盛和塾 読後感想文 第139号

経営に打ち込む

真の経営者とは、自分の全知全能、全身全霊をかけて経営を行っている人のことです。どんなに素晴らしい経営手法や経営理論、経営哲学を頭で理解しても、真の経営者になれるわけではありません。命をかけるくらいの責任感で毎日を生き、その姿勢をどのぐらいの期間続けてきたかということで、経営者の真価が決まると思います。 

経営に対して、自分の全身全霊をかけて打ち込むという事は、大変過酷なことです。もし、そういう打ち込み方をするならば、自分の時間も持てないでしょう。体力的にも精神的にも耐えられないような重責が続くでしょう。しかし、そういう状態を経験し、乗り越えて来なければ、真の経営者としての資質は磨かれないのではなかろうかと思います。 

ですから、トップとナンバーズとの間には天と地ほどの差があると言われています。それは責任を感じて命をかけて仕事をしてきたか、それともサラリーマン的な存在として仕事をしてきたか、判断をトップにゆだねてきたかの違いだろうと思います。     

これから伸ばすべき力を見極める

盛和塾の目的 

  • 国や社会を支えているのは経営者

経営者は従業員とともに一生懸命仕事をし、利益を出して税金を納めます。その税金から公立の学校の先生や役人は給料をもらいます。それだけではなく、従業員の給料から所得税を払います。このように考えますと、その地域社会では、何百万円もの経済効果があるのです。 

  • 学ぶ事は優しいが実践は難しい

知っていることを実践するのは難しいことです。話を聞いたり、テープを聞いたり本を読んだりして知ることができますが、実践するのは容易ではありません。 

“学ぶ事は優しいが、実践が難しい。真剣さが足りないためだろうか”これは何故でしょうか。実践するためには、経営者の考え方が変わることが要求されるのです。それは自分の人格を変える、修正することが必要だからです。ですが人格を修正する、変える事は容易ではありません。 

例えば“人の話をよく聞きなさい”とよく言われ、自分も同意します。毎日の生活、仕事の中で、いろんな人とお会いし、話をするわけですが、その同意したことを忘れて“人の意見を聞かず、自分の意見をしゃべってしまう”こういうことがよくあると思います。一人になった時、“あっいかん俺はしゃべりすぎた。相手の意見を十分に聞かなかった”と気がつきます。こういうことが何回かあり、人は少しずつ学んで、実践することができるようになると思います。 

人格は簡単には変わりません。三つ子の魂百までというように、子供の頃からの性格、人格は百歳になっても変わらないと言われています。 

人格を変えるためには、繰り返し繰り返し反復する、盛和塾のテープを聴く、本を何度も読み、自分のものにする努力が必要です。 

  • 知識を見識、胆識へ高める

安岡正篤(まさひろ)先生は“知識は本を読んで学ぶことができます。大切なのは知識を見識にまで高めることです”と言っています。 

見識とは、知識が自分の理念信念にまで高まったもののことです。“自分はかくあるべき”という確固とした世界観にまで高まったものです。そうするためには、盛和塾のテープ本を繰り返し聴く、読み、熟考します。そうすることによって、自分の世界観ができてくるのです。 

ところが安岡先生は、それでも学んだことを実行するには至りません。胆識にまで高めていかなければならないとおっしゃっておられます。知識を胆識にまで高め、実行が伴うようにすることが大変大事なのです。 

第一ステップ:会社を立ち上げる

  1. 三種類の事業形態

最初のステップは創業なのですが、それには三つの事業形態があります。 

  • 技術力をベースにした創業

技術屋が自らの持つ技術をベースにして会社を始める 

  • 製造力をベースにした創業

ものを作る力をベースにして会社を始める。製造工程を知っており、そのノウハウで会社を創造する 

  • 営業力をベースにした創業

商品の流通のノウハウを覚え、事業を始める 

  1. 創業者に共通して求められる資質
  • 人一倍熱心であること

創業時は大変な苦労します。この時一番大切なのは、人一倍熱心であることです。中小企業、零細企業の社長は、何もして人一倍熱心に仕事をしなければなりません。青年会議所や地元の企業の会合に顔を出していたりする余裕はありません。

