盛和塾 読後感想文 第154号

鉄火場を踏ませる

本当は怖がりでビビリで、しかしセンスがあり人間性も大人しくて非常に真面目な、そういう人に仕事の場を通じて場を踏ませる。難問題に挑戦する機会を与えることを通じて自信をつけさせる、 度胸をつけさせることが大切です。 

ビジネスにおける鉄火場というのは仕事の場です。仕事の上でデシジョンさせる、経験をさせるのですが、ともすると妥協して逃げてきます。 

“お前は前へ行く勇気がないから、 相手と仕事をしていても逃げてくるんだ” 

こうした場数を多く経験した人が“鉄火場を踏んだ” と言います。多くの場数を踏みますと、度胸がついてきます。鉄火場=難しい仕事場なのです。おとなしい、非常に人間的で優しい心を持った人に場を踏ませる、つまり経験を積ませることによって真の度胸がつきます。 そして立派な仕事ができる人になります。 

事業拡大の二つの鍵ー管理会計システムと人材育成 

盛和塾の役割について 

  1. 盛和塾を始めた動機

現在の世の中で一番立派な方というのは、中小企業の経営者だと思います。 この世知辛い世相の中で、大きい会社では数百人の人たちを、小さい会社でも三人でも四人でも雇用をして養っているということは立派なことです。 

大学教授や政治家の中にはいつも偉そうなことを言ってる人がいますが、新しいものは生み出していませんし、従業員の生活を守っていくことも行なっていません。特に不景気の中で従業員を雇い、その家族も含めて生活を維持している中小企業の経営者は、大変立派だと思います。 

なかんずく世相が荒れてきますと、三人でも四人でも従業員を雇っている中小企業の経営者がどういう人柄なのかによって、世の中、社会が大きく影響されます。住みやすく平和で潤いのある社会であるかどうかは、その社会に住んでいるそれぞれのリーダーの人たちの人柄によって決まってくると言っても過言ではありません。  

つまり中小企業の経営者が素晴らしい人生を送るということが、その社員の人たちが幸せに生きることにもつながっているのです。稲盛塾長は社会が混迷すればするほど、全国の中小企業の経営者が立派に素晴らしい経営ができるように指導してあげたいと考えています。 そしてこうした盛和塾の活動が続いているわけです。 

本当なら会社の仕事もありますから“こんなことをして一体何になるんだ”と否定的な見方をする人がいるかもしれません。あるいは“こんなことをして全国を渡り歩いておられるのは、 全国に自分のファンを作って、 今に政治家になろうと思っておられるのじゃありませんか” と言われる人もいます。 

そうではなく、経営者の方を一人助けてあげると、その人がもし十人の従業員を雇用しているとすれば、十人の社員を助けてあげることになります。稲盛塾長は、そのように経営者の皆さんを助けてあげて、その方々にさらに立派になっていただくこと、“世直し”と考えています。 

人気取りではなく、皆さんによかれかしという純粋な思いから始めた活動ですから、経営者の方々にストレートに忠告したり、素直に教えてあげたりすることができるのです。 

  1. 経営の秘訣を伝えたい

京セラは資本金三百万円、借入金一千万円でスタートしました。稲盛塾長は一銭も出資していません。四十年経過したところで、京セラは国内一万三千人、海外一万三千人、合計二万六千人の従業員を擁するまでになりました。連結ベースの売上では約四千三百億円、税引前利益は約七百億円です。 

京セラのように、経営の秘訣さえわかれば誰でも成し遂げられるのです。稲盛塾長は、その経営の秘訣を皆さんに伝授していきたいと考えています。 

十年ほど前に第二電電という会社を作りました。第二電電の今期の売上は約三千二百億円、税引前利益が約四百三十億円です。 タイトーグループは連結ベースで売上が約一千億円、税引前利益は八十五億円です。京セラグループ全体で見ますと、売上高約八千五百億円、税引前利益が約千二百三十億円になります。 

京セラグループは製造メーカーとして小さな部品を全部一個一個製造しています。製造メーカーとして一兆円に近い売上を達成するのは、容易ではありません。京セラの製造の中で、電子部品ですと、単価が何円何銭です。中には一個一円にも満たない部品、一個何十銭という部品もあります。そういうものが積み重なって売上が八千五百億円です。さらには税引前利益が約千二百三十億円ですから、メーカーとしては大変大きな利益が上げられる会社になってきました。 

稲盛塾長は、塾生の経営者も勉強されて、京セラグループに匹敵するような会社をぜひ作って下さいと言いたいのです。 

事業拡大のチャンスを生かす二つのカギ 

  1. 採算を追求する管理会計システムを確立する

先ほど飲食店の経営をされている塾生がいました。昔と比べて今ではレストランを経営するにしても、考えられないくらい安いレンタル料で、また少ない保証金で店舗を借りることができる。“今十三店舗を経営しているけれども、この機会に拡大してみようかと悩んでいます”という話がありました。 

