盛和塾 読後感想文 第146号

数字で経営する

企業を永続的に成長発展させるためには、経営者が正しい舵取りを行うことが不可欠であり、そのための唯一の客観的指標は数字です。

正しい数字で経営する

数字で経営するには、第一に何よりもその数字が正しいものでなければなりません。日々の売上がどのぐらい上がっていて、どこにいろんな経費がいくらかかっているのかが正確にわからなければ、会社のどこに問題があるかわからず、必要な改善の手を打つことができないからです。この数字がいい加減なものであれば、経営の判断を誤り、会社を傾けてしまいます。 

昨今の大企業による度重なる不適切な会計処理は、多くの損害を多数の株主、機関投資家、とりわけ従業員に与えてしまいました。こうした事態は他人事ではありません。正しい数字を追求することを怠れば、その少しの油断が蟻の一穴(いっけつ)となって企業を蝕み、やがて大きな破滅を招いてしまうことになります。 

  1. 正しい数字を反映するための原則

経営に関する数字は、すべていかなる操作も加えられない、経営の実態を表すものでなければなりません。損益計算書や貸借対照表の全ての科目とその細目も会社の実態を正しく表すものとなっており、誰から見ても間違いのない、真実を表すものでなければなりません。 

そのためには、日々の業務がその日のうちにルールに従って正しく処理されなければならず、ミスや不正を未然に防ぐ考え方と仕組みを社内に確立する必要があります。 

一対一対応の原則

モノやお金が動けば、必ずその取引を説明できる伝票(証拠書類)が起票され、それがモノやお金とともに動いていくというものです。その日にこの一対一対応の原則を徹底させることで、一枚一枚の伝票(コンピューターシステム上での承認)の積み上げが、そのまま会社全体の業績を表すことになり、経営数字が会社の真の姿を表すことにもなります。 

一対一対応の原則が社内に確立されていないと、社員は“数字は操作できるもの”と考えるようになります。売上の水増しや電気を操作(コンピューターによるデータの改竄(かいざん))が発生しかねるのです。 

例えば、A商社の営業部の売上高が売上目標に十億円足りないとします。そうしますと営業担当者は日頃からお付き合いをしているお客様に“今月十億円売上が不足していますので、助けてください。請求書を発行させてください。翌月初めに返品処理をしますので、よろしく”とするわけです。そうしますと、ものは何も動いていないにもかかわらず、架空売上の十億円が計上されてしまいます。 

こうした事態を防ぐため、誰も故意に数字を操作できないようにするための考え方と仕組みが、一対一対応の原則なのです。 

生産や一般管理費についても、一対一に対応させることが業績を正しく把握するために大変大切です。ある月の売上の生産にかかった費用が翌月回しになっていれば、その月の利益が膨らみ、翌月の経費が増えて、翌月の利益は減ります。これでは経営の実態を把握できません。発生した経費をタイムリーに処理し、売上生産にかかった経費を一対一に対応させることを徹底させなければなりません。 

旅費交通費の精算であっても、帰社した日から一週間以内の精算を徹底して、可能な限り同じ月の中で処理を行い、恣意的な経費操作ができないようにします。 

  1. あらゆる場面で行われるダブルチェック

不正やミスを防ぎ、正しい数字を表すものとして“ダブルチェックの原則”があります。ダブルチェックの原則とは、あらゆる伝票(決済書類)処理や入金、出金書類を複数の人間で行うことです。 

支払い伝票(コンピュータ上での承認、approval)の発行と実際の支払いは、別の人によってなされます。物品やサービスを購入するときは、購入しようとする部門が直接仕入れ先に発注したり、値段や納期の交渉はしてはならないのです。必ず購買部を通じて発注するようにします。購買部門では発注伝票を作成する人と、承認する人は別々にしなければなりません。担当者と上司による確認の後、購買部門がダブルチェックして初めて物品を購入できる仕組みが必要です。 

購入しようとする部門は、仕入先に自由に発注できないため、仕入先との癒着を防止し、適正な取引を維持することが可能となります。 

発注した物品が届いた時、購入依頼した部門には物品は届けられず、まず受入倉庫に置いて、物品と入荷伝票(packing slip)を照合します。購入を依頼した部門では注文数、品質、内容に問題がないか検査した結果を検収伝票に基づいて担当者と上司が確認します。検収伝票は、経営管理部門においてさらにチェックされ、問題がないことが確認されたら、資金を扱う経理部門にチェック済みの検収伝票が回り、初めて支払いが発生します。 

