盛和塾 読後感想文 第二十九号

年長者から学ぶ 

若い時に両親や先生方に教えていただいたことが、ある時、フット思い出されます。若い時には理解出来なかったことが、突然、“ああ、父親はこんなことを伝えたかったんだ”“ああ、あの先生は、こういう時のことを言っておられたのだ”と気付くことが良くあります。 

塾長のフィロソフィーは御自身が仕事で苦しみ、人生で悩み、真剣に考えられて学び取ったと語られています。 

仕事の中で、日常の生活の中で、この盛和塾機関紙を読み、塾長の考え方を、想いを学べることは、とてつもない貴重なものと思います。塾長のフィロソフィーは、仕事や日常の生活の中で、判断を迫られた時、自分の判断を正しい方向に向けてくれるものです。 

京セラフィロソフィー 

京セラフィロソフィーは稲盛塾長が27才で会社設立し、経営に携わって来た中で、苦しみ、悩んで、経営判断を迫られた中で生まれたものです。 

従業員を一つにまとめるには、経営者自身の“考え方”を磨き続けなければならない 

塾長と共に会社を辞めた7人の仲間と、新たに採用した社員を抱えて、塾長は経営のトップとして、従業員をまとめていかなければならなかった。 

従業員を一つにまとめていくには、人を惹きつけることができなければならない。人を惹きつける為には“立派な考え方や人生観”を持ち、また磨き続けなければならない。立派な経営には、経営者は自分の考え方、人生観、哲学を磨いていかなければならない。 

考え方が人生を大きく左右する:人生・仕事の結果 = 考え方 x 熱意 x 能力 

人の考え方によっては、その熱意や能力がまちがった方向に向けられることがあります。人一倍熱意もあり、人一倍能力のある人がそれらを悪い方向に向けたり、私欲の為に使うことがあります。あるいは人一倍能力はあるが熱意、努力をしない人もありますが、そうした人は人生・仕事では成功しないでしょう。 

りっぱな考え方を持った人は、自分の熱意や能力を良い方向に向け、人生・仕事に成功します。 

京セラフィロソフィーの浸透推進 

京セラフィロソフィーを従業員の中に広めて行こうとした時、“何でそんなことを押し付けられなければならないのだ”“どんな考え方をしようとも個人の自由ではないか”という反論に出会った。 

めざす山が違う 

めざす山が各自違います。山が違えば、登るための服装も道具も違います。会社が異なり、目標や使命が異なりますと経営者の考え方も違うのが当然です。 

京セラは目標を“世界一”に据えた 

28人の従業員に向って、今に京都一の会社になる、日本一の会社になる、世界一の会社になる、と塾長は絶えず夢を従業員と共有するように努力をしました。 

会社というのはトップの器以上にはならない 

人生・仕事の結果 = 考え方 x 熱意 x 能力の中で、考え方は一番大事です。能力は生まれ育って与えられたもの、これを伸ばすのはそれほど期待できません。しかし熱意は、自分自身の意思で求められます。 

“誰にも負けない努力をする”これは熱意です。本人の自覚で決めることが出来ます。 

トップの持つ人生観、哲学、考え方が、企業経営のすべてを決定します。会社を立派にしたいのであれば、人生をすばらしいものとしたいならば、自分の人間性を高め、人格を磨いていくことをすれば、誰にでも出来ることなのです。 

こうした想いを持つことが大切です。“想い”が持続していく時、自分の人間として、企業人としての器が大きくなっていくと思います。 

京セラフィロソフィー手帳 

京セラ35周年に京セラフィロソフィー手帳が作成されました。全従業員が京セラフィロソフィーを“共有”し、“共鳴”し、“賛同”してもらう為に作成されました。 

京セラフィロソフィーを実践して行く – そうすれば、1人1人の人生も幸福になり、会社全体も繁栄する - 従業員の物心両面の幸せに通ずると考えられています。 

全従業員の物心両面の幸福を追求し、人類・社会に貢献する 

京セラ設立後3年目に、従業員からの要求 - 昇給・ボーナスの5年保障を求められました。このことを契機に、塾長は技術屋としての夢を捨て“全従業員の物心両面の幸福を追従すると同時に、人類・社会の進歩発展に貢献すること“と会社の目的・理念を定めました。 

