盛和塾 読後感想文 第123号

世のため人のため

経営者は “自分だけが良ければよい” という自分の欲望や自社の損得だけで動くのではなく ”世のため人のため” という高慢な精神を基軸としてビジネスを展開していくことが大切です。 “世のため人のため” という高慢な精神で経営に当たれば、自己の利益の最大化のみを目指し、利己主義に陥った資本主義の軌道修正も可能となり、世界経済は調和のある発展を今後も持続することができるようになると思われます。 

京セラ創業のとき “みんな一致団結して世のため人のためになることを成し遂げたい” と誓い、団結して経営に没頭してきました。     

第二電電の設立に際しては “動機善なりや私心なかりしか” と自ら問い “世のため人のため” という思いを原動力に事業にあたってきました。     

日本航空再建の時にも、勝算もない中でただ “世のため人のため” になればと、これ を引き受け、真摯に経営に取り組んできました。いずれも “世のため人のため” という精神を貫いてきたからこそ、事業を成功に導くことができたのです。     

経営者にとって最も必要なのは “世のため人のため” という高慢な精神をベースにし て “燃える闘魂” をいかんなく発揮することなのです。そうすることによって、より良い社会を築くことができるのです。 

戦う中小企業の販売戦略

稲盛塾長は、京セラを中小零細企業から育て上げた経験と、その日々の経営で培われた 哲学をベースに、中小企業の販売戦略について実践的な講演をしました。 

販売をするには、品質が良く、値段が安く、納期が正確であるという3つの条件が大事 だろうと思われます。 

社名を世間に浸透させる

まず、社名を世間に浸透させることです。京セラは最初、京都セラミックという名前を 付けていましたが、京都セラミックと社名を売っても当然ながら何の会社かわかりませ  ん。日本の電機メーカーに製品を売りに行っても、なかなか相手にしてもらえず、門前    払いを受けることが度々ありました。 

世間に社名や製品名が知られているというのは、一種の信用です。どこの会社でも最初は信用がありません。一般的に友人、知人、先輩を頼って仲介の労をとってもらい、お客様の門を叩きます。そうした方々の仲介を得た上で、まず自分の会社を説明し、それから売り込みを行うということになります。 

日本電子工学界における大手メーカーに行き、京セラのセラミックスの優秀なことを説明しても買ってもらえなかったのです。日本の電子工業メーカーが戦後、今日に至る発展を遂げたのは、アメリカからの技術導入でした。そこでアメリカの企業に売り込むことを考えました。日本の電子工業メーカーが技術導入しているアメリカ企業に、京セラのセラミックスを使ってもらえば、日本のメーカーにも、一も二もなく京セラのセラミックス製品を採用してもらえるだろうと考えたのです。 

そこでアメリカへ行き、製品を売り歩きました。何回も何回もアメリカを売り歩きました。日本で販売するのと同じような努力を払ったところ、その労が報われました。アメリカは歴史の浅い国ですので、長い歴史のある日本とは違い、長く続けたことよりも短期間でいかに立派なことをしたかが評価されるのです。中小企業や新しいベンチャーなビジネスを評価してもらうには、アメリカは非常に良い土俵なのでした。京都セラミックは、テキサス・インストルメントやその他の大手の電子工業メーカーに認められ、製品を使ってもらうことができました。この後、日本の企業も京都セラミックの製品を使ってもらえるようになったのです。 

中小企業の販売戦略の一番目としては、社名ブラントとして通っていなけれはなりません。

しかし、会社も小さいですから、宣伝広告するお金は当然ありません。先輩や知人を頼りにして他社を仲介してもらうやり方が一番初めにすることになると思いますが、ただし、仲介をしてくれる方の人格というものが大事であり、いい加減な人に頼みますと自分の製品、ひいては会社まで疑われることになります。 

短期間の開発能力を持つ

二番目は、短期間の開発力を持つことです。

お客様を訪問し、お客様が必要としているものがあった場合、手許にない品物やノウハウが必要となります。その時、お客様のニーズにできるだけ早く間に合わせることが大事なのです。中小企業やベンチャー企業の場合、お客様のニーズに合った製品やノウハウをすべて持っているとは限りません。 

