盛和塾 読後感想文 第七十九号

謙虚な姿勢を保つ 

リーダーは、常に謙虚でなければなりません。権力のある座につくと、人間は堕落し、傲慢不遜(ごうまんふそん)になってきます。このようなリーダーの下では、たとえ一時的に成功しても、周囲からの協力が得られなくなり、集団が永続的に成長・発展していくことはないのです。 

日本古来の思想、相手が存在し、自己が存在する、あるいは全体の一部として自分を認識するという考えがあります。このように相対的な立場で、ものごとを捉えることによってのみ、集団の融和と平和を保ち、協調を図ることができるのです。 

リーダーは、部下があってはじめて自分が存在します。自分は部下が支えてくれているから、リーダーとして役割を果たすことができるという謙虚な姿勢を持たなければなりません。 

謙虚な精神を持つリーダーであってこそ、融和と協調の下に、成長・発展を続ける集団を築くことが可能となります。 

稲盛和夫の実学をひもとく 一対一対応を貫く 

一対一対応の原則の理解

一対一対応の原則は、会計処理として厳しく守らなければならないだけではありません。企業のその中で働く人の行動を律し、内から見ても外から見ても不正・誤びゅうのない、透明なガラス張り経営を実現するために重要な役割を担うものです。

・会計処理

・不正・誤びゅう防止

・ガラス張り経営 

  1. モノ・お金の動きと伝票の対応

経営活動においては、必ずモノとお金の動きがあります。その時、モノと伝票が必ず一対一対応を保たなければなりません。モノ又はお金の動きにはその動いた瞬間に、取引きを追跡できる証拠書類 (Traceability)が作成され、正式な承認がなされていなければなりません(迅速主義とAccountability – audit trail)が必ず守られなければなりません。これを一対一対応の原則と呼びます。 

この当たり前のことが守られないのです。その理由は、経営者、トップが会社の定めた会計・経理規定を無視し、伝票作成をしない、又、経理も含め正式に伝票を発行する営業担当者が忙しくて時間がない等が問題です。悪意で伝票操作することもあります。売上が今日は一千万円足りないので、お客様の同意を得て、売上伝票一千万円を発行し、架空の売上計上をします。製品はお客様には出荷されません。翌月、返品処理-お客様に返品伝票を発行してもらい、売上の取り消しをします。 

このようなことが日常的に行われますと、経理の数字はいくらでも変えられるものだと、社長も従業員も考えてしまいます。 

例えばレストランのケースがあります。

ウエイターがお客様から注文を取ります。その注文をキッチンに渡します。キッチンが作ったラーメンをウエイターはお客様のテーブルに配膳します。お客様が食べ終わりますと、ウエイターは請求書をお客様に渡します。お客様は請求書を持ってレジに行き、支払いを済ませます。 

注文を取った時、ウエイターは2枚の受注伝票が必要です。一つはキッチンに渡します。もう一つはウエイターの控えです。キッチンではラーメンを作った時、キッチンの注文書にコックのイニシャルを付けます。ウエイターは控えの注文書にチェックマークを入れて配膳します。お客様がお食事を済まされた時、ウエイターはレジに行き、請求書をもらって、お客様に請求書を手配します。 

キッチンのコックは、作ったラーメンと注文書を確認することができます。ウエイターは控えの注文書と配膳したラーメンとを照合します。お客様はレジに行き、ウエイターからもらった請求書に基づいて、クレジットカードで支払います。レジはクレジットカードの領収書とウエイターへ渡した請求書を照合します。このように、モノの動き、お金の動きには必ず伝票(会計記録)がついて回るのです。 

1日の終わりにラーメン200杯売れました。レジはキッチンのコックからの報告と入金が合っているかチェックすることができます。こうすれば、ウエイターが自分の友人から食事代を受け取らない、タダでラーメンを食べさせてしまうことはできません。キッチンはラーメンを200杯作りました、ウエイターもラーメン200杯配膳しました。レジも200杯お金を受け取ったことを、毎日チェックが出来るのです。 

