盛和塾 読後感想文 第六十四号

公明正大に利益を追求する

会社は利益を上げなければ成り立ちません。自由市場において競争で決まる価格は正しい価格であり、その価格での商売をして得られる利益は正当な利益です。厳しい価格競争のなかで、合理化を進め、付加価値を高めていく努力が利益を生みます。 

お客様の求めに応じて堂々と努力を積み上げることをせずに、投機の不正で暴利を貪り、一獲千金を夢見るような経営がまかり通る世の中ですが、公明正大に事業を行い、継続して正しい利益を追求し、社会に貢献することが大切です。 

長きにわたり正しい利益を追求し、お客様の要求に応え、従業員の生活を守り、仕入先と共に商売を続ける、あるいは社会の為に尽すのは、公明正大な商いなのです。また、その利益は、社会が会社の存在価値を認めた証拠でもあるのです。利益を上げない社会に役立たない会社は淘汰されて生き伸びることができません。 

美しい決算書 京セラの決算書に見る会計のあり方

公認会計士の永津洋之さんが京セラの決算書を分析しました。会計の原理原則 - 塾長著書“実学 - 経営と会計”の中で、塾長は次のように述べています。“原理原則に則って物事の本質を追求して、人間として何が正しいかで判断する”。会計の世界にも、原理原則があります。原理原則を踏まえた経営を行わなければ、企業は長期的・継続的に成長・発展することはできません。 

会計の面で時代に左右されない揺るがない原理原則の一つに“キャッシュベース経営の原則”があります。資本金として出資されたキャッシュがどのように使われたか、売上でいくら入金があったのか、手許にはその結果としていくらのキャッシュがあるのか、そのキャッシュが増えていくことが自己資本の増加になり、新たな事業展開の元手となっていきます。 

経営者は、新しい事業への投資、次の成長へのステップを登ろうとしますと、必要に応じて使える資金が必要となります。自己資本の充実、内部留保を厚くする以外に、資本の源泉はないのです。 

筋肉質経営を支える3つの柱

京セラ会計学が京セラの財務諸表に反映されています。 

  1. 減価償却(物理的・経済的耐用年数)

京セラでは機械設備の減価償却は必ずしも税法規定の耐用年数を採用してはいません。物理的に見て、経済的に見て、耐用年数を決めているのです。税法規定では耐用年数が3年となっていたとしても、物理的に1年しかもたない機械設備は、その年に全額償却します。また、2年しか使えない(注文が3年も続けてない場合)、たとえ物理的に5年もったとしても、2年で償却します。 

多くの会社では、会計慣行や事務処理の簡略化のために税法の耐用年数を採用しています。 

  1. セラミック石ころ論

仕入れた品物、製造された製品の中には、売れ残るものが多かれ少なかれ発生します。今後も売れる見込みのないものまで棚卸資産として何度も棚卸されているケースもあります。 

棚卸は、本来経営者が自分の目で見て、自分の手で触れて行うべきものです。経営者は棚卸現場で、処分するべき滞留資産を決定していく必要があるのです。過剰、滞留、陳腐化した棚卸資産には、京セラでは特に注意しています。 

  1. 棚卸評価(売価還元原価法)

京セラでは、棚卸資産の評価方法として売価還元原価法を採用しています。棚卸資産の評価価額 = 予想売価 - 一般管理販売費 – 目標利益、すなわち正味実現可能価額で評価しています。

通常は材料費、労務費、製造間接費、すなわち製造原価を評価額としています。従ってこの製造原価方式では、市場とは全く関連していないもので、売って見なければ本当の価値はわからないというものです。 

売価還元法の基本的な考え方は、

“資産というものは、利益に貢献するものであり、利益に貢献しないものは資産として計上すべきではない”ということです。 

高いレベルの筋肉質経営を京セラの決算書に見る 

京セラ連結財務諸表指標(US GAP)

  3月31日
  2009 2010 2011 2012 2013 2014
売上高(百万円)     725,326     818,626  1,285,053  1,034,574  1,069,770  1,140,814
売上高増減額(%) - 12.00% 58.10% -19.50% 3.40% 6.60%
売上高総利益率(%) 25.80% 27.90% 30.90% 23.10% 25.60% 24.60%
売上高廃管費比率(%) 18.10% 16.60% 14.80% 18.10% 17.80% 15.00%
税引前営業利益率(%) 7.70% 11.30% 16.10% 5.00% 8.70% 9.60%

売上高を見ますと、2009年の7千200億円、2010年8千100億円(12%増)、2011年1兆2千800億円(58%増)となっており、総利益率も2009年25.8%、2010年27.9%、2011年30.9%と売上が上昇しています。固定費の上昇を抑えた結果、売上増と同じ率で売上原価は上昇していません。売上高販管費は2009年18.1%、2010年16.6%、2011年14.8%と売上増加率上昇とともない、下って来ています。これも販管費の固定費の上昇を抑えた結果です。税引前営業利益率は売上増にともない2009年7.7%、2010年11.3%、2011年16.1%と驚異的に上昇しています。 

これは、できるだけ固定費の上昇を抑える方針の結果と売上を最大に経費を最小にするという経営の原点12ヶ条の第5を実践した結果だと言えます。 

しかし売上高は2012年1兆3百億円(19.5%減)。2013年は1兆7百億円(3.4%減)、2014年1兆14140億円(6.6%増)と微増となっています。売上高純利益率は2012年23.1%、2013年25.6%、2014年24.6%、売上原価の中の固定費増を吸収できなかったと言えます。しかし販管費比率を見ますと、2012年18.1%、2013年17.1%と上昇しましたが、2014年には15.0%と大幅に減少しています。税引前営業利益率では2012年5.00%、2013年8.7%、2014年9.6%と、販管費を抑えて、上昇しているのです。

これはおそらく、販管費の中で大きな比重を占めるであろう人件費削減の為に人事異動をして、固定費増を抑えた為だと思われます。 

京セラ・経営会計原則とアメーバ経営の結果が上記の数字としてあらわれているのです。

 一対一対応の原則

完璧主義の原則

ダブルチェックの原則

採算向上の原則

ガラス張り経営の原則

保守主義の原則 

 

頭で理解しても、なかなか実践することはできないのですが、経営と会計の原理原則、これを徹底して実践する、やり続けることが不可欠なのです。 

美しい決算書

京セラの決算書を読みとっていきますと、保守主義の原則がいたる処で発揮されています。資産サイドでは、不良在庫、滞留在庫、陳腐化した在庫の削減、売価還元法による実現可能価額の評価、物理的・経済的耐用年数による設備機械の減価償却、投資損失引当金計上、負債のサイドでは返済損失引当金、製品保証引当金、借入金を極力抑える、その結果、自己資本率を80%にまで高めています。 

大規模な企業となった京セラですが、会計処理、方針の選択には原理原則、厳しい会計に対する思い・哲学が反映されて浸透し、貫かれていること、更に利益をコツコツと積み上げ、自己資本充実に努めているのです。このような観点から京セラの決算書は美しいのです。 

“京セラでは会計学とアメーバ経営と呼ばれる小集団独立採算制度による経営管理システムが、両輪として経営管理の根幹をなしている。それは京セラの経営哲学という基盤の上に会計学とアメーバ経営という2本の柱によって支えられている家にもたとえられる”と塾長は“実学”の中で述べています。

 

編集後記

塾長は2007年2月15日の全国世話人会での講話の中で、盛和塾を“実践型経営塾”とすべく、企業経営のレベルに応じた経営者のあり方ということを語られました。 

すなわち人を見て法を説くという発達段階に応じた教えについて話されました。 

  1. ただ必死に働くことを通して経営を知る発達段階
  2. 人の使い方に悩むレベルで、先人先賢の言葉を使い“惚れさせなければ本物の経営者ではない”という発達段階
  3. 会社の意義・目的を明確にし、数値目標をしっかり掲げるレベルの発達段階
  4. 損益に悩む段階で、損益計算書の見方を知り、損益計算書が実際の経営を語り掛けてくるまで、売上最大、経費最小を徹底するという発達段階 

企業の規模や発達段階によって経営の勉強は力点に違いがあります。まず共通して大事なことは、フィロソフィーと述べられています。その為には盛和塾機関紙のバックナンバーを繰り返し繰り返し読む中で、“気づき”が生まれ、その繰り返しが“気づき”を本物にする、実践するレベルに達します。企業永続のカギは愚直さとクソ真面目にあります。 

塾長は絶えず人の為、世の為を考えて、語り、行動しています。相手の人(従業員かも、お客様かもしれません)がどういう人かによって、語る言葉を選んでいると思われます。仏様があらゆる人の人生コンサルタントになれたのは、絶えず相手の考え、立場を考えておられたからだと思います。 

矢崎勝彦さんの編集後記です。

盛和塾 読後感想文 第六十三号

ものごとをシンプルにとらえる

ものごとの本質をとらえるためには、実は曖昧な現象をシンプルにとらえなおすことが必要なのです。事象は単純にすればするほど本来の姿、すなわち真理に近づいていきます。 

一見複雑に見える経営も、つきつめてみれば“売上を極大に、経費は極小に”という単純な原則に尽きるのです。京セラの“時間当り採算制度”もこの単純化してものごとをとらえるという考え方をベースにしています。 

単純化しますと、誰もが理解することができます。そこから、実践することができるようになります。いかにして複雑なものをシンプル化してとらえなおすかという考え方や発想が大切なのです。 

会計“能力”を高める 

経営者としての“能力”を高める

人生と仕事の結果を決める三つのファクターとして、考え方 x 熱意x能力があります。能力は持って生まれてきたものなので、人それぞれ違います。人間に与えられた能力は変えることはできないのですが、能力にはいろいろな分野があり、ひとり一人がユニークな能力を持って生まれて来ているといえます。 

ある仕事をする時、自分には十分な能力があると自信を持って優秀だと思っている人もありますが、いや自分には大した能力はないが、“誰にも負けない努力”を払う熱意を持っている。熱意でもって能力の差を埋めることができるのです。 

考え方と熱意で全力疾走した京セラは自分たちの持っている能力、技術は決して優れたものではないと自覚していました。自分たちの取り柄は熱意しかないのだと思った京セラの経営者、従業員は、朝から晩まで必死に働きました。 

マラソンに例えれば、京セラが競争している相手は、京セラのはるか先を走っている人たちでした。そのマラソンレースに無名の能力のないランナー京セラが参加したのです。自分の調子に合せて走っていたのでは勝負にならない。100メートル競走と同じスピードで走り続けようではないかと考えたのでした。 

無謀にも近い情熱と努力で走り始めたのでした。そのように走っていくうちに、次第に慣れてくるのです。例えば工場の中で動き回る際にも、駆け足で次の課に行くという具合です。100メートルダッシュのスピードを維持しながら長丁場を走ることが可能になり、こんにちの京セラを作ってきたわけです。 

考え方では、良い考え方と悪い考え方があります。良い考え方はプラス、悪い考え方はマイナスです。自分の能力と熱意により頑張ってきた仕事も、良い考え方をしなければプラスにはなりません。良い考え方とは、事業の目的・意義を明確にし、大義名分のある誰もが同意する哲学のことです。良い考え方は周囲の人、お客様、社会から受け入れられます。能力もたいしたことはないが、熱意があり、良い考え方がある場合は、すばらしい結果を生みだすことになります。 

考え方がいい加減なものであった時は、その差は大きく広がっていきます。事業経営であれば、その差が会社の成長にそのまま現れ、素晴しい立派な会社、平均的な会社、消滅していく会社という大きな差になっていくのです。 

経営者が自社の会計システムの有効な使い方を知り、実践しているかどうかが大きな格差をつくります。立派な考え方があり、誰にも負けない熱意がある経営者が、会計システムの有効な使い方を知り、事業経営に役立てるようにすることが必要なのです。“会計が分からんで経営ができるか”ということなのです。 

経営トップが経理・会計というものを十分に理解し、それを分析する知識がなければ、会社というものは決して立派になりません。 

  1. 一対一対応の原則 

モノ、お金の動きと会計処理(伝票)は一致させる

月次決算を見てみますと、今月はマイナスでしたが、翌月は急に利益があがったということがあると思います。これは、一対一対応ができていない証拠なのです。売上は毎月同じレベルなのに、利益は毎月大巾に変動することはないはずなのです。 

利益変動の原因はモノと伝票の不一致によるものなのです

品物の仕入があり、倉庫に入庫しましたが、仕入書類が届いていない為、仕入の計上ができていない場合があります。お客様からは、早く納入するように催促され、仕入計上はしていないが売上が計上されます。そうしますと、売上原価はゼロで売上は計上されます。大きな利益が計上されます。