  • 人一倍の努力

人一倍の努力は二番目の資質です。

  • 豊かな発想力

溢れるような、豊かな発想ができることです。一つのことを発送すると、そこから次々と俺演奏できる、気が聞き、抜け目がないということです。

  • 仕事への集中力

仕事をするときは凄まじい集中力が要ります。ですから、仕事に関係のない余計な行動に手を広げてはなりません。

  • 物事を着実に進める根気

物事を一つずつ完成させていく姿勢が必要です。

  • 誰にも負けない闘争心

弱肉強食の資本主義社会で生き延びるには、誰にも負けない闘争心がいるのです。

  • 集団を守ろうとする勇気

経営は勝負の世界です。勇気のないのリーダーは、集団を不幸にしてしまいます。 

第二ステップ:人心をつかむ。①従業員と信頼関係を築く 

  • 会社員一丸となれば会社はすぐ立派になる

人の心をつかみ、まとめる力が要ります。技術力、製造力、営業力のいずれでスタートを切ろうと、必ず従業員がいます。会社を良くしていくためには、その心をまとめることが必要になります。 

“バブル崩壊後の危機感を訴えてもなかなか社員がわかってくれない。”“会社経営はこうしたいと従業員に行っても、どこまで伝わったかわからない”と不安の経営者の方々もおられます。 

いくら会社を良くしたいと思っても、社長一人の力は知れています。ところが、従業員が五人しかいなくても、一丸となって会社を立派にしたいと思えば、たちまち立派になります。 

  • 従業員に付き合い、苦楽を共にする

稲盛塾長の最初の就職した会社、松風工業では、会社と労働組合が対立しており、ストライキがよくありました。また給与の遅配がしょっちゅうありました。そうした中で松下電子工業からテレビのブラウン管の物件を受注しました。その時、研究開発にしろ、製造にしろ、人の心は一緒になっていなければ、良いものができないと思ったそうです。 

会社の経営状態も悪く、一介のサラリーマンでは、お金の力で心をつかむなど、できようはずはありません。 

そうした状況の中で取った方法が、部下と一緒に遊ぶ事でした。会社では共産党がアジテーションし、従業員の不平不満を煽り立てています。それを聞いた部下の心が荒廃していくのが耐えられなくなりました。そこで、部下をグランドに連れ出して野球をしていました。昼休み、稲盛部塾長は、ピッチャー、キャッチャーになりました。野球という遊びを通じて、部下の心を荒廃から守り、理解していたのでした。まず一緒に付き合うことです。一緒に遊ぶことから従業員に合わせていくのが大切なのです。 

不平不満が注文した部下を連れ、よくハイキングにも行きました。みんなで握り飯を作り、ハイキングに行きました。松風工業時代の大学を出てニ年目くらいの頃でした。 

  • 部下と連携してスト破り

労働組合は当時一番伸び盛りの製造部門に矛先を向けてきました。松下のテレビ販売が流星のごとく伸びていった時期でした。稲盛塾長は部下四〜五十人に向け“ストライキ破りをやる”と宣言しました。 

労働者の権利も守られず、給料もボーナスもまともにもらえない、劣悪な労働条件に対し、従業員は不満ですし、稲盛塾長も義憤を感じていました。しかし常に会社に不平不満ばかり言って努力もせずサボタージュしていては、会社が潰れると思ったのです。 

稲盛塾長の研究成果であるこの製品で会社を救いたいと思ったそうです。この製品は松下が既に認めており、将来も大変期待できます。これで会社を救い、従業員を幸せにすることができると考えました。 

“もしストライキをやるのであれば前もって言ってくれ。航空便でオランダのフィリップ社から材料を取り寄せる。その代わりに二度と君の所から買わない”と松下から言われていたのです。 