モノもお金も伝票と一対一対応で処理することで、会社を正しく管理できる

一般的にお客様に納品する時は次のようなステップが取られます。

お客様から受注する。受注伝票が発行され、お客様に確認する。受注が販売部に記録される。お客様への発送をする時は、出荷指図書を発行し、倉庫が荷造りの為の出荷指図書に基づき、倉庫は製品を出荷する。営業部は出荷指図書と納品書を発行します。営業部は売上伝票と請求書をお客様に送付し、経理部は入金を確認します。 

お客様に納品する時は、納品伝票と売上伝票を発行し、納品伝票を品物に必ずつけます。請求書も付けます。納品の仕方にはいろいろありますが、どのような時でも必ず納品伝票が荷物についています。納品した時には必ず、納品伝票の写し、受領書にお客様からサインを頂きます。これが一対一対応なのです。 

ところが、このように品物と納品伝票(受領書)が一緒に動かないことがあるのです。お客様に催促され、時間がないために伝票を発行する前に、営業部はお客様に届けるようなことがあります。お客様から受領書は受け取っていないのです。“伝票は後ほど届けます” と品物だけ先に持っていってしまうのです。こういうことがいくつか重なりますと、お客様の方でも仕入計上はしていません。こちら側も売上処理が遅れてしまいます。その為に、会社の売上記録が正確でなくなります。例えば、納品伝票に受領印がないまま、売上伝票が発行されますと、売掛金が計上されます。お客様の方では、納品伝票の仕入計上はしていません。売掛金の回収が遅れていますので、経理部、又は売掛金担当がお客様に売掛金支払いの催促をします。そうしますと、お客様は “うちの方では仕入計上がありません。お支払いできません” と回答してきます。渡した証拠がない為、あきらめざるを得ないのです。 

出張の仮払いについても一対一対応の原則違反がよくあります。営業部長が出張するので100,000円仮払いしてくれるよう経理部に依頼して来ます。通所は仮払い申請書を提出し、上司の承認を得るのですが、時間がないため、仮払申請書なしで100,000円現金を渡してしまいます。営業部長は出張から帰り次第、出張精算すると言って来たのです。 

こういうことが大きい企業で行われますと、経理部では処理が大変です。中には出張申請書提出や、清算することを忘れてしまう人もあります。経理部では多くの出金の為、現金出納簿につけていないことも発生します。会計監査をする時のポイントの一つに、現金出納簿が正確かどうかということがあります。入出金の際に必ず一対一対応で伝票を起こし、伝票でその日一日の入金と出金をきちんと管理していきますと、金庫残高が金銭出納簿の残高ときちんと合います。 

一対一対応の原則を徹底させれば、粉飾決算はありえない

“一対一対応の原則” とは先述のような、現金出納帳の残高が現金残高に合わない、あるいは品物の納入の際、納入受領伝票が発行されていない、品物の動きがないのに売上伝票が発行される、というような事態を防ぎ、発生したすべての事実を即時に認識し、ガラス張りの管理のもとに置くということを意味します。社内に一対一対応を徹底させると、誰も故意に数字を作ることができなくなります。伝票だけが勝手に動いたり、モノだけが動いたりすることはありえなくなります。モノが動けば必ず起票され、チェックされた伝票が動く。こうして数字は事実のみを表すようになります。 

一対一対応の原則の要諦は、原則に徹することです。事実を曖昧にしたり、隠すことができないガラス張りのシステムを構築し、トップ以下の誰もが “一対一対応の原則” を守ることが、不正を防ぎ、社内のモラルを高め、社員一人一人の会社に対する信頼を強くします。 

“一対一対応の原則” が守られていれば、モノやお金が動かなければ伝票が動かないわけですから、伝票を動かして会社の業績を変えること、粉飾ができません。“一対一対応の原則” は、透明性のある経営、ガラス張りの経営を行うためのベースとなるのです。 

大きな組織の場合には、社長が実態を全くわかっていないことが多いようです。経理部が作成した決算書を見ただけで、経営の実態が把握できたつもりでいます。会社の実体は末端がきちんと情報を上げなければわからないものです。会社が大きくなっていけばいくほど、経営トップが裸の王様になってしまって、何も知らないうちに、下が好き勝手なことをしているということにもなりかねません。 

