一旦決まった価格で利益が出るか出ないかは製造部の責任になります。 

メーカーは原価プラス利益で売価を決めることが一般的です。原価主義という方法です。しかし競争が激しい市場では、売値が先に市場で決まってしまいます。原価に利益を積み上げた価格では売れませんから、たちまち、利益がぶっ飛んで、たちまち赤字に陥ってしまうことになります。 

一般には新しい製品や技術を開発するのが技術屋の仕事だと思っているかもしれませんが、それだけではありません。どのようにコストを下げるかということも考えるのが、優秀な技術屋の仕事なのです。 

熱意を重ねて決めた価格の中で、最大の利益を出すような経営努力が必要となってきます。従来の原価主義で、材料費はいくら、人件費はいくら、諸経費がいくらかかるといった固定概念や常識は一切捨てるべきです。 

製品の仕様や品質など、与えられた要件をすべて満たす範囲で、製品も最も低いコストで製造する努力を徹底して行うことが不可欠です。 

その時大切なことは、値決めと仕入れ、製造のコストダウンが連動していなければならないということです。決して値決めだけが独立して決められるのではありません。 

値決めを決定するということは、仕入とコストダウンにも責任をとるということなのです。つまり、値決めをする瞬間にもう仕入と製造コストダウンを考えていなければなりません。それらのことが頭の中にあるからこそ、値決めができるのです。 

値決めは経営であり、それは経営者の仕事であり、その価格決定は経営者の人格のままに現れるということです。 

7. 経営は強い意志で決まる - 経営には岩をもうがつ強い意志が必要 

経営とは経営者の意志が現れたものです。こうありたいと思ったら、何が何でもその目標を実現しようとする、強烈な意志が経営には必要なのです。得てして、目標が達成できない場合には、すぐに言い訳を用意したり、目標を修正してみたり、中には目標を撤回してしまったりする人がいます。そのような経営者の態度は、従業員にも大きな影響を与えてしまいます。 

株式を上場しますと、来期の業績予想を発表しなければなりません。それは株主への約束でもあるはずです。日本では多くの企業が、経済環境の変動を理由に下方修正することに、あまりためらいがあるようには見えないのです。 

一方では、同じ経済環境の中にありながら、目標をみごとに達成して見せる経営者もいます。強い意志で、あくまでも計画を遂行していくような経営者でなければ、変化の激しい経営環境を乗り切っていくことは難しいと考えられます。 

状況変化に合わせては、下方修正した目標ですら、次にやってくる経済環境の波に翻弄されることになり、従業員からの信頼を大きく失ってしまうことになります。経営者は“こうしたい”と決めたのなら、強い意志でやり抜かなければならないのです。 

その時大切なことは、従業員の共感を得るということです。もともと経営目標とは、経営者の意志から生まれたものです。同時にその目標が、従業員全員が“やろう”と思うようなものとなっているかどうかが大切になってくるのです。経営目標という経営者の意志を全従業員の意志に変えることが必要なのです。従業員の方から、自分たちが苦労するような高い目標数字が率先して出てくることはないはずです。経営目標というのはやはりトップダウンで決定すべきです。その高い目標を従業員の意志にまで注入し、理解を求めることが必要なのです。 

“うちの会社はすばらしい可能性を持っている。今は小さいが、将来は大きな発展が期待できる”と日頃から話をする。コンパを通じ、“今年は倍ぐらいに売上をのばそう”と話しかけていきます。経営も心理学です。低すぎるような目標であっても冷ややかに口火を切らせれば、“無茶です。できるわけがありません”となってしまいます。 

経営者は立てた高い目標を達成せよと命令するだけではなく、従業員の気持ちをリフレッシュさせ、モチベートさせながら経営目標を共有し、その達成を目指すための様々な創意工夫がなければなりません。最も大切なことは、何としても目標を達成したいという、経営者の必死の思いを、あらゆる機会を通して、従業員に率直に投げかけるのです。 

“死力を尽くす”ぐらい経営者が必死な姿で経営に取り組むこと、それこそが経営者の意志の表われです。経営目標を従業員と共有するにあたり、最も重要なことです。 

8. 燃える闘魂 - 経営にはいかなる格闘技にもまさる激しい闘争心が必要 

経営には激しい企業間競争が伴います。経営者は従業員を守るために、すさまじいばかりの闘魂、闘志を持って、企業間競争に挑まなければ勝算になりません。“絶対に負けるものか”という激しい思いが必要不可欠です。 

闘争心とは、競争会社など対象とする相手があり、それに負けまいとするだけではありません。万全な経営に努めていても、円高などの経済変動、国際競争、自然災害、思わぬ変動要因が沸き起こってきます。 

しかしこれら経済変動や天変地異は決して経営者の責任ではありません。しかし、それらを口実にして、安易に業績の下降を許してはなりません。それら予期せぬ事態をも超えて、事業の拡大をめざしていかなければ、企業は決して成長発展していくことはありません。 

