盛和塾 読後感想文 第六十四号

公明正大に利益を追求する

会社は利益を上げなければ成り立ちません。自由市場において競争で決まる価格は正しい価格であり、その価格での商売をして得られる利益は正当な利益です。厳しい価格競争のなかで、合理化を進め、付加価値を高めていく努力が利益を生みます。 

お客様の求めに応じて堂々と努力を積み上げることをせずに、投機の不正で暴利を貪り、一獲千金を夢見るような経営がまかり通る世の中ですが、公明正大に事業を行い、継続して正しい利益を追求し、社会に貢献することが大切です。 

長きにわたり正しい利益を追求し、お客様の要求に応え、従業員の生活を守り、仕入先と共に商売を続ける、あるいは社会の為に尽すのは、公明正大な商いなのです。また、その利益は、社会が会社の存在価値を認めた証拠でもあるのです。利益を上げない社会に役立たない会社は淘汰されて生き伸びることができません。 

美しい決算書 京セラの決算書に見る会計のあり方

公認会計士の永津洋之さんが京セラの決算書を分析しました。会計の原理原則 - 塾長著書“実学 - 経営と会計”の中で、塾長は次のように述べています。“原理原則に則って物事の本質を追求して、人間として何が正しいかで判断する”。会計の世界にも、原理原則があります。原理原則を踏まえた経営を行わなければ、企業は長期的・継続的に成長・発展することはできません。 

会計の面で時代に左右されない揺るがない原理原則の一つに“キャッシュベース経営の原則”があります。資本金として出資されたキャッシュがどのように使われたか、売上でいくら入金があったのか、手許にはその結果としていくらのキャッシュがあるのか、そのキャッシュが増えていくことが自己資本の増加になり、新たな事業展開の元手となっていきます。 

経営者は、新しい事業への投資、次の成長へのステップを登ろうとしますと、必要に応じて使える資金が必要となります。自己資本の充実、内部留保を厚くする以外に、資本の源泉はないのです。 

筋肉質経営を支える3つの柱

京セラ会計学が京セラの財務諸表に反映されています。 

  1. 減価償却(物理的・経済的耐用年数)

京セラでは機械設備の減価償却は必ずしも税法規定の耐用年数を採用してはいません。物理的に見て、経済的に見て、耐用年数を決めているのです。税法規定では耐用年数が3年となっていたとしても、物理的に1年しかもたない機械設備は、その年に全額償却します。また、2年しか使えない(注文が3年も続けてない場合)、たとえ物理的に5年もったとしても、2年で償却します。 

多くの会社では、会計慣行や事務処理の簡略化のために税法の耐用年数を採用しています。 

  1. セラミック石ころ論

仕入れた品物、製造された製品の中には、売れ残るものが多かれ少なかれ発生します。今後も売れる見込みのないものまで棚卸資産として何度も棚卸されているケースもあります。 

棚卸は、本来経営者が自分の目で見て、自分の手で触れて行うべきものです。経営者は棚卸現場で、処分するべき滞留資産を決定していく必要があるのです。過剰、滞留、陳腐化した棚卸資産には、京セラでは特に注意しています。 

  1. 棚卸評価(売価還元原価法)

京セラでは、棚卸資産の評価方法として売価還元原価法を採用しています。棚卸資産の評価価額 = 予想売価 - 一般管理販売費 – 目標利益、すなわち正味実現可能価額で評価しています。

通常は材料費、労務費、製造間接費、すなわち製造原価を評価額としています。従ってこの製造原価方式では、市場とは全く関連していないもので、売って見なければ本当の価値はわからないというものです。 

売価還元法の基本的な考え方は、

“資産というものは、利益に貢献するものであり、利益に貢献しないものは資産として計上すべきではない”ということです。 

高いレベルの筋肉質経営を京セラの決算書に見る 

京セラ連結財務諸表指標(US GAP)

  3月31日
  2009 2010 2011 2012 2013 2014
売上高(百万円)     725,326     818,626  1,285,053  1,034,574  1,069,770  1,140,814
売上高増減額(%) - 12.00% 58.10% -19.50% 3.40% 6.60%
売上高総利益率(%) 25.80% 27.90% 30.90% 23.10% 25.60% 24.60%
売上高廃管費比率(%) 18.10% 16.60% 14.80% 18.10% 17.80% 15.00%
税引前営業利益率(%) 7.70% 11.30% 16.10% 5.00% 8.70% 9.60%