一対一対応が正しく行われていないと実績の数字は歪む

京セラ創業から三年目の1962年、京セラはカリフォルニア州サニーベイルというところに営業所を作り、現地の仕事が始まりました。会計の全く経験のない2人の従業員がアメリカでのビジネスを開始しました。フェアチャイルド社からの注文が増加していました。半導体産業の勃興期でした。フェアチャイルド社からは京セラに注文が徐々に増えていきました。フェアチャイルド社からせかされて日本から製品を航空便で送り、サンフランシスコ空港に着くと、すぐに仲業者が荷揚げをし、サニーベイルの事務所に届ける。製品は直ちにフェアチャイルド社に届けます。 

フェアチャイルド社へは製品納入時に売上伝票、納品伝票(受領書)を発行します。しかし、仕入伝票はまだ立てていません。仕入には信用状(Letter of Credit)を銀行から発行してもらっていました。信用状は銀行が、輸出先の支払いを保証してくれるものです。信用状や輸入関係の書類が届くには、品物が輸入されてから一週間かかります。これらの船積み書類が届いた時に仕入伝票を発行していました。 

例えば3月28日に百万ドルの製品をフェアチャイルド社に売りました。3月28日付で売上伝票、納品伝票が発行され、3月に売上が計上されます。仕入関係書類は4月5日に到着しました。90万ドルの仕入伝票が発行され、4月に仕入計上されます。売上は3月、仕入は4月に計上されます。このままですと、3月には百万ドルの利益が計上されますが、4月には90万ドルの赤字となってしまいます。 

受注に大きな変動がないにも関わらず、月によって売上や利益が大きく変動するのは、管理がうまくいっていない証拠です。一対一対応が現実にできていないことによって売上と利益が月次で大巾に変動しているということがわかったのです。従って、製品が届いた時には仕入伝票が、製品がお客様に納入された時には売上伝票が発行されなければならないのです。 

京セラの管理体制と公認会計士

京セラが株式を上場する時に、銀行から公認会計士を紹介して頂きました。公認会計士は、経営者の人物を見てから監査を引き受けるかどうかを判断しますと言われ、おどろきました。“正しいことを正しくやれる経営者でなければ、私は監査の依頼をお受けしません” と言うのです。京セラも、そういう会社ですから、とお願いすることになりました。宮村久治公認会計士です。 

宮村さんは早速サニーベイルに来られ、監査されました。ところが調べてみると、すべての伝票が一対一対応で処理されている。現預金の管理をする小さな金庫を開けて現金と帳簿を照合しますと、一セントたりとも違っていない。宮村さんはびっくりされたのです。 

京セラの米国現地法人においても、一対一対応の原則を厳守してきた為、経理的な問題を起こすことはなかったのです。 

大企業相手でも頑なに拒んだ 一対一対応に反する支払処理

お客様の中には資金繰りの都合で、京セラへの支払いが約束通りに支払われないことがありました。大企業の各部門と取引をしていますと、お客様の経理部はいくつかの事業部の買掛金の支払いをまとめて本社経理部が集中管理していました。“今月は資金繰りがつかないので、とりあえず二千万円支払います。あと残りの三千万円は翌月に支払います” ということがあり、営業部は二千万円の小切手をもらって帰りました。その時、この二千万円の支払いは “どの売上伝票のものですか。この二千万円の内訳をどの請求書のものかお知らせしていただけないと、入金処理はできないのです” と頑固に入金処理に一対一対応の原則を適用したのです。 

売掛金には請求書をお客様別、年齢別(請求書日付別)に管理する売掛金年令調査表がコンピューターにあります。入金がありますと、この入金はどの請求書に当てはまるものか、一つ一つ消込みをしなければなりません。 

この事例を見ますと、この大企業の経理部は一対一対応の原則をしておらず、会計管理に問題があるということが判明したのです。 

京セラは “一対一対応の原則” を貫かなければいけないという自らの主張を曲げませんでした。必ず一対一対応の原則を守らなければ、信頼に値する会計資料は作れないのです。“一対一対応の事例” は、どのような会社、どのような組織でも適用する会計の基本中の基本です。これがなくては会計はおろか企業経営がおかしなものとなるのです。