盛和塾 読後感想文 第八十二号

採算の向上を支える 

企業の会計にとって自社の採算向上を支えることは、最も重要な使命である。採算を向上させていくためには、売上を増やしていくこと。それと同時に、製品やサービスの付加価値を高めていかなければならない。付加価値を向上させるということは市場において価値の高いものをより少ない資源/経費でつくり出すことである。 

市場において価値の高いものとは、市場が価値を認めてくれ、より高い価値で受け入れる。工夫してつくり出した製品やサービスのことである。こうした付加価値の高い製品やサービスは、企業がより多額の給与を支払うことができる源泉であり、またお客様に役立つ、すなわち社会の発展に貢献するための前提条件となるものである。 

一般的には “採算の向上” は経営管理をするための管理会計の役割であり、企業の業績と財務状態を正しく外部に報告する “財務会計” とは、性格は異にしている。しかし “管理会計” も “財務会計” も経営者にとっては著しく経営に必要な会計なのである。 

 稲盛和夫の実学を紐解く -会計学と経営- 

 経営における二つの要諦

1.売上を最大に経費を最小に

経営者は誰でも利益を追求するのだが、多くの経営者が売上を増加させようとすると、当然経費も増えるものと思っている、これが経営の常識なのです。

しかし “売上を最大に経費を最小に” ということを経営の原点とするならば、売上を増やしていきながら経費を増やすのではなく、経費は同じかできれば減少させるべきだとなります。その為には、知恵と創意工夫と努力が必要となる。利益とは、その結果生まれるものです。

f:id:smuso:20190226133934p:plain

損益計算書は、経営がどのくらいうまくいっているかを表しています。どのくらいうまくいっているかは、どのくらいの利益を出しているかで決まります。

営業損益を見ますと :

売上高は四八二八億円、売上原価は三七四二億円です。販売費一般管理費は六六二億円、営業利益は四二四億円です。

営業外損益 :

営業外収益は受取利息・配当金が一三四億円入っています。

雑収入は六一億円がありました。合計一九五億円の営業外収益がありました。

営業外費用 :

支払利息が一千九百万円、為替差損が四六憶五千万円、雑損失が二六憶三千百万円発生しました。合計七三億円の営業外費用が発生しました。 

営業利益に営業外収益を加え、営業外費用を差し引きますと、経常利益五四六億円となりました。 

特別利益は七二憶三千万円。特別損失は百三十三憶三千九百万円が発生しました。 

経常利益五四六億円に特別利益七二億三千万円を加え、特別損失百三十三憶三千九百万円を差し引きますと、法人税前当期利益四八五憶七千六百万円となりました。 

法人税等が百三十憶円、法人税調整額七六憶円、これらを差し引きますと、当期純利益二七九億円がでます。しかし二七九億円の現金が増加し、この資金を使うことは出来ません。棚卸資産の購入や設備投資に既にお金を使っているからです。

当期純利益を多く出すためには、まず本業で得る利益、営業利益をたくさん出せなければならないのです。この損益計算書では、営業利益率は八.八%しか出ていませんが、売上を最大にして売上原価、販売費及び一般管理費を小さくする努力をすれば、営業利益率を十%にすることもできます。 

営業外損益や特別損益の部では、費用をなるべく少なく抑えることに努力します。売上を上げて、費用を最小に抑えれば、経常利益も税引き前利益も大きくなります。 

“売上を最大に経費を最小に” は単純なことではありません。一般的に売上を増やす為には製造費用、販売費・一般管理費も増やさないと売上は達成できないと考えてしまいます。そうならない為には、創意工夫が必要なのです。 

ある会社が月に百万円の売上があったとします。その時に仕入れに八十万円かかったとしますと、売上総利益が二十万円でます。営業二人で人件費が十万円だとしますと、利益は十万円です。

売上が二百万円になったとします。仕入れコストは二倍になりますから、百六十万円かかっているはずです。今までは二人の営業マンを雇っていましたが、倍の量を売るわけですから営業マンは四人となり、人件費は二十万円となります。利益は二十万円と二倍になると考えています。 

