盛和塾 読後感想文 第三十号

京セラフィロソフィー 

積極思考―いつも前向きに考える 

塾長は語っています。もっとも困難な状況の時でも、いつも明るく前向きに、熱意を持ち続けること。常に自分自身の目標に向かって一生懸命する、素直な心、他人の意見に耳を傾ける心を持つこと。不平、不満、否定的な考えは、心の中に持たないこと、消すこと。 

否定的な考えを持ったときは、仕事を休止し、体を動かす、運動をするようにしています。分からないのですが、汗をかいていますと否定的な考えが汗とともに去りぬ、なのです。友人と酒を飲み、話を聞いてもらうのもひとつの方法です。 

明るい考え方や態度は必ず成功をもたらすと自分自身に言い聞かせる。悲観主義者が努力を重ね、成功することは難しいことです。リーダーの態度・言動は前向きのものにしろ、否定的なものにしろ、従業員たちの態度。言動にすぐに反映してしまうものです。それはひいてはお客様や仕入れ業者の方々、同僚に対しても同じ態度・言動として表れます。 

第二章 すばらしい人生をおくるために 

人生の目的とは心の純化、浄化に努め、心を立派にしていくこと 

企業を経営していくにあたり、 “心” というものが一番大事と考えてきたと塾長は述べています。 “人生・仕事の方程式=考え方x熱意x能力” にある考え方と同じものです。

人生の意義・目的とは “心を高める” ことだと結論しました。 

・心を高める

・心を立派にする

・心を純化する

・心を浄化する

・美しい心を作り上げる

このように努力することが人生の目的であり、そういう努力をすることに人生を意義あるものにすることができるのです。 

心清らかなれば人生の道は平らで安らかなものになる 

仏教伝道教会の発行する仏教聖典の中にお釈迦様が  “心” について述べられているそうです。 

“この世界は心に導かれ、心に引きづられ、心の支配を受けている。” 

“迷いの心によって悩みに満ちた世間が現れる。” 

“すべてのものはみな心を先とし、心を主とし、心から成り立っている。” 

“汚れた心でものを言い、また身で行うと苦しみがその人に従うのはちょうど牽く牛に車が従うようなものである。” 

“しかし、もし善い心でものを言い、また身で行うと楽しみがその人に従うのはちょうど影が形に添うようなものである。” 

心が清らかであれば、経営も安定します。 “心を高める” とは心を善き方向に導いていくこと、心を美しくすることであり、それは人生や経営までも好転させていくもとになるのです。 

宇宙の意思と調和する美しい心 

宇宙の始まり:素粒子の塊→陽子、中間子、中性子→原子核/分子→原子の誕生→核融合→分子→高分子→遺伝子が加わり生物が誕生→高度な生物の誕生。この過程を通じて宇宙は進歩・発展してきました。 

宇宙は一握りの素粒子から始まり、一瞬たりとも現状のままとどまらず、結合を繰り返し、現在の宇宙を形作ってきたそうです。宇宙には一瞬たりとも停滞することなく物事を進化・発展する方向へ進めていこうとする流れがあるのです。宇宙の意志と呼べるものがあるのです。 

宇宙はすべての生きとしいけるものを進歩・発展する方向へ進めていこうとするのです。誰もこの意志をとめることはできないのです。 

宇宙の意志はすべてのものを愛と誠と調和をもととして、進化・発展させようとします。

私たちがこの意志と同調するのか、反発しあうのかによって、私たちの運命が明るくなるのかどうかが決まるのです。 

愛に満ちた心を抱き、日常を生きることで人生や経営は開けていく 

宇宙の意志はすべてのものを慈しみ、すべてのものを愛し、すべてのものをよくしてあげたいという思いであり、自分だけがよくなろうという意志とは対極にあるもの。宇宙に存在する森羅万象あらゆるものを一方的に良くしてあげたいという流れと調和する、同調する心を私たちが持っていなければならないのです。 

