盛和塾 読後感想文 第112号

人間として何が正しいのか

京セラフィロソフィーの原点は“人間として何が正しいのか”ということを判断基準にしています。経営経験のなかった稲盛塾長は子供の頃、両親や学校の先生に教えられたことをベースとせざるを得ませんでした。 

“人間として正しいことなのか、正しくないことなのか”“善いことなのか、悪いことなのか”を基準に判断することにしました。 

矛盾が会ったり、理屈に合わなかったり、また一般に持っている倫理観やモラル、そういうものに反するような経営では決してうまくいかないと考えられました。 

正、不正や善悪などは最も基本的な道徳律であり、子供の頃から両親や学校の先生に教えてもらっていたので、稲盛塾長はよくわかっていたのです。 

こうして“人間として何が正しいのか”という最も基本的なこと、“原理原則”を判断基準として経営を始められました。 

京都銀行創立七十周年に寄せて-成功する経営者の条件

稲盛塾長は、京都銀行創立七十周年記念式典講演を依頼されました。 

京セラは京都銀行との長い取引を通じて、多くの京セラファンを作ってきました。枚挙にいとまがないほど、多くの京都銀行の行員の方々とビジネスを続けておられました。 

京都銀行の七十年にわたる歴史を、金字塔、いわゆる到達点としてとらえるのではなく、さらなる発展のための一里塚、つまり通過地点ととらえるということであろうと稲盛塾長は語っています。それは未来志向で、京都銀行の成長・発展を願っている故です。 

京セラ創業時を振り返って

昭和三十四年四月一日に京セラは創業開始しました。京都の宮木電機という会社の専務をされておられた西枝一江(にしえだかずえ)さんが中心となり、三百万円の資本金が集まりました。しかしそれでは資金が足りません。その時西枝一江さんは、自宅を担保にして、京都銀行から一千万円を借り入れ、融資(ゆうし)して頂いたのです。 

京セラ創立以来、事業は順調で、利益率は二桁数字でした。創業三年目、更に事業を拡大するために、滋賀県に自前の新しい工場をつくりたいと考えました。その為、京都銀行に融資の相談に伺いました。融資担当の方はたいへん厳しい反応でした。しかしその方は“中小企業金融公庫”の京都支店に行って交渉されてはどうかと言われました。 

中小企業金融公庫京都支店長は“我々は中小企業育成のために設立された国の金融機関で、中小企業を育てるために是非融資をしてあげたいとは思いますが、担保がないのであれば貸し出すことはできません”と無下に断られました。 

稲盛塾長は勇気を出して支店長に言いました。“担保がないから貸さないと言われるなら、親の代から金持ちで立派な不動産を最初から持っている、ええとこのボンみたいな人でなければ、融資はできないということですね。そうであるならば、私みたいな徒手空拳のものが新しい事業を興すといったって、できるわけがないではありませんか。そもそも担保に供する資産を持っているのであれば、何もお金を借りなくてもいいはずです。中小企業金融公庫は、中小企業の育成が目的なのでしょうが、そんなことで日本の中小企業の育成ができますか” 

京都支店長は“あんたはええことを言うな”と言われ、しばらく考えられた上で“わかりました、担保がなくても貸せるように、なんとか工夫しましょう”と言われました。無担保融資が成ったのでした。 

歴代の中小企業金融公庫の京都支店長から直接“稲盛さん、昔こんなことがあったそうですね。ウチの中ではたいへん有名な話になっていて、担保無しでも、人をよく見定め信用していくことが本当の銀行マンの努めであるということが教訓のように語り継がれています”と聞いたことがあるそうです。 

中小企業金融公庫の無担保融資の件を京都銀行の当の融資担当者に報告しましたところ、“それなら京都銀行も融資します”“ああいう国の金融機関が課してくれるということは、十分な調査をして確実な見込みがあると判断したのでしょうから、それならウチも貸します” 

京都銀行は京セラの大株主でもあります。中小企業を生み、育てることが、地方銀行の大きな役割であり、そのような企業育成が、ひるがえって地方銀行自身の成長発展に直結しています。これは日本再生・復興の最大のエンジンになります。 

現在、日本復興、日本経済の再興が叫ばれています。政府によってさまざまな経済施策も講じられています。しかし、最も大事なことは、中小企業が元気になることです。日本企業の99%が中小企業です。会社員の69%が中小企業で働いています。まさに日本の経済産業を下支えているのは、地方の中小企業です。 

その中小企業を側面から、また後方から支援していくのが地方銀行の役割であり、それが、日本経済を活性化し、日本最大の推進力になっていくのです。 

成功する経営者を見抜くこと

中小企業、ベンチャー企業では、ある固有の技術を持った人が、今いる大企業の現状に満足できず、飛び出して会社を作るというケースが一般的のようです。そうした人には当然資金力がありません。担保になるべき資産を何も持ち合わせていません。するとベンチャー企業には経営者としての人間のみが財産となるわけです。担保に変わるべきものは経営者個人のみです。従って、あくまでも経営者の人物、資質を見てお金を貸すかどうかを決めなければなりません。 

新しい企業の場合ですと、物的担保がないものですから、経営者の人物評価をしてそれで判断するしかないのですが、問題は、人物評価を行うに適した人が評価しているのかということです。 

評価するということは、評価をする側が評価される側よりも遥(はる)かに優(すぐ)れていなければその本質を見抜くことはできません。銀行でも担当にビジネス経験が豊富であり、さらにその人物や生き方について深い洞察力を備えた人でなければ、どうしても見当違いが起きてしまいます。 