お客様に売り込みに行ったとき、偶然お客様から “もしお前たちがこういうものをすぐ供給することができるなら、使おうではないか” と言っていただいた機会をいかに生かすかが重要です。自社の製品やサービスがお客様の持っているニーズに合わなかった場合、お客様から新しいニーズを聞いて、どれだけ短期間で間に合わせられるか、難しいことがありますが非常に重要なのです。これが技術開発力です。 

迅速な開発能力がないと、せっかく先輩や知人に他社を仲介してもらい、売り込みに行ったにも関わらず、商売が成立しないことになります。 

会社が小さくても小さいなりに、非常にクイックにお客様のニーズを満たす製品を作っていける開発能力がどうしても要求されます。 

優れた品質の製品を安定して供給する

三番目は、優れた品質の製品を安定して供給することです。

品質が他社よりも優れていることは一回だけでなく、継続的に安定して同じレベルの品質を供給できるようでなければ、販売というものは上手くいきません。 

市場で勝てる値段にコストダウンする

四番目は値段です。

京セラでは値段を決める上で “市場価格に対してコンペティティブ(競争できる)プライスで売ります” と言ってきました。 

工業部門における戦う中小企業の販売戦略についてですが、工業メーカーの場合、通常は積み上げ方式で製品価格を出すわけです。材料費+労務費+経費+目標利益という様に積み上げて値段を決めていきます。 

しかしながら、価格というものは自由競争の下では市場のメカニズムで決まってくるものだと思います。競争できる価格は同業他社よりも若干でも安い価格でなければなりません。その価格で売れる製品且つ、利益も確保できる価格で売れる製品を作るのが技術屋の仕事です。 

利益というものは、お客様にお願いして求めて得られるものではないのです。価格が市場のニーズで決まるのに対して、京セラはコンペティティブな価格、他社よりも若干安い値段で売ります。その値段でいかに安く売るかという事に関しては、技術屋の仕事にもなるのです。それには固定概念はありません。すなわち、材料費が何%、人件費が何%、経費が何%という固定概念はないのです。 

お客様との打ち合わせの中で、お客様から “こういうものを作ってくれ” と頼まれ、 “それでは私共はこういうものを供給しましょう” と約束し、品質レベル、スペック等や仕様等で供給します。そこで決まった値段と品質保証条件を満たすもので、最も安くできる方法を考えます。 

売価は市場のメカニズムで決まります。我々にはコントロールできないのです。我々がコントロールできるのはコストしかありません。材料費、人件費、経費を極小にしていく努力をします。 

値決めはトップの役目

値決めは経営そのものです。

市場メカニズムで決まった値段よりもコンペティティブである為、若干安い値段に値引きしようとします。すると、どれくらい安くしたらよいかという問題になります。その決定は一営業社員が決めるものではない。また、一営業部長が決めるものでもないのです。値決めはトップが決めるものなのです。 

値決めは難しいのです。市場価格に対してできるだけ安くすれば、大量に売れるかもしれませんが、利幅は狭くなります。あまり安くない値段、つまり同業他社と同じ値段にすれば、利幅は広くなりますが多くは売れないかもしれません。

利益の合計=売った量×利幅です。その極大値を求めようとしても、色々なファクターが入っており、簡単に解くことはできないのです。 

いくつかの選択肢がある中で、そのどれを取るかはトップが決めることなのです。一介の営業部長に任せておいて “うちの会社はあまりパッとしません” “営業部長に任せているのですが” と言っている経営者が多いのです。 

値段を決める際には、トップは材料費、人件費、経費をこう言った風に変えることができるというアイデアがなければなりません。全体コストをどう下げるかは、トップしか意思決定ができないことなのです。 

商売の成否は経営者の考え方で決まる

売る側はなるべく売って利益を多く取ろうとしますし、買う側はなるべく安く買い叩いて自分の利益を増やそうとします。 

“営業がうまい” とよく聞きますが、売った量が多いから営業がうまいとは言えないのです。売り手と買い手の間で利益のシェアを分け合うというせめぎ合いにうまく対応できるというのを “営業がうまい” と言えるのだと思います。 

お客様が期待したほどの利益が得られない製品ですと “お前のところの部品は使えない” と言われます。売り手が自分の利益をどんどん得ようと思っていると売値が非常に高くなって買ってもらえないことになってしまいます。一方で、値段を下げていきますと、お客様の利益はどんどん増えるわけですから、売値がタダになるまで商いは成立します。商いが成立する条件というのがいろいろあるのですが、その条件の中でどのくらいリーズナブルな値段で注文がとれるかということが営業の技量です。 