この“一対一対応の原則”と“ダブルチェックの原則”を徹底することで、常に経営の実態に即した正しい数字が計上されることになります。この正しい数字のもと、適切な経営判断を下していくことができます。

二.数字を厳しく捉える

数字で経営するにあたっては、数字そのものが経営者自身の厳しい経営姿勢に裏打ちされたものであることが大切です。企業経営者は、経営計画を考えるにあたって、往々にして楽観的な見通しに基づいて立案してしまいがちです。しかし為替レートや業界の市場成長率といった経済環境を自らの都合の良いように想定したのでは、希望的観測が外れたときに、収支の見込みが大きく狂い、企業の舵取りが難しくなってしまいます。 

経営者は常に高い目標を掲げなければなりません。しかし足元の経営計画については、企業の安全性を考え、悲観的に保守的な厳しい事態を想定した経営を行っていくことが基本です。 

  1. 為替レートは市場より厳しい条件を設定する

輸出入業を行う企業が事業計画や業績見通しを立案する際に前もって決めておく“想定為替レート”があります。京セラの場合、輸出比率は六十%近くに達しており、ドル建ての取引の場合、対ドルで一円の円高が約四十五億円の売上減、税引前利益を約十一億円押し下げるインパクトがありました。したがって為替レートの少しの変動が業績を大きく左右するため、社内為替レートの設定にあたっては、想定を超えた事態にも耐えられるように、予想レートよりもさらに厳しめに設定します。予想を超えて円高になったときには、実勢レートの変動に合わせ、できるだけリアルタイムに社内レートを変更し、厳しい状態を保つようにしています。 

一方、為替が円安に振れたときには、必ずしもすぐに社内レートには反映させません。円安に振れたとしても、あえて厳しい社内レート維持することで、強靭な企業体質を作るように努めます。 

一般の企業の場合は、想定為替レートはあくまでも事業計画や業績見通しを出すための設定に過ぎません。京セラでは、想定為替レートは決算数字の見通しを出す事はもちろんですが、各アメーバが厳しい目標数字を自らに課すためにも活用しているのです。そうすることで、土俵の真ん中で相撲を取る、つまり安全な経営を図るのみならず、事業構造をより強固にするために、厳しい社内為替レートを設定しているのです。 

その結果、決算時に実勢換算レートで計算すると、利益が上振れすることとなります。初めから実勢レートに合わせて自部門の採算をとらえる事はしません。あくまで厳しく設定された社内レートの中で、自部門が立てた目標数値を追求していくことに全力を投下するのです。 

  1. 実態に合わせて減価償却する

“数字を厳しく捉える”という姿勢は、減価償却の考え方や在庫の評価などにも適用されます。 

固定資産の減価償却について、通常税法の耐用年数を適用している企業が多いと思います。税法では、十年の耐用年数となっている機械設備の中には、業種によっては、実際二年しか耐用年数がない場合もあります。二年で使えなくなってしまう機械であれば、二年で償却すべきです。

こうしますと短期的には利益を押し下げることになります。しかし、実態に反して発生している費用を計上せず、当面の見かけ上の利益を増やす事は、経営の原則に反します。 

在庫についても、実際の販売価格よりも過大評価され、会社の資産や業績を実態以上によく見せることにならないように、棚卸時には製品の市場価格に基づいて評価し直します。売れる見込みのない在庫については、速やかに処分することが健全な会計には求められています。そうすることで、健全な経営体質を維持するようになります。 

  1. 保有資産には社内金利を課す

京セラでは不良在庫を発生させないよう、在庫をできるだけ持たないように努めています。そのための仕組みの一つとして、一定期間以上の在庫に対しては“社内金利”を設定しています。売上の実績はどの会社も管理されていても、在庫に対する責任は必ずしも明確になっていない場合があります。京セラでは、在庫は営業が責任を負うことになっています。 

在庫に対しては、市中金利よりも高めの金利を社内金利として設定し、営業の経費として徴収することになっており、営業の在庫に対する責任、負担がより明確になるようにしています。 

社内においてあえて厳しく管理することで、営業は市場動向を的確に分析し、できるだけ正確な販売予測を行い、在庫を最小限に抑えるようになっています。 

健全で強靭な企業体制を維持していくには、自らに厳しい数字をとらえる経営姿勢が必要なのです。

数字を細分化する

経営者が的確な経営判断を打つためには、数字が細分化されたものとして管理されていることが必要です。 

経営の原理原則“売上を最大に、経費は最小に”を実践するには、経営のトップ、全従業員が、自らの日頃の業務の中で、常に創意工夫を重ねることが出来るように、数字が細分化されていなければなりません。その数字は空間的、時間的に細分化されていなければなりません。 