この不況の中で大変困っている方もおられます。逆に上記のようにチャンスではないかという方もおられます。今回の不況は非常に跛行性(はこうせい)があります。企業間でも良い業種と悪い業種があり、業種間でも良いところと悪いところがありますので、必ずしも全部が同じようにダメだということではありません。 

同時にこの不況はまだまだ続きます。安心できません。ですから“もうちょっと頑張ればなんとかなるのではないか”と思って無理をしていくと、とんでもないことになります。倒産することにもなりかねません。今は息を止めて水の中に潜っている。“あそこまでいったらもう大丈夫だ”思っていくと、そこまで行ってもまだ上へ上がれません。 息が続かなくなってガバガバと水を飲まないといけなくなります。“すぐに景気が良くなるのではないか”というつもりでいたのではいけません。 

へたをしますと、現在のゼロ成長という時代が恒常化していくと考えられます。 もう二度と右肩上がりで成長し、誰でも商売がうまくいくという時代ではなくなり、伸びる企業と伸びない企業がはっきりする、それはまさに経営力によって決まってきます。こうして自分から進んで一生懸命勉強して、自分の経営を良くしていこうと努力をしておられる経営者と、そうでない経営者との違いが出てくる時代になっていくかもしれません。是非慎重な経営を続けていくことお願いします。 

先ほどの飲食店の話です。 確かに今はチャンスですが、ここで気をつけていただきたいのは、今経営している十三店舗のレストランが、一店舗ずつの独立採算でビシッと損益計算書が出てくるようになっているかどうかということです。 

例えば京セラグループは、全世界にまたがって約八千五百億円の売上を上げ、 税引前利益が千二百三十億円という規模になっていますが、グループのどの企業も、月末で締めた時の経営状態が翌月の最初の一週間に全部損益計算書として出てくるようになっています。 各企業は全体のグロスの数字にとどまらず、部門ごと、事業部ごとに全部採算が分かれて出てくるような仕組みになっています。 

飲食店の場合、例えばA店、B店、C店とその店舗ごとに採算を出すようにします。同じように、卸売雑貨の場合には、例えば陶器部門、衣料品部門、呉服部門というように、種類ごとに分けます。たとえ小さな業種であっても、取り扱いや販売ルートが違う場合には、それを全て部門別に分けるのです。それぞれの事業の売上と、それに伴って発生する企業部門別に細かく見ていくのです。 

零細企業の場合、 経理が分かっていないため、税理士や会計士事務所に依頼して月次決算書を作成してもらうことがよくあります。月次決算書を作成してもらっても“売上が少し上がってきました。利益も順調ですよ”と言われて“ああそうですか”と返事をして終わりです。 

しかし経営者としては、全部はできないにしても、せめて税理士や会計士が分析するのと同じことが自分でもできるほどの知識がなければ、経営のうちに入らないのです。そういう人に限って事業を拡張しようとします。ところが経営が何かわかっていないので、必ずつぶれます。 

そうならないようにするためには、部門ごとに売上が立つような仕組みを作らなければなりません。飲食店の場合、 A 店であればA店の、その月の売上つまり一日から月末の日までの売上が全部上がってくるようにします。それに伴って使った材料費、レント代、水道光熱費、人件費、といった様々な雑費が含まれます。本店から各店舗に投下した資金についても、社内金利を定めて、全て経費として計上します。内装費も減価償却費として月割で経費計上します 。こうして一か月間でかかった経費を勘定科目ごとに全部列挙して、総売上から引くようにすれば、部門別の採算がわかるようになります。 

“売上を最大に経費を最小に”“入るを量って出ずるを制する”利益は後からついてきます。 飲食店の場合、A店の売上を最大限に伸ばすためには、食事が美味しいことが重要です。 と同時に一番大事なことは従業員の躾(しつけ)だと思います。 お客さんに対する笑顔が何よりも大切です。お客さんが喜んでくれるかどうかは従業員の躾(しつけ)、教育によって決まります。

 “ 値決めは経営なり”。例えば A店舗で売上がどんなに増えても、原価が非常に高いという場合は大きな問題です。 飲食店の場合、材料費は最大でも三十%で、 それ以下に抑えなくてはなりません。例えば材料を百円で仕入れて三百円で売れば、売上総利益率、粗利益率は三十三%です。もし材料費を五十円で仕入れることができますと、売上は百五十円で同じ粗利益率は確保できます。 仕入について努力もせずに百円で仕入れて、競争相手が百五十円で売っているからといって百五十円で売ればたった五十円の儲けにしかなりません。これではつぶれてしまいます。材料費が売値の五割を占めるわけですから、採算が合いません。 