京セラ創業以来、ニクソンショックを受けた円の変動相場制への移行、石油ショックによる空前の不況、半導体・自動車を契機とした熾烈な日米貿易摩擦、プラザ合意後の急激な円高、バブル崩壊後の悪い不況、リーマンショックによる世界規模の金融不安、欧州諸国の財政危機に端を発した景気後退と、次々と巨大な景気変動の波が日本経済を襲いました。 

しかし、京セラは景気の波を真正面から受けながらも、成長を続け、収益を上げ続けることができたのです。京セラの経営陣が“絶対に負けるものか”という強い思い、燃える闘魂をもって経営にあたり、いかなる景気変動にも負けることなく、努力と創意工夫を重ね、成長発展をめざしてきたからです。 

自分の会社を守る、従業員を何としても守るという強い責任感が、燃える闘魂の源なのです。どのような経済環境であれ、闘争心をもって誰にも負けない努力を続けていさえすれば、必ず道は開けてきます。また“命を賭して従業員と企業を守る”という責任感のある人が経営者になれば、どんな時代でも企業は必ず成長発展を遂げていくのです。 

9. 勇気をもって事にあたる - 卑怯な振る舞いがあってはならない 

企業経営に当り“人間として何が正しいのか”という原理原則に基づいて判断をしていけば誤りはないと稲盛塾長は考えて、経営をしてきました。 

多くの経営者がそうした原理原則に基づいて結論を下さない場合があります。様々なしがらみがあったり、政治家の意向で横ヤリが入ったり、暴力団員が接触してきたりします。そのような時、なるべく穏便に済ませ、無用な波風を立てないということを、判断の基準としてしまうことがあります。 

原理原則で結論を下したことで、脅迫を受けるなど、自分に災難が降りかかってくることがあろうとも、また人から誹謗中傷を受けようとも、全てを受け入れて会社のために最もよかれと思う判断を断固として下すことができる。それが真の勇気を持った経営者の姿です。 

原理原則に基づいた正しい判断を下すためには、勇気というものが不可欠であり、勇気のない人には正しい判断が期待できないと思います。 

経営者に勇気がなく、怖がり、逡巡している様というのは、すぐに幹部や従業員に伝染していきます。そのような経営者の情けない姿を従業員が知れば、たちまち信頼を失ってしまいます。勇気のない経営者の下で仕える従業員も同様に重要な局面に立たされた時、妥協することを良しとし、時には卑怯な振る舞いに走ってしまうことになるのです。 

経営者に必要な勇気は“胆力”ともいえます。東洋古典に通じる安岡正篤(まさひろ)先生の著書の中で“知識”“見識”“胆識”ということについて述べられています。知識は様々な情報を理性のレベルで知っているということです。物知りのことです。知識を見識にまで高める、すなわち信念になっていなければならないのです。社長は判断を迫られます。そのときに見識、つまり信念をもっていなければ、正しい判断を下すことができないのです。 

さらに真の経営者を目指すならば、“胆識”を持ち合わせていなければなりません。見識に勇気が加わったものです。魂のレベルで固く信じているがために、何ものにも恐れないという状態です。胆識をもった経営者は、いかなる障害が現れようと、正しい判断を下し、敢然とめざす方向に経営の舵(かじ)をとることができるのです。 

10. 常に創造的な仕事をする - 今日よりは明日、明日よりは明後日と常に改良改善を絶え間なく続ける。創意工夫を重ねる 

米国の著名なジャーナリスト、ピューリッツア賞を受賞した、デイビッド・ハルバースタムは、その著書“ネクスト・センチュリー”で一章を割き、稲盛塾長について述べています。“次にやりたいことは、私たちには決してできないと人から言われたものだ”という稲盛塾長の言葉を引用しています。 

京セラはファインセラミックスという新しい素材をいち早く見つけ、従来は工業用材料となり得なかったファインセラミックスを工業用材料として確立させ、更に何兆円という規模の産業分野として成長せしめた、パイオニア企業なのです。 

ICパッケージを開発し、半導体産業の成長を促したことをはじめ、人工骨など生体用材料にもいち早く取り組み、現代のファインセラミックス分野の開拓者として社会に貢献してきました。 

多くの人は京セラの技術開発力が独創的な事業になったと考えています。“我が社にはそのような技術力は何もない。その為に発展しないのはやむを得ない”と嘆いています。 

しかし、そうではないのです。他社に傑出(けっしゅつ)した技術力を最初から持っている中小企業など一つもありません。創造的な仕事を心がけ、今日よりは明日、明日よりは明後日と常に改良改善をしているかどうかということで、独創的な経営ができるかどうかが決まってくるのです。 

掃除などは一見工夫のしようのない雑事のように思われますが、そうではありません。毎日同じような掃き方をするのではなく、今日はこう掃いてみたけれど、明日はこうやってみよう、明後日はこうやってみようと少しずつ能率が上がる方法がないかと考えてみる。三百六十五日、毎日少しずつ掃除のやり方を改善することに努めると、様々な創意工夫が浮かんでくるのです。 