経営者の心が宇宙の意志と同調していくならば、経営も順調なものとなります。 

無生物である素粒子、小さな生物や植物であっても生成発展を繰り返し、必死に生き延びようとしています。経営者も自分の会社を立派にするように宇宙の意志―すべてのものを愛すーに同調し、誰にも負けない努力を続けなければならないのです。相手を打ち負かす為に働くのではないのです。自分自身が生きていくために、自分の会社を立派にするよう必死で働くことが大事です。 

心を高める努力と反省を繰り返す 

どうしたら、宇宙の意志―愛に満ちた心を持ち続けることが可能なのでしょうか。まずは心を高めよう心を美しくしようと思うことが大切です。心を清めようと努力している人はいわば修業の身なのです。心を高めることは簡単ではありません。簡単ではないゆえに自分自身を振り返り、反省するよう努力をします。“思うこと”反省すること“の繰り返しが、心を高めてくれると思うのです。 

愛と誠と調和の心をベースとする 

人を成功に導くものは愛と誠と調和を持った心です。

・愛とは他人の喜びを自分の喜びとする心

・誠とは世のため人のためになることを思う心

・調和とは自分だけではなく周りの人々も常に幸せに生きることを願う心 

ところが我々は肉体を持っています。我々は食物を手に入れ栄養を取り続けなければ生きられません。自分の肉体を守ろうとする欲望があります。事故防衛本能があるわけです。欲望は時たま、宇宙の意志―愛と誠と調和の心ーと相容れないことがあります。 

自らの心を愛と誠と調和に満ちた状態に保ちすべてのものを生かそうとする宇宙の意志、宇宙の心と調和させていくために欲望を少しでも抑えていくことが必要なのです。 

きれいな心で願望を描く 

きれいな心で描く願望でなければ、すばらしい成功は望めません。強い願望があっても、それが私利私欲に端を発したものであるならば、その成功は長続きしません。 

願望を持続させるには、描く願望が情熱がきれいなものでなければなりません。純粋な願望を持って、ひたすら努力することによってその願望が実現するのです。 

素直な心をもつ 

素直な心の大切さを説かれたのは松下幸之助さんです。松下幸之助さんは小学校さえも満足にいかれていないのに、あの松下電器という大企業を作り上げられました。その原動力は”素直な心“なのだといわれています。 

“自分には学問がない。”耳学問であっても、他人様に教えてもらって自分を成長させていこう。”人の意見を聞いて物事を学びそれを通じて生涯発展進歩を遂げていかれました。 “素直な心” とは自分自身のいたらなさを認め、そこから努力するという謙虚な姿勢のことです。 

本当に伸びる人は、素直な心をもって、人の意見をよく聞き、常に反省し、自分自身を見つめることのできる人。 

常に謙虚でなければならない 

自己中心的な価値感が充満し、自己主張の強い人が多くなりますと、チームワークを必要とする仕事やプロジェクトはできません。 

集団のベクトルを合わせ、常にみんながいるから、自分が存在できるという認識のもとに謙虚な姿勢を持ち続けるようにします。 

すばらしい企業風土は経営者自身が謙虚な姿勢を持つことによって生まれます。経営者が率先垂範してそのような謙虚な姿勢を努めることにより、従業員が後に続くことができます。 

すばらしい職場はこうした謙虚な企業風土をベースとして作られるものです。

感謝の気持ちを持つ 

社内に和がないと、お客様に喜んでいただけるものを提供できません。製品やサービスは、それを作る人達の共同作業のもとに生み出される為、同僚との和が必要になります。 

私達が毎日仕事に精を出せるのは、お客様、仕入先、同僚、家族と、周囲の多くの人達の支援があるからです。このことを忘れずに、常に周囲の多くの人達に感謝の気持ちを持ち、信頼できる同僚と仕事を進めていくことが大切です。 

これは、六つの精神の中の “生きていることに感謝する” と同じことなのです。周りの人のおかげで今日の自分があるという気持ちで謙(へりくだ)り、感謝の気持ちを持ち続けなければなりません。 

仏様の言われた三毒の一つである愚痴、不平、不満は人生を暗くし、不幸にしてしまいます。感謝の心を持つことにより、自分の心が美しくなっていきます。それはつまり、運命が明るいものになるのです。感謝は幸運を生み出す打ち出の小槌です。 