融資が失敗に終わるか、成功するかはそれはあくまでも経営者の人物次第であり、それを見抜くためには、相手の経営者よりもはるかに優れた人物があたらなければならないはずです。融資の可否を判断する人には、一定の判断基準が必要になります。 

どういう資質を備えた経営者ならば、たとえ担保がなくても融資を行うことができるのか。その為には成功する経営者はどういう条件を満たしているのかということを知り、充分その条件を理解していなければなりません。 

成功する経営者の条件

稲盛塾長は、京都銀行七十周年記念講演の中で、成功する経営者とはどういう条件を満たしているのかを述べられました。

1. 高い専門的知識を持っている経営者でなければなりません。ある特定分野では、大企業と競合しても勝てるぐらいの高度な専門技術を持っているかどうかが問われることになります。 

その時、時間係数というものを抜きにしては、技術力の評価をしてはならないのです。日進月歩で進化している私達のビジネス社会では、新しいテクノロジーを短時間に咀嚼(そしゃく)して理解し、体得できる能力が必要不可欠です。二十年かかってようやく、ある専門技術、専門知識を身につけるというようなことでは、現在の烈しいビジネスの展開の中では使い物にならないのです。 

優れた専門技術と知識を備えていると同時に、その高い能力をどのくらい短時間に手に入れたかということも、その経営者、企業の技術力の高さを推し量る一つの尺度になっているのです。

2. 夢を持ちチャレンジする心を持ち続けていること

経営者は常に新しいことにチャレンジをしていなければなりません。決して停滞や安定を望まず、またいかなる障害があろうとも、常に新しいものに挑戦している人でなければなりません。 

更に大切なことは、成功する経営者は、その自分の夢を自分だけのものとせず、集団の夢と夢の実現に至るプロセスを、ことあるごとに社内で熱く語りかけています。 

社員のエネルギーが経営者と同じくらいに高まってくるまで、経営者が社内で語り続け、経営者の夢と情熱、そしてその具体的な経営目標が、企業内で共有されているような企業であれば、事業は成功するのです。

3. 潜在意識に透徹する強烈な思いを持ち続けていること

経営者の思いが強ければ強いほど、また深ければ深いほど、事業成功の確立が高くなってくるはずです。経営者が持つ思いで最も深いのは、二十四時間寝ても覚めても、その事業を思っているような状態です。決められた時間内で、何かいい商売はないかなあ、何とかうまいもうけ話はないかなあというようなことでは、新しい事業は絶対に成功しません。 

二十四時間考えていますと、ふとした瞬間にすばらしいアイデアを思いつくことがあるのです。 

人間の潜在意識は、我々が使っている顕在意識に比べ、はるかに大容量だそうです。成功する経営者は、潜在意識に透徹するほどの強い願望を持つことで、その助けを得て、独創的な研究開発や事業展開を行い、また困難な障害を克服し、経営目標を確実に達成していく人なのです。

4. 事業の意義、目的を明確にすること

経営者は、事業の意義、目的を明確にしていることが求められています。その経営者が“経営の目的”をどこに置いているのか、つまり新しい事業を始めたいと思ったとき、なぜその仕事をしたいのか、はっきりさせる必要があるのです。 

社会的地位やお金持ちになりたいと、私利私欲に端を発したものであるような人もおられます。経営者は、それぞれ目的がありますが、どういうところにその人が目的をおいているかということが、経営ではたいへん大事になっています。次元の高い目的意識を持っている経営者の方が成功しやすく、その成功が長続きし、会社が成長発展し続けることができるようになるからです。

5. 人間として正しい判断を下すこと

経営者は心の中に規範を持ち“原理原則に則した判断ができることが必要です。立派な会社経営をするためには、自分の都合や利益だけを考えて勝手きままに行動して良いというものではいけません。集団を正常に機能させるためには、まず経営者自身が自らの行動を律する厳しいモラル、心の中に規範を持たなければなりません。 

心の中に基準又は規範となるべき、確固たる考え方を持っていない場合には、人は本能に突き動かされて、物事を判断し、行動していくことになります。本能とは、煩悩です。煩悩とは、欲、怒り、愚痴(不平不満)です。心の中に規範となるべき考え方、哲学を持っていない場合、反射的にその本能、煩悩が頭をもたげ、“それは自分に不利だからやりたくない。それは自分にとって面白くないから嫌だ”となってしまうのです。 

これは、教養のある人、社会的に地位のある人、大企業の社長でも同じなのです。心の中に、基準となるべき考え方、哲学、フィロソフィーが無く、本能、煩悩で判断しているため、反射的にそのような反応をしてしまうのです。不正を起こした経営者が、特別に悪いことばかりをする人ではないのですが、心の中に持つべき規範を知識として持っていたかもしれませんが、本当に自分のものとしていなかった、血肉化していなかったからなのです。 

企業経営において、正しい判断を行うためには、やはり心の中に確固たる規範を持ち、それを実践するよう、日々努めていかなければなりません。 

新しいテーマに挑戦した時、過去の応用だけでは解決できない問題に遭遇します。そんな新しい事柄に遭遇するたびに、往々にしてうろたえるようなことになるのですが、かねてから物事の本質を捉えた判断をしていれば決して迷うことはありません。 

原理原則に基づく判断を習い性とした経営者は、どんな前人未踏の新しい局面に遭遇しても、また未知の世界に飛び込んでも、正しい判断を行い、見事に成功を収めることができるのです。 

この五つの条件を満たすような人物、経営者にこそ、融資をするべきであり、そういう人であれば、たとえ物的担保がなくても、融資をしてあげれば成功する確立は高いはずです。