盛和塾 読後感想文 第八十六号

部下をモチベートし続ける

リーダーは部下の人たちを常にモチベートし、やる気を起こすように努めなければなりません。目標に向かって燃える集団をつくるには、部下が常にやる気をもって仕事ができるようにすることが不可欠です。 

職場の環境に気を配り、働きやすい様にする。部下が困っているようであれば、親身になって相談に乗り、アドバイスを与える。予定を達成した時や立派な仕事をした時には、ねぎらいの言葉を忘れない、長所を見つけて褒めるなど、部下がやる気をもって仕事に取り組めるような雰囲気をつくることが必要なのです。 

集団をまとめていくためには、人間の心理がわからなくてはならないのです。部下の心に響くような細やかな配慮が常にできるようにならなければ、すばらしいリーダーにはなれないのです。 

これは従業員に迎合せよと言っているのではありません。会社の原理原則に基づいてその考え方に照らして、伝えるべきことは伝え、褒めることは褒めることでなければなりません。この時、各従業員に話す場合、会社の原理原則を外れることを受け入れてはなりません。厳しさの中にも温かい言葉、態度で接することが必要と思います。 

不況を次の発展の飛躍台に 一つの予防策と五つの対策 

不況は成長のチャンス

不況は成長のチャンスです。企業は不況というものを境に体制を強化し、次の飛躍に備えることで、発展していくのです。 

不況は大変苦しいのですが、次の飛躍へのステップとする絶好の機会としなければなりません。そして不況が厳しければ厳しいほど、明るくポジティブな態度で全員一丸となって創意工夫を重ね、努力を傾けて難局を乗り切っていくことが大切です。 

経営者は不況に遭遇しますと、心配で夜も眠れないくらいになります。しかし何回も遭遇していきますと、従業員の結束が強固となり、それが竹の“節”のようになります。“節”がいくつかできますと、その都度、会社が大きく飛躍したことになるのです。 

不況のたびに全従業員が結束し、ひとつになって頑張ることによって、次の飛躍の足がかりとなる“節”が作られていきます。 

不況に備えての予防策-高収益であれ

高収益であるということは、不況になって売上が減少しても、赤字に転落しないで踏みとどまれる抵抗力があるということです。つまり高収益は不況への最大の予防策となるのです。 

また高収益企業では内部結束が増加しているので、不況が長引き、利益が上がらない状況が続いても、耐えることができます。さらに余裕資金を使って不況でさらに安くなっている設備を購入するなど、思い切った設備投資もできるのです。経営とは、不況で追いつめられて頑張るのではなく、かねてから高収益になるように、全力を尽くしておくべきものなのです。 

  1. 高収益であれば売上が激減しても利益を確保できる

いつなんどき不況に陥るのかはわかりません。その不況に対する予防策をかねてから考えていたかどうかということが大事なのです。 

製造会社の場合ですと、売上総利益率は最低30%を確保し、一般管理販売費を20%に抑え、10%の税引前利益を確保する。その為には付加価値生産性の目標を3と設定します。すなわち一時間当りの付加価値が一時間当りの人件費(給与、社会保険料、健康保険料、労災保険)の3倍になるように努めるのです。 

このように、普段から高収益の企業体質をつくりあげておくということが、不況に備えての最良の予防策となるのです。 

普段から利益率が高いということは、固定費も少ないわけですから、10%ぐらいの利益率を出していれば、売上が減っても利益は5%、3%と減少するだけで済むのです。売上が40%ぐらい減らなければ、赤字には転落しないのです。 

過去にはオイルショック、円高ショックが日本経済を直撃しました。しかし京セラの税引前利益率は30%ほどありました。独創的な技術で誰にも作れないようなファインセラミックス製品を作っていましたから、たいへん高い利益率を維持していました。そのために売上が大きく下がっても赤字には転落しなかったのです。 

オイルショックが日本経済を直撃した1973年、1974年、大手企業も次々に操業停止に追い込まれ、従業員を解雇し、レイオフするか、あるいは自宅待機させていました。そうした中で、京セラは解雇もレイオフも、自宅待機もさせていないのです。 

不況が来た時に慌てても、利益率の向上は望めません。かねてより利益率が高いということが、不況に対する第一の備えになるのです。 

  1. 豊富な内部留保が従業員の生活を守る

高収益の体質を続けている企業の場合、内部留保も相当あります。そのため、不況となって赤字転落をしたとしても、一年や二年なら、銀行からお金を借りなくても、従業員をクビにしなくても、十分に持ちこたえることができるわけです。 

高収益だからこそ、内部留保を蓄積していくことができるのです。不況になれば、従業員は動揺します。その時、“心配しなくてもよい、立派な会社が次々に倒産していくような不景気になっても、我社は生きのびていくことができる。売上がゼロになっても、従業員に飯を食わせていけるだけの内部留保がある。みんな心配しないでくれ。みんな落ち着いて頑張ろう”と京セラでは言っていたそうです。人心の動揺を抑えることができたそうです。 

