盛和塾 読後感想文 第120号

きれいな願望を描く

私たちが何事か成そうとして必死で願い、一生懸命努力する。その願望が自分の利や欲を離れたきれいなものであれば、それは必ず実現し、また永続するものです。 

願望をかなえようと必死に努力しても、なかなか実現できず、困り抜き悩み果てている。一生懸命、きれいな願望を達成する為に努力をしていますと、解決や成就のための思いもかけないヒント、思いもよらない知恵がふとした時に啓示のごとくに沸いてくる。それはあたかも、宇宙の創造主が自分の背中を押してくれているかのように感じることがあります。 

人間のすること、思うことの理非曲直(りひきょくちょく)を神様というものは実によく見ているのです。従って成功を得る、あるいは成功を持続させるには、描く願望や情熱がきれいなものでなければなりません。 

混迷の時代に克つリーダーシップ-日本航空再建の経験から 

リーダーに求められる四つの条件

中国の古典に“一国は一人をもって興り(おこ)り、一人をもって亡ぶ”とあります。国家存亡の歴史でさえも一人のリーダーによって引き起こされてきました。 

企業経営の世界も同様です。1人のリーダーによって企業の栄枯盛衰が大きく左右されてきました。偉大なリーダーが会社を勃興(ぼっこう)させ成長発展させるかと思えば、凡庸(ぼんよう)なリーダーが会社を停滞させたり、ときに冒険的なリーダーが会社を危機に陥(おとしいれ)ることさえあります。それほどリーダーの役割は重要なのです。 

企業のリーダーとは、次のような四つのことを果す人でなければなりません。

  1. リーダーとは、その組織が何を目指すのかという“ビジョン”を高く掲げ、それを集団に指し示す人

組織をどういう方向に導いていくのかという方針を示し、また進んで行った先にどのような未来があるのかという展望を描き、さらにその実現に至る具体的な方策まで指し示し、人々を導いていくことが求められます。例えば、Muso & Co.では会計業界の中であっては、最高の会計・税務・経営コンサルティングサービスを提供し、アメリカNo.1、世界No.1を目指します。 

特に経営環境が著しく変化し、先行きが見通しにくい混迷の時代にあってはリーダーが示すビジョンが不可欠です。明確なビジョンのもと、組織に集う人たちを糾合して混迷を極める中に血路を開き、集団をまっすぐに目標へと導いて行くことがリーダーに求められている最上の役割なのです。 

多くの人々は、急激な景気の悪化など、困難な状況に直面すれば、右往左往し、当初掲げたビジョンまで見失ってしまうものです。それでは社員がついてきてくれるはずがありません。混迷の中にあろうとも、目指すべき一点を見つめ、組織を率いていく。そういう強い精神を持った人こそ、真のリーダーです。 

  1. リーダーはその組織の“ミッション”、つまり組織の使命、あるいは“大義名分”を確立し、それを組織内で共有できる人でなければなりません。 

この組織は“何のために存在するのか”“このビジョンはなんのためにあるのか”ということを明確にし、それを組織に集う人達共通のものとしていかなければならないのです。社員が心から賛同できるような“大義名分”が必要なのです。 

例えば、その使命として“全従業員の物心両面の幸せを追求し、社会の発展に貢献する”という京セラの“ミッション”があります。Muso & Co.、Northridge Homes Inc.でも同じ“ミッション”(使命)、“大義名分”を掲げています。 

  1. リーダーは、自らの人間性を高めることに努めると同時に、自らの考え方、哲学・フィロソフィーを全従業員に説き、その共有に努める人です。 

いかにすばらしい“ビジョン”(進むべき目標)や“ミッション”(使命・役割)があったとしても、まずはリーダー自身が素晴らしい人格、人間性を身につけていなければ、社員はリーダーを信頼することもなく、決して“ビジョン”や“ミッション”の実現に向けて苦労を共にしてくれるようにはならないのです。 

リーダーは“ビジョン”“ミッション”をお客様である全社員にお届けする運転手であり、それを解りやすく説明することができるようになっていなければならないのです、その為には、全社員が真剣に聞いてくれるよう、信頼されるリーダーたるべきなのです。“このリーダーなら信頼できる。このリーダーの言うことは正しい、このリーダーについていこう”と心から思えるような、すばらしい人間性を持つように努めることが必要なのです。 

ビジョンを実現し、ミッションを果たしていくためには、リーダーは“私はこうした考え方で経営していく”と全社員に説き、その考え方を共有することで、全従業員のベクトルが合い、全社全員が一つの目標に向かって一丸となれるのです。 