そのため、“スト破り宣言”をしたのでした。自分たちのお金を出し合い、缶詰、米を買い、部下と家に帰らず、工場に籠城し、そこでご飯を食べながら生産を続けました。 

会社の正門は赤旗が林立し、出入りすることができません。これでは納品ができません。そこで稲盛塾長の研究室の横の塀によじ登り、外に製品を投げ渡すことにしました。松下の人が塀の外で製品を受け取って帰って行きます。 

一介のサラリーマンの稲盛塾長は、何の報奨も出せない立場であり、部下の心を野球とハイキングでしかつかむしかなかったのでした。それだけで、あれほど強い団結を実現できたのです。これが従業員の心をつかむ、最も原始的な方法です。リーダーが自分から裸になり、一緒に遊んであげるのです。 

  • 必死に部下の心をつかもうとした創業期

“スト破り宣言”事件の後、京セラ創業となりました。松風工業のサラリーマン時代の頃から従業員と心が通い合う関係でありたいと思いました。“仲間の心を信ずる”“心をベースに経営する”。幾たびも辛酸をなめる中で、心が通じ合った仲間がいかに大切か、よくわかったのです。 

入社時の歓迎コンパ、忘年会、あらゆる機会を通して、皆と食事をし、お酒を飲み、ビールを酌み交わし、質素な弁当をつつきながらお互いを知ってもらおうと考えたのです。 

五人、十人しかいない会社でも、ハイキング、慰安旅行、忘年会や歓迎会をしようと言うと、何かと理由をつけて欠席する人がいます。しかし、本当ならこういう人こそ来てもらいたい。よく話をしなければなりません。“私は歳ですから、結構です。欠席させていただきます”という古手の従業員がよくあります。理由を聞いてみると“若い者達と観光バスに揺られて行っても面白くありません。それよりも友達とゴルフでもしていたほうが楽しいのです”と答えます。京セラでは、こうした事は許しませんでした。一人の欠席も許さず、何をするのも皆一緒にいるのは非常に大事なのです。 

第二ステップ:人心をつかむ。②従業員に大義を説く 

  1. 企業の使命を従業員に伝える

企業を立派にしていくには、経営者に従業員がついてこなければなりません。そこで遊びに付き合い、共に酒を飲み、一緒に弁当食べようと言うように、遊ぶのも働くのも一緒であることが大切なのです。 

実に、一緒に付き合ながら、自社の経営の目的を従業員に伝えていくのです。京セラでは経営の目的は“全従業員の物心両面の幸福を追求する”と決め、従業員に言い始めました。 

“私が従業員の皆さんと一緒に苦労し、会社を経営しているのは、皆さんとご家族を絶対に幸せにしてあげたいからです。私だけが成功して金持ちになりたいからではありません。今は小さな頼りない会社ですが、この会社は従業員みんなが物的な面でも心の面でも幸福になることを願ってつくりました。” 

このようにして企業の目的、使命を伝えていき、その実現のために必要な考え方、哲学を明確にし始めました。“こういう理念、哲学をベースにして会社を経営していく”と伝えてきました。 

従業員と苦楽を共にし、気持ちがわかるだけでは、集団として力を発揮できないのです。経営者が共に苦労し、一緒に喜んでくれる人だという信頼があれば、従業員はついてきてくれます。しかし“社長は尊敬に値する人だ”という気持ちが従業員の間で芽生えてくるレベルにまでならなければ、本当に強い集団にはなりません。尊敬してもらうには、会社を貫く目的、使命、哲学が立派なものでなければならないのです。 

会社を経営していくには大義名分が必要であり、リーダーが従業員から尊敬されることが不可欠なのです。従業員の気持ちを理解し、一緒に遊び、苦楽を共にするのが、人心を掌握する最初の段階です。その次は目的、使命、哲学を解き、“この人になら私は一生ついていっても惜しくない”という尊敬を集めるようになることなのです。 

