盛和塾 読後感想文 第五十九号

原理原則に従う 

会社の経営というものは、筋の通った、道理にあう、世間一般の道徳にあったものでなければ成功しません。これに反した場合は会社の経営は長続きしないのです。 

他社のやって来たこと、一般に常識にのっとったこと、過去にやって来たことを参考にして、安易な判断をしてはなりません。 

経営組織についても、投資についても、財務についても、利益の配分についても、本来どうあるべきか、正しい判断はどうなのかとものの本質に基づいて判断していれば、海外であろうと、また今まで経験のない分野でも判断を誤ることはないと塾長は述べています。 

創業の原点を掘り下げる

事業が成り立つ二つの要素

必要なグロスプロフィット(粗利)が得られること。経験が余りなく事業を始める場合、いちばん大事なことは、そのビジネスが事業として成立する基本的な条件を備えているかどうかということです。事業を成り立たせていく為に必要なグロスプロフィットを、果たしてその事業は得られるのかどうかということが一番大事なことです。 

値決めは経営者がするのですが、その前にビジネスには事業そのものを成り立たせるグロスプロフィットが本当にあるのかどうかということを、事業を始める前に確認することが必要なのです。 

それぞれの業界、業態には、これまでの商習慣として大体のグロスプロフィットが決まっています。各企業の特異性によって、同じ業界の中でも、グロスプロフィットが異なることもあります。しかし、一般的に、その業界では暗黙のうちに決まってしまったグロスプロフィットがあります。 

小売業の場合ですと、グロスプロフィットは少なくとも30%必要です。卸売業の場合ですと、グロスプロフィットは最低15%は必要です。これらのグロスプロフィットは業界の平均値がそうだからといって、簡単に得られるものではありません。市場での競争で目標としたグロスプロフィットが確保できないのが普通です。 

日本食レストランの場合、食材費(材料費)の目安は30%です。30%を越えますと、レストラン事業は非常に苦しくなってきます。できるだけ安い食材を使って売れる料理をシェフは考えなければならないのです。仕入値の交渉、仕入方法、食材を充分生かし、無駄のない料理方法、見た目にも素晴らしい美味しい料理、ボリュームも充分な料理をつくるのが繁盛するレストランです。 

製造業の場合には、材料費は20~30%、労務費は30%、製造間接費は20%、税引前利益は10%くらいの目安が必要です。高い付加価値を与えて売る、つまり原材料費が10%になるくらいまでに高度な技術を使い、高度な加工をして、付加価値を高めて販売していくことが、製造業の基礎であり、要諦となります。 

京セラでは原材料は金属の酸化物です。原材料の仕入価格は決して高いものではありません。その原材料を使用し、新しい人工鉱物を合成し、高精度の焼き物を製造します。高い合成技術と焼成技術が京セラにはあります。過去に誰もがなしえなかったことをやってきたのです。 

材料費、労務費、製造間接費、一般管理販売費、目標利益を合計して、コストを積み上げて製品を売ってはいません。出来上がった製品が素晴らしい性能を持ち、使ってもらう人が正しく評価して買ってもらうのです。すなわち、コストの積み上げで値段が決まるのではなく、出来上がった製品のパフォーマンスで決まるのです。お客様が喜んで受け入れてくださる値段が、販売価格なのです。 

事業として成り立つかどうかという基礎的なことを、まず検討して手を出さなければ、朝から晩まで寝ずに頑張ってもなかなかうまくいかないのです。 

将来性が見込めること

今後マーケットが大きく広がっていくのかどうか、市場の発展性を見極める必要があります。自分の知っている特定の狭いエリアだけでしか発展しないような場合は、一生懸命に打ち込んでも将来性はありません。 

十分なグロスプロフィットが見込めること、頑張ればマーケットを拡大していくことが出来、将来の発展性が見える事業であることが大事になります。 

事業の目的意義を明確にする 

言葉が従業員をモチベートする

従業員と共に働くとき、いつも共同経営者なのだという気持ちで接していくことが大事です。1人や2人でいくら頑張っても、たかが知れています。従業員の手助けが会社経営には大切です。雇った人たちをパートナーとして “私はあなたたちを頼りにしています” という形で迎え入れることが大事なのです。“頼りにしています。家族の一員として、一緒に経営に、仕事に参画していただきたい。”とことあるごとに伝えることが大事です。従業員が、“そうおっしゃってくれるなら、私も手伝ってあげましょう”と言ってくれるまで、話し、接していくのです。“たらし込む” のです。 

仕事の目的・意義を説く

従業員をたらし込んで、自分のパートナーになってもらうためには、“事業の目的・意義を明確にする” 必要があります。“公明正大で大義名分のある高い目的を立てる”ことが大事なのです。 

仕事の中では、毎日単純な仕事、きたない仕事、危険な仕事、きつい仕事があります。服も汚れ、床も汚れ、3Kの仕事です。ところがその仕事が新製品で、お客様がどうしてもほしいものであり、誰も作ったことがないような事があります。この仕事を従業員にやってもらう時、“乳鉢でこの粉末をすりなさい”という風にしてしまいますと、全然面白くありません。この作業はどういう意義のあることか、充分理解してもらうのです。“この工程は、最終的に、世界に類のない、すばらしい製品になるのです。お客様が、世の中が待ちに待っているものです” と仕事の目的・意義を従業員に分かってもらうようにすることが大事です。