常に明るく 

どんな逆境にあっても、どんなに辛くても、常に明るい気持ちで理想を掲げ、希望を持ち続けながら一生懸命努力を重ねてきた結果が、京セラの今日を創ったと塾長は述べています。 

人生は素晴らしく、私には素晴らしい人生が拓(ひら)かれていると信じることが何より大事です。決して不平不満を言ったり、暗く鬱陶しい気持ちを持ったり、ましてや人を恨んだり、憎んだり、妬んだりしてはいけないのです。

自分の未来に希望を抱いて、明るく積極的に行動していくことが、仕事や人生をより良くする為の第一条件です。と塾長は語っています。 

そして、誰にも負けない努力をする根性が必要です。明るく積極的に仕事をしていきますと、“どんどん仕事が好きになり、自然と誰にも負けない努力をするようになった”という風になるものだと思います。 

自分の人生は素晴らしく明るいものだと信じて、困難、苦労、苦難にめげずに、明るい未来を描いていくのです。 

物事を明るく善意に受け止める 

たとえどんなことがあろうとも、物事を良い方に善意に解釈していくことが大切です。悪い方に悪意に受け取っていては、人生はどんどん暗いものになってしまいます。 

世の中の現象の全ては、自分の心に描いた通りとなります。物事を明るく善意に受け止め、明るい心を持てるようになると、人生も自ずと明るくなるのです。 

仲間の為に尽くす 

人の行為の中で最も美しく尊いものは、人の為に何かをしてあげる行為です。人は普通、自分の事をまず第一に考えがちですが、実は誰でも人の役に立ち、喜ばれることを最高の幸せとする心を持っています。と塾長は述べています。 

世の為、人の為に尽くすことが人間としての最高の行為なのです。 

同僚や仲間の為に尽くし、彼らから感謝される事ほど人生の喜びはないと思います。或いは、お客様から本当に感謝されるような仕事をする、その結果お客様の仕事がスムーズに進み、目標としていた事を成就することが出来たら、これほど喜ばしい事はありません。 

こうした仲間の為に尽くす行為や言動は、それを行う人の心を豊かにし、美しくするのです。

これは、仏教でいう“利他行”です。 

仲間の為に仕事をする精神がアメーバ経営の神髄 

アメーバ経営の目的は、どうしたら仲間の為に、仲間と共に、目標に向かって頑張れるかを考えた経営管理システムです。 

アメーバ経営は、アメーバという小集団による独立採算制をベースとしています。一握りの経営陣が経営を考えるのではなく、全社員が経営者と同じマインド、考え方、精神(Ownership Concept - 自分の事業と考える)でもって会社を経営していくという考え方です。 

アメーバは一つの独立した採算性を持った事業集団として組織され、各々が目標に向かって、各アメーバが収益を上げているかいないか、経費の無駄遣いはないか等を把握できる仕組みです。 

事業部門別の独立採算制を採用した場合、各々のアメーバの利益の配分をどうするのかという問題があります。成果配分の問題です。

たとえば、Aアメーバの今年の業績は良くなかった。Bアメーバはここ数年絶好調で、素晴らしい利益を計上しているとします。そして、Cアメーバはここ数年、新製品開発に尽力してきたけれど、未だに損失を計上しているとします。 

一般には、業績の良い部門の人達に多額のボーナスを支給したり、昇給したりします。一方、業績の良くない部門の人々には、ボーナスの支給はされず、昇給もしないというのが良くある経営者の考え方です。 

アメーバ経営では、こうした成果配分はしません。業績の良いアメーバの給与をアップさせるとか、ボーナスを多くするといったことは行いません。 

それは、“代償を求めず仲間の為に尽くすことが人間として一番大事なこと” という考え方を経営トップが色々な場を設け、全従業員が納得するように時間をかけて話し合ってきているからです。

業績の良かったアメーバに与えられるものは、賞賛と賛辞なのです。 

もし、業績の上がったアメーバの人々が多額なボーナスを受け取り、昇給もされたとします。すると、業績の上がったアメーバの人々の意気は大いに盛り上がります。しかし、業績が果たせなかった事業部Bの人々は、それを目の当たりにして、意気消沈してしまいます。それでは会社全体がうまくいくはずはないのです。 