空間的に細分化するとは、全社としての経営目標のみならず、現場の最小単位に至るまで、組織ごとに、目標数字を持ち、その組織ごとに採算を管理していくことです。つまり現場の最小単位の組織に至るまで、組織ごとに目標数字を持ち、組織ごとに採算を管理していくことです。 

つまり現場の最小単位の組織に至るまで、明確な目標数字があり、さらには一人ひとりの従業員までもが、明確な指針のもと、具体的な目標持っていることが大切です。 

時間的に数字を細分化するとは、その目標数字が一年間を通した通期の目標だけではなく、月次の目標としても明確に設定されているということです。月々の目標数字が明確になればおのずから日々の目標も見えてきます。このように従業員一人一人が日々自分の役割を理解し、それを果たすことができるような明確な目標数字を設定しなければなりません。 

それぞれの従業員が着実に役割を果たし、それぞれの組織としても目標達成していくことで、全社の目標を達成していくことができます。また日々の目標も達成してこそ、その積み重ねである月間や年間の経営目標の達成ももたらされていきます。 

  1. 年間の経営計画を立て、月次で財産を管理する

京セラの場合、数字が組織ごとに細分化され、そして月次の目標としても細分化された採算向上のシステム-アメーバ経営(小集団部門別採算制度)のもとに運営されています。 

各アメーバのリーダーを中心に、メンバーの一人一人が日々自部門の数字を見ながら、もっと売上を上げる方法はないか、もっと経費を減らす対策はないか、と常に主体的に“売上最大、経費最小”の創意工夫を重ねています。 

すべての数字の目標は、マスタープランと呼ばれる年間の経営計画です。マスタープランは会社全体の方針や事業部における方針、目標を受け、検討に検討重ねた上で部門ごとに作成されるべきもので、アメーバのリーダー、メンバー全員の“この一年間どのような経営をしたいか”という意思を示すものです。 

マスタープランには月次の詳細な売上と経費の数字が既に計画されています。マスタープランを確実に達成するために、マスタープランにおいて計上した月次の数字を常に念頭に置きながら、さらに毎月毎月経営状況に合わせて、また経営計画の進捗に応じて、改めて予定数字を立案していきます。 

月次単位で毎月、予定を改めて作成し、その予定に対する進捗管理を行っていき、そしてひと月が終われば改善のアクションを含めた翌月の予定を立てていきます。 

  1. 勘定科目を細分化し、改善の手を打つ

“経費最小”のための現場の改善活動を日々行っていくには、指標となる採算表そのものの勘定科目を細かく管理していく必要があります。 

経費を最小にしていくためには、どの経費を減らせば良いのかを、誰もが一目でわかるように必要に応じて、この勘定科目を細分していくことが求められます。

つまり、決算書上の各科目を細分化することにより、現場の一人ひとりの従業員が改善の手を打ちやすいように、経費項目も細分化していくことが何よりも大切です。 

例えば“原材料費”や“金型費”といった勘定科目については、経費全体の多くの割合を占めている場合には、品種別、納入先別というように数字を細分化し、その変動を厳密に管理します。 

“電力水道料”についても、製品を作るにあたって電気代を多く使う部門であれば、電気代をアメーバ別や工程別の発生金額に細分化して計上します。大きい経費項目の水道代についても各部門別に、使用料をメーターで測り、細分化することも必要です。 

このように企業経営における数字とは、アメーバのリーダーを始め、現場の誰もが活用しやすいように細分化し、管理されていなければなりません。そうして経営そのものの“見える化”を図ることで、経営実態を正しく把握し、的確な経営施策を打つことができます。

リアルタイムに数字を把握する

さらに的確な経営を行うためには、数字が細分化されたものであると同時に、リアルタイムに出てくるものでなければなりません。 

京セラ創業時には、営業や製造部門で起こしてもらった会計伝票を経理で集計し、数ヶ月後に会計の数字を見て、“先々月はうまくいった”、“うまくいかなかった”という結果を後で知るのが常識でした。 

“これでは経営するにはあまり役立たないのではないか。利益が出る形をするには、現在の数字をリアルタイムに把握する必要がある。それも実際に仕事をしている現場が毎日、損益の数字を把握する必要がある”と思ったのです。 

しかしこれは簡単ではありません。各工場、事業所の製造部、および営業部における事業活動の結果を示す伝票を本社に送り、集計すれば済むかもしれません。しかし本社で集計した数字を最小単位の組織に至るまで、スピーディーにフィードバックを行わなければなりません。 

