盛和塾 読後感想文 第135号

自利と利他

事業は“自利利他”の両方を満足させるようにしなければなりません。“自利”とは、自分の利益、“利他”とは他人の利益です。自利利他とは自分が利益を得たいと思ってとる行動や行為は、同時に相手側の利益につながっていなければならないということです。 

自利、利他の精神がないと、たとえ短期的には成功することがあっても、長続きはしないのです。必ず軋轢が起こってうまくいかなくなるのです。 

お客様も取引先も自分も喜ぶ事業が必要なのです。しかし現実には、そうはいかないことが多くあります。この前提には、三者が鋭意努力して、工夫してコストを下げるという強い意志が必要だと思います。お互いに仲良しで仲間だからという関係の上では、かえって三者にとってためにはならないと思うのです。 

常に相手にも利益が得られるように考えること、コスト削減する、新しい製品開発をする等、一生懸命努力をする。その上で利他の心、思いやりの心を持って事業を行うことが必要だと思います。 

利己のためではなく、社会のために利潤を追求するという姿勢が必要

利己的な利潤の追求は社会を荒廃させる

敗戦で廃墟と化した日本は、戦後の企業努力で世界有数の工業国に変身しました。しかし、利潤のみを追求するという日本企業の姿勢をエスカレートし、何の努力もせずに自分の資産を膨らませたいと言う貧相な精神がバブル景気を生み出しました。そのような風潮が蔓延する中で、多くのスキャンダルや汚職が起こり、名経営者と呼ばれた人々や政治家が失脚していきました。バブル景気は当然のごとく崩壊し、日本経済は未曾有の不況に襲われ、立ち直りの手立てを見つけることができず、社会全体が荒廃しています。 

それは日本だけではなく、先進国全体の問題なのです。初期資本主義の担い手は敬虔なプロテスタントであり、労働で得た利潤は社会の発展のために役立てるという社会的規範がありました。ところが現在は、利益を社会のために役立てるという考え方が希薄となり、利己的な利潤の追求が中心となった結果、先進資本主義の社会は荒廃しつつあるのです。 

確固とした経営哲学が京セラの今日の発展をもたらした

京セラが創業以来素晴らしい発展を続けているのを見て、多くの経営者が“どうして京セラは成長し続けるのか”と尋ねます。私はいつも“しっかりした経営哲学があり、それを社員と共有しているからです”と答えています。 

京セラには技術があるから、時流に乗ったからだとかと言う人がおられますが、そうでは無いのです。正しい経営哲学を持ち、社員がそれを自分のものにして理解し、全従業員が誰にも負けない努力をし、成功しても謙虚さを失わないでいるからです。 

京セラフィロソフィーの原点

稲盛塾長は27歳で京セラを27名の従業員とともに創業しました。それまで事業経営には何の経験もありませんでした。しかし、すぐに決裁をしなければいけないことが次々と出てきました。経営について何の知識も経験もない稲盛塾長は、経営者としての判断を下さないといけません。もし判断を間違えれば、たちまち会社は傾いてしまうのではないかと心配で、眠れない日々が続いたのでした。 

そこで、何を基準にして経営していけば良いのか、悩んだそうです。自分は経営を知らないのだから、原点に戻って“人間として何が正しいのか”という根本的な判断基準に従おうと思ったそうです。子供の頃に、両親や学校の先生に教わった基本的な倫理観をベースにしたことが、現在の成功をもたらしたと考えられました。 

フィロソフィーを社内で共有する

“われわれは物事に対処するに、誠意、正義、勇気、愛情、謙虚な心を持たなければならない”。“努力には際限がない。限度のない努力は本人が驚くような偉大なことを達成させるものである”というフィロソフィーがあります。 

京セラが成功できたのは、このような経営哲学を明確にし、経営陣、従業員が実践し続けたからだと思われます。経営者に明確な経営哲学はなく、ただ単に利益の増大を目指す合理性や効率性を追求する経営をしていくとすると、何をしてでも儲かれば良いという風潮が生まれてしまいます。結果として少しくらい不正なことをしても儲けようとする社員も出てくるでしょう。 

会社に明確な経営哲学がなく、社員と共有できる判断基準がなければ、企業は一時的に成功したとしても、決して長続きはしません。 

人生方程式

稲盛塾長は、多くの人を雇用する経営者は高い倫理観に裏打ちされた経営哲学を持って自らを戒めると同時に、社員と共有できるようにすべきだと考えました。そのために考えたのが“人生方程式”です。 

人生・仕事の結果=考え方x熱意x能力という方程式を考え、従業員に説明しました。 

能力とは商才や才能のことです。これは先天的なものですから、変えようがありません。0点から100点まであります。

熱意はこうありたいという思いです。自分の心の持ちようで変えることができます。一生懸命努力をすることができるわけです。ですから自分の能力を過信する人よりも、大した能力もないと思って情熱を燃やしながら努力した人の方が、はるかに素晴らしい結果を残すことができます。これは0点から100点まであります。 

考え方には、怒り、嫉妬、恨み、不平不満といった否定的な思いがあります。これは0点からマイナス100点まであります。一方、明るく前向きな思い、相手を思いやる優しい想いを持つ心は、0点からプラス100点まであります。 

つまり、いくら能力に優れ、熱意があっても、少しでもマイナスの考え方があると、その人の人生、仕事の結果はマイナスになってしまうのです。 

経営の原点十二ヶ条を実践する

実際のビジネスの世界では、権謀術策(けんぼうじゅっさく)に長けた者が成功するのであり“経営の原点十二ヶ条”“六つの精進”このような単純な原理原則だけでは、うまくいくはずがないと思われるかもしれません。 