業績の上がったアメーバも、業績が落ちることがあります。すると、業績が落ちたアメーバの人々も意気消沈してしまいます。さらには、住宅ローンの返済はボーナスを当てにしていましたが、業績が良くなかった為にボーナスが支給されないなんて事にさえなります。 

こうして、各アメーバが意気揚々としているところもあるが、意気消沈しているところもあるとう事態になってしまいます。こうしますと、部門間の付け替え価格や人数決定等、色々な分野でギクシャクした人間関係が発生してしまうのです。 

頑張ってくれたアメーバには賞賛を与え、周囲の従業員も “君たちのおかげで会社が上手くいって、私たちもボーナスをもらえることになりました” といって感謝する。 

こうした “仲間の為に尽くす” ことの重要性を全従業員が受け入れてくれるように、経営者は努力し続けることが大切なのです。 

信頼関係を築く 

京セラでは、心の通じ合える社員同士の結びつきを経営の基盤においてきました。お互いが感謝と誠意をもって心を通わせ、信頼関係の上に立って仕事を進めてきたのです。コンパや会社の行事は全員が心を開き、結びつきを強める機会として重要視されてきました。 

信頼関係は、一夜にして出来るものではないのです。日頃から皆の心の結びつきを作り上げるよう、お互いに努力することが必要です。 

信頼関係を築く為に、コンパは非常に重要です。会社行事も全員参加を鉄則にするのが不可欠です。 

社員の慰安旅行は、皆で遊びに行くのではないのです。社員間の絆を強め、信頼関係をさらに強固なものにすることが目的であって、上司と部下ではなく、同志としての関係を築く為に設けたものなのです。 

絆を深める為には、まずお互いを知り合うことから 

お互いに知り合うことが絆を深める始まりであり、終わりでもあります。上司が部下を、部下が上司を知っているかどうかという事が、信頼関係を作っていく基盤なのです。 

信頼関係は約束事や取り決めで築けるものではないのです。あの人と食事をした、酒を飲んだ、あの人を知っている、という単純な事が人間関係を作ります。企業内においては、お互いに知り合う、共に会議をした、ということが大事なのです。 

コンパは非常に有効な “お互いを知る” 方法です。社長と酒を飲んで、社長の人格を知るようになった。或いは、社長が私の名前を憶えていてくれた。こういう事が大事なのです。 

完全主義を貫く 

マラソン選手がゴールを目指して走っている時、自分は6位までに入れればよいという風に考えている人は、決して1位にはなれません。 

年間売上目標が10億円のところ、9憶円達成しました。この時、90%達成したから良しとしようと考える人がいます。 

月次決算の数字が間違っていることを指摘された経理課社員が、“すみません”と言って、消しゴムで数字を訂正しました。 

物事を前向きに考えようとして、こうした目標に未達の場合や、間違いをした場合、“まあ、いいや。90%達成したんだから良しとしよう” と考える人がほとんどです。しかしこれは、前向きな思想とは似ても似つかない考えで、“いいかげん”なのです。こういう人は、人に迷惑を掛けても平気な人なのです。 

営業にしろ、製造にしろ、最後の1%の努力を怠ったが為に、受注を失ったり、不良品を出したりすることがよくあります。 

お客様や同僚の為にどんな仕事でも常にパーフェクトを求めなければなりません。 

塾長は京セラでのセラミックスを作る時の話をされています。

セラミックスを作る時、何種類もの原料を混ぜ、成形し、高温の炉で焼きます。焼きあがったものを研磨したり、セラミックスの表面を金属化させる工程を行ったり、製品が完成するまでには長い工程があるわけです。その工程で一つでも失敗すれば、全てがダメになってしまいます。

それまでにつぎ込んだ材料代、加工賃、電気代等、あらゆるものが無駄になってしまうのです。 

原料を混合する時、たとえ一種類でも入れ間違えば全部がダメになってしまいます。原料を混ぜる為には、どの程度混ぜたらいいのかという事まで充分知っておかなければならないのです。