物心両面の幸福とは、経済的な安定や豊かさを求めて行くとともに、仕事の場での自己実現を通して生きがいや働きがいといった人間としての心の豊かさを求めていくものです。 

京セラは常に技術を磨き、次々と新しい製品を世に送り出していくことによって、科学技術の進歩に貢献し、会社として利益を上げ続け、多くの税金を支払って公共の福祉の増進に貢献して行きます。 

京セラフィロソフィーは、その為の行動指針として、また、すばらしい人生を送るための考え方の基準として、体得・実践して行くべきものです。

 

第一章 経営のこころ    

  1. 心をベースとして経営する

京セラには頼れるものは、なけなしの技術と28人の信じ合える仲間しかない会社からのスタートでした。

会社の発展のために、一人ひとりが精いっぱい努力する。経営者も命がけでみんなの信頼にこたえる。働く仲間の心を信じ、私利私欲のためではなく、社員のみんなが、本当にこの会社で働いていてよかったと思う素晴らしい会社でありたいと考えた。

人の心はうつろいやすく、変わりやすいものです。しかし人の心ほど強固なものはないのです。その強いつながりが素晴らしい会社を作り上げていきます。

一人ひとりの思いが違ったり、不平不満があったりするようでは、いけません。心が一つになった、信じ合える仲間、信じ合う心を持った集団を作ること以外に会社発展の道はない。心から信じ合える集団、本当の親子・兄弟のようななんでも遠慮なく言える、お互いに理解し合える、心で結ばれた集団を目ざし、苦労して実践していくことが、大切なのです。

  1. 公明正大に利益を追求する

会社は利益を上げなければ、生きのびることはできません。自由市場において、競争で決まる価格で、堂々と商売をして得る利益は、正しい利益です。厳しい価格競争の中でコスト削減の新しい技術・材料・合理化によって付加価値を高めていく、努力の結果が利益です。

投機や不正によって暴利を貪り、一攫千金を夢見るような経営ではなく、公明正大に事業を行い、正しい利益を追求し、従業員の生活を守り、仕入業者との協力を得、社会に貢献していくのです。

厳しい競争市場の中で、競争によって生まれる適正利益をコツコツと努力して、少しずつ積み上げて行った結果が会社の正当な利益なのです。

  1. 原理・原則にしたがう

会社の経営は筋の通った、道理に合う、世間一般の道徳に反しないものでなければ、長続きはしません。

いわゆる経営の常識というものに頼っていてはいけません。“たいていの会社ではこうだから”という常識に頼って、簡単に経営判断をしてはなりません。

会社経営の判断は、組織の問題、財務・会計、投資、お客様への対応、労働組合、利益の分配についても、本来どうあるべきか、何故そうなのか、原理・原則に基づいて判断します。そうすれば、経験したことがない困難な状況に遭遇しても、判断を誤ることはありません。

経営者は、世間一般の道徳に反することなく、人間として何が正しいかという判断基準で物事を判断していくのです。原理原則に従って判断をするのです。

  1. お客様第一主義を貫く

京セラは当初から下請けの立場ではなく、自主独立の会社でした。

自主独立とは、お客様が望まれるような価値をもった製品やサービスを次々と生み出して行くということです。ですから、その分野においてはお客様より進んだ技術をもつ必要があります。お客様より進んだ技術で納期、品質、価格、新製品開発、アフターケア等すべての面でお客様の満足を得なければなりません。

お客様のニーズに対して、今までの概念を覆して徹底的にチャレンジしていくという姿勢が要求されるのです。

お客様の望む価格、品質、夜中に配達のような無理な納期に応えていくのは、お客様に喜んでいただきたいという思いがあったからです。

これは単に製造メーカーに当てはまるだけでなく、あらゆる事業に適用される “お客様第一主義を貫く”考え方です。経営システムの分野でも、新しいコンセプトで、新しいソフトウェアで、経営管理の改善を提供する場合も同じです。“お客様第一主義” の基本は何かお客様に役立つことがないか絶えず考えて行くこと、お客様より一歩先に進んでいること、新しいことにチャレンジして行くことだと思います。