翌月仕入計上がされ、売上原価が発生します。しかし売上は先月計上されていますから、売上計上はありません。大きな損失が発生します。 

仕入書類がまだ届いていないが、品物が入庫・検品された時はどう会計処理するか、経営者、経理担当者は知っておく必要があるのです。 

(借方)棚卸資産 100,000 (貸方)買掛金 100,000

    (発注書をもとに仮計上)

(借方)仕入諸掛り 5,000 (貸方)買掛金 5,000

    (仕入諸掛り 見積もり5%) 

このように品物が売られた時には会計処理(売上伝票)もついていく、また品物を買った時には、会計処理(仕入伝票)がついていく、経理の基本が抜けてはならないのです。これを発生主義会計といい、現金主義会計ではない考え方なのです。現金主義会計では実際に売上入金、仕入支払いが起こらない限り、会計記帳はしないのです。 

意図的な経理操作を防止することが大切です。

出張仮払いには担当部署の職員が仮払い申請書を作成し、担当部署の課長の承認を得、経理へ提出し、経理の許可をもらって、現金を受け取り、出張します。出張した後は、直ちに出張精算をします。 

ところが社長は経理に行き、仮払い申請書も作成せず、直接現金を受け取ることがあります。出張後も精算せず、精算処理が何か月も放置されます。部長も課長も社長と同じことをするようになってきます。 

これも一対一対応の原則を無視した例です。経営者が一対一対応の原則を守らなければ、社員も同様なことをするわけです。 

商社の場合は、売上の貸し借りをすることがあります。今月は1億円売上が足りない、長年のお客様に電話で“申し訳ない、今月売上が1億円足りないので、こちらで売上を今月計上させて下さい、来月には返品処理をしますから”と依頼します。品物は届けませんし、返品もありませんが、会計処理(売上伝票、返品伝票)はなされるのです。これも一対一対応の原則を無視した、経理操作が行われる例です。 

しかし来月も売上目標が達成出来ず、ますます深みにはまり、粉飾決算になってしまうのです。 

納品伝票がない為に売掛金の回収ができない

お客様から電話があり、すぐに部品を持ってくる様依頼されることがあります。セールスの人は倉庫に行き、倉庫の担当者にお客様の要望を伝え、部品倉庫の棚の部品を自分の車に乗せ、お客様に届けました。この時、発注伝票、納品伝票も作成していないのです。 

一か月後、売掛金の回収に行きました処、お客様の仕入部買掛担当の職員は、“お宅の方からの仕入れの記録がありません。何かの間違いでしょう”と支払いを断られます。何月何日に研究所のAさんに部品をお届けしたのですが、Aさんも忙しさにまぎれて、記憶にありません。こうしたことは一対一対応の原則を守っていない為に発生するのです。 

納品伝票は必ず発行して受領印を必ずいたたくことが必要なのです。面倒なことですが、こちらから納品書を持って行き、お客様から受領書にサインをいただければ、お客様の方では買掛金に計上され、こちら側では売掛金に計上されます。

すなわち、品物がお客様へ届けられた時は、お客様では会計処理(仕入伝票)がなされ、こちら側では会計処理(売上伝票)がなされなければなりません。 

売掛金回収、買掛金支払処理にも一対一対応の原則

お客様への売掛金で今月は5千万円の回収予定です。その内訳は請求書A、B、C、Dの合計額です。ところがお客様の資金繰り上、とりあえず3千万円入金されました。売掛金を回収してきたセールスマンは、どの請求書が回収されたのかわからないのです。とりあえず3千万円もらって満足しているのです。 

この3千万円は請求書A、B、C、Dのどれの回収かはっきりさせておく必要があるのです。コンピューターシステムの売掛金のプログラム上、一つ一つの請求書毎に3千万円を当てはめていく必要があるのです。こうしたことが発生しますと、売掛金担当の営業部の職員や経理経理職員に、余計な仕事をさせることになると同時に、お客様との関係にも悪影響を起こします。従ってセールスマンは一対一対応の原則に基づき、お客様にこの3千万円はどの請求その支払いなのか、はっきりさせておくことが必要なのです。 

お客様の仕入部門、買掛担当/経理担当も、どの請求書が支払われ、合計3千万円と明確にとらえていないのです。お客様も一対一対応の原則を守っていないのです。 

この一対一対応の原則は経営者自身が社内に伝え、管理していかなければならないのです。トップ自身が率先重範し、その姿勢を示し続けることが必要です。 

  1. 筋肉質の経営に徹する 

不要な在庫を処分する

製造メーカーの場合、棚卸資産として、原材料、製品、梱包材があります。これらの在庫を十分に管理していくのは経営トップの仕事です。営業、倉庫、製造部門に在庫管理を委ねていますと在庫は水膨れしていきます。 

在庫の水膨れは、在庫が増加するだけではなく、在庫となっているものの中には商品価値のないものもあります。また、在庫管理が不十分である場合、原材料の在庫が不足し、緊急に仕入をしないと、製造に支障をきたすことがよくあります。緊急に購入しますと、仕入価格も高く、運賃も高く、高価な仕入れになることがよくあります。 

また、お客様からの注文が100個ですが、150個製造したほうが製造コストが下り、原材料仕入単価も安くなるということもあります。ところがお客様から50個の追加注文がないかも知れません。そうしますと、50個分は滞留在庫として残り、商品価値がなくなることにもなります。こうした場合は50個分の棚卸資産評価はゼロとすべきです。滞留在庫の評価はあくまで正味実現可能価額を見積って評価計上すべきなのです。すなわち、売値見込額 - 一般管理販売費 - 目標利益 = 棚卸評価額とすべきなのです。 

リーダー自身が在庫の管理を徹底的に行う、不要なものは処分して行かなければならないのです。 

在庫管理の考え方は、固定資産の管理にも適用できます。不要な、使い道のない固定資産は処分していくことが必要です。使い道のない固定資産は場所もとりますし、工場の清掃作業の妨げになります。 

固定資産は経済耐用年数で

設備投資の減価償却はどの企業も税法に定められた耐用年数で償却するのが普通です。例えば金型は3年償却という具合です。お客様は同じ金型を使って3年間注文をしていただけるという前提なのです。ところが、異なった目的で、異なった製品を作る為の金型は、摩耗がはげしく3年も使用することは出来ないことがあります。1年しか使えない場合もあります。お客様からの注文が1回限りということもあるのです。ですから金型は、1年後には無価値の役立たない固定資産となります。そうした金型は1年で償却、または経費処理をしなくてはならないのです。 

ですから設備は経済的耐用年数で償却することが正しい会計処理になるわけです。 

当座買いを徹底する

原材料は荷造り梱包材の在庫はできるだけ持たないようにするのです。大量に仕入れますと、単価を安くしてもらえるので、1か月使用する原材料をその3倍の3か月分の仕入をするようなことがあります、まとめ買いをすることがあります。

お客様からの発注が3か月分確実にあるという保障はないのです。そうした場合のリスクを考えて、原材料はたとえ仕入価格が10%高くても1か月分だけ仕入れるようにする。まとめ買いはしないのです。 

必要なものは必要なときに当座買いをするという当座買いの原則を守ることが大切です。 

当座買いには、次のようなメリットがあるのです。

1)      長期滞留在庫を削減する

2)      余分の原材料を買わない為、原材料を一つずつ丁寧に使い、乱雑に取り扱わなくなります。原材料の消費を節約します。

3)      在庫が削減されますと、仕入費用や倉庫のスペース節減、保管費用が少なくなる、また月末の実施棚卸もより簡単になります。 

売掛金・買掛金を減らす

売掛金の回収は出来るだけ早くするように努力が必要です。営業はモノを売るだけではなく、売掛金の回収にも責任があるのです。売掛金の分は銀行から借り入れを積んでいますから、銀行に支払い金利が発生します。売掛金残高が膨らむと、支払い金利も大きくなります。 

買掛金も同じくなるべく早く支払うようにして、買掛金も減らしていく。買掛金が増えていけば、金利のかからない手持ちの資金が増えることになりますから、良いと考えられています。しかし買掛金の残高が増え、資金が増えますと、経営者は自分の会社の手持ち資金が増加したと勘違いします。また、買掛金の支払いを早くすることによって、仕入値を下げてもらえることがあります。 

投機をしない

投機はしません。額に汗して稼いだものしか利益としない。苦労せずに手に収めたものは利益ではないのです。ですから、株式などの投機的なことは一切しません。 

  1. 完璧主義の原則 

製造工程の途中でちょっとしたミスをすれば、その製品すべて不良品になってしまいます。管理部門、営業部門ではコンピューターや紙で仕事を処理していきますが、若干数字が間違っても指摘されればコンピューターの画面で訂正、または消しゴムで消し訂正することができます。そういう簡単に訂正できるようなミスを日常的に見過していたのでは、経営はできないのです。 

レストランでも出したお料理が、味がおかしかったり、塩からかったりしましたら、お客様から苦情が出て、やり直しになります。それは信用をなくすことになり、二度とそのお客様は来てくれなくなります。そのお客様は友人にまずい料理を出されたことを話します。1人のお客様を失えば10人のお客様を失うと考えるべきなのです。 

経理も営業も、モノ作りと同じように、ちょっとしたミスで全部がパアになってしまうのだという意識を持たなければなりません。つまり、完璧主義を貫いてもらうのです。常に有意注意で真剣に数字を見る習慣がついていますと、書類を見た時、すぐにおかしい、間違った数字がわかるのです。 

  1. ダブルチェックの原則

すべてのものはダブルチェックしなければなりません。ダブルチェックは経理のみならず、会社の中の人と組織の健全性を守る“保護メカニズム”です。 

ダブルチェックをすれば、会社の業績向上に貢献するだけではなく、人を罪に陥れるようなこともなくなるのです。これは、人に罪をつくらせないシステムなのです。 

入出金の場合、お金を扱う人と帳簿をつける人は別々の人にします。毎週、現金残高と帳簿残高を照合します。2人でお互いにチェックする形になるのです。 

会社の代表者印も同じくチェックがされるようになっています。

経理部長は代表者印を捺します。

経理部次長は代表者印の入った金庫のカギを持っています。

経理部長は金庫の中にある代表者印の入った箱のカギを持っています。

こうして3人が代表者印の管理に携わっています。二重三重のチェック体制をとるようにします。 

モノを仕入れる時もダブルチェックのシステムが有効です。たとえば製造担当者が設備を購入しようとした場合、製造担当者は上司の承認を受けた後、資材部に設備購入申請書を提出します。担当者が仕入業者と交渉したり、値段を決めたりはしないのです。設備購入申請書を受け取った資材部は、たくさんの業者とコンタクトをとり、見積もりをとります。そして、よくて一番安い業者に発注します。従って製造担当者が指定して来た業者から仕入れするかどうかは資材部が決定するのです。 

  1. キャッシュベース経営の原則 

”経営というものは難しく考える必要はありません。売上を最大に、経費を最小にするだけでいいのです。“ 

経営は現金預金に始まり、仕入、製造、販売、一般管理と使われ、最後に現金預金に帰結します。このように経営を見てみますと、経営の結果を現金の流れをしっかりと見ることによって、業績 - すなわち現金預金が年初と比べて年末にいくら増えたかを判断することができるのです。売上を最大にして色々な経費をできるだけ少なくすれば、業績は向上します。 

これは財務諸表(損益計算書、貸借対照表、資金繰り表、脚注)の中の資金繰り表としてキャッシュベース経営が表示されています。

盛和塾 読後感想文 第六十二号

売上を極大に、経費を極小に(入るを量って、出ずるを制する) 

経営とは、非常にシンプルなもので、その基本は売上を大きくし、いかにして使う経費を小さくするかということに尽きます。利益はその結果です。私たちはいつも売上をより大きくすること、経費をより小さくすることを考えればよいのです。 

通常の事業の場合、売上利益率は何%だとか、一般管理販売費率は売上の何%だとか、これを達成すれば良し、ということにしてはならないのです。 

売上極大、経費極小のための努力を、日々創意工夫をこらしながら粘り強く続けていくことが大切なのです。 

経営の原点12ヶ条の第5条、 “売上を最大限に、経費は最小限に” に、このことが述べられています。 

盛和塾入塾の意味と目的 

盛和塾のメンバーが、盛和塾に入って、会社が立派になった、本当によかったと思ってもらうことが目的です。 

会社を発展させる目的

入塾した経営者の方々は、自分の会社を良くしたい、一日でも早く自分自身が経営者として安心できる会社にしたいと考えています。 

会社を良くしたいと思う第二番目の理由は、従業員が安心して勤務できるようにしてあげたいということです。従業員の人達が自分の勤めている会社は利益もあげ、立派な経営をし、待遇も決して他社に引けを取っていないという誇りを持ち、会社に信頼を寄せる。そういう会社に勤務している自分自身も誇りに思うし、勤務していることに心から喜びを感じる。従業員がみんなそう思えるような会社にしたいと思っています。 