しかし、仕入れが二倍になるわけですから、仕入れ先と交渉して少し安くしてください、五%安くしてもらえませんかと交渉します。仕入れ先も二倍の量を買ってくれるというので、同意してくれました。そして、人件費も見直します。さらには、業務を効率化して営業マンを三人にします。

こうしますと、仕入れで八万円、人件費で五万円の合計十三万円利益が増え、合計三三万円となります。利益率は十六.五%になります。売上が伸びる時こそ高収益企業へと変貌を遂げていくチャンスなのです。 

2.値決めは経営である

値決めは単に売る為、注文をとる為という営業の問題ではなく、経営の死命を決する問題であり、売り手にも買い手にも満足を与える値でなければなく、最終的には経営者が判断すべき大変重要な仕事なのです。 

京セラは新規参入の多い競争の激しい業界からスタートしました。無名の京セラに対して、いつも非常に厳しい値下げの要求がありました。毎年毎年、値段を下げられました。そうしますと、営業は注文をとるために、いくらでも値段を下げてくるのです。 

しかし、商売というものは値段を安くすれば誰でも売れる。それでは経営はできない。お客様が納得し、喜んで買ってくれる最大限の値段、それよりも低かったらいくらでも注文をとれるが、それ以上高ければ注文が逃げるというギリギリの一点で注文をとるようにしなければならない。売上を最大にするには、単価と販売量の積を最大にすれば良い。利幅を多めにして少なく売って商売をするのか、利幅を抑えて大量に売って商売をするのか、値決めで経営は大きく変わってくるのです。 

値決めで失敗しますと、取り返しのつかないこともあります。あまりにも安い値段を設定してしまい、経費を削減しても採算を出せない。高い値段を付けた為、山のような在庫を抱えて資金繰りに行き詰まるケースもあります。 

従って値決めは経営と直結する重要な仕事であり、それを決定するのは経営者の仕事なのです。 

二つの要諦の重要性をシンプルな商売を通じて理解する

1.夜なきうどんの経営が経営の原点

夜なきうどんの屋台をひいて商売に乗り出しました。資本金は五万円です。

一番最初に直面するのはうどん玉の仕入れです。製麺所まで行って買う、スーパーで生麺を買う、乾麺を買う等、いくつかの仕入れ方法を考えなくてはなりません。

出汁はいい味を出す為の大切なポイントです。高い鰹節を買ってくる者もあれば、袋入りの削り節を買ってくる者、いろいろな創意工夫が必要です。

かまぼこ、揚げ、ネギにしてもスーパーマーケットで買ってくるだけではなく、工場や農家から直接仕入れることもあります。このように材料の仕入れにしても、色々なやり方があります。 

美味しいうどんを提供するためには、どういう屋台にするのか、水、出汁、うどんの食器、お箸、うどん玉の大きさ等、屋台車の場所や時間等にも創意工夫が必要です。 

肝心なのは値段です。五百円にするのか四百円にするのか。安ければ売れるだろうが、利益を得ることは出来ない。しかし、お客様が満足する値段を決めなければなりません。 

屋台から大きなフランチャイズに発展した経営者も、十何年も屋台を引いて何も財産を残せない人もいます。いい商売があるかないかではなく、それを成功に導くことができるかどうかなのです。

売上を最大にするように正しい値決めができれば、あとは経費を最小に を徹底して行っていけばよいのです。 

2.いかなる事業も才覚、工夫次第で成功する

商売自体に良い商売、悪い商売があるのではありません。どんな地味な商売でもそれを成功に結び付けていく才覚があるかないか、経営の要諦を押さえて創意工夫をするかしないかによって、成功するかしないかが決まります。 

ホテル経営では、値決めは競争の為、自由に行えません。ホテルが乱立気味のため、同業者との競争の中で値段が決まることが多いのです。そうすると、売上を最大に経費を最小にするしか方法がありません。売上を伸ばす為に客室利用率を上げるしか方法はありません。営業は旅行業者、大企業の出張旅行担当部に接触する、送迎者を用意する、リピーターのお客様を獲得する為の努力をします。経費の面では食材、タオル、シーツ、シャンプー、コンディショナー、石鹸等の購入、ホテル内の清掃道具、カートの改良、清掃要員が効率良く仕事が出来るように創意工夫をします。 