  1. リーダーはその組織の業務遂行、業績向上に貢献する“システム”を構築できる人です。 

経営を盤石のものとするためには、精緻(せいち)でしかも全社員が経営に参加できるような管理会計システムの構築が必要です。 

リーダーの強い思い、情熱、誰にも負けない努力、たえざる創意工夫によって、会社は成長発展していきます。しかし、会社が成長発展し、組織が拡大していきますと、経営の実態が分からなくなり、経営に行き詰ってしまうことがあります。そうならないために、会社が成長しても経営の実態がリアルタイムでわかる、きめ細やかな管理システムが必要なのです。リーダーはそのような経営管理システムの必要性を理解し、それをつくりあげることができるということもリーダーに求められているのです。 

日本航空の事業再生計画というビジョン(達成目標)を“不屈不撓の一心”で達成する 

2010年二月に稲盛塾長は日本航空の会長に就任しました。企業再生支援機構が策定した“事業再生計画”にはすでに“ビジョン”が出来上がっていました。大幅な債権カット、一万六千名の人員削減、給与の20~30%カット、国内外の路線の40%カット、大型機の退役などでした。一年目には六百四十一億円、二年目には七百五十七億円の営業利益を上げ、三年目には株式再上場を果し、企業再生支援機構からの出資金を国にお返しするというものでした。 

会長就任の挨拶で、日本航空の社員に次の言葉を紹介しました。 

新しき計画の成就は

只不屈不撓の一心にあり

さらばひたむきに只想え

気高く、強く一筋に 

“新しい計画”とは事業再生計画、

“不屈不撓の一心”とは決して折れ曲がることのない心、

“さらばひたむきに只想え、気高く強く一筋に”とは常に純粋で強い思いを抱き続ける。

再生計画の推進にあたり、必要な心構えを示しました。 

各職場にこの言葉を大書したポスターを掲示し、さらに社内報表紙に大きく掲載するなど、日本航空社員に指し示し、事業再生計画というビジョンの実現にむけたスローガンとしました。 

連日の会議でも“どんな困難があろうと、どんなに苦労しようとも、再建への道をともに歩んでいこう”と訴えたのでした。日本航空では、ビジョン、すなわち事業再生計画を何としても達成するという不退転の決意のもとに、リーダーも社員も集団の共通のものとすることができました。 

“全社員の物心両面の幸福を追求する”という“ミッション”を確立する 

全社員が心から会社再建に協力を惜しまないという気持ちになってもらうために、まずは日本航空の再建自体の持つ意義、さらに新生日本航空という会社の目的/使命、ミッションを示すこととしました。 

日本航空再建の目的は 

  1. 日本経済への影響

日本航空は日本を代表する企業です。衰退を続ける日本経済の現状を象徴する企業でした。日本航空が二次破綻すれば、日本経済はさらに深刻な影響を与えるだけでなく、国民の自信が喪失する結果になるのではないかと考えました。 

  1. 日本航空に残された社員達をどうしても救ってあげなければならない。二次破綻しようものなら、全員が職を失うことになります。 
  1. 国民のための航空業界に競争原理を維持し、運賃の高止まりやサービスの低下を防ぐ。困るのは国民です。 

日本航空再建には三つの意義が、大義があると考え、稲盛塾長は再建の任に就いたのでした。そして、日本航空の社員に、この大義を理解してもらうように努めました。社員達も日本航空の再建は単に自分達だけのものではなく、そのような大義があるのだと理解して、さらに努力を惜しまなかったのです。           

その上で、日本航空という会社は何のためにあるのかという会社の存在意義、ミッションを明確にしました。新生日本航空の経営の目的を“全社員の物心両面の幸福を追求することにある”と定めました。 

一般には企業は株主のものであり、経営の目的はその株式価値を最大にすることだと考えられています。しかし、全社員が誇りとやりがいを持って、生き生きと働けるようにすることこそが経営の根幹であり、そうすることで業績も上がり、結果として株主にも貢献できるはずです。 

“日本航空は我々の会社なのだ。そうであるならば、必死になって会社を守り、立派にしていこう”と再建を自分のこととして捉えてくれるようになりました。 

“労働組合も含め多くの社員が、何の関係もない会長が手弁当で、あそこまで頑張っているのなら、我々はそれ以上に全力を尽くそう”と思ってくれたと考えられます。 

会社の使命、ミッションを確立し、その共有を図ることを通じて、再建の主役である従業員ひとり一人のモチベーションを高めていったことが再建を成功に導いた大きな要因であったのです。 

“フィロソフィー”の共有を通じて意識改革に努める 

再生計画を達成し、全従業員の物心両面の幸福を実現していくためには、どういう考え方で仕事に向い、経営にあたらなければならないかということを、全社員が共有し、組織のベクトルを合わせなければならないのでした。 

会長就任後、経営幹部五十名を集め、一ヶ月にわたり、ほぼ毎日集中的なリーダー教育を実施しました。経営の要諦、経営の原点十二ヶ条と共にリーダーは部下から尊敬されるようなすばらしい人間性を持たなければならない、そのためには日々心を高め続けなければならないこと、人間としての生き方に至るまで、集中的に学んでもらったのです。 