特に経費の配分は難しいのです。各アメーバの採算を正しく見るためには、そのアメーバに関連する月次内に発生したすべての費用を経費として計上しなければなりません。間接共通経費など、アメーバが直接管理できない費用もあり、誰もが納得できる基準に従って、各アメーバに配賦しなければなりません。 

このことを実現するためには、各部門の売上計上はどのように計上するか、経費をどのように負担するのか、社内の部門間の売買をどのように決めるのか、統一した経営数字の形状の仕組みとルールが構築されていることが必要なのです。こうした細かな社内ルールが整備され、管理されていなければ、実績数字をスピーディーに集計し、速やかに現場のアメーバにフィードバックできません。 

京セラでは、月末に締めたら、その日のうちに部門別の概算数字が、月初一日目に確定数字が出てくるようになっています。 

また予定数字を遂行する一ヵ月の間においても、売上と経費の実績数字が日次で出て来るようになっており、現場のアメーバの一人ひとりが自分たちの活動した結果をリアルタイムに把握し、日々採算を作っていくことができるようになっています。 

  1. 経営管理部門の重要性

このように数字をリアルタイムで把握するためには、社内に多大な人員と費用を必要とします。京セラでは経営管理部門に相当の人員を配置しています。経営管理部門の特異な点は、単に数字を集計するだけではありません。 

数字を集計するだけであれば、本社にて集計作業を行えば良いのですが、京セラの場合は、工場や事業所毎に必ず経営管理部の人員が配置されています。彼らは日々現場で起こる様々な事象に対して“何が正しいか”を判断基準に、物とお金の動きと伝票と一対一対応させる役割を担っています。さらには事業部門と一緒になって、月次の予定数字の達成に向けて採算を追求していきます。

  • 一対一対応の確認
  • 採算達成追求 

こうした人手を社内に抱える事は大きなコストであり、収益性を低下させると考える経営者もいます。京セラは、まだ会社が小さかった頃から、こうした経営管理体制を築いてきました。確かに多大な人員と費用を必要とし、手間ひまがかかります。しかしその手間ひまを上回る、大きなメリットがあるのです。 

リアルタイムで数字を把握することで、時々刻々と変化する経済環境の中にあっても、採算を向上させるための迅速な経営判断を行うことが可能となり、これは経営者にとって大きな武器になります。 

  1. リアルタイムに数字を把握できる強み-第二電電、日本航空の事例から

一九八四年に創業したKDDIの前身である第二電電においても、リアルタイムに経営数字を把握するという仕組みを武器にして、資金、インフラ、技術、専門スタッフなど、あらゆる面で第二電電を上回っていた競合他社に勝負を挑んで行きました。 

東京、名古屋、大阪の間を結ぶ、長距離通信事業を始めるにあたり、関東中部、関西などの地区別に分割し、独立採算で迅速に数字を把握する仕組みを構築しました。携帯電話事業でも、地区ごとに採算がスピーディーに出てくるシステムを作り上げました。 

このような精緻(せいち)な経営管理システムがあったからこそ、リアルタイムで経営の実態を把握し、同時に新規参入した他の競合他社より、的確な経営判断を下すことができ、新電電の中でトップを走り続けることができました。 

日本航空の再建に当たっても、当初から路線、路便ごとにリアルタイムに採算がわかるようなシステムを作らなければ、会社全体の採算を向上させることができないと考えました。日本航空に着任しても、“現在の業績はどうなっているのですか”と聞いてもなかなか数字が出てきませんでした。やっと出てきたものは数ヶ月前のデータで、しかも極めてマクロなものでした。 

路線毎、路便毎の採算はどうなっているのかと聞いても、一向に分かりません。 

リアルタイムに現在の数字を把握できなければ、会社を正しい方向に導くことはできません。そこで、部門別、路線別、路便別に採算がリアルタイムに見えるような、さらにそれぞれの責任者が中心となってその収益性を高めるために創意工夫を重ねていけるような仕組みを、現場の社員達と一緒に構築していきました。 

その結果、詳細な部門別の実績が翌月には出るようになり、全社員が自部門の実績を見て、少しずつでも採算を良くしようと懸命に取り組んでくれるようになりました。すべての路線毎、路便ごとの採算が翌日にはわかるようになり、需要に応じて臨機応変に機材を変えたり、臨時便を飛ばしたりすることが、現場の判断でできるようになりました。 

このことからわかるように、リアルタイムで数字を把握することは、経営トップや経営幹部のためだけに行うのではありません。大切な事は、現場の一人ひとりの従業員の努力が数字としてすべて現れるため、採算向上へのモチベーションを大きく高めることができるということです。社員一人一人が自らの努力した結果がすぐに反映されるリアルな数字を見ながら、今日よりは明日、明日よりは明後日と、さらなる創意工夫を重ねることができるのです。 