第三番目には、国や社会に貢献できるような企業にしていきたい、企業としてあげた利益は、(日本では) その半分は税金として納めることになります。企業の利益、また個人の所得から税金が納められ、日本の社会と国家が成り立っています。利益を出すことは、社会に貢献していることになります。 

全従業員の物心両面の幸福と人類社会の進歩発展に貢献するために

経営者である自分自身の給料を少しでも高くし、自分の財産を増やしていきたいという目的から経営をはじめた経営者もいます。しかしこのような私利私欲に満ちた目的で、または無目的で、経営はしてはなりません。京セラでは “全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類・社会の進歩発展に貢献する” という会社の経営理念を掲げました。 

経営の原点12ヶ条の第1条には、“事業の目的・意義を明確にする” とあります。事業の目的・意義というものは、自分に都合の良いものではなく、大義名分のある公明正大で高邁なものでなければなりません。自分も含め、全従業員を物質的にも精神的にも幸福にしていくことが経営の目的なのだとはっきりとさせるべきです。 

全従業員が物心両面の幸福を感じ、働くことに喜びと感動を感じてくれるような会社にしていく、従業員が喜んで働いてくれることで、会社もますます立派になり、結果として経営者である自分自身も幸福になっていくこととなります。 

会社を立派にする目的は、全従業員の物心両面の幸福をどうしても達成し、人類社会の進歩発展にも貢献したいということなのです。まず、従業員が幸せになることが大切なのです。これは “利他の精神” です。経営者のいちばん近くにある “利他” は、自分の会社に勤めている従業員を幸せにすることなのです。 

私達は、自分の会社を立派にしたい為に盛和塾に入ったのです。 

会社を立派なものにしていくには、売上を最大限に、経費を最小限にする

では立派な会社にするには、具体的にどうすればよいかということになります。経営の原点12ヶ条や6つの精進を唱えるだけではなく、その一つひとつを実践していかなければなりません。 

経営の原点12ヶ条の第5条、 “売上を最大限に、経費を最小限に” を実行していくのです。売上をできるだけ大きく伸ばし、経費はなるべく使わないようにする、これが会社を立派にする要諦です。 

例えば、漁網を作っていた会社がありました。漁網の製造だけでは限界があるため、トラックの荷台から荷物が滑らないようにするネット、または農作物を猪や鹿などの野生動物の害から守るために田んぼや畑を覆うネットの製造にも乗り出しています。最初は魚を捕るための漁網を作っていたが、その漁網では売上を伸ばすのに限界がありました。そこで、経営の原点12ヶ条の第10条、“常に創造的な仕事を行う、今日よりは明日、明日よりは明後日と常に改良改善を絶え間なく続け、創意工夫を重ねる” を実践されたのです。 

売上を最大限にするというのは、限界を自分でつくるのではなく、あらゆることにチャレンジして売上を増やしていくということなのです。 

独立採算の単位で組織を分ける 

月次決算書 -損益計算書、貸借対照表、資金繰り表-は、毎月10日くらいまでに完成して中身を検討することが必要です。 

製造業の例をとりますと、会社組織は、製造部、営業部、本社管理部と分かれています。

営業部      ー  関東営業部

         ー  関西営業部

         ー  営業管理部

製造部      ー  関東製造課

                                    金型係、試作係、樹脂機械係、生産管理係

         ー  関西製造課

                                    金型係、試作係、量産係、生産管理係

管理部      ー  関東管理部

         ー  関西管理部  

本社管理部  ー  経理係、総務係 

営業部は関東営業部と関西営業部に分かれています。営業部の中には、関東営業部、関西営業部を補佐する営業管理部があります。 

製造部は関東製造課と関西製造課に分かれています。各製造課の中には、金型、試作、樹脂機械、生産管理等の係があります。 

管理部は関東管理部、関西管理部があり、本社機能を果たしています。 

各部門、営業部は関東、関西、製造部も関東、関西と各係も独立採算制です。独立採算とは、それぞれ損益計算書が作成されているということです。その損益計算書により、各部門、各係の業績がわかるようになっています。この独立採算制度は、どこの部門で、どの係で利益が出ているのかを明確にしようとするものです。 

営業はできるだけ安く製造部より仕入れ、できるだけ売上を伸ばそうとします。製造部はできるだけ製造原価 -材料費、労務費、製造間接費を下げる努力をし、できるだけ営業部に売ってもらうように努力します。

経費の中身を詳細に見ていく

各部門ごとの損益計算書を見てみます。営業部の中では毎日の受注高、総売上高、営業部コミッション収益(例えば総売上高×10%)と損益計算書に売上高が表示されます。営業はなるべく大きな売上を上げていくことを目標にしています。営業部の売上高は総売上高の10%ですから、まず売上をひたすら増やすことに努力をします。経営の原点12ヶ条の第5条、 “売上を最大限に、経費は最小限に” とあります。 

次に、その売上を上げる為に必要な経費をいかに減らすかが課題になります。経費の中身を細かく分けて、一つひとつその内容を調べます。人件費、厚生費、旅費交通費、交際費、会議費、家賃、修繕費、研修費等、細かく内容をチェックします。 

社内金利も発生します。売掛金や固定資産の取得原価に対して営業部は金利を負担します。 

管理部、本社管理費用も関東営業所、関西営業所に人頭割りで、配賦します。このようにして、関東営業部、関西営業部の業績が算出されます。 

勘定科目を見ながら経営をする

各部門別損益計算を算出する時には、社内での約束事が必要です。営業部の売上は会社としての売上高の10%、社内金利は金型係、試作係、量産係、生産管理係、年6%という具合に、社内で約束事を決めます。 

細かく分けられた勘定科目を見て、一つづつ科目毎に経費を減らす方法を考えます。例えば、タクシーの利用が多く、タクシー代の節約はできないかと検討します。 

損益計算書を会社の組織にあわせて営業、製造部門毎、各部門の係毎に作成する必要があります。こうすることによって、損益計算書を経営に役立てるものとして使うわけです。 

この損益計算書の分析は経理部の仕事ではなく、経営者や各部門、各係の従業員と同時に行うことが重要です。そうしますと、良い新しいアイデアが出てくるのです。経営者が経営資料を机の上に置き、売上をもっと上げて、営業のコミッションを増やし、経費を減らし、利益を増やそうとすることが大事なのです。 

経営者はパイロット

経営者は “企業” という飛行機のパイロットです。コックピットに座り、目の前にある計器盤を見ながら高度や速度を確認し、操縦をしなければ経営にはなりません。損益計算書の各数字を毎日毎日見ながら経営をしなければなりません。 

製造部の損益計算書を見てみます。関東製造課の総生産額は2億633万円、人件費は4309万円、人員数は98名、全部の経費合計が1億6075万円、経営利益は4557万円となります。関西製造課の経営利益は11万円のみです。 

関東製造課は、98名の従業員を使い、付加価値(経営利益 + 人件費)=8867万円を生み出しています。週40時間、1ヶ月160時間働くとしますと、1人当りの人件費は時間当たり2749円なのに対して、1人当りの付加価値は時間当り5655円となります。 

売上最大、経費最小を実現するために必要なこと

関東製造課の生産は、先月は2億円だが、今月は2億5千万円とし、5千万円増を目標にします。具体的な目標数字を示すのです。経費についても、先月は1億6千万円でしたが、今月は売上増を計る為、1億8千万円とし、2千万円増と少し増える程度の経費で抑えていこうと考え、収益性の向上を目指します。 

具体的な目標を立てた後は、経営の原点12ヶ条の第3条、 “強烈な願望を心に抱く、目標の達成のためには潜在意識に透徹するほどの強く持続した願望を持つこと” が求められます。損益計算書を見ながら何としても目標を達成するよう自分自身に言い聞かせるのです。 

経営の原点12ヶ条の第4条、 “誰にも負けない努力をする。地道な仕事を一歩一歩、堅実にたゆまぬ努力をする” ことを続けます。 

具体的な目標数字を目の前に置いて、来月、来年の目標を立てて、それを何としても達成しようとする強い願望を持ち、誰にも負けない努力をする。それが売上を最大に、経費を最小にしていく道なのです。 

事業の目的・意義を共有する

具体的な目標数字を立て、トップ自らがその達成のために率先垂範して強い願望を持ち、誰にも負けない努力を続けなければなりませんが、いくら1人で頑張っても限界があります。その為、事業の目的・意義を明確にした上でそれを従業員と共有し、一緒に頑張ってもらうのです。 

 “我が社の目的は、全従業員の物心両面の幸せを追求し、維持することです。そして同時に人類社会の進歩・発展にも貢献する。この目的のために、売上を最大に経費を最小に利益を上げていきたいと考えています。従業員の皆さんの協力が必要なのです” このように、立てた目標を社長だけのものではなく、全従業員の目標にしていかなければならないのです。 

従業員も “なるほど、我が社も会社が少しづつ立派になり、利益が出れば我々の待遇も良くなっていく。事実、過去もそうなってきている。そうであるならば、我々も喜んで売上を少しでも増やすように、また経費を少しでも抑えるように協力します” と言ってくれるようになります。経営をしていくには、このように従業員と目標を共有して、協力を求める必要があるのです。 

 “私が会社を経営する目的は、私だけが良くなろうとしているのではない。社長である私も幸せになりたいと思うが、私も含めた全従業員を物質的にも精神的にも幸せにしたい。それが私の目的です。その目標を達成していくことは、皆さんの為にもなることです。是非協力をしてください” 

しかし、従業員からの協力を得る為には、具体的な目標数字を立てて、来月、来年の売り上げ目標はいくらで、経費はいくらに抑えてと、数字で示すことが必要です。*目標数字を “来月はこれだけの売上を達成しよう、経費はこれだけに抑えましょう” と数字を挙げて話をするのです。月次決算報告の会議で、過去の数字を示すと同時に来月の目標を具体的に示していくことが必要なのです。 

目標は簡単に達成できないことがあります。その時、従業員とコンパを開き、 “一緒に頑張っていこう” と呼びかけて、従業員の皆が “なるほど、そうしましょう。協力しましょう” と言ってくれるまで話し合わなければなりません。 “社長はただ厳しいことを言っているのではない。必死に我々のことを考えてくれているのだ” ということを分かってもらうためにもコンパの中で、社長が従業員に対する思いやりを語るのです。そうすれば、 “これだけのことを考えている社長なら、我々も是非協力して頑張ろう” と従業員も言ってくれるはずです。 

こうした数字目標を立てると同時に、経営の原点12ヶ条の第7条、 “経営は強い意思で決まる、経営には岩をも穿(うが)つ強い意志が必要” なのです。 

第8条、 “燃える闘魂、経営にはいかなる格闘技にも勝る激しい闘争心が必要” なのです。経営トップには勇気とガッツがどうしても必要なのです。 

第9条、 “勇気を持って事に当たる、卑屈な振る舞いがあってはならない” 勇気のない人は経営者になれません。 “こうしたい” と思うなら、従業員に “こうしてもらいたい” と思うなら、勇気を持って従業員に話をして、協力してもらうように説得する必要があります。 

損益計算書は現場の状況を映し出す

損益計算書は経営に不可欠なものであり、数字をベースとして経営をしていかなければ、経営は出来ないのです。月次損益計算書は出来るだけ早く作成し、一週間以内に検討することが必要なのです。その損益計算書から自分が必死に頑張った先月は、売上は、経費は、利益は目標に達していたかを見ます。 

関東製造課の課長からは、今月の目標は生産高2億5千万円、経費は2億3百万円、経営利益は4千7百万円との報告があったが、今月の月次決算ではその目標を達成しただろうかとレビューをします。担当課長の顔を思い出しながら、月次損益計算書を読みます。 

損益計算書には数字しか出てきません。しかしその数字は従業員の仕事、経営者の仕事の成績表でもあります。こうした数字を読めるというのは、関東製造課の現場を良く知っているということです。現場を知ってはじめて月次損益計算書が読めるようになります。現場を知っていますと、良いアイデアも生まれますし、関東製造課の従業員との意志疎通も図れ、経営改善に繋がります。 

経費を減らすに当り、重要なのは何を目標にするかという点です。原材料であれば、原料そのものの質、代替原材料、輸送費、他の仕入先の仕入れ価格等を比較検討します。人件費を削減する為、製造ラインの変更、製造計画の見直し等がありますし、重油の代わりにガスをしようするとか様々な分野でその目標を定めます。こういうことは、工場の中で何が起こっているのかということを知らなければできません。そして、その中で何をターゲットにするかということまで損益計算書の数字から読み取れるようでなければ経営にはならないのです。 