混合していく時、乳鉢で混ぜる時、乳鉢と乳棒が擦れることにより、メノウの成分であるシリカも混ざってしまいます。この事も事前に充分計算しておく必要があるのです。 

混合と言っても、どこまで混合すれば焼き上げた時、良いセラミックスが出来るのかという事を知っておかなければならないのです。 

完全主義は、前の工程から引き継いだ原材料を自工程で完全に、且つ正確に処理することを意味します。それは、後工程の人々が問題なく、仕事をすることが出来るように考える事と同じなのです。自分の不注意で失敗しますと、会社に損害をもたらすだけではなく、納期が遅れてお客様にまで迷惑を掛けてしまいます。 

消しゴムで消して直せばいいというのは許されない 

月次決算や、経営管理資料 - 例えば、時間当りの付加価値の計算資料 - に間違いを指摘され、“すみません”とすぐ消しゴムで数字を消して平気で直す経理課社員がいます。 

経理課の製品は、正しい正確な月次決算や経営管理資料なのです。同僚や会社というのは、経理課にとってはお客様なのです。経理課社員は、正確且つ完全な会計データを同僚や経営者に売り、給料やボーナスを受け取っているのです。 

全ての仕事に少しでもミスがあれば、取り返しがつかないことになるのです。ですから、日々緊張して仕事をしなければなりません。 

ベストとパーフェクト 

ベストというのは、“他の物より良い”、“最高に良い物”という意味です。他と比較して、良い物・出来るだけ良い物ということだと思います。 

それに対しパーフェクトは、たとえ素晴らしい製品であっても少しでも瑕疵(かし)、傷があるだけで全てがダメになってしまうから、完璧・パーフェクトでなくてはならないという考え方です。 

完全主義といっても人間ですから、完全なことなどできるわけがないのです。しかし、完全主義を貫いていこうという意識を持って努力することが大切です。 

一生懸命に仕事に打ち込む 

一生懸命に働くという事は、勤勉であること、仕事に対する態度が常に誠実であるということです。 

一生懸命に仕事をすることによって、自分の仕事が好きになる。好きになるから、誰にも負けない努力をする。こうしていく中で、心から味わえる喜びを手に入れるようになるのです。人の一生の中で、最も大きなウェイトを占める仕事 - 人生の時間の半分を費やす仕事 – において、充実感を得られるかどうかが、その人の人生の成功につながるのです。

仏陀が説く精進とは、真面目に一生懸命努力をすること 

仏教ではよく、悟りを開くと言われていますが、それは心を高める、人間性を向上させる、心を美しくするという事と同義です。その悟りを開くための方法として、精進ということを言われています。

真面目に一生懸命に努めますと、生活の糧として報酬をいただきますが、それだけではなく、その人の心が美しくなり、人格が高まり、人間性が向上するのです。 

禅宗では、雲水は食事の用意、庭掃除やお堂の掃除に至るまでします。これらの作業(作務)は修行の一部であると考えられているのです。何故なら、一心不乱に仕事をする、真面目に一生懸命に仕事に打ち込むことが、禅定 - 座禅を組み、精神統一をはかり、精神を高揚させていく – と同じことだと考えられているからです。 

子供の頃、夏の暑い炎天下で、腰をかがめて全身汗でビッショリになって両親と稲田の草取りをしたことを今でも憶えています。田の草取りを終え、水風呂に入った時の清々しさは、あたかも自分の心が洗われたように感じたことを想い出します。その時子供心に、“僕の仕事 – 田の草取り– を見守っている仏様がいるんだ” と自分に言い聞かせたのを想い出しました。 

真面目に 真剣に-人生の豊かさは仕事に打ち込む中で生まれる- 

世の中には、特にモノづくりの世界において、名人・達人と言われる人がいます。名人・達人とは、仕事上で名人・達人というだけではなく、その人の心、精神状態が崇高なところにまで高まっている人達です。と塾長は語っています。技能も優れているが、その人が持つ心の状態が、その作品・仕事にも反映し、人を感動させ、感銘を与えるような素晴らしいものを作るのです。 

経営者の中には、“仕事だけが人生ではない。趣味や娯楽も必要だ” と言われる方がいます。こういう人がほとんどです。そういう人達は本業である自分の仕事に打ち込むことが出来ない、仕事に生きがいを見出せない人ではないでしょうか。趣味や娯楽に自分の喜びを見出そうとしているように思います。 