  1. 自分自身から変わる

尊敬は、人から教わるのではなく、自分から作るものです。繰り返し繰り返し盛和塾のテープ、雑誌を通して、その考え方を自分のものにしていきます。 

学んだことを自分の行動にまで落とし込むようにならなければ、従業員からの尊敬は得られません。そうでなければ口先だと思われてしまうのです。素晴らしい会社の目的・使命を作り上げ、従業員に伝えるにしても、まず自分から実践できるように変わらなければならないのです。 

人が変わるのは命を落とすほどの衝撃的な経験をするか、繰り返し経験し続けるかどちらかです。 

従業員と徹底して話し込む、“最近のうちの社長は違うぞ。一生懸命勉強して変わりつつあるぞ”という目で見てもらうまで頑張ることです。 

運動会やコンパに必ず出席する。忘年会では“本当に1年間頑張ってくれた。ありがとう”と言葉をかけ、一緒に酒を酌み交わしてきました。熱があっても直接顔を合わせてお礼を伝えたいために、必ず忘年会には出席し、従業員と話し込んできました。 

しかし“社長はあんなことを言っているけど、我々を騙して信用させ、利用しようとしているだけだ”という従業員が必ずおります。良いことをいうほど、裏ではそう言われているものなのです。しかしこうしたニヒル、クールな従業員の心を揺さぶることが必要なのです。そのためにも、自分から捨て身になって話し込んでいくのです。 

  1. 商人の大義を解いた石田梅岩(ばいがん)

江戸時代は日本は士農工商の階級制がありました。そのような時代に京都に石田梅岩という人が、商人にも武士道と同じように“道”があると説いたのです。 

商売で利益を得る事は、何か悪いことであるように言われていました。“商人が利潤を得る事は、決して卑しいことではない。武士が幕府から禄高をもらうのと同じである”と説くわけです。自分の生き方に自信がなければ、卑屈な思いをして生きなければなりません。しかしこうした大義名分を得て、自信が生まれれば、確たる信念を持って仕事ができます。 

同時に、倹約、節約についても、コストダウンをしなさいと解いております。そして不正な儲け方をしてはならないと厳しく戒め、正直こそ商いの道であると説いています。 

企業の場合でも、自分自身が企業仕事に誇りを持つと同時に、従業員にも仕事に誇りを持ってもらうように仕向けるのが大事です。 

3ステップ:自社に足りない力を認識する 

  1. 次に必要な要素を身に付ける

技術力、製造力、営業力でスタートしたいずれの企業も、自社が次に身に付ける事は、自社が持っていない必要な要素を取り入れなければなりません。 

技術でスタートした会社は製造力を身に付ける必要があります。

製造力でスタートした会社は、技術力を身に付けることです。大企業の下請けをしてきた場合、そこから応用的な技術までマスターしていくのです。

営業でスタートした会社は製造力を身に付けることです。良い商品を得るには、仕入れするだけではなく、自社生産も選択肢に入れます。しかし自社で製造せず、下請けを使っても良いのです。その時、仕入れに力を入れ、有利な条件で仕入れる技術を磨くのです。 

技術でスタートした会社は製造力を加え、営業力を次第につけていきます。

製造力でスタートした会社は、技術力を加え、営業力を身に付けます。

営業力でスタートした会社は、仕入れ技術、製造力/自社生産を身に付け、技術力も身に付けます。 

4ステップ:管理力を身に付ける

最後のステップは、管理力を身に付けることです。採算管理や、在庫管理、売掛金管理、損益管理等です。経営者は管理能力を高めることで、パイロットがコックピットのインジケーターを見るように、自社はどこを飛んでいるのか、すぐわからなくてはなりません。 

以上のステップを考えた場合、一体自社がどの段階に来ているかを見極めることが大切です。例えば自社は管理力が不足している、技術力、製造力、営業力はそれぞれどういう段階にあるのか、検討し続けていく必要があるのです。