採算を合わせる

色々な業種の中で、いかに経費を削減しようとしても、今の経費以下にすることが出来ない。そういう業績で経営していくのでは、事業として成り立たないこともあります。さらには、業種転換を図らなければならないこともあります。つまり、損益計算書の数字を見ていくことによって、自分の事業に見切りをつけることも、ある時には必要になってきます。 

例えば、レストランの場合ですと、材料費は売上の30%が限度だと思います。日本食だと32~33%、ラーメン店の場合は25~27%が目安です。人件費も32~34%ぐらいが目安でしょう。 

材料費を削減する為、品質を落としたものを仕入れたのでは、お店の料理の味も良くならず、お客様を失うことになります。新鮮で良い材料を仕入れようとすれば、社長自らが仕入れをしなければなりません。調理人に仕入れを任せれば、高いものを買ってくるかもしれません。それでは採算が合わなく、利益率も低くなってしまいます。銀座をはじめ、何店舗もチェーン展開しているお寿司屋さんは、社長自ら朝3時、4時に起きて、築地の魚市場に行き、大量の仕入れをしています。仲買人から直接買いますから、値段も安いそうです。このお寿司屋さんはネタもいいし、美味しいし、安いというので繁盛しているそうです。 

トップ自らが率先垂範して努力しなけらばならないのです。 

切磋琢磨する者たちが集う盛和塾

業績が上がり始めると、経営は大変面白くなってきます。今までしんどいと思っていた経営が、こんなに面白いものかという風になっていきます。 

会社に帰っても従業員に今度はこういう工夫をしよう、こういう新しいことをしよう、と前向きな仕事の話をすることができるようになります。 

孤独な経営者達が同じ悩みを持ち、一同に会してみんなに会う、その中で仕事が楽しくて頑張っている人を見て、 “オレもああいう気持ちになろう” と励まされるのです。同じ悩みを持ち、苦労している仲間が集まり、その仲間達が切磋琢磨する。これが盛和塾なのです。 

これは仲良しクラブではないのです。業績がどんどん伸びていき、 “やっぱり盛和塾に入ってよかった”  “業績が上がって良かった” と言えなければ意味がないのです。

盛和塾 読後感想文 第六十一号

成就する思い、成就しない思い

心の大切さを学んだ経緯

塾長は “人生や経営がうまくいく、いかないかは、その人の心の持ち方、考え方によって決まってきます” と何度も述べられています。 

1.13歳で結核にかかったとき、隣の奥さんが谷口雅春さんの “生命の実相” という本を持ってきて、貸してくれました。その本の中には “心に描いた通りの事があなたの周辺に現象として現れます。心が呼ばないものは決してあなたの周辺に現象として現れることはないのです” とありました。塾長の叔父たちは、結核にかかっていました。塾長の父親は、弟である叔父たちの面倒を見ていました。塾長の兄も病気の叔父たちを避けるようなことはありませんでした。ところが塾長は、結核が空気感染する病気で、結核が出た家では家族にも伝染してしまうことを本で読んで知っていました。ですから塾長は、叔父たちとの接触を避けていたそうです。 

ところが、叔父たちの結核を全く気にしていない兄や、叔父たちの看病を一生懸命した父は、結核になりませんでした。しかし、塾長は結核になってしまったそうです。塾長は “やはり私の心の在り方によって結核になってしまったのだ。心というものが大事なのだ” と反省したそうです。 

 2.松下幸之助翁の話で気付いた思いの大事さ

松下幸之助さんが “ダム式経営” という有名な講演をされました。ダム式経営というのは、経営がうまくいっている時に、ダムのように利益を貯め、必要なときにそれを使っていくというものです。ダムを作らずに、儲かったら一気に使ってしまう経営は、利益の出ない日照りが続いたときにはきりきり舞いをしてしまいます。ダムを作って貯め込み、調節し、常に一定のお金を使っていくようなダム式経営をすべきです。 

その時、質問がありました。 “ダム式経営が必要だということは良くわかりました。松下さんは余裕があるからダムを作ることが出来るのです。我々は火の車で、その日暮らしの毎日です。ダムを作る余裕などありません。どうすればダムを作ることが出来るのか、具体的に教えてください” 

松下幸之助さんは暫く沈黙されてからこう答えられました。 “いや、それはダム式経営が必要だと思わないといけませんな” そう言っただけで、あとの説明はありませんでした。聴衆からは失笑が漏れました。具体的なことを教えられるわけがない。まず、 “思う” ということが大事なのです。ダム式経営をしたいと思うことが始まりであって、そう思ってやり始めれば、いろいろな創意工夫をしながらダム式経営というものを実現していけるはずなのです。 “心に思う” ことがいかに大事なのかと、この時塾長は気付かれたそうです。 

京セラの人生方程式は、人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力です。この方程式にある考え方が心に思うこと、心で考えることなのです。塾長は京セラの社員にこの方程式を説明されました。 “能力も熱意も大切だけれども、考え方はさらに大切なのです。少しくらい能力が劣っていても問題にはなりません。素晴らしい熱意と考え方があれば、それが大きな差としてあらわれるのです” 

  1. 中村天風さんの教え/哲学

“自分の未来に決して悲観的な思いを持ってはなりません。自分には明るく、幸運にも恵まれた素晴らしい未来が必ずあるのだと信じて努力をしなさい” 

塾長は、京セラの社内スローガンとして “潜在意識に透徹するほどの強い持続した願望(思い)、熱意によって自分の立てた目標を達成しよう” ということを掲げました。心に思うこととは願望です。どうしてもこうありたいという、潜在意識にまで透徹するほどの強く持続した願望は、必ず達成できると思われました。 

塾長は社員に “六つの精進” の話をしました。

1)      誰にも負けない努力をする

2)      謙虚にして驕らず

3)      反省ある毎日を送る

4)      生きていることに感謝する

5)      善行・利他行を積む

6)      感性的な悩みをしない 

綺麗な心、純粋な思いを作り出す為には、毎日の反省が必要なのです。利己の反省、利己の払拭が必要なのです。反省することによって、ややもすれば自分の本能によって利己的になってしまわないようにします。そうすると、綺麗な心や、純粋な思いが育まれるのです。 

  1. 安岡正篤さんの哲学

安岡正篤さんの本 “陰隲録(いんしつろく)-袁了凡 作-を読む” の中で、因果応報の法則を学ばれたのです。善きことを思えば善い結果が生まれ、悪しきことを思えば悪い結果が生まれるという因果応報の法則に気付かれました。 

  1. ジェームズ・アレンの哲学

イギリスの哲学者ジェームズ・アレンは “As a Man Thinketh” (原因と結果の法則)という本を100年ほど前に出版しております。ジェームズ・アレンは、 “心に描いたことが原因となり、それが結果として現れるのだ” と述べています。 

塾長は “君の思いは必ず実現する” という本を書かれています。この本を全国の少年院、鑑別所の子供達に送りました。 

厳然として存在する因果応報の法則 

袁了凡の本 “陰隲録” を通じて、 “善きことを思えば善い結果が生まれる。悪しきことを思えば悪い結果が生まれる。宇宙の摂理がそうなっているのです。しかし、結果はその通りに整然と現れてきません。善き事を思い善き事をしても、すぐに善い結果は生まれないし、悪しきことを思い悪しき事をしても、すぐに悪い結果が生まれるわけではないのです。思いが結果として出るには時間がかかります” 

 “また人間には運命があります。元々決まっている運命の流れによって、幸運なときもあれば災難に遭うときもあります。運命的に幸運な時期は、少しくらい悪い事を思い、悪い事をしても運命がそれを打ち消し、あまり変化がなかったりするわけです。逆に、運命的にとても悪い時期にさしかかったときは、少しくらい善い事を思い、善い事をしても運命と相殺され、必ずしも善い結果が生まれてきません。そのために、多くの人が因果応報の法則の存在を信じません。しかし、宇宙の摂理として、また厳然とした事実としてそれは存在するのです” 

従って、心に思ったことが実現したり、実現しなかったるすることがあるのです。 

心の多重構造 

 “思い” が実現するためには、どうしたら良いのか。 “思う” とは心の中のどこで思うのか。抽象的でよく分かりません。心の構造はどのようになっているのでしょうか。 

人間の心の根源には “真我” と言うものがあります。 “森羅万象あらゆるものに仏が宿る” と仏教では教えています。真我とは仏であり、神であり、宇宙そのもの。その真我が人間を人間たらしめている根源的なもので、我々は皆、真我を持って生まれてきます。 

真我とは、愛と誠と調和に満ちたものです。純粋で美しいもの、真実美という言葉で表現できる穢(けがれ)れのない気高く美しいものです。 

真我は輪廻転生(りんねてんしょう)を繰り返して、何回もこの現世へ出てきます。現世でいろいろな事に遭遇して、その時々に経験したこと、思ったこと、行ったこと、そういうものが真我の上に積もります。真我を真ん中にして、その残滓(ざんし)も含めたものが “魂” というものだそうです。 

魂というものを宿して我々は生まれ、その魂は過去にいろいろな事を経験しています。善いことでも悪いことでも、前世までのあらゆる思いや行いが真我の上にこびりついて魂となるのだそうです。 

この魂の上に “本能” が形成されます。お母さんのお腹の中に宿った時に本能がつくられます。細胞分裂を繰り返して、本能の赴くままにどんどん成長し、我々の手足、目、耳、口等ができていきます。そうして身体ができ、我々は食欲、性欲、闘争心等といった生命を維持する為に必要な本能を肉体として持ち、この世に生まれてきます。その本能が、肉体的に出てくる最初の心だそうです。赤ん坊は腹が立つと怒り、ひもじいと泣き、ものを食べようとします。これは生き、成長しようとする本能から生まれたものです。 

赤ん坊も大人も嫉妬心(しっとしん)や “感情” を持つようになります。自分のお母さんの愛情が他の兄弟に奪われそうになりますと、嫉妬し、怒りを表します。これは自分だけが良ければよいという身勝手な低次元の自我なのです。 

赤ん坊も目が見えるようになりますと、 “感性” -五感-が生まれてきます。目、耳、舌、鼻、感が発達してきます。 

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感性の上に次第に “知性” が発達してきます。物事を論理的に考えることができるようになってきます。この時期に頭の良し悪しというものが出てきます。知性のレベルで物事を考えることになりますから、これは “思う” の一部となってくるわけです。 

心にはまず、魂があります。魂が我々の肉体に宿り、理性(良心)、本能、感情、感性、知性という心が芽生えていきます。 

心の多重構造を理解するのに役立つ例を塾長は述べておられます。 

我々は年をとるにつれて呆けていきます。

―知性の部分、物事を論理的に考える能力が衰えていきます。

そうしますと、感性(五感)が表面に表れてきます。これもやがて衰え、

―ものが見えなくなったり、耳が聞こえなくなったり、感性が消えていきます。

―そうしますと、感情の世界で生きることになります。気持ちが高ぶったり、怒りっぽくなったりします。

―感情もなくなりますと、本能だけが残り、食事をする、ただ排泄をするだけになります。この本能さえも消えますと、魂だけが残ります。

だけになり、死を向かえることとなるのです。 

生まれてくるときには、魂、本能、感情、感性、知性の順で形成されていくのですが、年をとるにつれて、知性から消えていき、そして死を迎えるのです。 

潜在意識に透徹するほどの思いを持つ 

企業経営や人生を考える場合でも、知性のレベルで “自分の会社をこうしたい。その為にはこうすればこうなるだろう” と考え、事業計画を立て、実行していこうとします。 

経営12ヶ条の中で、

第一  “経営の目的意義を明確にする”

第二  “具体的な目標を立てる”

となっていますが、これらは知性のレベルで考えることです。しかし知性は低次元の自我なのです。企業経営をする時には通常、知性や、競合会社に負けたくない、金を儲けたい等といった感情のレベルで物事を考えます。 

第三  “強烈な願望を抱く”  “目標達成の為には潜在意識に透徹するほどの強く持続した願望をもつこと” と述べています。

知性や感情のレベルで会社をこうしたい、こうすればこうなるだろうと考えた軽いものではなく、潜在意識にまで透徹する強く持続した願望を持つ。知性や感情のレベルだけでは、その思いが成就するはずはないと塾長は考えました。 

つまり、知性や感情で考えたことを、さらに内側の魂のレベルにまで押し込んでいく必要があるのです。知性という心の表面で思うのではなく、もっと心の奥で “思う” のです。低次元の自我である感情のレベルを超え、さらに心の奥底へ入っていくような思いでなければならないのです。 

それは “信念” となるレベルまで “思い” を深めるということです。心の奥底にまで到達した “心の信念” でなければ、決して “思い” は実現しないのです。 

理性、良心のレベルで思う 

塾長の六つの精神の中には “反省のある毎日を送る” という項目があります。 “邪(よこしま)な利己的な自分を反省によって抑え、美しい利他の心が出てくるようにする” と塾長は述べています。しかし、この反省も知性のレベルで考えていることなのです。 