経営者の問題は “売上はこんなものだ。経費はこんなものだ” と決めてしまっていることです。そこには創意工夫が欠けているのです。 

会計が分からなければ真の経営者にはなれない

1.損益計算書の科目の明細にまでリアルタイムで目を通さなければならない

経営は飛行機の操縦に例えることができます。会計データは経営のコックピットにある計器盤に表れる数字に相当する。計器は経営者たる機長が刻々と代わる機体の高度、速度、姿勢、方向を正確に即時に示すことができなくてはならない。そのような計器盤からの情報がなければ、今どこを飛んでいるのかわからないわけだから、まともな操縦などできるはずがない。 

企業経営において飛行機の計器盤は会計システム、その操縦に必要な情報は会計情報・財務諸表です。会社の経営状況を会計情報は具体的な数字で表しています。 

会計というものは、経営の結果を後から追いかける為だけのものではありません。いかに正確な決算処理がなされたとしても、遅すぎては何の手も打てなくなります。会計データは現在の経営状態をシンプルにまた、リアルタイムで伝えるものでなければ、経営者にとっては何の意味もないのです。 

中小企業が健全に成長していく為には、経営の状態を一目瞭然に示し且つ、経営者の意志を徹底できる会計システムを構築しなければならない。その為には経営者自身が会計というものをよく理解しなければならない。計器盤に表示される数字を意味するところを手に取るように理解できるようにならなければならない。経理が準備した決算書を見て、収益状況や財務状況(自己資本、負債の状況)を理解し、対策が頭に浮かぶようにならなければなりません。決算書を読むとは、数字が何を意味するのか、どうしてこのような数字になっているのかを理解することです。 

経営者は決算資料をできるだけ早く読み、経営状態をリアルタイムで知っておく必要があります。細かい部門別の資料についても、目を通すようにします。そうすると工場へ行き、問題があった現場を見つけた時、現場の責任者に指示することができます。 

会計が分からなければ、真の経営者にはなれません。会社経営の実務を表すのが会計上の数字だからです。

f:id:smuso:20190226134407p:plain

財務諸表(貸借対照表、損益計算書、資金繰り表、脚注)は外部に公開するための書類です。これだけでは、いくら見ていても経営にはなりません。売上、売上原価、製造原価報告書、販売・一般管理費といった項目の明細を見ていかなければなりません。 

経費明細表の例を見てみます。この製造部門経費明細書は各項目に細かく分かれています。

原材料費                 3項目

労務費                    3項目

労務関連費             4項目

諸経費                  36項目 

このように、これらの項目は各工場毎に毎月明細表があります。

鹿児島の工場、滋賀の工場、北海道の工場、長野の工場、三重の工場、福島の工場を合計したものが、上記の経費明細表です。一つの工場の中でも原材料、労務費、経費は部門別に把握されており、その明細表も入手可能なのです。 

普通の会社ですと、これだけの数字をまとめていくのには二~三ヶ月はかかります。数字は概算でもいい。経営に役立てる経理資料はリアルタイムに上がってくるものでなければなりません。 

普通の経営者は損益計算書を見る程度で経営しておられます。しかしそれでは、売上高、利益は分かるのですが、どのような手を打つべきかは分かりません。細かい部門、細かい経費項目までブレイクダウンした経費明細表を月次で作って、それを見ながら手を打っていくことができなければなりません。 

2.貸借対照表を見て企業の健康状態を感じ取る

貸借対照表は企業の体格、健康状態を示すものです。経営者は会社の健康状態をあたかも自分の身体の状態のように感じられなければなりません。経営者は貸借対照表を見たときに、会社の財務状況-流動資産、固定資産、流動負債、固定負債、自己資本-がどうなっているかを即座に理解し、会社の健康状態を判断できるようになっていなければならないのです。

経営者は利益を多く上げ、利益剰余金を増やしていくことで自己資本比率を高め、ますます会社を健康体にしていかなければなりません。