飲食店の場合であれば、売値に対してその三割以下で仕入れが出来るような値決めをして、一生懸命売れるように努力するのです。質を落とすわけにはいかないのですが、材料費はなるべく安くすれば良いわけです。あとは経費、人件費をなるべく安く抑えるようにします。  

そうして一か月採算を追求した結果、その月の売上から経費を全部引いた残りが利益になります。それも全部自分で計算して出すのです。管理会計システムです。そして大切なことは、店長にその責任を担ってもらうのです。 

  1. 事業を任せられる人材を育成する

飲食店の経営の場合、十三店舗それぞれ採算が異なります。立地条件や店長の資質にも左右されますから、千差万別です。例えば全店舗のうち半分は黒字、半分は赤字かもしれません。なぜあの店は赤字なのか、その原因を分析する必要があります。 

大切なことは、そうした管理会計システムを身につけていると同時に、経営トップである経営者とあうんの呼吸でピタッと合う、上司と部下の関係であることです。人間性もよく理解しており、経営者が信頼することができる、また尊敬している店長クラスの人材を何人養成しているかです。 

店舗となる物件は、資金さえあれば借りることもできます。買うこともできます。しかし人材だけは借りることはできません。事業を展開していく上では、資金や店舗があるからチャンスなのではありません。大事なことは、人材がいるかいないかです。人さえいれば事業を展開できます。“こいつを店長にすれば、八人の部下をまとめて一つの店を任せられる”という人材がいたら、間違いなくチャンスです。 

事業というのは、資金や店舗となる物件があるから展開するのではありません。人がいるから展開できるのです。京セラグループ売上約八千億円の原動力となったのは、全部と言っていいぐらい人材です。資金的な余裕があるから、専門的な技術があるから、何か新しい事業をやろうというのではないのです。例えば一緒に仕事をしていく中で、非常に優秀な人材だ、この男だったら仕事を任せられる、と思えばその男に賭けて事業に乗り出して行きます。 

だからまずもって、事業は人です。現在の会社を経営できているのは、それだけの人をもっているからです。更に事業拡大をしようとするなら、それに合った人材がいるかどうかが特に大切です。そうであるならば、経営者は社内で人づくりに努めなければならないのです。 

“人づくりをするといっても、社内には人材がありません”と言われますが、大体小さな会社に優秀な人材が来るわけがないのですから、その会社に合った人材しか集まらないのですから、問題はそれ程優秀でない人をどれだけ立派に育てるかです。 

将棋で言えば歩を金にするようなものです。はじめは歩であっても、敵陣の中に入って成金になって金となるのです。仕事で敵陣に入って戦う苦労をさせる、つまり修行させるわけです。トップと共に従業員も一緒になって苦労して研鑽を積むことで、立派な経営者に育っていくのです。 

京セラは八人でスタートします。新生中学卒業者二十名が加わります。その次には十名の高卒者が入社します。三年目になってやっと大卒の採用がありました。大学にしても名ばかりで、有名大学の卒業者が来てくれたのではありません。 

その会社にはその会社の器に見合った人しか来ないのです。“うちには人材がいないから” と言っていたのでは、前へ進めません。自分の会社には、自分の会社の器にあったような人しか来ませんし、来てもくれません。その人たちを経営者と従業員は一体となって、本当に芋の子を洗うようにして研鑽を積ませていき、“金の人材”にするのです。 

中小企業にはそれに見合った人材しか来てくれないのですから、経営者が投げやりなことを言っていたのでは、京セラのような規模の会社には成長することなどないのです。初めはその会社の規模に応じた人しか来ませんし、またトップの器にあった人しか来ないのですから、そういう人材を有難いと思わなければなりません。その人しか得られないのですから、一緒になって努力をすることが大切です。 

社員・経営者が一緒になって努力を積み重ねることで、その人は素晴らしい能力を発揮するようになっていくのです。ゆめゆめ“うちの会社はろくな社員しかいないから”と言ってはなりません。それは経営者にとって一番の禁句です。経営者であるあなたが頼りないから、その器に合ったような頼りない人しか集まってこないのであって、自分を棚に上げて部下をバカにしたのでは、自分のことをバカにするのと同じです。 

飲食店の話に戻ります。事業拡大のカギは人です。店舗を任せられるような人が育っていれば、絶対に事業拡大のチャンスです。“バブルの時代と比べて高かった物件が安くなったからチャンス”というのは間違っています。安くなった現在が正常なのです。現在の安い価格で推移したら、何もチャンスではないのです。 

重要なことは、人材を育成すること、精緻な管理会計システムの仕組みをビシッと作るということです。