しかし第二電電創業時に“動機善なりや、私心なかりしか”と自らに問い続け、純粋な“世のため人のために尽くそう”という気持ちが会社にあり、社員が共鳴し、誰にも負けない努力をし続けたために、第二電電は成功したのです。 

経営の原点十二ヶ条

  1. 事業の目的、意義を明確にする

 公明正大で大義名分の高い目的を立てる

  1. 具体的な目標を立てる

 立てた目標は常に社員と共有する

  1. 強烈な願望を心に抱く

 目標達成のためには潜在意識に透徹するほどの強く持続した願望を持つこと

  1. 誰にも負けない努力をする

 地道な仕事を一歩一歩、堅実に弛まぬ努力を

  1. 売上を最大限に、経費は最小限に
  2. 値決めは経営

 値決めはトップの仕事、お客も喜び自分も儲かるポイントは一点である

  1. 経営は強い意思で決まる

 経営には岩をも穿つ強い意志が必要

  1. 燃える闘魂

 経営にはいかなる格闘技にも勝る激しい闘争心が必要

  1. 勇気を持って事に当たる

 卑屈な振る舞いがあってはならない

  1. 常に創造的な仕事を行う

 今日より明日、明日より明後日と、
 常に改良改善を絶え間なく続ける。創意工夫を重ねる

  1. 思いやりの心で誠実に
  2. 常に明るく前向きで、夢と希望を抱いて素直な心で経営する 

六つの精進

  1. 誰にも負けない努力をする
  2. 謙虚にして奢らず
  3. 反省ある日々を送る
  4. 生きていることに感謝する
  5. 善行、利他行を積む
  6. 感性的な悩みをしない

 人生とは何かという観点で会社経営に取り組んでいただきたい 

事業を成功に導くひたむきな努力

会社が立派になるという事は、それだけ多くの人を雇用し、税金を納められるという事ですから、社会的に大変意義のあることです。会社を経営する才能を持っているというのは、神様がそのような任を与えたということで、せっかくの才能を無駄にせず、社会のために尽くすことが大切です。 

農民であった二宮尊徳は、なんとしても立派な人物になりたいと思い、仕事をする時にも歩きながら勉強して、陽明学を極めた人です。その尊徳が大事にしていたこと“至誠の感ずるところ天地もこれがために動く。”“至誠の感ずるところ、鬼神もこれを避く”ということでした。一生懸命なひたむきさがあれば、天地も神様も助けてくれるという意味です。 

事業を成功させるために最も大切な事は、たとえどんなに地味な仕事であっても、ひたむきに働くということに尽きます。ひたむきな努力、それも“経営の原点十二ヶ条”にあるように“誰にも負けない努力”をする、さらに動機が“善”であれば事業は成長発展し、成功するはずです。 

ひたむきな努力が作り上げた京都の先端企業

京都企業の利益率の高さは、評判になっています。稲盛塾長は面白いことに気がつきました。京都企業の経営者は、皆その事業分野の素人なのです。もともと、幅広い技術や豊富な商品知識など持っておらず、単品生産からの創業でした。 

そのような京都企業が世界的な企業に成長したのは、1つの製品を必死に育てあげたからなのです。優れた技術やノウハウは決して持っていない。しかし素人であるから古い慣習を知らず、既成概念にとらわれない、自由な発想をすることができたのです。そうした素人の経営者が“動機の善なること”を信じ、ひたむきにがんばり、成功したのです。 

ところが彼らは、単品生産だけではいつか会社が立ち行かなくなるという危機感と、従業員を食べさせていくにはこのくらいの売り上げではどうしようもないという危機感から、技術導入と創意工夫という努力を連綿と続ける中で、中小企業から中堅企業へと成長していきました。 

京セラの場合は、創業時の製品はテレビのブラウン管に用いるセラミック製品の絶縁材料だけでした。その注文がいつなくなってしまうかもしれないという危機感がありました。実際に、2〜3年後には、その製品はなくなりました。競合会社がガラス製のより性能の良い製品を開発したためでした。そのガラスは特殊なガラスでしたが、京セラでも何とか製造することができるようになりました。 

ブラウン管だけでは将来性は知れているので、もっとセラミックスの用途市場を広げたいと懸命に走り回り、真空管の絶縁材料という用途を開発しました。耐摩耗性というセラミックスの特性を生かし、産業機械の部品、紡績機械、自動車部品、人工骨、人工宝石など用途は広範に広がっています。 

このように京セラでは、市場の創造、需要の創造、商品の創造、技術の創造の4つの創造を繰り返しながら今日に至っています。 

人生とは何かという観点から目標設定する

零細企業が危機感と飢餓感から必死に技術開発や商品開発をして事業を拡大する。そして中堅企業に成長します。中堅企業では、会社の事業目的は何するかということが重要になります。事業の目的を、経営者の欲望を満たすことにしたり、金銭的な目標にすると、その企業は中小企業のまま成長が止まります。目標に達すると、危機感や飢餓感が消え、満足してしまう為です。 

大企業を目指したいと思った時点から、利益追求、数字だけを目標とするだけでなく、この自然、社会における使命感、生きがいを目標にすべきです。 

経営者にとって大切な事は、経営の目的を経営数字だけではなく、まさに“人生とは何か”ということにおくのです。経営者として頑張るのは、自分に経営者としての才能があるならば、それを生かして、世のため人のために尽くすことに生きがいを感じるからです。一生懸命に働いて、会社を発展させ、皆が喜んでくれる。そこに楽しみ、生きがいを感じる人生は素晴らしいことです。 

経営者の考え方が変われば、零細企業でも、中京企業、さらには大企業へと発展を続けることができます。