知性のレベルで感情のレベルにある低次元の自我、煩悩を抑えていこうとするわけです。感情、感性、本能を抑えていきますと、美しい利他の心が人間には自然に沸いてくるのです。低次元の自我、煩悩を抑えていくと、魂から理性と良心が生まれてきます。この理性と良心は、利他の心と同じもので、魂から発する気高く美しいものです。 

その良心と理性が間欠泉のように心の表面に沸き出してくるようにすれば、気高く美しい、崇高な理性・良心というものが我々の心を支配してくれるようになります。理性と良心のレベルから思うことは、これらは知性のレベルで思っているよりも非常に大きなパワーを持っています。つまり、理性と良心のレベルで物事を思い考えた場合には、その “思い” は必ず成就するのです。 

 “潜在意識に透徹するほどの思い” はこうした理性と良心から生まれてくるのです。つまり、信念にまで深められたものとなるわけです。 

塾長は第二電電を創業した時、毎日のように “動機善なりや、私心なかりしか” と自分に問い正しました。ただ単に知性や感情のレベルで創業を決断したのではなかったのです。 “自分の手柄功名のために第二電電をやろうというのではない。日本の電気通信事業が電電公社一社独占の為、国民は高い通信料金に困っている。それを救う為にやるのだ” 

世のため人のためにという気高く美しい心のレベルにまで、知性で考えたことを心の奥底の理性、良心のレベルまで落とし込んでいったのです。こうした理性、良心が第二電電の成功を導いたのです。 

事業経営には、人、物、金が必要だといいます。これらは知性のレベルでの話なのです。これらの条件が揃ったからといって、必ずしも成功するわけではないのです。知性や感情のレベルではなく、理性、良心のレベルまで落とし込んだ “思い”  “信念” でなければ成功しないのです。利己的な心を押さえ、利他の心を出していく。その利他の心で考える計画、すなわち世のため人のために役立つ計画でなければ成功しないのです。 

 “思いの質が成就の可否を決定する 

ある人は会社の経営がうまくいき、ある人はなかなかうまくいかずに苦しんだりしています。それは心のどのレベルで思っているかによって結果が違ってくるからです。 

心の構造のどの階層で思っても “思っている” ことには変わりはないのです。しかし “思いの質” が違います。知性のレベルで思うことは、高いレベルのように思いますが、そうではないのです。必ず実現するのは、心のもっと奥底にある理性、良心のレベル、または利他のレベルから発生したものです。 

ジェームス・アレンの言葉

 “理性は清らかで気高く、穏やかで公正なあらゆる思いと結びついています。またその理性には、人間の内側に存在する気高いもの、清らかなもの、美しいものの全てを表面化させる力があります” 表面化させるとは、実現させることなのです。 

 “感情に揺られ、憎しみや怒り、また自分だけを愛する自己愛にとらわれているとき、人間は真実を見る目を失っています。人間は身勝手な自我と感情を克服してはじめて、神の秩序を知ることができます” 

低次元の自我である感情や本能のレベルで物事を考え、仕事をすれば、そういう人の周辺には必ず同じような感情にとらわれている人たちが集まってきます。利己的な人の周辺には利己的な人が集まってきます。利己的な人が近寄ってきたとき、自分自身をよく見直し、反省して “自分も利己的な人間となっているから、利己的な人が自分の周囲に集まっているのだ” ということに気付くことが大切です。 

経営者はトップとして、目を曇らせ、判断力を曇らせてはいけません。経営者が目を曇らせ、判断力までも曇らせるのは感情、本能のレベルに留まっているからです。 “反省のある日々を送る” ことにより、利己を抑え、 “利他の心” 我欲を抑えて理性、良心が芽生えてくるように努力することが大事です。 

心を常に磨き純化させる 

ジェームス・アレンの言葉

 “感情の奴隷となっている人たちが色々な酷い目に遭っている。同じ場所で感情を克服した人々はたいへん穏やかで平穏な日々を送っています” 

知性で身勝手な自我である感情を抑制し、コントロールすると同時に、深く反省することにより、気高く美しい理性を発動させることができます。 

自分自身の心を浄化し純化することにより、心の中心 “真我” から発する理性と良心のレベルで物事を考えることができるようになり、私達は素晴らしく有能で力強い、何をやっても成功するパワーを持つことができるのです。清らかな心を持った人間ほど有能です。清らかな人間は芸術面、ビジネス面、学問、技術などの様々な面で有能です。目の前の目標も人生の目的も穢れた人間よりはるかに容易に達成できます。 

心を磨いて純化した人、清らかな心を持った人は平気な顔をしてそのリスクのある困難な仕事に挑戦します。周りから今にひどい目に遭うと思われていても、その人はいとも簡単にそれを成功させてしまうのです。 

我々は普通、知性、感情、本能のレベルで思います。しかしこういう軽い思いではなく、心の奥底にあるレベル、真我から発生する理性、良心のレベル、利己を抑えたところから出てくる利他の心から発生した “思い” があれば、目標を実現することは易しいのです。

 “心に思った通りに事業は展開していきます” その思いは大きなパワーを持つ理性、良心つまり、利他のレベルで描いたものであれば、実現することができるのです。

盛和塾 読後感想文 第六十号

素直な心を持つ 

素直な心とは、自分自身のいたらなさを認め、そこから努力をするという謙虚な姿勢のことです。とかく能力のある人、気性の激しい人、我の強い人は、往々にして人の意見を聞かず、たとえ聞いても反発するのです。しかし本当に伸びる人は素直な心をもって人の意見をよく聞き、常に反省し、自分自身を見つめることのできる人です。 

私見では、素直な心を持てる人は、能力も高く、違った意見、異なった思想、異なった文化、自分の持っていないものを理解しようとする人だと思います。人格のすぐれた人です。こうした人は、他の人から尊敬されるのです。 

そうした素直な心でいると、その人の周囲には、やはり同じような心根をもった人が集まってきて、物事がうまく運んでいくものです。 

自分にとって耳の痛い言葉こそ、本当は自分を伸ばしてくれるものであると受けとめる謙虚な姿勢が必要です。 

信ずれば変わる - 頭ではなく心に信念化する 

立派な経営の本を読んで勉強している、また盛和塾でも勉強はしているけれども、それを活かして企業の業績がよくならないのは、なぜなのか、どうすればよくなるのか、と悩んでいる経営者の方々がいます。 

人生も経営も作り手はあなた自身

あなたの人生や会社の現在も将来もあなたが作ります。他人が作るのではありません。景気が悪いから、従業員によい人材がいないからうまくいかないのだと言うのですが、そうではありません。 

自分の人生も、企業の業績も、すべては自分自身が作っています。つまり、自分の心が作っているのです。個人であれ企業経営者であれ、自分自身が思っている通りの人生、思っている通りの企業経営がそこに現れているのです。 

善きことを思い、善きことをすれば、よい結果が生まれるし、悪しきことを思い、悪しきことをすれば、悪い結果が生まれます。因果応報の法則というものがあるのです。 

明時代の思想か、袁了凡が書いた“陰騭録”(いんしつろく)の中では、人間は運命という縦糸をたどって生きていきます。その中で人間は善きことを思い、善きことをなし、悪いことを思い、悪いことをします。それによって運命は変わっていきます。善き思いは善き結果を、悪しき思いは悪しき結果を招きます。この因果応報の法則が横糸となって運命を変えるのです。 

イギリスの哲学者 James Allen も“原因と結果の法則”の中で同じ因果応報の法則を述べているそうです。 

しかし因果応報の法則は、なかなか短期間のうちにはハッキリと現れません。ですから、誰もこの法則があることを信用しないのです。 

人は心の中で信じている方向へと動く

人生結果・仕事結果 = 考え方 x 熱意 x 能力という方式で考えられますが、その中でも考え方が最も重要です。私達はこの考え方、哲学というものを“経営12ヶ条”、“京セラフィロソフィー”、“心を高める”、“経営を伸ばす”等の本を勉強もし、盛和塾例会にも出席して勉強しています。しかし、私達の経営があまりうまくいっていないというケースがたくさんあります。 

フィロソフィーをいくら知識として持っていても意味がありません。血肉化しなければならないのです。頭の中で知識として持っているだけではフィロソフィーというものは使えません。 

フィロソフィーは潜在意識に透徹するほどの強烈な願望にまでならなければなりません。潜在意識に透徹するとは、頭にも心の中にも染み込んでしまった状態をいいます。人間は最初は頭で理解し、何度も何度も理解をし、それが心の中、すなわち潜在意識にまで染み込んでいくのです。人間は、そのように心の中で信じ込んだもの、信念化したものの方向へと動いていくのです。 

盛和塾の教えを信念化する考え方 

フィロソフィーを勉強し理解をしても、心の中に落とし込む、“信じる”というところまでいっていないと、フィロソフィーの実践にまで届かないのです。 

仏教の教えでも、仏の道に仕えている高僧でも、年がら年中お経を唱え、座禅を組み、心静かに修行していますが、みな同じように素晴らしい人間性になっているかといいますと、そうでもないのです。 

キリスト教の牧師さんでも、キリスト教の説く愛、様々な勉強をしています。しかしそれぞれ人格も個性も違います。 

仏教の場合も、お坊さんは仏の教えを知識として持っています。説教をしますと、素晴しい仏の教えを語ります。しかし、お坊さんが皆、心で信じているわけではなく、まだ信念にまで達していないことがあるのです。ですから、言っていることと実行していることが違ってしまうわけです。同じお釈迦様の教えを学んだのであれば、お坊さんたちの人格は非常に似通ったものとなるはずですが、必ずしもそうではないのです。それは仏の教えが心に染み込んでおらず、信念化していないためなのです。人格にまで影響を及ぼしていないからなのです。心に染み込み、心の中で信念化しているのであれば、それは人格にも大きく影響を及ぼし、人格そのものを変えていくはずです。 

我々の勉強の場合も同じです。フィロソフィーを知識として持っただけではなく、心に染み込ませ、心の中で信念化させて、人格まで変えるような生き方をする必要があります。 

低次元の自我を理性で抑える 

私達は “心の修養” に努めています。心の修養に努めるとは、低次元の自我を抑えることなのです。低次元の自我とは煩悩のことです。煩悩には、お釈迦様が言われる三毒のことです。“貪欲”、“怒り”、 “愚痴” の三毒です。 

人間はいくら高尚なことを考えても、放っておけば、瞬間瞬間に本能がもっている煩悩でものごとを考えてしまうのです。金を儲けたい、小さなことに腹が立つ、不平不満を言う。これが人間なのです。 

低次元の自我、欲望に満ちた自分勝手な思い、怒りや憎しみに支配された心を、私達は持っているのです。こうした本能がないと、私達は生きていけないのです。それによって私達は自分だけがよければよいと思ったり、すぐに怒ったり、不平不満を漏らしたり、人を憎んだりします。 

しかし私達は他人の心を見ようとしますが、自分の心を見ようとしないのです。自分の心 - 自分の庭の中に雑草が生えていることに気づかない、これが私達人間なのです。 

心の隙間に現れてくるのは利他と思いやりの心 

私達はフィロソフィーの勉強をしたり、りっぱな人の言葉や行動を見ますと、利他の心が芽生えてくるのも事実です。誰しもが持っている薄汚い低次元の自我を理性で抑えることで、利他の心も芽生えてくるのです。低次元の自我 - 自分の庭に一杯繁殖している雑草の間に、その隙間に、きれいな花/利他の心が生えてくることに気が付くのです。低次元の自我を常に抑えていく努力をすると、美しき善き心、利他の心が必ず出て来るのです。 

毎日毎日反省をしながら、低次元の自我を抑えていく、そうすれば素晴らしい心、善の心、利他の心が生まれてくるのです。 

こうした低次元の自我を抑えていく努力は、事業経営の中で生かされて、素晴しい事業経営を導くのです。自我を抑え、信念にまで高める為には、繰り返し繰り返し学び、毎日反省し - 今日の一日はどうだったのか – フィロソフィーを自然と心の中へと染み込ませていくという作業が欠かせないのです。 

自我の抑制にはそれにともなう行動が必要と思われます。盛和塾例会への出席、経営12ヶ条の勉強、フィロソフィーの勉強、従業員とのコンパ、研修、従業員への自分の思いの伝達(会議や報告)等、毎日の仕事の中に、こうした作業を繰り返し繰り返し続けることだと思います。自我の抑制には、こうした行動が必要なのです。そうすることにより、理解したフィロソフィーが行動になり、心の中で信念となっていくのです。心から信じてしまえば、潜在意識にまで透徹し、無意識のうちに目標とする方向へ行動するようになります。 