一日の工夫はわずかなものですが、改良改善が一年も積み重なれば、大きな変化を遂げているはずです。これは掃除だけではなく、すべての分野について言えることです。 

“同じことを同じように毎日繰り返してはならない。常に創造的な仕事をする”ということを業務方針とし謳(うた)い、率先垂範、経営者がその範を示していけば、三~四年後には必ずすばらしい技術開発ができる創造的な企業に生まれ変わっていきます。 

独創的な製品開発や創造的な経営などが最初からできるわけがありません。日々、真剣に改良改善を求め、創意工夫をたゆまず続けられるかどうかが鍵となってきます。 

そのとき大切なことは、“能力を未来進行形で考える”ということです。自分の現在持っている力をもってして、将来何ができるということを考えるのではなく、今はとてもできそうもないと思われる高い目標であっても、未来のある一点で達成すると決めてしまうのです。その一点にターゲットを絞り、現在の自分の能力を、その目標に見合うまで高める努力を、日々間断なく続けていくのです。 

また、自分に不足している技術があれば、そういう技術をもった人材を見つけて採用することも含めて、自分自身の能力も改善していくのです。 

現在の自分の能力をもってして、できるできないを判断していては、新しいことなどできるはずがありません。今はできないものでも、何とかしてやり遂げたいという強い思いからしか、創造的な事業、創造的な企業は生まれることはないのです。 

11. 思いやりの心で誠実に - 商いには相手がある。相手を含めてハッピーであること。皆が喜ぶこと 

思いやりとは“利他の心”です。自分の利益だけを考えるのではなく、自己犠牲を払ってでも相手に尽くそうという美しい心のことです。 

しかし、“思いやり”や“利他”など、弱肉強食のビジネス社会では実現は難しいと考える方も多くいます。しかし“思いやりの心”が経営の世界でも大切であり、“情けは人のためならず”というように、その恩恵は巡り巡って自分にも返ってくるのです。 

京セラがアメリカの会社AVXという会社を買収しました。AVX社がコンデンサーの世界的メーカーであることから、京セラが総合電子部品メーカーとなるために必要と判断し、AVX社会長に買収を申し入れました。京セラの株と株式交換することとなりました。AVX社の株価は当時$20でしたが、五割増の$30と評価して、その株を同じニューヨーク証券取引所で取引されていた京セラの株式・当時82ドルと交換することを決めたのです。 

ところが、すぐ後に、$30では安いから、$32にしてほしいと申し入れがありました。京セラの米国法人の社長や弁護士は、真っ向から反対でした。先の会長からすれば1ドルでも高くなるよう要求するのは当然と考え、その要求に応じました。 

ところが株式交換の日が近づいて来たとき、ニューヨーク証券取引所の平均株価が下落し始めたのです。京セラの株式も$82から$72近くに落ちてしまいました。それを見たAVX社の会長は交換株価レートを1株82ドルから72ドルに変更してほしい旨、連絡がありました。京セラの株価だけが下がったのではなく、市場全体が下がったのだから、交換比率の変更の必要は全くないというのが通常の見方です。京セラの関係者もまた口をそろえて申し出を突っぱねるべきだと主張しました。しかし企業同士が一緒になることであり、いわば企業間の結婚のようなものです、ならば、最大限に相手のことを思いやる必要があると考え、再度の不利な条件変更にも応じることとなりました。 

買収終了後、京セラの株価は右肩上がりに上昇し、AVX社の株主は大きな利益を得たと喜ばれました。AVX社の従業員も、反感や不平不満もなく、京セラの経営哲学を素直に受け入れてくれ、両者の間には最初からいいコミュニケーションが築かれることとなりました。 

AVX社は、買収後も発展成長を続け、買収後5年足らず、ニューヨーク証券取引所への再上場を果し、京セラはこの再上場を通じて多額の株式売却益を得ることになりました。 

相手を大切にし、思いやるという“利他”の行為は一見自分達が損をするように見えても、長いスパンで見れば必ず、すばらしい成果をもたらしてくれるものなのです。 

12. 常に明るく前向きに、夢と希望を抱いて素直な心で 

経営者というものは、どんな逆境にあろうとも常に明るく前向きでなければなりません。降りかかる経営の諸問題に押しつぶされそうになり、そのような状態にじっと耐えている経営者の姿は悲壮感さえ漂うものかも知れません。強い意志や闘魂が経営には必要だと思い、悲壮なまでに思い詰めて、悩み抜いて、経営をしなければならないと思われるかもしれません。 

そうではありません。正念場ではすさまじいばかりの闘魂や、どんなことがあってもくじけない強い意志があるからこそ、日常は明るく振る舞う心がけが大事になってくるのです。 

一方では“何としてもやらなければならない”と強い意志、思いがありますが、もう一方では何があったとしても自分の将来には必ずすばらしい未来が開けるのだという確信を抱いて、明るくポジティブに生きていくのです。自分の人生をポジティブに見ること、これが人生の鉄則であり、経営者として生きる要諦です。