売上高を見ますと、2009年の7千200億円、2010年8千100億円(12%増)、2011年1兆2千800億円(58%増)となっており、総利益率も2009年25.8%、2010年27.9%、2011年30.9%と売上が上昇しています。固定費の上昇を抑えた結果、売上増と同じ率で売上原価は上昇していません。売上高販管費は2009年18.1%、2010年16.6%、2011年14.8%と売上増加率上昇とともない、下って来ています。これも販管費の固定費の上昇を抑えた結果です。税引前営業利益率は売上増にともない2009年7.7%、2010年11.3%、2011年16.1%と驚異的に上昇しています。 

これは、できるだけ固定費の上昇を抑える方針の結果と売上を最大に経費を最小にするという経営の原点12ヶ条の第5を実践した結果だと言えます。 

しかし売上高は2012年1兆3百億円(19.5%減)。2013年は1兆7百億円(3.4%減)、2014年1兆14140億円(6.6%増)と微増となっています。売上高純利益率は2012年23.1%、2013年25.6%、2014年24.6%、売上原価の中の固定費増を吸収できなかったと言えます。しかし販管費比率を見ますと、2012年18.1%、2013年17.1%と上昇しましたが、2014年には15.0%と大幅に減少しています。税引前営業利益率では2012年5.00%、2013年8.7%、2014年9.6%と、販管費を抑えて、上昇しているのです。

これはおそらく、販管費の中で大きな比重を占めるであろう人件費削減の為に人事異動をして、固定費増を抑えた為だと思われます。 

京セラ・経営会計原則とアメーバ経営の結果が上記の数字としてあらわれているのです。

 一対一対応の原則

完璧主義の原則

ダブルチェックの原則

採算向上の原則

ガラス張り経営の原則

保守主義の原則 

 

頭で理解しても、なかなか実践することはできないのですが、経営と会計の原理原則、これを徹底して実践する、やり続けることが不可欠なのです。 

美しい決算書

京セラの決算書を読みとっていきますと、保守主義の原則がいたる処で発揮されています。資産サイドでは、不良在庫、滞留在庫、陳腐化した在庫の削減、売価還元法による実現可能価額の評価、物理的・経済的耐用年数による設備機械の減価償却、投資損失引当金計上、負債のサイドでは返済損失引当金、製品保証引当金、借入金を極力抑える、その結果、自己資本率を80%にまで高めています。 

大規模な企業となった京セラですが、会計処理、方針の選択には原理原則、厳しい会計に対する思い・哲学が反映されて浸透し、貫かれていること、更に利益をコツコツと積み上げ、自己資本充実に努めているのです。このような観点から京セラの決算書は美しいのです。 

“京セラでは会計学とアメーバ経営と呼ばれる小集団独立採算制度による経営管理システムが、両輪として経営管理の根幹をなしている。それは京セラの経営哲学という基盤の上に会計学とアメーバ経営という2本の柱によって支えられている家にもたとえられる”と塾長は“実学”の中で述べています。

 

編集後記

塾長は2007年2月15日の全国世話人会での講話の中で、盛和塾を“実践型経営塾”とすべく、企業経営のレベルに応じた経営者のあり方ということを語られました。 

すなわち人を見て法を説くという発達段階に応じた教えについて話されました。 

  1. ただ必死に働くことを通して経営を知る発達段階
  2. 人の使い方に悩むレベルで、先人先賢の言葉を使い“惚れさせなければ本物の経営者ではない”という発達段階
  3. 会社の意義・目的を明確にし、数値目標をしっかり掲げるレベルの発達段階
  4. 損益に悩む段階で、損益計算書の見方を知り、損益計算書が実際の経営を語り掛けてくるまで、売上最大、経費最小を徹底するという発達段階 

企業の規模や発達段階によって経営の勉強は力点に違いがあります。まず共通して大事なことは、フィロソフィーと述べられています。その為には盛和塾機関紙のバックナンバーを繰り返し繰り返し読む中で、“気づき”が生まれ、その繰り返しが“気づき”を本物にする、実践するレベルに達します。企業永続のカギは愚直さとクソ真面目にあります。 

塾長は絶えず人の為、世の為を考えて、語り、行動しています。相手の人(従業員かも、お客様かもしれません)がどういう人かによって、語る言葉を選んでいると思われます。仏様があらゆる人の人生コンサルタントになれたのは、絶えず相手の考え、立場を考えておられたからだと思います。 

矢崎勝彦さんの編集後記です。