  1. 大家族主義で経営する

心といっても漠然としていて不安なものですから、心が一層固く結びついているものは何かと考えたところ、それは家族の絆だと塾長は考えました。利害が相反しようとも助け合っていけるのが親子、兄弟です。そこから”大家族主義で経営する”と考えました。

会社は通常有限責任です。株主は自分の出資した金額だけ(有限の金額)の責任なわけです。従業員や仕入れ業者に対しては無責任なわけです。ところが、家族に対する責任は無限に近いものです。

人の喜びを自分の喜びとして感じ(愛)、苦楽を共にできるような家族のような信頼関係が大切なのです。お互いに感謝し合う、お互いを思いやる気持ちが信じ合える仲間を作り、仕事をして行く基盤となります。仲間が仕事で困っている時には、理屈抜きで助け合うことができます。

大家族主義の大敵は “甘え” です。いいかげんな仕事、失敗、遅刻、無断欠勤者の “甘え” です。これをストップするのが“実力主義に徹する”という考え方です。

  1. 実力主義に徹する

組織が成功するかどうかは、その組織の長に本当に力のある人がついているかによって決まります。

本当に力のある人とは、職務遂行の能力を持ち、人間として尊敬され信頼され、みなの為に自分の力を発揮しようとする熱意のある人です。

そうした人が組織の長として任命され、その力を十分に発揮できる組織風土を作ることが大切です。こうして実力主義によって組織が運用されれば、組織が強化され、仲間のためにもなります。

ともすれば実力のない人が、唯単に長らく勤務しているからとかで、長に任命されたりしては、大家族主義は弊害となります。また、身内だからといって、実力もないのに長に任命されるようなことがあってはなりません。また、経歴が良いから長に任命するのも、避けるべきです。あくまで実力のある人を長にすべきです。

年功、身内、経歴といったもので、組織の長を任命しますと、組織運営がうまくいかなくなり、会社が傾き、結局は家族全部を不幸にしてしまいます。

  1. パートナーシップを重視する

京セラは、経営者と従業員という縦の関係ではなく、一つの目的に向って行動を共にし、自分達の夢を実現しようとする同志の関係 – パートナーシップという、横の関係を経営の基本にしました。これは、全従業員がオーナーシップの考えのもとに、会社経営にあたるということです。

京セラでは全従業員に会社の株を持ってもらいました。“従業員の皆さんは、経営を行うパートナーとして一緒に力を合わせて頑張って下さい”と言い続けました。しかも京セラには世襲制がないのです。

たとえ世襲としても、従業員に対して、経営者・オーナーは“自分は個人の利益のためではなく、皆の幸福のためにも努力を惜しまない”と説く必要があります。特に組織の長を選んだり、昇進昇給、ボーナスの決定に対しては、身内に厳しく考えるべきと思います。

  1. 全員参加で経営する

京セラでは、アメーバ組織(経営独立集団)は自主独立で経営されており、そこでは誰もが意見を言い、経営を考え、それに参画することができます。一握りの人達だけで経営が行われるのではなく、全員が参加するというところがポイントなのです。

この経営への参加を通じて、1人1人の自己実現が図られ、全員の力が一つの方向にそろった時に、集団としての目標達成へとつながっていきます。

全員参加の精神は、仲間意識・家族意識のベースとして考えられていると同時に、仕事と同じように大切にして来た会社行事やコンパなどにも引き継がれて来ました。

経営への積極的な関与、従業員の責任感を喚起する

普通の企業では、トップに社長がいて役員がいて、部長、課長がいるというピラミッド型が組織となっています。京セラでは、1人で経営するのに不安であったため、“みんなで経営しよう” “みんなと一緒に考えよう” という幼稚な考え方からスタートしました。