“常に謙虚であれ”“地味な努力を積み重ねる”“人間として正しいことを追求する”。一見、初歩的な考え方に対して、当初は違和感を覚えていたようでした。このような“幼稚なこと”を経営幹部の方々は知っています。しかし、身についていないのです。“人間として正しいことを追求する”という最も基本的な考え方が身についていなかった為、日本航空は破綻してしまったのです。 

幹部の中には、“このような、人間として、リーダーとして、経営者としていかにあるべきかという教えをもっと早く知っておれば、日本航空はこんなことにはならなかったし、自分自身の人生も変わっていたに違いない、この考え方を部下にも伝えていきたい”と言う人も増えていきました。 

航空運輸業とは、運航や整備等、巨大な装置産業ですが、実際はお客様に喜んで搭乗して頂くことが何よりも大事なことです。“究極のサービス産業”なのです。従って現場の社員達とお客様との接点が、航空運輸業界にとって最も大切なことです。お客様が“もう一度日本航空に乗ってみたい”と思うようになっていただかなければ、お客様が増えるはずはなく、業績は向上していきません。 

お客様と接する社員一人一人がどういう考え方を持ち、どのように仕事をしなければならないかということを、現場の社員に直接語りかけるために、現場に出向いていきました。こうして、お客様に心から尽くしてくれる社員が一人、二人と増え、サービスの向上に結びついていきました。 

“アメーバ経営”をもとに日本航空版管理会計システムを構築する 

幹部から現場社員に至るまでの意識改革に努めていく一方で、航空運輸業に適応した管理会計システムを構築することに注力されました。 

当時の日本航空では、経営の数字が数ヶ月後に出てくる、しかもマクロなもので細部の分析がありません。収益に対する責任の所在も、責任体制も明確ではありませんでした。航空業界の利益はフライトから生まれるのだから、路線ごと、路便ごとの採算はどうなっているか、も一向にわかりません。 

そこで、路線ごと、路便ごとにリアルタイムに採算が解かるようなシステムを作ることがどうしても必要とわかりました。そうすることによって、会社全体の採算を向上させることができることがわかりました。 

“アメーバ経営”という管理会計システムをもとに、部門別、路線別、路便別に採算がリアルタイムで見えるような仕組みを現場の社員たちと一緒に構築することになりました。 

その結果、詳細な部門別の実績が翌月には出るようになり、全社員が自部門の実績を見て、それぞれで少しでも採算を良くしようと懸命に取り組んでくれるようになりました。まずすべてのフライトの路線別、路便別の採算が翌月にはわかるようになり、必要に応じて臨機応変に機材を変えたり、臨時便を飛ばしたりすることが現場での判断でできるようになりました。 

整備や空港カウンターなどでも、組織を小集団に分け、それぞれが経費を細かく管理できるようになりました。経費の明細を全員で共有し、“無駄はないか”“効率的な方法はないか”と経営改革に取り組めることになりました。 

この管理会計システムに基づき、算出される各部門ごとの数字をベースにして各部門、子会社のリーダーに集まってもらい、自部門の実績について発表する“業績発表会”という月例会議が始まりました。 

毎月二日間~三日間にわたって朝から夕方まで開かれる“業績発表会”では、部門別、科目別に実績予定が記された膨大な資料をもとに、例えそれが小さな項目でも、旅費交通費や光熱費などの経費項目であっても徹底して議論するようにしていきます。 

そのような会議を続けるうちに、数字で経営することが当たり前になり、現在ではそれぞれの部長がいかに経営の改善に努めてきたか、これからどうして採算を高めていくのか、経営者としての思いを数字に込めて発表できるようになりました。 

このような取り組みの中、全社員がそれぞれの立場で、懸命に業績向上に向け努力を重ねてくれ、初年度では千八百億円、二年目には二千億円を超える営業利益をあげることができました。一般に航空運輸業界は、きわめて収益性の低い事業であり、世界平均で売上高利益率は1%程度です。日本航空の売上高利益率17%は驚異的とでも言うべき実績でした。 

日本航空再建には、金融機関からの支援、政府からの支援等、多くの方々からの協力を得ながら達成することができました。しかし、その最大の要因は、全社員が日本航空の再建を心から願い、それぞれの職場で懸命な努力を重ねてくれたことに尽きます。 

リーダーの不屈不撓の精神が日本経済を復活させる 

多くの社員を預かるリーダーはその責任の重さを自覚し、目標、ビジョンを高く掲げ、外部環境の変化を決して言い訳にせず、その達成に向けて不屈不撓の精神を持って集団を率いていかなければなりません。そのようなリーダーが排出すれば、低迷する日本経済も必ず復活すると思われます。