自分の利益だけを追求しようと思って、常にお客様が許してくれる最高限度のところだけをとる姿勢をとっていると、だんだん “あいつのところはどう考えても高い” と言われ、お客様が去ってしまいます。短期的には利益を得ても、長期的には利益が得られなくなってしまいます。 

どの値段が最適なのかという問題は、まさにトップが決めることなのです。そしてそれはトップが持っている哲学に起因しているのです。えげつない性格の人はえげつない価格帯で値段を決めますし、気の弱い性格の人は気の弱い価格帯で値段を決めるわけです。気の弱い経営者は年中親会社にいじめられて倒産することになります。えげつない経営者は親会社を騙すようなことをして信用を失い、これも会社が潰れることになります。 

経営というのは、まさにその人が持っている心、哲学で決まるものなのです。値決めの決め方もバランスの問題なのです。えげつない性格でもダメですし、気の弱い性格の人でもダメなのです。 

どのような人がいいと言いますと、豪快さと繊細さの両方を持った経営者、両極端を併せ持った人です。 

お客様の希望通りに納品する体制をつくる

五番目は納期です。

それは、お客様が欲しい時にタイミング良く製品を供給することです。 

お客様が欲しがっている時にタイミング良く製品を供給してあげられる体制づくり、これが完璧にできることが大切です。 

“お客様に徹底的に奉仕する” 哲学を持つ

営業に関する基本的な考え方や姿勢、基本的な哲学が最も重要なのです。営業はお客様の召使い、サーバントであるべきだ。お客様の召使いが気持ちよくやれないようでは、どんなに立派な販売戦略を持っていたとしても、決して成功するとは思えません。 

お客様の召使いをするということは、お客様に対して徹底的に奉仕をするということです。ただし、値段と品質については徹底的に奉仕ができないものです。値段において徹底的な奉仕をするとタダで売るしかありませんが、それでは事業はできません。品質についても徹底的に奉仕をすると、べらぼうな保証が必要となってしまいます。 

値段と品質については奉仕の限界がありますが、お客様からの要望については常に無限の可能性を信じて何とか応えられるように努力していくことが大切です。 “もうこれ以上は値段が下がらないのではないか” と思っていても、お客様に要求されれば何とか今までの概念を覆して、値段を下げることにチャレンジしていくのです。品質の問題にしても、もうこれ以上良いものは作れないと思っているとしても、お客様の要求があればさらに徹底して品質を追求していくのです。 

徹底したお客様への奉仕が最近ではどんどん廃れて (すたれて) きています。 “消費者は王様” などと言われていますが、実際はそうではなく、お客様を大事にする姿勢はどんどん廃れて (すたれて) きているはずです。 

最近では、小売商のお店を見てみますと夕方5時になるとシャッターを下ろしています。しばらく前までは夜7時まで店を開けていたのに、最近はもう5時に閉めているのです。実は文明の発展の程度により、店の閉まる時間が違うのです。発展途上国へ行きますと、夜遅くまでお店が開いています。文明が進んだ国へ行きますと、より早く閉まっているという現象が見られます。 

徹底的に奉仕をするとすれば、利益が増えることが分かっていながらそれが実行できない、結局はやる気がないわけです。皆がやらないことをやればいいだけなのです。 

経営の原理原則を貫く

どんな時代でも経営の原理原則は変わるわけではありません。もちろん環境は変わっていきますが、自分が持つ経営理念だけは簡単に変えてはならないのです。 

京都には、MKタクシーという会社があります。タクシーに乗りますと “いらっしゃいませ。どちらまでですか?” と挨拶をします。行き先を伝えれば “ありがとうございます” と言ってくれます。他のタクシー会社はこの商売の初歩の初歩をやっていないのです。それだけで差がつくのです。徹底した奉仕をすれば、それが強力な営業になって、その会社のものを買おうというお客様が必ず増えてきます。 

アメリカの外食産業では、マクドナルドやケンタッキー・フライド・チキンにしても、日本のうどん屋みたいなものですが、高賃金のアメリカでも価格が安いのです。それに比べて日本は古くからある食べ物は値段が異常に上がってきています。確かに人件費は上がってきていますが、お客様に対する徹底的な奉仕をしようとする意識はなく、楽をして儲けようという意識になっています。 