松下電機の松下幸之助さんが言われた“ダム式経営”こそ、内部留保の蓄積なのです。不況に対して備えをしてきたことは、従業員の心の安定にもつながります。不況になって、みんなが心配し、慌てふためくのではなく、落ち着いて不況克服に努めることができるのです。 

しかし、アメリカを中心とした海外のファンドや投資家たちは、巨額の資金を動かして企業の株式を購入し、それに伴う利益によってビジネスをしています。そういう人たちは株主資本利益率(ROE) Return On Equity を重視します。何故なら、投下資本の価値が短期間に得られることを目的にしているからです。ROEが上昇すれば、株価の上昇に繋がります。 

例えば投資ファンドがある会社の株式を十億円で購入しました。その時、ROEは20%でした。ところがROEが40%に上昇しますと、株価に対する利益が二倍に上昇しますから、株価は二倍近くになると考えているわけです。ですから、自己資本が少なければ、OREは当然上昇します。ROEが上昇しますと株価が上がるというわです。こうした投資家の人たちは自己資本に対していくらの利益が出たのかということをみていきます。 

こうした投資家の目からみますと、自己資本が大きければ大きいほど、それだけの自己資本を使ってたったこれだけの利益しか出なかったのか、つまり投資効率が悪いという判断をします。そのために、経営者までが、ROEを上げなければならないのだから、内部留保したお金を使って次から次へと企業を買収したり、設備投資をしたりするなどをして、短期的にでも利益を出そうとします。 

ROEが高い企業がよい企業だということが経営の常識になっているのは、短期的に企業を見た時の尺度でしかないのです。何十年も会社経営をしようとする企業にとって安定が何より大事です。大変な不況が押し寄せてきたときに、十分に耐えていくことができるだけの累積が必要なのです。 

不況対策1.全員で営業する

不況時には全従業員がセールスマンでなければなりません。営業や製造、開発はもちろん、間接部門にいたるまで全員が一丸となって、アイデアをお客様に提案し、受注へと結び付け、納入まで行う。そのようなことを通して、自分自身も部内だけではなく、会社全体の仕事が見えてきます。営業の手伝いで単に走り回るというのではなく、自分達の日頃のアイデアを商品にして売るということを考えるのです。 

  1. 製造と営業の融和を図る

京セラでは、研究する者は研究し、技術開発する者は技術開発し、モノを作る者はモノを作り、営業をする者は営業をするといったように、すべて分業になっていました。ところがオイルショックの不況で受注残が二億円から三億円にまで減少しました。つくるモノがなくなってしまい、すべての製造現場で閑古鳥が鳴くというすさまじい不況に面したことがありました。 

この時、京セラでは“全員で営業しよう”と営業の経験のない現場の人たちも含めて全員で製品を売りに行こうと言ったのでした。挨拶(あいさつ)もろくにできないような田舎の工場のおじさんまでが営業に出かけ、客先を訪ね、“何か仕事はありませんか、何かやらせていただけませんか、何でもやります”と注文を取りに向かいました。 

モノをつくる製造と、それを売る営業は対立関係になることがあります。製造は“営業が注文を取ってこないから、つくるモノがない”という思いがあります。ところが自分で売るということをしてみますと、営業の苦労もわかるのです。製造の者が、営業の苦労を体験することによって、製造と営業の融和が図られ、互いに気持ちを理解し合い、共に協力するようになっていくのです。 

  1. モノを売る苦労を共有する

製造業であっても、ハイテク産業であっても、モノを売るということが事業経営のベースだということです。それはみんなが営業にまわって苦労したことから学んだことでした。 

一流大学を出た、頭がよい優秀なサラリーマンの場合、お客様のところへ行っても頭を下げることを知りません。“注文をいただけませんか。お客様のためなら何でもします”とまるで召使(めしつかい)のような精神を持っていなければ、注文は取れません。惨めなのが、注文取りというものです。そういう経験のないような人が、会社の幹部をしていたのでは経営は成り立ちません。製造にいようが、経理にいようが、他人様に頭を下げて注文を取る苦労をさせる、不況のときにこそ、社員みんなにその苦労を味わってもらい、経営の厳しさ、注文を取ることの厳しさを実感してもらうのです。 

あるメーカーでは“在庫がこれだけある。だから全員でこの在庫を売ってくれ。田舎の親戚、その他を含めて社員割引の値段で売ってくれ”と在庫を一掃したことがありました。在庫で寝ている冷蔵庫、洗濯機、炊飯器などを親戚その他に買ってもらってくれと全員営業で在庫を捌いたのでした。 

全員で営業をして在庫を捌くような経験をしますと、頭を下げて売る営業の厳しさ、苦労というものを全社員にわかってもらえると思われます。 

しかも、ここで忘れてはならない大事なことがあります。私達は売上を最大にしようと努力するのですが、それは、あくまで、お客様も成功すること、またお客様が喜ぶこと、その為にどうしたら私達が役に立てるかと考えて、売上を最大にしようと努力するのです。押し込み販売をするのではないのです。