経営者の信念を従業員に移植する 

経営者は自分で繰り返し学んだことを社員と共有しなければなりません。それには自分の会社はこうしたいと思う。その願望を文章にして、はっきりと社員に伝えなければなりません。会社の目的、意義、目標をはっきりと文章にし、社員に話し、共有するようにしなければなりません。 

会社の目的、意義、目標を社員と共有するというのは、社員の心のなかにもそれを染み込ませるということです。 

これは唯、知識として会社の目的、意義、目標を社員に伝えるということではありません。経営者はまず自分の心の中に染み込ませ、自分の信念にまで高めなければならないのです。そうして信念に高められたものを社員の前で、私はこういう方針で、こういう考え方で経営をしていくと、堂々と伝えます。 

経営者自身が、会社の目的、意義、目標を心に信じ込んでいない – 心に染み込ませていないことには、社員を説得し、社員に共有することを望むことは出来ないのです。 

人間はあることを習得する時、まず頭で理解し、行動、実践を通して、この繰り返しによって学び、納得して、前に進みます。 

社長はその為には、社員に会社の目的、意義、目標をことある毎に社員に話しかけます。コンパ、会議、研修、運動会等を通して、繰り返し繰り返し話しかけるのです。 

そうすることで、社員の中には“社長はそういう考え方で経営するのがよくわかった。協力しましょう”、“私もそう思います”というものが出てくるのです。 

持ち込んだフィロソフィー 激変した経営 

京セラは経営難に落ち込んだ企業を傘下におさめ、再建してきました。東芝ケミカルの再建。 

東芝グループの一社、東芝ケミカルという会社は、接着剤、絶縁材料、有機材料を必要とする東芝グループに有機材料を提供する会社でした。東芝グループ以外にも外販をしていました。親会社の経営が苦しくなり、子会社の東芝ケミカルの株式を京セラに売却するという話が出てきました。 

東芝ケミカルの業績は、当時売上高役300億円、年間約70億円の赤字を出している会社でした。買収した時は売上高280億円、24億円の赤字を出していました。買収後、一年目には売上高260億円と売上減でしたが、税引前利益は約8億円の黒字に転換しました。今期は売上高約300億円、税引前利益30億円を目指しています。 

フィロソフィーを理解し、フィロソフィーを全社に伝えることにより、会社を変えることができたのです。東芝ケミカルは京セラケミカルと社名を変えていますが、社長は東芝から来られた人です。京セラからは数名ほどしか派遣していません。 

東芝ケミカルが京セラの完全子会社になると決まったとき、東芝ケミカルの多くの社員が辞めていきました。従って京セラは、もぬけの殻になった会社を買収したのでした。ところが一年半もしないうちに、京セラケミカルは黒字化しているのです。 

京セラから派遣された東芝ケミカル(京セラケミカル)の部長の手記。私は出社は毎朝7:30と決めていました。女性アシスタントか私が一番早く出社していました。東芝ケミカルのもとの従業員は、フレックスタイムが導入されていましたから、全員が揃うのは10時頃でした。大半の人は出社をしても挨拶さえしません。午後になれば、3時頃から帰宅が始まります。私の最初の仕事は、みんなに挨拶をしようと呼びかけることでした。 

営業マンはほとんど外出しません。“当社では販売をディーラーに任せています。そのディーラーにマージンをあげて、我が社の製品を売ってもらうようにするのが営業の仕事です”顧客の声を社内に伝えることが出来るはずがありません。 

営業の人に集まってもらい、聞いてみました。この製品の販売戦略は?この製品の強みは?シェアはいくらくらいですか?どれを聞いても “わからない” でした。営業の人達は技術職で、営業の教育、訓練は全く受けていませんでした。 

傾いた会社なのに、全く緊張感のない職場。 

1年後、京セラケミカルは様変わりしました。京セラに来たある社員は、 “ここは京セラよりも京セラらしい” と言ってくれました。 

フレックスタイムはなくなりました。全社の朝礼、掃除、フィロソフィーの唱和、フィロソフィーの輪読、ラジオ体操。8時半の唱和では、経営理念、活動理念、業務目的、信条を唱和します。各部署の朝礼では、フィロソフィー手帳を輪読し、感想を述べます。営業方針も唱和します。 

月には2度、社長・副社長主催のコンパがあります。そのため、わざわざ畳の部屋も作りました。社長・副社長は他部門と月4~5回のコンパに出席しています。 

会社全体がこの1年半で大巾に変わりました。みんなの考え方が変わって来ました。積極的になり、明るくなって来ました。 

たった一人の男がフィロソフィーを引っ提げて、川崎の工場に赴任しました。最初は小馬鹿にされました。誰も相手にしてくれなかったのです。しかし、みんながフィロソフィーを受け入れた時、信じ込んだ時、会社が一転して素晴らしいものに変わっていったのです。 

業績がよくならないのは、あなたが信じていないから 

東芝ケミカル再建の話によってもわかるように、盛和塾で勉強したフィロソフィーを自分の心の中に染み込ませ、自分のものにする。それを従業員たちの心の中に移植できれば、私達の経営も劇的な業績の変化に連なるのです。業績の変化が起こっていないのは、それは私達自身がフィロソフィーをまだ心の中に染み込ませていないからなのです。 

自分がフィロソフィーを心の中に信念として持っていれば、必ず従業員に信じ込ませることが出来、フィロソフィーを共有してくれるはずです。 

盛和塾に入ったら、会社の業績がよくなったというのでなければ意味がない。盛和塾例会や勉強会に出席するには、業績がよくならなければ恥ずかしいのです。“なぜ私の会社の業績がよくならないのか”これは、私がフィロソフィーを心底信じていないから、上っ面で、頭でしか理解していないからです。

経営の原点経営12ヶ条 

“経営12ヶ条” を心の中に染み込ませ、従業員に話をして従業員と共に実践し、共有していく為には、“自分自身も従業員と共に学ぶ” という謙虚な姿勢が大切です。そうすれば必ず私達の会社も従業員もフィロソフィー “経営12ヶ条” を心に染み込ませることができ、共有していくことが出来るのです。 

  1. 事業の目的意義を明確にする(公明正大で大義名分のある高い目的を立てる)

“全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩、発展に貢献すること”という単純明快な目的、意義を会社経営の根本的なフィロソフィーとします。この目的の為に経営陣も従業員も一丸となって誰にも負けない努力をするのです。この会社に勤めて本当に良かった。会社の経営も安定し、給与・賞与もいただき、老後の年金もあり、安心して働けるということになるのです。 

経営者も私利私欲に走るのではなく、従業員の物心両面の追求が会社の目的であることとはっきりと従業員に伝える必要があるのです。 

“私は私利私欲で会社を経営しているのではない。私も幸せになりたいし、皆さんもそうでしょう。だから一緒にこの会社を立派なものにし、お互いに物心両面で幸せになりましょう。だから皆さんも協力してほしいのです。皆さん自身の為にも一生懸命頑張って下さい” とハッキリと言うのです。 

塾長が第二電電を創業する時には、自分に問い正しています。“動機善なりしか、私心なかりしか”  “動機は善だ。私利私欲に満ちた心ではなく、公明正大な心で第二電電を興そうとしているのだ” と自分自身で納得して、事業を始めたのです。 

第二電電は、寄せ集めた部隊で始まりました。電電公社出身の技術陣、商社から来た社員、一般公募で集まった社員もいました。寄せ集めの外人部隊でスタートしました。 

その時、こうした寄せ集めの人々に向ってはっきりと伝えました。“第二電電は、稲盛和夫の名誉欲やら私利私欲から作ったものではありません。国民のために安い通信料金の社会を作りたいから、この会社を作ったのです。社員の皆さんもこうした目的に賛同してくれるのなら、出身団体は何であれ、結束して、強大な電電公社に立ち向かっていこうではありませんか” 

“百年に1回あるかないかという激動、変革の時です。このような壮大な仕事に携わることができる、関係することができるチャンスなど滅多にありません。この素晴らしい機会に恵まれた幸運に感謝し、団結して一緒に戦おうではありませんか” 

このように、公明正大で大義名分のある高い目的を立てるということを通じて塾長は全社全体を引っ張っていったのです。 

  1. 具体的な目標を立てる

1.で事業の目的、意義を明確にしましたから、今度は具体的な目標を立てる。立てた目標は社員と共有する。 

言葉で社員に伝えると同時に具体的に月次損益計算書で示すのです。売上高の目標はいくら、原材料費は、労務費は、製造間接費はいくらと目標を明らかにし、一般管理販売費は、目標税引前利益はいくらかと、具体的に示すのです。目標を実現する為に、それぞれの社員に協力してもらうことが必要です。 

月次決算の予定も作ります。その中で、売上については$1,000,000、原材料費は$200,000、労務費は$300,000、製造間接費は$200,000、売上総利益(グロスマージン)は$300,000、一般管理販売費は$200,000、税引前利益は$100,000、税引前利益率10%、と予定を立てます。 

売上目標が一番大切です。営業のAさんには$100,000売上を頼みます。Bさんには新規のお客様から新しい製品開発の依頼をとって来て下さい、等、各営業担当の売上目標を明示します。 

原材料費についても、仕入担当のAさんに代替材料はないか、他の仕入れ業者から買い付けることを検討してもらう、原材料の質の高いものを探し、歩留まり率を向上させる等、具体的な目標を明確にします。 

労務費についても、製造計画をはっきりさせ、従業員が気持ちよく、効率的に働ける様、工場長、職長に目標を提示します。あるいは目標を共に作るのです。 

このように従業員がはっきりと分かるように月次損益計算書の予定を作り、実績と比較していくのです。 

こうした具体的な目標は従業員にヤル気を起こさせるのです。大事なことは、経営者は、具体的な目標を従業員が理解してくれる様に訴えていくことなのです。要するに、従業員に会社の損益計算等、経営情報をすべて知ってもらうことなのです。 

  1. 強烈な願望を心に描く

2. 具体的な目標を立てる、とあります。一旦、目標を立てますとそれは、潜在意識に透徹するほどの強く持続した願望でなければなりません。 

盛和塾での学び、松下幸之助や稲盛和夫の言われることを何度も何度も繰り返し勉強し、毎日必ず暗記するくらい読むことです。更に、ノートにまとめて、手で覚えるようにします。そうしますと、耳で聞き、目で見、手で動作をしますから、人間の頭と心の中に、考え方やフィロソフィーが少しずつ染み込むのです。勉強したことを従業員に訴え、共有してもらうのです。 

次は実践です。潜在意識まで透徹するくらい、考えていますけれど、それでも、実践し、従業員と行動を共にすることが必要なのです。 

勉強と実践/行動が伴なって強烈な願望が心に描かれ持続するのです。このことを怠ったら、強烈な願望は私達の心から去っていくのです。 

  1. 誰にも負けない努力をする

地味な一歩一歩の積み重ねによって、偉大なことは成し遂げられるものです。地味な商売も積み重ねれば、いずれ巨大な山になっていくはずだと信じて、誰にも負けない努力を継続していくのです。こうしたことを従業員にも理解してもらい、実践してもらう様にするのです。こうすることによって、誰にも負けない努力をするとは、具体的にはどうするのかと考えるようになると思います。 

  • 従業員の先頭に立ち、率先垂範し、従業員が “社長はあんなに頑張っているのだ” と同情されること。
  • 従業員、お客様、仕入業者に対して、いつもオープンにして即座にいつでも対応できるようにしていること。
  • 創造的なこと、チャレンジすることに対して、決してあきらめず、努力に努力を積み重ねること。
  • 自分の体力、気力をいつも管理して、鍛え続けること。 

誰にも負けないというのは、自分も誰にも負けない努力をしていると信じているし、周囲の人もそういう自分を見てくれていると評価されるものでなければならないと思います。 

  1. 売上を最大限に、経費を最小限に

売上を少しでも増やし、経費をできるだけ減らすことです。 

売上をどのように増やしていくかが最大の経営の要諦だと思います。売上を増やすには、数えきれない程の方法があります。いろいろな売上の側面を考えることが必要です。 

  • お客様のベース - 多くのお客様を見つける。お客様の層を変える。
  • 販売ルート -新しい販売ルートを開拓する。日本の国内、国外。
  • 価格 - 値を上げるのか/下げて大量に売るのか。
  • お客様へのサービス - お客様のビジネスを理解し、その為に何をしたら良いか、徹底的に調査し、提案していきます。
  • 新製品の開発/新しい分野へのチャレンジ
  • 製品の品質改善 - 製品の品質管理を高め、良い製品を作る。
  • 製品輸送体制 - 製品の送付について改善する。お客様の近くに製品倉庫を設       置する。 