本業に真面目に、真剣に打ち込むことにより、その本業に喜びを見出してこそ、立派な経営者であると言えると思います。

喜びとは、周囲の方々、お客様、従業員、家族、その他コミュニティーから感謝されること、頼りにされること、尊敬されること、慕われることだと思います。

これを人生の豊かさと言うのだと思います。 

勤勉なる労働を通じてこそ、真の人格が形成される 

歴史を振り返ってみますと、リーダーによって、ある集団は大きな発展を遂げ、またある集団は悲劇的な運命を辿るということが起きています。私たちの運命は、集団のリーダーによって左右されるといっても過言ではありません。 

リーダーの資質について、中国の明時代思想家である呂新吾は、政治の在り方を説いた書物 “呻吟語(しんぎんご)” の中で、“深沈厚重(しんちんこうじゅう)なるは是(これ)第一等の資質なり” と述べています。リーダーとして一番重要な資質とは、常に深く物事を考える重厚な性格を持つ人格者であるべきだと述べているのです。

また、“聡明才弁なるは是第三等の資質なり” と述べています。頭が良くて才能があり、弁舌が立つことは、第三番目の資質だと述べているのです。 

現在では、呂新吾の言う第三等の資質しかない人、聡明弁才しかない人がリーダーとして選ばれることが多々あるのです。世界の多くの社会が荒廃している原因は、このような第三等の資質しか持っていない人をリーダーとして登用しているからです。呂新吾が述べているように、私達は第一等の資質を持った人を、立派な人格者を、リーダーにしていくべきなのです。 

第一等の資質は、先天的なものでも、永遠不変なものでもありません。たとえ立派な人格を持って生まれてきた人でも一生を通じて、その優れた人格を持ち続けるという事は希有な事なのです。

それはつまり、人格というものはその人を取り巻く環境により、時々刻刻と良い方向にも悪い方向にも変化していくものであるという事なのです。 

よくある話ですが、努力家で謙虚であった人が一度権力の座に就くと、人が変わったように傲慢になってしまい、晩節を汚すケースがよくあります。一方では、ヤクザだった人が、あることをきっかけに心を入れ替え、苦労を重ね、世の為人の為に尽くす素晴らしい人格者になるケースもあります。 

人格は日々の労働を通じて、正しい考えに基づいて一生懸命に働くことによって高まっていくものです。 

二宮尊徳の人生のように、若い時から苦労に苦労を重ね、真面目に一生懸命働くことによって作り上げた人格は、晩年になってもそう簡単に変わってしまうものではありません。と塾長は述べています。

そのようなプロセスを歩んできた人、そのように自分の人格を磨き続けた人を私達はリーダーとして選ぶべきなのです。 

地味な努力を積み重ねる 

大きな夢や願望を持つことは大切なことです。大きな目標を掲げても、日々の仕事の中では地味で単純と思われるような仕事をしなければなりません。自分の夢と現実の間には大きな隔たりがあるのです。 

どういう仕事でも、素晴らしい成果を見出すまでには、改良・改善の取り組み、基礎的な実験やデータ収集、足を使った受注活動、同僚や上司へのレポート作成などの地味な努力の繰り返しが必要なのです。

偉大なことは最初から出来るものではなく、地味な努力の一歩一歩の積み重ねがあって初めて出来るものなのです。 

毎日、一人で少しづつ地味な作業をします。それを繰り返しているうちに、周りに部下や同僚が集まってきて手伝ってくれます。少しづつ協力してくれる人が増えていくのです。一人でやれる仕事は知れていますが、大勢が一致団結して取り組むようになり、それを続けていきますと、やがては意外なことを成し遂げることが出来るようになるのです。 

日々の創意工夫が地味な努力の積み重ねを支える 

塾長は地味な努力を加速させていく方法を見つけられました。“創意工夫をする” という事です。これは多分、一生懸命やっていくうちに、創意工夫を思いつき、創意工夫が次第に面白く、そして楽しくなってきてある日、“ああ!こうすれば地味な努力が続けられるのだな” と気付かれたのでしょう。 