不況対策2.新製品開発に全力を尽くす

不況のときには、新製品開発に全力を尽くすのです。忙しさに紛れて着手できなかった製品やお客様のニーズを十分に聞けていなかった製品を積極的に開発しなくてはなりません。それを技術開発部門だけでなく、営業、製造、マーケティングも協力して全社一丸となって新製品の開発を進めていくべきです。 

不況時には、お客様も時間の余裕があり、また何か新しいものがないかと考えているはずです。そのときに、お客様をまわり、新製品のアイデア、ヒント、あるいは今までの製品の改良点、要望やクレームなどをよく聞いて、それを持ち帰り、新製品開発や新市場創造に役立てるのです。 

  1. 仕事が減る不況時こそ新製品開発の好機

不況でヒマになったことを逆手(さかて)にとって“こういうものを作ってみたらどうか。こういうものを売ってみたらどうか。こういうものをお客様に勧めてみたらどうか”かねてから思っていたことを実行する、不況のときこそ、そのような新しい試(こころ)みができるのです。 

不況時に、そういうアイデアを持ってお客様回りをしていますと、当然お客様も仕事がなくて手持ちぶさたになっておられますから、“実はウチもこういうものをつくってもらいたいと思っていた”という話を頂けることになります。忙しいときに相手にしてもらえなかったけれども、不況になってくると手が空いているものですから、お客様のほうから興味を示して“こんなものをつくってくれないか”というアイデアを持ち出してこられることもあります。 

不況対策3.原価を徹底的に引き下げる

不況になると、競争が激化し、受注単価も受注数量も、みるみる下がってきます。その中で採算を合わせていく為には、受注単価の下落以上に原価を下げなければいけません。 

現行の方法で本当によいのか、もっと経費を削減できる方法はないか、と改めて従来のやり方を見直し、思い切って変革することが必要です。旧態依然とした製造方法の見直しや、不要な組織の統合や、代替材料の検討、徹底的な合理化、原価削減を断行するのです。 

不況時に抵抗力をつけていけば、景気回復時にはたちまち利益が出始め、素晴しい高収益企業となれるのです。 

不況時には従来通りの経費を使っていたのでは会社は成り立ちません。従業員、経営者全員が必死になって経費を減らそうと努力します。不況のときが、原価を低減していく唯一のチャンスなのです。そして不況時に原価をどこまで下げることが出来るかが企業の成長と経営に大きな影響を及ぼします。不況が終わって生産、販売が三割増し、五割り増しと回復していけば、利益率は極端によくなるわけです。不況のときこそ、原価低減の努力を通じて、企業体質を強化し、高収益体質をつくっていく格好の機会なのです。 

不況のときこそ心血を注いで、従業員と一緒になって原価を徹底的に下げることが必要です。 

不況対策4.高い生産性を維持する

不況であっても高い生産性を維持し続けることが必要です。不況で、作るものが減った時、少ない仕事を従来の製造現場で余っている人員を生産ラインから切り離し、工場の整備や勉強会など、景気が戻った時の準備をしてもらう。製造現場では、常に一番忙しいときと同じように、必要最小限の人員で緊張感を持った仕事をしてもらう。それまで苦労して向上させてきた生産性を維持していくことが非常に大切です。 

不況で生産が三分の一に減ったなら、人員も三分の一にして、一番忙しかったときと同じ効率でモノをつくり続けることによって、生産性を維持し続けるわけです。 

生産ラインから離れた人達は、工場の清掃やメンテナンスをしっかりしてもらいます。今まで汚かった職場がきれいになり、工場の美化の点で大きなプラスになります。 

不況対策5.良好な人間関係を築く

経営者は従業員のことを思いやり、従業員は経営者の苦労を慮(おもんばか)り、お互いに助け合っていけるような関係を作っていく。資本家と労働者という区別ではなく、両者が一体となって共に経営していくということができるかどうかが優秀な企業の条件と言えます。 

不況になれば、よいことばかりは言えなくなってきます。“もっと頑張ってくれ。もっと経費を減らしてくれ”“今回はボーナスなし。ボーナスが出せなくなったから辛抱してくれ”と厳しいことも言わざるを得ません。その時、一体感があれば、従業員も経営者からのかなり無理な言い分も聞いてくれます。ところが反発したりされることもあります。つまり不況は“労使関係のリトマス試験紙”なのです。 

従業員から反発があった時は“今までの自分の経営ではダメだったのだ。”従業員は心から私を信頼してくれていなかった。不況の時こそ、苦労を共にしてくれると思ったら、そうではなかった。”と素直に反省し、今後の労使関係を再構築するためには何をなすべきか、自分で、またみんなで、懸命に考えるのです。