様々な分野で改良することが出来ます。  

しかし、売上を最大にするのに最も重要なことは、営業担当の従業員の教育です。と同時にそれを支える経営者、製造、倉庫等、他部門の従業員からの支援です。売上に関わる情報が、できるだけ正確に早く他の部署に伝達され、他の部署が直ちに反応することが大事なのです。 

経費を少しでも減らすことも全体、各部署からの支援・協力が必要なのです。 

  • 原材料 - 仕入担当者は、仕入先2社購買制度を採用する。
      - 計画的に仕入し、緊急仕入はしない。

      - 製造部では歩留まり率を上げる努力をする。代替原材料を見つける。

  • 労務費 - 製造計画を正しく正確に立て、人員の無駄使いはしない。

      - 労災が発生しない様に、安全管理を徹底する。

  • 製造間接費- 水、電気、ガス、油の無駄使いをなくす。

      - 機械設備・建物の修理・維持を定期的にして、製造工程がスムーズに
           進めるようにする。

  • 倉庫 - 製品の出荷ミスをなくす。 

経費削減の方法はいたるところにあります。いかに従業員に気づいてもらえるか、工夫が必要です。一番大事なことは、月次損益計算書の内容を共有することです。 

  1. 値決めは経営

値決めを間違いますと、いくら頑張っても経営は成り立ちません。値決めは経営そのものです。ですからトップが決断しなければなりません。 

例えば、競争相手が100円で売っているから、うちは90円で売ろう。ところが売上数量は増えたけれど、原価・経費をカバーできない。110円で売ると売上数量が減少し、人件費、固定費をカバーできず、経営が成り立たない。 

売価の決定には、原材料費、労務費、製造間接費、一般管理販売費、その中でも固定費をどこまで削減できるか等、全社の活動を考えなければならないから、経営なのです。営業部長が売値を決めることはできません。 

社長は、全社の活動をよく日頃から理解していなければ売価の決定はできません。社長は現場をよく知っていなければならないということです。 

  1. 経営は強い意志で決まる

経営者は、絶えず予断しない、不測のことに面します。競争相手、お客様の倒産、経済不況、自然災害、従業員不正行為、違法行為、訴訟、枚挙にいとまがありません。 

そうした時、自分の会社の目標が達成できないのではないかと悩みます。こうした事態に対しても、自分の信じた道を必死に置いていく、テコでも動かない強い意志、そういう強い意志が、先行き不透明な時代の経営には必要なのです。 

さらに経営者に迷いがありますと、従業員が一番に感じ取ります。従業員が不安になり、自信をなくし、会社の目的・意義について疑い出すのです。従業員に不安を与えてはなりません。 

  1. 燃える闘魂

経営には戦う勇気がいります。困難に面しても、従業員とその家族を守っていくには、激しい闘心がいります。母鳥がひよこを守るように、又、野牛がみんなで子牛をライオンから守るように、経営者はリーダーとして、会社を守り、従業員とその家族を守らなければなりません。 

もう1つは自分自身が自分の信念、目標に不安になったとき、自分を奮い立たせる、燃える闘魂が必要なのです。何くそ頑張るぞと自分を燃え上らせることが大事なのです。 

  1. 勇気をもって事に当る

経営する場合、卑怯な振る舞いがあってはなりません。自分の信念を貫き、困難に面しても、恨むようなことがあってはなりません。従業員の先頭に立つ勇気が経営者には不可欠なのです。 

  1. 常に創造的な仕事を行う

日々創意工夫を重ねることです。今日よりは明日、明日よりは明後日と、常に改良改善を絶え間なく続け、創意工夫を重ねていきます。 

お客様が抱えている問題を一緒に考え、解決策を練る。そうした創意工夫が自分自身の技術の向上に、会社の新しいプロジェクトになるのです。いつもチャレンジしていく姿勢が大事です。 

  1. 思いやりの心で誠実に

経営者には激しい闘魂、強い意志が必要ですが、同時に相手を思いやる心が必要なのです。目標達成の為に従業員に厳しい注文をつけることがあっても、一方では従業員の苦労を理解し、その苦労にむくうことも大事です。従業員が信頼してくれるようになる為には、経営者は真面目でやさしく、美しい、思いやりに満ちた心が必要なのです。 

  1. 常に明るく前向きで、夢と希望を抱いて素直な心で経営する

困難に面しても、過去のことにいつまでも固執することなく、目標に向って、明るく、前向きに、夢と希望を抱いて、経営することが大事です。 

前向きになるためには、いつも創造的なことに力を注ぎ、毎日創意工夫に力を注ぐようにします。そして、従業員と夢を共有するように、ことあるごとに夢を語り、一歩一歩実現していくのです。実現していく姿を見た従業員は、夢を信じ、前向きに、明るくなっていくのです。 

信ずれば必ず会社はガラリと変わる

経営12ヶ条を唯単に知っている、頭で理解しているだけでは不充分なのです。心の中に信念として持てるようになるまで、繰り返し繰り返し理性でもて心に染み込ませていくのです。 

これは経営者だけではなく、従業員にも理解を求め、従業員も経営12ヶ条を心に染み込ませてくれるように、共有してくれるようにすることが大事です。 

こうした努力を1年も続けますと、会社はガラリと変わるのです。変わらないのは、経営12ヶ条が心に染み込んでいないからです。自分自身が信じ込み、従業員もそれを信じ込んでいけば、会社はガラリと変わるのです。

盛和塾 読後感想文 第五十九号

原理原則に従う 

会社の経営というものは、筋の通った、道理にあう、世間一般の道徳にあったものでなければ成功しません。これに反した場合は会社の経営は長続きしないのです。 

他社のやって来たこと、一般に常識にのっとったこと、過去にやって来たことを参考にして、安易な判断をしてはなりません。 

経営組織についても、投資についても、財務についても、利益の配分についても、本来どうあるべきか、正しい判断はどうなのかとものの本質に基づいて判断していれば、海外であろうと、また今まで経験のない分野でも判断を誤ることはないと塾長は述べています。 

創業の原点を掘り下げる

事業が成り立つ二つの要素

必要なグロスプロフィット(粗利)が得られること。経験が余りなく事業を始める場合、いちばん大事なことは、そのビジネスが事業として成立する基本的な条件を備えているかどうかということです。事業を成り立たせていく為に必要なグロスプロフィットを、果たしてその事業は得られるのかどうかということが一番大事なことです。 

値決めは経営者がするのですが、その前にビジネスには事業そのものを成り立たせるグロスプロフィットが本当にあるのかどうかということを、事業を始める前に確認することが必要なのです。 

それぞれの業界、業態には、これまでの商習慣として大体のグロスプロフィットが決まっています。各企業の特異性によって、同じ業界の中でも、グロスプロフィットが異なることもあります。しかし、一般的に、その業界では暗黙のうちに決まってしまったグロスプロフィットがあります。 

小売業の場合ですと、グロスプロフィットは少なくとも30%必要です。卸売業の場合ですと、グロスプロフィットは最低15%は必要です。これらのグロスプロフィットは業界の平均値がそうだからといって、簡単に得られるものではありません。市場での競争で目標としたグロスプロフィットが確保できないのが普通です。 

日本食レストランの場合、食材費(材料費)の目安は30%です。30%を越えますと、レストラン事業は非常に苦しくなってきます。できるだけ安い食材を使って売れる料理をシェフは考えなければならないのです。仕入値の交渉、仕入方法、食材を充分生かし、無駄のない料理方法、見た目にも素晴らしい美味しい料理、ボリュームも充分な料理をつくるのが繁盛するレストランです。 

製造業の場合には、材料費は20~30%、労務費は30%、製造間接費は20%、税引前利益は10%くらいの目安が必要です。高い付加価値を与えて売る、つまり原材料費が10%になるくらいまでに高度な技術を使い、高度な加工をして、付加価値を高めて販売していくことが、製造業の基礎であり、要諦となります。 

京セラでは原材料は金属の酸化物です。原材料の仕入価格は決して高いものではありません。その原材料を使用し、新しい人工鉱物を合成し、高精度の焼き物を製造します。高い合成技術と焼成技術が京セラにはあります。過去に誰もがなしえなかったことをやってきたのです。 

材料費、労務費、製造間接費、一般管理販売費、目標利益を合計して、コストを積み上げて製品を売ってはいません。出来上がった製品が素晴らしい性能を持ち、使ってもらう人が正しく評価して買ってもらうのです。すなわち、コストの積み上げで値段が決まるのではなく、出来上がった製品のパフォーマンスで決まるのです。お客様が喜んで受け入れてくださる値段が、販売価格なのです。 

事業として成り立つかどうかという基礎的なことを、まず検討して手を出さなければ、朝から晩まで寝ずに頑張ってもなかなかうまくいかないのです。 

将来性が見込めること

今後マーケットが大きく広がっていくのかどうか、市場の発展性を見極める必要があります。自分の知っている特定の狭いエリアだけでしか発展しないような場合は、一生懸命に打ち込んでも将来性はありません。 

十分なグロスプロフィットが見込めること、頑張ればマーケットを拡大していくことが出来、将来の発展性が見える事業であることが大事になります。 

事業の目的意義を明確にする 

言葉が従業員をモチベートする

従業員と共に働くとき、いつも共同経営者なのだという気持ちで接していくことが大事です。1人や2人でいくら頑張っても、たかが知れています。従業員の手助けが会社経営には大切です。雇った人たちをパートナーとして “私はあなたたちを頼りにしています” という形で迎え入れることが大事なのです。“頼りにしています。家族の一員として、一緒に経営に、仕事に参画していただきたい。”とことあるごとに伝えることが大事です。従業員が、“そうおっしゃってくれるなら、私も手伝ってあげましょう”と言ってくれるまで、話し、接していくのです。“たらし込む” のです。 

仕事の目的・意義を説く

従業員をたらし込んで、自分のパートナーになってもらうためには、“事業の目的・意義を明確にする” 必要があります。“公明正大で大義名分のある高い目的を立てる”ことが大事なのです。 

仕事の中では、毎日単純な仕事、きたない仕事、危険な仕事、きつい仕事があります。服も汚れ、床も汚れ、3Kの仕事です。ところがその仕事が新製品で、お客様がどうしてもほしいものであり、誰も作ったことがないような事があります。この仕事を従業員にやってもらう時、“乳鉢でこの粉末をすりなさい”という風にしてしまいますと、全然面白くありません。この作業はどういう意義のあることか、充分理解してもらうのです。“この工程は、最終的に、世界に類のない、すばらしい製品になるのです。お客様が、世の中が待ちに待っているものです” と仕事の目的・意義を従業員に分かってもらうようにすることが大事です。

夢を語る

京セラは創業の時から一生懸命夢を語ってきました。原町で一番になったら、中京区で一番になろう、中京区で一番になったら、京都で一番になろう、京都で一番になったら、日本で一番になろう、日本で一番になったら、世界で一番になろう。私達がつくっている特殊なセラミックは今後世界中のエレクトロニクス産業が発展するためにどうしても必要になる。 

一見不可能な夢を語り続けて来たのでした。ところが、一つ一つクリアしていきますと、従業員の目が輝き、夢を次第に信じるようになったのでした。京セラはセラミックでは世界一の企業に発展しました。 

コンパを通じてモチベートする

自分たちがやっている仕事にはどういう目的があるのか、仕事の意義はどうなのか、また会社の目的・意義はどうなのかということを話していく、経営者の私利私欲に基づいたものではなく、大義名分のある、普遍的なもの、わかりやすく、みんなが共鳴してくれることを話していく。 

“私は皆さんを頼りにしています。皆さんと一緒にそういう会社をつくり上げようと思っています。ぜひ協力して下さい。1人や2人でやれるわけがない。みんなの力がいるのです” 

このような事業や仕事の目的・意義を、再三コンパを通じて従業員に話し、研修の中でも繰り返し話し、共鳴してくれるレベルまで、話し合いをすることが大事なのです。 

アメリカの企業の中でも、リゾートホテルを借り切って、全米、全世界からセールスマンを集め、3~4日の研修をします。夕食には夫婦同伴で、食事、パーティをします。社長や外部の有名人も招待されます。リゾートに缶詰にして教育し、もてなしをします。このようにコンパをしながら、従業員をモチベートします。 

リーダーの持つ哲学を説く

自分の仕事の目的・意義、また会社の目的・意義を従業員に話していきながら、共鳴してもらう。目的・意義を追求していくために、自分はこうした考え方で経営をしていくつもりだということを話していきます。そこには経営者が持っている人生哲学、フィロソフィーが必要なのです。 

人は何のために働くのか、私自身は人生をどのように生きていくつもりなのか、そして従業員の方々と一緒にどのような生き方をしていきたいのかという経営者の哲学・思想が、目的・意義の話をしている中で、話される必要があります。社長がそういう立派な考え方をしているのなら、我々も共鳴し、一緒に協力しましょうというふうにしていかなければなりません。 