今日はこんな方法でやってみる、明日は更に能率の良い方法でやってみる、新しい道具を交えてやってみる。そういった創意工夫をしながらやっていくと、たとえ地味で単純な作業であっても、昨日よりは今日といった風に、毎日少しずつ向上していきますから、仕事が面白くなってきます。この創意工夫は地道な仕事を飽きないようにするための工夫に留まらず、やがては大きな発明・発見へと飛躍をもたらしてくれるのです。 

京セラは町工場からスタートしました。技術が元々あったわけではないのです。優秀な人材が揃っていたのではないのです。毎日毎日、少しづつ改良改善を重ねた結果、高度な技術を身につけるようになったのです。 

創意工夫の精神を持ち続けることが中小零細から大企業へと変えていく 

塾長は例示として、裁縫業の仕事について述べています。おそらく実際に過去にあった話のようです。

縫製工場があったとします。一枚塗ったらいくらという賃加工の仕事です。 

ボタン穴をかがるにしても、“この前はミシンで縫っていたけれども今度はこういう風にしてみてはどうか?” と工夫をするのです。あるいは、“ボタン穴をかがるところが上手くいかないのだけれども、何かいい方法がないでしょうか?” と訊きにいきます。

そうすると、裁縫業界ではないけれども、業種は違うけれども、同じことを思いもかけない方法でやっていることがあるかもしれません。 

こうしているうちに、縫製技術を身につけて、専門業者となり、独自の技術を磨いていくことが出来ます。工業用のミシンを導入することにより、今までやったことがない軍隊用の強靭な布でも縫製することが出来るようになるかもしれません。 

大学で学んだものではなく、耳学問で技術は進んでいくのです。松下幸之助さんは専ら耳学問で学び、創意工夫に励み、松下電器を世界的に大きな企業にまで成長させました。 

地道な努力を積み重ねることが大切なのです。その積み重ねの中で創意工夫をし、改良改善を続けていくことが、中小零細企業が大企業へと変身を遂げていくただ一つの方法なのです。 

自ら燃える 

物には可燃性の物、不燃性の物、自燃性のものとがあります。人間の中にも火を近づけると燃える可燃性の人、火を近づけても燃えない不燃性の人、自ら燃える自燃性の人とがいます。 

目標を持って何かをしようとする場合は、自ら燃える情熱を持った自燃性の人が必要です。

自ら燃える為には、自分のしていることを好きになると同時に、明確な目標を持つ必要があります。 

会社を立派にしようと思えば、経営者と一緒になって燃えてくれる可燃性の従業員、自ら燃える自燃性の従業員が必要なのです。一番困るのは、不燃性の燃えない従業員です。 

自燃性を作る 

自ら燃える人は、人から言われてから仕事をする、命令されたから仕事をするような人ではありません。言われる前に自分からやるという人、人からいちいち指図されることを良しとしない積極的な人が、燃える人です。 

燃える人を採用する場合は、勝ち気で何事にも積極的な人を採用するべきです。自ら燃えさせるには、責任感・使命感を持たせるのも効果的です。“責任者として、あなたが部下をリードして、この部門を守ってください” と言って、使命感を持ってもらいます。あるいは会議の中で、会議の主催者となってもらうように、積極的に発言してもらうというのも良い方法です。 

仕事を好きになる 

自分が燃える一番良い方法は、仕事を好きになる事です。どんな仕事でも全力で打ち込んでやり遂げれば、大きな達成感と自信が生まれ、また次の目標に挑戦する意欲が生まれてきます、と塾長は語っています。この繰り返しにより、仕事がますます好きになるのです。 

例えば、研究に打ち込み、良い結果が生まれてくるとだんだん面白くなってきます。面白くなってきますから、ますます仕事に打ち込んでいきます。 

好きになれば苦も厭わず 

仕事を好きになりますと、苦労など感じません。嫌々やっているとどんなことでも辛く感じるものです。“好きこそものの上手なれ ”好きになれば上達も早くなります。“仕事を好きになる” ということは、大きな仕事をするためには、一番大切なことなのです。 