ピラミッド型経営の場合は、上から下に命令が下され仕事をすることが多いと思います。上から命令された場合、“命令されたから仕事をする”というふうになりがちです。命令された人は、自分の意志を働かせ、問題意識を持って仕事するのではなく、上から言われたから仕方なくやるというふうになりがちです。“言われた程度のことをすればよい。言われたことを最小限で実行すればよい。怒られない程度に実行すればいい”これは無目的・無意識的な行動です。

自分から参加する場合は、あくまで一般の従業員ですが、“君も私と一緒に会社の経営を考えてくれ。私1人では不安だから、君の知恵も貸してくれ” といって経営への参画を求めた場合は、その言われた従業員は “私も社長を助けてやろう、考えてやろう” と思います。積極的、目的意識的な経営への参画がはじまり、自分の考えを少しでも成功させようという姿勢が生まれてきます。

従業員一人ひとりが 有意注意となることが大切

有意注意” というのは意識して意を注ぐということです。中村天風先生・哲学者の言葉“生きていくには、常に意識して物事をしなさい。無意識にしてはいけない”。

経営の場合でも大事なことで、どんな些細(しさい)なことでも意識を集中して物事を考える、自分で意識をそちらに向ける、意を注ぐことが非常に大切です。

大変なことを自分が判断し、決めなければいけない時、普段から有意注意を実行していますと、正しい判断/決定が出来るのです。有意注意の習慣がない場合は、日頃からの鍛錬をしていないものですから、考えることも決めることもできないのです。中村天風先生は “人生においてどんな些細なことでも全神経を集中して物事を考えることを習慣にしなさい” と言われています。

全員参加の経営で、従業員が経営者からの経営参画の要請を受け“それなら私も手伝いましょう。考えましょう”といってくれた時、それは有意注意のはじまりです。

京セラではすべての催しに 全員参加を鉄則とした

全員参加の経営を目ざす為には、工夫が必要です。この工夫も有意注意を持って考えなければなりません。京セラでは全員参加ができるように、夕食会をする、運動会をする、社員旅行をする、慰労会をするといった懇親会(こんしんかい)場をつくることに努力して来られました。

従業員の中には、“懇親会は仕事ではない、私は遊びに参加したくない” という人が必ずあります。全員で何かをする。これは遊びではなく、全員で参画することを確認する意味があるのです。したがって、これは “全員参加” 鉄則なのです。

労働者と経営者の考え方のベースが同じになれば労使紛争は起きない

経営者側は労働者・従業員の苦労をよく理解し、労働者・従業員も経営者の苦労をよく理解することが大切なのです。お互いに相手の苦しみ、悩みをよく聞き、理解し合う場を作ることができれば、労使紛争は起きないと思います。

素晴しい企業は、経営者、労働者、従業員が経営に対する考え方のレベルが同じように高くなっており、同じレベルになっている企業ではないかと塾長は述べています。

全ての情報を従業員と共有、開示している。従業員みんなに経営に参画してもらうために、秘密をもたないようにすることが大切です。

秘密をもたない、情報を公開し、従業員の経営に関するレベルが経営者と同じレベルに向上していれば、労使紛争は起きないのです。

  1. ベクトルを合せる

人はそれぞれ様々な考え方があります。もし社員一人ひとりがバラバラの考えで仕事に取り組んだ場合は、会社全体としてのまとまりがなく、集団としての目標を達成することはできません。

会社、集団としての目標を達成する為には、経営者と従業員の力の方向は同じ方向(ベクトル)でなければなりません。

ベクトルが合うまでとことん従業員と話し込む

ベクトルを合せるのに大切なことは “考え方” を合せることです。“進むべき方向” を合せることです。全員で経営に参画し、会社の進むべき方向と目標を全員が同じように認識していることが大事です。