こういう人生観を持ち、こういう哲学、思想を持って会社経営をしていくつもりです。“私は利他の精神で他人さまを助けていく、思いやりに満ちた心でやっていくつもりです” と従業員に語りかけるのです。 

従業員の方々が経営者の哲学・思想に共鳴してくれますと、仕事に一生懸命になるのです。また、みんなが本当に結集して、力を合わせていく様になるのです。 

フィロソフィーを共有する

私達は、上記のような哲学・思想を持っていないことがあります。その時、松下幸之助さん、稲盛塾長の本、テープを使って勉強するのです。一度だけではなく、何度も勉強します。そして、勉強したことを自分の言葉で、従業員に語りかけるのです。最後には、 “私はこう思う” となり、素晴しい言葉を自分のものとして話していくようになります。話していくうちに、従業員がますます信頼をして、まとまっていくのです。 

フィロソフィーを語れる経営者が経営する企業は伸びていくのです。フィロソフィーを共有している度合いが会社の業績に比例していると言えるのです。 

海外では必ず真意を伝える

海外で経営する場合、日本人以外の従業員が働いてくれています。会社の目的意義、経営者としての哲学・思想を海外の企業の従業員に伝えるのは、簡単ではありません。仏教、キリスト教、イスラム教、様々な宗教があり、文化・言語も違います。そうした場合にはあらかじめ自分の原稿を準備し、通訳の人と綿密な打ち合わせをすることが必要です。 

アメリカでの日本人を見ますと、個人として医師、弁護士、会計士と仕事の良く出来る人を多く見かけます。ところが事業家は非常に少ないように思います。日本人は現地の従業員をモチベートして自分のパートナーにして巻き込んでいくことができないからだと思われます。従業員を魅了し、惚れ込ますには、どうしても言葉ありきなのです。まず言葉ありきなのです。 

海外でも通じる普遍的な哲学を持つ

日本文化はキリスト教圏、イスラム教圏では、余りにも異なる為、受け入れてもらえないのではないかと考えている日本人が多いと思います。 

しかし、仏教、キリスト教、イスラム教という、いずれの社会の中にあっても、決して矛盾しない哲学があるはずです。それを自分たちの哲学・思想として持てば、どんな文化圏であろうと理解してもらえると思います。 

アメリカの中で、ハーバード、MIT、プリンストンを卒業したインテリの人達が入社して来ます。そういう連中を“なるほど”と納得させ、共鳴させようと思えば、しっかりした哲学と豊かな一般教養を持っておれば、そういう人たちを説得することができるのです。

盛和塾 読後感想文 第五十八号

常に謙虚であらねばならない 

人間は誰でも少し成功しますと、自分を過大評価して、傲慢不遜になることがあります。そうしますと、周囲の人達の意見に耳を傾けなくなってしまうことがよくあります。周囲の人達からは協力を得られなくなり、孤立化してしまいます。また、人の意見を無視しますから、自分自身の成長の妨げにもなります。 

会社の成功には、社員の方々からの協力を得、会社のベクトルを合わせて、社員皆の協力があることを忘れず、いつも謙虚な姿勢を保つことが大切なのです。 “皆のお陰だ” という気持ちを事あるごとに社員に伝えることが大事なのです。 

何故経営に哲学が必要か - 経営の心は万国共通パラグアイ 

塾長はブラジルのみならず、パラグアイ商工会議所の要請に応えられて、講演しました。 

京セラの紹介

京セラは1959年に創業しました。京セラは、塾長の開発したファインセラミックス部品の開発から事業を開始しました。 

京セラグループには、第二電電(KDDI)の傘下に、長距離電話会社、携帯電話会社もあり、素材、部品、機器、サービスまで垂直展開をする、世界でも類を見ない営業形態の企業グループです。1997年の業績は以下の通りです。 

1997                                    売上高                       税引前利益                   営業利益率

京セラ                                     7,253憶円                 1,054憶円                      14.5%

第二電電(KDDI)                12,000憶円                    650憶円                       5.4%

 この2つのグループ以外にも、カラオケやアミューズメントの事業を行っています。3社とも株式は上場されています。時価総額は約3兆円です。 

先進国に荒廃をもたらした倫理観の希薄化

第二次大戦後、日本ではお互いに切磋琢磨して経済が発展してきました。そして、敗戦後20年もしない内に、世界有数の工業国になりました。 

しかし、ただ利潤を追求するという日本企業の経営思想/姿勢が、社会に多くの歪みをもたらしました。企業活動による公害の発生です。地球環境や国民生活を無視した生産活動の為、日本の川、海は汚染され、日本の空まで空気汚染にさらされました。 

公害問題は少しづつ解消されていますが、利益のみを追求する姿勢はますますエスカレートしてきています。こうした風潮は、バブル経済を巻き起こし、経済界、政界、官界の多くのスキャンダルに連なってきています。目を覆うような不祥事が多く発生しています。 

日本以外の先進国でも、同様のことが発生しています。これらの主な理由は、資本主義社会における倫理観の希薄化があります。 

キリスト教の宗派の中で、プロテスタントの人々の倫理的な教えに基づいて、資本主義が、発生してきたと思われます。資本主義が勃興し始めた時は、日常生活は出来るだけ質素にする、労働を尊び、労働で得た利益は社会の発展の為に活かさなければならないという社会的規範があったのです。つまり、世のため人のため、利潤は追求されていたのでした。 

こうした倫理観も、利益を追求することが目的となり、利益を上げる為、自分の利益を確保する。自分だけ良ければよいという風潮となり、次第に本来の倫理観が希薄化してしまったのです。 

経営哲学の共有化

社会のリーダーや経営者の方々が、資本主義の原点にあった自分の為ではなく、社会の為に利潤を追求するという基本的な哲学を学ぶことが必要になっているのです。 

社会全体に、正義とはなにか、公正であるとはどういうことなのか等を、真剣に考える風潮や、謙虚さ、努力、思いやりを大切にするという意識を高めることが必要なのです。 

そうだとしたら、ただ単に批判するだけではなく、自分の会社の中でもこうした立派な倫理観・経営哲学を育てるように実践していく事が大切です。 

京セラグループの成功は、経営者が正しい経営哲学を持ち、それを全従業員が自分のものとして理解した上で、その経営哲学に適う(かなう)行動をとり、誰にも負けないくらい一生懸命に努力したからだと思います。また、成功しても謙虚さを失わずにきたからこそ、今日まで発展し続けられました。 

判断基準のベースは人間として何が正しいのか

塾長は27歳で京セラを創業しましたが、経営をした経験も、経営の勉強もしたこともなく、毎日の経営判断に困り果てていたそうです。その時、経営は知らないのだから “人間として何が正しいのか” をベースにしていこうと考えました。人間として正しいことなのか、善い事なのか悪い事なのかという、大変原始的で幼稚な判断基準を経営の判断基準にしたのでした。 

プリミティブな倫理観、道徳観が成功をもたらす

経営の経験がない塾長は、最もベーシックなプリミティブな倫理観、道徳観をベースにして、経営を進めてきたことが、現在の成功をもたらしていると述べています。 

人間として何が正しいのかを原点に置き、どのような状況に置かれようとも、正義や公正さを追い求めていく姿勢を失わず、勇気、努力、謙虚さ、思いやり等、最も大切な価値観を尊重するという経営哲学が稲盛塾長の哲学です。 

常に正しいものを求める心、理想を追い続ける心を持たなければなりません。 

物事に対処するには、誠意、正義、勇気、愛情、謙虚な心を持たなければならないのです。自己中心的な発想に基づいた行動をとったり、つい謙虚さを忘れて尊大な態度をとったりしてはなりません。他人に対して嫉妬心や恨みを抱きがちなのが人間です。このような心では正しい判断はできません。人間は自分にとって正しい判断をしますが、そうではなく、人間として正しい事、人間が持っている誠意、正義、勇気、愛情、謙虚な心を持って人間として正しい判断をすべきなのです。 

努力には限度がありません。限度のない努力は、本人が驚くような偉大なことを達成します。努力こそが偉大なことを実現します。努力とは、限度のない、つまり誰にも負けない努力、また持続した努力の事です。努力についてはこれくらいでいいという限度はありません。際限のない努力を積み重ねていく事によって、初めて偉大なことが達成できるのです。 

経営哲学の欠如から生ずる企業の歪み

経営者に明確な経営哲学がなく、経営手法や技術力を重視し、ただ単に利益の増大を目指し、合理性や効率性を追求して経営をしていると多分、儲かればよいという風潮が生まれ、利益の為だから少しぐらい不正をしてもいいだろうとなるのです。 

利益を上げることの出来る有能な社員は、会社の地位と権力を手中にして、不正な行為をしてまでも、利益を追い求め、ひいては自分の収入さえも増やそうとします。 

社内で不正が見過ごされますと、会社のモラルは堕落してしまします。

こうした堕落した風潮は、会社の業績を悪くしていきます。 

人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力 の方程式で表される

人間は生まれながらにして、良い性格を持っています。しかも人間は、自分自身の欲望に負け、環境に負け、対面を気にして、知らず知らずの内に人間の道に反することを平気でやってしまうのも事実です。その為に、私達には困った時に判断基準となるべき、哲学が必要なのです。経営者は、高い倫理観に裏打ちされた経営哲学を持ち、それに基づいて自分自身を戒めると同時に、それを社員と共有できるようにするべきなのです。 

人生・仕事の結果は、考え方、熱意、能力によって決まります。能力は先天的なものですから、変えることは困難です。熱意はどうしたいという強い願望に裏打ちされたものです。能力も熱意も0点から100点まであります。 

しかし考え方には、マイナス100点か~プラス100点までがあるのです。考え方とは、どういう心構えで人生を送り、仕事をするかという事です。つまり、怒りや嫉妬、妬み、恨み、不平不満はマイナス、明るく前向きな思い、相手を思いやる優しい思いを抱く場合は、プラスなのです。この考え方がプラスですと、人生・仕事の結果はプラスとなるのです。 

能力があり、熱意もあり、自分の目標を大きく掲げ、正しい考え方をすれば、大成功するのです。能力が劣っても、熱意や正しい考え方を持っている経営者は、成功の道を歩むのです。 

経営12カ条

以下の経営12カ条を実践しますと、必ず経営は成功します。 

  1. 事業の目的、意義を明確にする

なぜこのような事業をするのか。目的を明確にすることが必要です。その目的には、一緒に働く従業員が心から受け入れてくれるような公明正大な大義名分が必要です。もし、事業目的が経営者自身の利益だけを増大させようとするものであれば、従業員は一生懸命に働く気はしなくなります。 

  1. 具体的な目標を立てる

今月の売上や利益等、目標を数値化し、必ず達成するように全従業員に訴え続けます。従業員の経営への参画を図るのです。 

  1. 強烈な願望を心に抱く

強烈な願望とは、心の底からその実現を心に描き、それが自分の潜在意識にまで透徹していくような願望のことです。 

  1. 誰にも負けない努力をする

具体的な目標を立てていますと、それに向けて限りない努力をするのです。地味な仕事を一歩一歩堅実に行うのです。 

  1. 売上を最大限に、経費を最小限に抑える 
  2. 値決めは経営

経営者は値決めをしなくてはなりません。値決めを軽く扱い、利益が獲得できなくなるようではいけないのです。 

  1. 経営は強い意志で決まる

建てた目標を安易に諦めてはいけません。目標達成の出来ないことの言い訳を決してしてはいけません。目標は必ず達成するのだという強い意志が経営者には必要です。 

  1. 燃える闘魂

常に厳しい競争にさらされている企業は、毎日が真剣勝負です。絶対に負けないという激しい闘魂が必要なのです。 

  1. 勇気を持って事に当たる

周囲の人から反対されたりしても、 “人間として正しい” と考えた時は、自分の主張を堂々と主張するべきです。正しい事を貫くためには、勇気が必要なのです。 

  1. 常に創造的な仕事をする 
  2. 思いやりの心で誠実に 
  3. 常に明るく前向きで、夢と希望を抱いて、素直な心で経営する

経営者は、決して物事を否定的に見たり、批判ばかりしてはなりません。暗い表情、不平不満、愚痴を部下に漏らすようでは失格です。否定的な言葉や心は、不運を呼び寄せてしまいます。 

 “動機が善” は、電気通信事業の成功を導きました。塾長は自分に厳しく問いかけました。そして、自分の為ではなく、世のため人の為に電気通信事業に参入しました。不利な条件下ではありましたが、移動体通信事業も成功しました。首都圏をどうしてもシェアしないトヨタグループの主張を受け入れ、首都圏以外で事業を開始したのです。争ってばかりでは、移動体通信事業が日本では育たないと考えたのです。こうした争いは日本国民の為にはならないと考えたのでした。