  1. 実績開示で築かれる信頼関係

全社員で数字を共有し、全員参加で経営していくためには、毎月月初の朝礼で全社や各部門の実績を詳しく発表しています。工場や事業所では、当該部門の予定に対する実績数字の進捗度についても、毎日朝礼で発表しています。また年一回の経営方針発表会では、経営数字を含むトップの経営方針の詳しい内容を全社員に伝えています。 

このように、様々な機会を通して、会社の状況や進むべき方向をオープンにして、経営数字を共有していくことが、全社員の力を結集して事業を進めていく基盤になります。 

経営者一人の力だけではたかが知れています。本当に立派な会社にしたいと思うなら、好況の時も、不況の時も、苦難の時こそ献身的に支えてくれるような社員との信頼関係を構築していかなければなりません。そのためには、経営実態を表す数字とともに、経営者としてこの会社をどうしていきたいのかという将来ビジョン、そのためにこれからとるべき施策まで含めて、社員と共有していくことが大切です。 

  1. 公明正大な姿勢が経営者としての勇気をかき立てる

数字を全社員が共有し、透明性のある経営を目指していくことで得られるもう一つの効果として、トップ自らが率先垂範、公明正大を貫く姿勢を求められるということがあります。 

中小企業の場合、社長は公私混同に陥りやすいのですが、数字を全社員と共有しますと、公私混同ができなくなります。無分別な接待交際を抑止することができます。 

そのように社内に公明正大な姿勢が貫かれることで、経営者自身も自分自身の勇気をかき立て、鼓舞することができます。一方社員に対する後ろめたさが自分の心の中に少しでもあると、経営者としての迫力がなくなっていくのです。 

正しい数字、強い思いが、企業体質を筋肉質にする

経営数字を社員と共有し、数字をベースにして経営努力をしますと、業績は必ず向上し、経理として損益計算書、貸借対照表、企業の経営状態を示す決算書は素晴らしい数字になります。 

この決算書にはぜい肉のない筋肉質の企業体質が反映され、長年にわたる経営姿勢が凝縮されています。 

会社にとっての筋肉質とは、人、モノ、金など、売上と利益を生み出す会社の資産です。一方、売上や利益を生み出さないものは、会社の“ぜい肉”です。無駄な資産を徹底してそぎ落とし、今ある資産を最大限に有効活用することで、会社は永遠に発展し続けられる“筋肉質”の経営体質になります。 

創業間もない京セラは、まだ財務体質は脆弱でした。その時、松下幸之助さんの講演“ダム式経営”がありました。松下幸之助さんは、余裕のある経営をするための方法を質問した一人の聴衆に対して“そんな具体的な方法は私も知りませんのや。でも余裕がなけりゃいかんと思わないといけませんな”とだけ答えられました。 

余裕のある経営をするためのノウハウとかハウツーというものはない。しかし大事な事は“余裕のある形をしたい”“無借金経営をしたい”と強く“思う”ことであり、“そうしたいけれど、難しい”と思ってはいけないのです。このように松下幸之助さんをおっしゃりたかったのだと思います。 

幸之助さんが言いたかった事はただ1つ、“思うか”、“思わないか”なのです。強烈な持続した思いがあれば、その“思い”は現実のものとなっていくはずです。     

そして京セラは創業十年で無借金経営を実現し、十五年目には自己資本比率七十%近くまで高めることができました。借金を着実に返すとともに、内部留保を年々蓄え、豊かな財務体質をさらに豊かにしながら、成長を遂げて行きました。 

企業の成長・発展は従業員の幸せのため

京セラは“余裕のある経営がしたい”という強い思いがもたらしてくれたものに他なりません。大切な事は、なぜそのような強い思いで、素晴らしい数字で表される決算書を持つ企業を、我々経営者は必死になって目指していかなければならないかということです。 

それは従業員のためです。決して経営者個人のためではありません。雇用する従業員と、その家族を未来にわたって守っていくために、内部留保を豊かにし、企業の経営基盤を万全のものとしていかなければなりません。“従業員のため”という美しい善き心でなければなりません。 

そうした高邁(こうまい)な目的があればこそ、数字で経営することに徹底して努めることができるのです。経営者とは、そのように多くの人々を幸せにすることができる素晴らしい仕事です。美しく善き心をベースとして、徹底して数字で経営することに努められるならば、必ずその苦労は報われることを信じて、さらに努力をすることが大切です。