“考え方” “方向” について話しますと、3種類の従業員がいます。

・目をイキイキさせて、そうだと相づちを打つ人

・疑いながらも、理解しようとして新しいアイデアに興味を示す人

・そんなことは最初からわかっています。これは教育レベルの高い人に多いのです。

経営者はいろいろな従業員に直面します。経営者の考え方を理解してもらうのには、大変な時間とエネルギーが必要です。1時間でも2時間でも解かってもらうまで、たとえ仕事があっても話し続けることが大事なのです。

とくに少ない集団の場合、たとえ1人でもベクトルの合わない人がいると、他の人は “あっ、無理にベクトルを合せなくてもいいのだな。それでも会社にいられるんだ”

そういうことのない様に、ベクトルを全員が理解するように、経営者は心血を注ぐのです。

  1. 独創性を重んじる

京セラは自主独立の会社です。下請会社ではありません。それは独自の技術で自社開発した製品 - 他社が持っていないもの – を販売して来たからです。他社の出来ないものを受注し、全員で必死に努力し、完成し、結果として独自の技術を次々に確立、蓄積して来ました。

現在自分たちがもっている技術は、同業他社でもすでに持っていて、彼等はすでにお客様があるのです。競合他社のお客様からは普通の製品の相談は全くないのです。

新しいお客様から受注する為には、競合他社のできない製品を受注し、お客様に“多分、我社で、御要望の製品はできます”といって、全員必死で頑張るのです。 

むつかしい製品を受注した時は、会社に帰るなり、お客様はこういう新しい製品を作るそうで、有望な製品で、大量生産の可能性がある。その部品を当社で作ることに成功したら、大量の注文を出そうと言われた。設備も技術も経験もないけれど、この仕事を成功させたい。

新しいむつかしい受注には、必ず従業員の中に、開発が不可能な理由を列挙する人がいます。京セラは注文を受けてから、金を使う、設備投資をする、泥縄式でやって来ました。

“注文をもらう前から設備を準備する、というのは誰にでも出来る。そんな無駄な設備投資をするから、会社がうまくいかないのだ。” “京セラは泥縄式のように注文を受けてから設備を入れる。”この方式で次から次へと新技術を開発し、新製品を生み出して来ました。

中小企業の場合は、新しい注文をもらえるだけの技術はない、設備もない、こういう場合にでも100人~200人の従業員に仕事を作り、給与を払って守っていかなければならないのです。その為に苦肉の策で注文を取らなければならないのです。

自分や従業員を窮地に追い込み、もし開発が出来なければ、従業員を路頭に迷わすことになるのだ、と思い、生きるか死ぬかというギリギリのところで物事を考え、開発に携わり、独創性を生み出すのです。

毎日の小さな 創意工夫の積み重ねが、偉大な技術開発へとつながっていく

先述のように苦しみながら、与えられた課題を一つ一つ解決して行くことによって、従業員が自信を深めていきます。

あるものに成功すると、その技術を応用して別の新しいものができるというように、連鎖的に技術の応用が広がるのです。

人ができないような独創的な技術をつくり上げると同時に、幅の広い技術を企業内に保有する。次から次へと技術の応用を考えていくことが基になり、創意工夫が生まれて来ます。

このように独創性は毎日の“創意工夫”の積み重ねです。この毎日の “創意工夫” がちょっとした工夫や改善を生み出し、連綿と続くなかで、偉大な開発、偉大な技術へとつながっていきます。

自分自身で考え、自分自身の足で歩むこと

人の模倣ではなく、自分で考えて自分で解決し、自分で行うということが京セラの伝統になりました。独創性を重んじる、誰にも教わらないし、教わることもできない、自分の道を歩くことが習い性になったのです。

企業を経営していく道は、人の物真似ではできません。同じ業種の中でも、企業は自分自身の道を造り、その道を歩くしかないのです。

人生は1人旅だとお釈迦様がおっしゃっておられますが、経営者は1人きりです。自分の力で歩くことを覚悟しなければなりません。

経営が少し行き詰(づ)まると “人に聞いたら簡単に解決策を教わることができる” と安易に考えてはいけません。

やれもしないことをやる習い性

京セラが第二電電(KDDI)を設立した時は、京セラは知識もなかったし、経験も皆無だったのです。百年に一度あるかないかの大きな転換期でした。京セラはこういう状況のもとでも電気通信事業に進出しました。