夢を語る

京セラは創業の時から一生懸命夢を語ってきました。原町で一番になったら、中京区で一番になろう、中京区で一番になったら、京都で一番になろう、京都で一番になったら、日本で一番になろう、日本で一番になったら、世界で一番になろう。私達がつくっている特殊なセラミックは今後世界中のエレクトロニクス産業が発展するためにどうしても必要になる。 

一見不可能な夢を語り続けて来たのでした。ところが、一つ一つクリアしていきますと、従業員の目が輝き、夢を次第に信じるようになったのでした。京セラはセラミックでは世界一の企業に発展しました。 

コンパを通じてモチベートする

自分たちがやっている仕事にはどういう目的があるのか、仕事の意義はどうなのか、また会社の目的・意義はどうなのかということを話していく、経営者の私利私欲に基づいたものではなく、大義名分のある、普遍的なもの、わかりやすく、みんなが共鳴してくれることを話していく。 

“私は皆さんを頼りにしています。皆さんと一緒にそういう会社をつくり上げようと思っています。ぜひ協力して下さい。1人や2人でやれるわけがない。みんなの力がいるのです” 

このような事業や仕事の目的・意義を、再三コンパを通じて従業員に話し、研修の中でも繰り返し話し、共鳴してくれるレベルまで、話し合いをすることが大事なのです。 

アメリカの企業の中でも、リゾートホテルを借り切って、全米、全世界からセールスマンを集め、3~4日の研修をします。夕食には夫婦同伴で、食事、パーティをします。社長や外部の有名人も招待されます。リゾートに缶詰にして教育し、もてなしをします。このようにコンパをしながら、従業員をモチベートします。 

リーダーの持つ哲学を説く

自分の仕事の目的・意義、また会社の目的・意義を従業員に話していきながら、共鳴してもらう。目的・意義を追求していくために、自分はこうした考え方で経営をしていくつもりだということを話していきます。そこには経営者が持っている人生哲学、フィロソフィーが必要なのです。 

人は何のために働くのか、私自身は人生をどのように生きていくつもりなのか、そして従業員の方々と一緒にどのような生き方をしていきたいのかという経営者の哲学・思想が、目的・意義の話をしている中で、話される必要があります。社長がそういう立派な考え方をしているのなら、我々も共鳴し、一緒に協力しましょうというふうにしていかなければなりません。 

こういう人生観を持ち、こういう哲学、思想を持って会社経営をしていくつもりです。“私は利他の精神で他人さまを助けていく、思いやりに満ちた心でやっていくつもりです” と従業員に語りかけるのです。 

従業員の方々が経営者の哲学・思想に共鳴してくれますと、仕事に一生懸命になるのです。また、みんなが本当に結集して、力を合わせていく様になるのです。 

フィロソフィーを共有する

私達は、上記のような哲学・思想を持っていないことがあります。その時、松下幸之助さん、稲盛塾長の本、テープを使って勉強するのです。一度だけではなく、何度も勉強します。そして、勉強したことを自分の言葉で、従業員に語りかけるのです。最後には、 “私はこう思う” となり、素晴しい言葉を自分のものとして話していくようになります。話していくうちに、従業員がますます信頼をして、まとまっていくのです。 

フィロソフィーを語れる経営者が経営する企業は伸びていくのです。フィロソフィーを共有している度合いが会社の業績に比例していると言えるのです。 

海外では必ず真意を伝える

海外で経営する場合、日本人以外の従業員が働いてくれています。会社の目的意義、経営者としての哲学・思想を海外の企業の従業員に伝えるのは、簡単ではありません。仏教、キリスト教、イスラム教、様々な宗教があり、文化・言語も違います。そうした場合にはあらかじめ自分の原稿を準備し、通訳の人と綿密な打ち合わせをすることが必要です。 

アメリカでの日本人を見ますと、個人として医師、弁護士、会計士と仕事の良く出来る人を多く見かけます。ところが事業家は非常に少ないように思います。日本人は現地の従業員をモチベートして自分のパートナーにして巻き込んでいくことができないからだと思われます。従業員を魅了し、惚れ込ますには、どうしても言葉ありきなのです。まず言葉ありきなのです。 

海外でも通じる普遍的な哲学を持つ

日本文化はキリスト教圏、イスラム教圏では、余りにも異なる為、受け入れてもらえないのではないかと考えている日本人が多いと思います。 

しかし、仏教、キリスト教、イスラム教という、いずれの社会の中にあっても、決して矛盾しない哲学があるはずです。それを自分たちの哲学・思想として持てば、どんな文化圏であろうと理解してもらえると思います。 

アメリカの中で、ハーバード、MIT、プリンストンを卒業したインテリの人達が入社して来ます。そういう連中を“なるほど”と納得させ、共鳴させようと思えば、しっかりした哲学と豊かな一般教養を持っておれば、そういう人たちを説得することができるのです。