やはり大事なのは、基本的な姿勢です。それは徹底した顧客への奉仕であり、お客様の召使いに徹するという哲学がベースになるのです。 

 いかに複数のお客様を満足させるか

大手メーカーの場合 “うちだけに納めなさい” という方針の会社があります。しかしそれでは、大手企業一社に納めている中小企業の先行きが危険ではないかと思います。 

大手メーカーから関係を切られるという危険もありますが、それだけではありません。常に製品を一社だけに納品していますと、最初は値段も安く品質の良いものを一生懸命に作っていたのが、だんだん長い付き合いになってきますと甘えが出てきます。 “値段をもっと安くしろ” と言われても “いや、できません!” と言ってしまう。そのように馴れ合いによる甘えが生じ、それが信頼関係を崩していくのです。 

逆に買う側から考えます。最初のうちはその部品供給会社が下請けとしてよくやってくれていることに満足しています。しかし、それが何年もして慣れてきますと、比較対照するものがなくなります。最初のころはA社という会社よりもB社の方がずっと良いサービスをしてくれ、一生懸命納期も守ってくれるし、いい会社だと思っています。それが長い付き合いになりますと、比較する相手がありませんからB社に対する満足感が薄れ、だんだん我儘になり、そのため両者の関係に亀裂が入ってくるのです。 

複数の会社を相手にしていくのはいいことなのですが、複数の相手に製品を納めて、どこも満足させることは簡単にはできません。複数の相手を本当に満足させるためには、徹底的に奉仕することが必要だからです。 

複数のお客様を相手にしますと、それぞれの相手から毎年 “値段を安くしてくれ。品質をさらに上げろ” と言われますし、 “製品をすぐに持ってこい” を言われますし、徹底的な奉仕をするとなると、もし夜中に従業員がいないなら社長自らトラックやバイクに乗って納品しなければなりません。 

系列に属さない中小企業が電子部品や電子工業用の材料を作って、日本はおろか世界中の大手メーカーに納めさせてもらうと、中にはたいへん過剰な要求もあります。それをうまく処理することが要求されるのです。 

商いの極意はお客様に尊敬される事

以上六つの販売戦略により、信用が生まれてきます。 “あの会社は信用がある” となります。商いというのは、信用を作っていくことの積み重ねだと言われています。 

信用されている人または会社が、徳を備えていると思われるくらい信用されることがあります。信用の度合いが人物や会社の社格にまで達していることがあります。 

信用を築いていくためには、いい品物を安く正確な納期で提供していく素晴らしい奉仕の精神で尽くすことが必要です。このような素晴らしいパフォーマンスを確実に果たし、信頼のおける人に徳性が備わると、信用という段階を超えて尊敬されるようになります。尊敬されれば、値段がいくらという問題ではなく、 “あなたの会社からしか買わない” と言ってもらえます。 

その意味するところは、お客様は値段、品質、納期について他社と比べてはるかに秀でており、全体コストが間違いなくこの会社や人に頼めば最低になるのだと思うからです。こういう事の積み重ねがあってこの人は徳のある人だと思われます。 “徳” にはその裏付けがあると思います。 

お客様をして尊敬せしめるだけの人物であれば、値段を他社と見比べて、安いから買ってもらえるのではなく、絶対的に信頼されて買ってもらえるのです。絶対的に信頼された以上は、決して相手を裏切ってはならないのです。 

販売戦略を云々する以前に、信用を築いていくプロセスを六つほど述べましたが、それらを真剣に実行する一方で、営業に対する姿勢、営業哲学 -お客様への徹底した奉仕- をさらに高いレベルにまで高めていくことにより、お客様をして尊敬せしめることができると思います。 

そうすれば、世界的な営業もできるはずです。それは必ずしも国際経済戦略に基づくものではないはずです。個々のケースで素晴らしい哲学に裏打ちされた営業を行っていくことが、営業戦略になっていくと思います。 

京セラグループのアメリカでの事業展開を見てみますと、従業員数が千九百人になっています。これはたいへん優れた経営学者が考えたような販売戦略を組んだ結果ではありません。過去十年間ずっと目の前にあることを着実に一歩一歩積み重ねていったことが今日のアメリカにおける成功につながっています。