ところが京セラは “やれもしないことをやる” 習い性を持っていましたし、“独創性を重んじる” 社風があったのです。自分自身の足で歩むというと大変難しいと考えると思いますが、京セラはやれもしないことをやって来たのです。

“やれもしないことをやる” という考えは、私達の経営にも応用することができます。新しいチャレンジのプロジェクトに対して、毎日の小さな “創意工夫” の積み重ね、と自分自身で考え、自分自身で歩む努力をすることによって、すばらしい将来にむすびついていくのです。 

  1. ガラス張りで経営する

京セラでは、経理面をはじめ、すべてのことが公開されており、何ら疑いをさしはさむ余地のない経営システムが構築されているそうです。

アメーバ組織のもと、時間当り採算制度では全部門の経営成績が全社員に公開されているそうです。時間当り生産性とは時間当たりの付加価値生産性のことです。1時間でどれだけの付加価値が生み出されたのかと問うものです。

自分達のアメーバグループの成績がどうだったのか、誰もが容易に理解できるようになっているそうです。社内がガラス張りであることによって、全社員が全力で仕事に取り組むようになっています。

公明正大であることが経営者の迫力を生む

ガラス張りで経営する理由の1つには、とかく従業員が持つ疑い、“経営者は我々従業員をこき使い、利益をひとり占めしているのではないか” という偏見を取り除くためです。

社長といえども、所用で接待費が要るので、稟議書(りんぎしょ)を認めてほしいという稟議申請がいるのです。

リーダーはいつも、自分は公明正大だと言えるようでなければなりません。“会社はインチキなこと、不正なことはしていません。私も決まった給料で生活しています”と言い切れるようでなければなりません。こうしたリーダーは迫力があります。公明正大さがリーダー自身に勇気を湧き立たせると塾長は述べています。

経営者が少しでも公明正大に欠けますと、後ろめたさが発生します。そうしますと、従業員を力強く引っ張っていく迫力に欠けるのです。

経営者の犠牲的精神が社会的正義を守っている

日本の経営者はいくつかの点でわりの合わない仕事をしています。

  1. 銀行借り入れには社長の個人保障を要求される
  2. 決められた収入は給料のみ
  3. 社員からは、社長は何か裏で役得を得ているのではないかと勘繰られる
  4. 所得税負担が大きい

割に合わない日本経営者の中には、欲を出して、不正に手を染める経営者もあるわけです。日本のほとんどの経営者は、わりの合わない仕事をし、自分の欲のためではなく、社会的正義を守っていると言えます。

  1. 高い目標を持つ

高い目標を設定する人には、大きな成功が得られ、低い目標しかもたない人には、それなりの結果しか得られません。自ら大きな目標を設定すれば、そこに向ってエネルギーを集中させることができ、それが成功への道に通ずるのです。

高い目標と一歩一歩の積み重ねから未来は拓れる

経営コンサルタントは言います。

“会社を成長させるためには、戦略性が必要です。計画性が要ります。目標を立て、具体的な計画を立てるべきです。”

しかし京セラでは、そういうコンサルタントの話とは違った道を歩みました。

“今日1日一生懸命に生きれば、明日は自然に見えてくる。明日を一生懸命に生きれば、一週間が見えてくる。一週間を一生懸命生きれば、1年が見えてくる。今年1年を一生懸命に生きれば、来年が見えてくる。見ようとしなくても見えてくるのだから、瞬間、瞬間に全力を傾注して生きることが大切だ。”

今日1日を一生懸命にやろう。ところが今日1日を済まそうとするものの、完全に目標を忘れたのではなく、潜在意識には高い目標が入っているのです。

地味な仕事の一歩一歩から、偉大(いだい)な成功、偉大な仕事が達成できるのです。高い目標を立てながらも、生き方は一歩一歩足元を見ながら、堅実に歩くことが必要なのです。

こうした経営をもとに、京セラは成長発展し、大企業になっていったのです。