物事の本質を究(きわ)める 

究めるという事は、一つの事に精魂を込めて打ち込み、その核心となるものを掴むことです。いったん物事の心理が分かるようになると、何に対しても、いかなる境遇に置かれようと、自分の力を自由自在に発揮できるそうです。 

完全主義を貫き仕事に打ち込むと、3年経ち、5年経ち、10年経っていくうちに、だんだんと物事の本質が究められるようになってくるそうです。 

宮大工さんの例でも、教育はないけれど、宮大工一筋に仕事に打ち込んできた人は自分の哲学をも同時に手に入れ、堂々と哲学の大学教授と話が出来るようになるそうです。

宮大工さんは素晴らしい建物を造ることにより、自らの人間性をも創り出しているのです。一芸に秀でた人、物事の本質を究めた人は、あらゆるものに通じるようになります。 

不変の人格は、仕事に打ち込む中で創られる 

人格は固定的ではなく、絶えず変化していくのです。真面目で立派な人格者だと思った人がリーダーに選ばれ、周りからチヤホヤされるうちに傲慢になり、人格が変わってしまうことが多く見受けられます。 

人格は普通、変化します。環境により、また状況により、変わってしまうのです。立派な人格を維持する唯一の方法は、長年仕事に打ち込み、身に付けるものです。学問で身に付けるものではないのです。物事に打ち込んで、打ち込んで人格を磨いた人は、そう簡単に道を外れたりはしません。こうした人をリーダーとするべきなのです。 

誰も通った事のない路を歩み続けた 

自分の一生を、このままでは終わりたくない。もっと色んな事をしたいと思うのならば、仕事を好きになり、創意工夫をして、今日よりは明日、明日よりは明後日と改良改善に励むことが必要なのです。 

その創意工夫の道は、誰もが歩んだことのない田圃(たんぼ)のあぜ道のようなものです。通い慣れた道、舗装された道ではないのです。 

障害物を超えたり、撤去したりしながら、自分で道を切り開いて歩く。

私はそういう、誰も歩いたことはないような道を44年間歩き続けてきたように思いますと、塾長は自分の体験を述べています。

この間、一度も振り返らず、一度たりとも座ったり、止まることをせず、常に新しい道を歩いてこられたそうです。 

渦の中心になれ 

仕事は一人ではできません。

仲間と協力して仕事をします。周囲の人々と一緒に仕事をする場合は、周囲の人々が協力してくれるようにしていく事が大事です。これが、“渦の中心になれ” という意味です。

自分が渦の中心となり、周囲の人が仕事をし易いよう気を配り、協力し易い環境を作るのです。 

例えば、あるプロジェクトが出てきました。

しかし、このプロジェクトは複数の部門と関連があり、どの部門の仕事かがはっきりしないことが良くあります。この時、各部門に声を掛けて皆で集まってプロジェクト推進チームを作ろうと切り出すのです。こうして、周囲の人の協力を得るようにするのです。“誰かがやるだろう”ではいけないのです。 

率先垂範する 

仕事をする上で、周囲の人々の協力を得る為には、率先垂範でなければなりません。人の嫌がるような仕事も真っ先に“私がやります!”と声を上げていく姿勢が必要なのです。 

どんなに言葉を並べても、行動が伴わなければ人の心を捉えることは出来ません。自分が他人にしてほしいと思う事を自ら真っ先に行動で示すことによって、周りの人もついてくるのです。 

リーダーたるものは、自ら最前線で仕事をしなければなりません。その後ろ姿で部下を教育するのがリーダーです。リーダーは最前線で何が起きているかを理解する為、部下と苦労を共にする為、最前線に出ていきます。それと同時に、大局的(たいきょくてき)にプロジェクト全体の進捗状況、また進む道もしっかりと把握し、部下に指令を出すことが求められるのです。 

リーダーには、部下の2倍の仕事をこなすエネルギーを持つことが要求されているのです。部下より1時間前から仕事に取り掛かり、部下の退社後、部下の仕事のレビューをする為、1時間は余計に残り、翌日の準備までするのです。 

こうしたリーダーは部下から尊敬され、部下はそのリーダーの指令を忠実に実行しようとするのだと思います。