盛和塾 読後感想文 第七十六号

売上を最大にし、経費を最小にする 

経営の経験や知識がなくても、利益を確保するには単純に売上から経費を引いた残りが利益と考え、売上を最大に、経費を最小にする。その結果として利益が増える。この原則を実践してきたことが京セラを高収益の会社へ導いたと塾長は語っています。

通常、売上が増えれば経費がそれに応じて増えていくと考えがちです。しかし、高収益をあげるには、とにかく売上を最大に、経費を最小にするための創意工夫を徹底的に行うことが肝心です。

物事の本質が何かと単純化して考えることが大切です。複雑なものの本質が何かと考え、基本的なポイントを捉えることが経営にとって大切なことだと思います。

“稲盛和夫の哲学”をひもとく 採算の向上を支える 

企業の会計にとって、自社の採算向上を支えることは、最も重要な使命です。採算を向上させていくためには、売上を増やしていくことはもちろんですが、それと同時に製品やサービスの付加価値を高める努力が不可欠です。付加価値を向上させるということは、市場にとって価値の高いものをより少ない資源で作り出すということです。

採算の向上は経営を管理する“管理会計”の役割であり、企業の業績と財務状態を正しく外部に報告する“財務会計”とは目的が異なります。しかし“管理会計”も“財務会計”も経営にとって等しく必要な会計です。経営者は管理会計が財務会計の決算にどう関連していくのかを正確に把握していなければなりません。

京セラでは、管理会計と“アメーバ経営”と呼ばれている小集団独立採算制度による経営管理システムが両輪として、経営管理の根幹をなしています。経営哲学という基盤の上に、会計学とアメーバ経営という二本の柱によって支えられているのです。

時間当り採算表の用い方

経済的発展をもたらすものは、仕事を通じて創造する新しい経済価値です。経済価値をより多く生み出すには、できるだけ少ない経費でより多くの経済価値を生み出す必要があります。すなわち最小の経費で最大の売上を得ることです。

消費する資源を少なくする、倹約精神に徹することです。お客様が必要とする製品やサービスを提供するために費やすあらゆる支出に一切無駄があってはなりません。製品をつくる為に使う材料、原料、消耗品、燃料、電力、また設備投資、管理費用、全ての項目で可能な限り節減をしなければなりません。

売上を増やそうとすると、通常それに比例して経費も増えると考えられます。しかし、あらゆる知恵と工夫をこらして、経費はつねに徹底して切り詰めるようにすることが大切です。

時間当り採算表とは“売上を最大に、経費を最小に”という経営原則を実現していく為に、売上から経費を差し引いた価値-付加価値を創り出す為のシステムなのです。企業が存続していく為には、付加価値を生み出し、高めていくことが必要なのです。

この付加価値を、誰でもわかるように、単位時間当りの付加価値を計算して“時間当り”と呼び、付加価値生産性を高めていくための指標としました。経営管理部門に毎月、時間当り採算表を作成してもらい、現場の従業員にも採算が簡単に理解出来るようにします。添付参照。

  1. 時間当り採算表の項目について

製造部門のあるアメーバのネット生産高・総生産 (E) は社外に売った社外出荷(B)、社内に売った社内売  (C)、社内から買った社内買 (D) から計算されます。

 総生産 (E) = 社外出荷 (B) + 社内売 (C) - 社内買 (D) 

工場がいくつかの工程に分かれている場合、各工程は、それぞれが一つの事業として成り立つ単位で分割され、独立採算のアメーバとなります。

社内買 (C) は、社外から買うよりも、安くなっている時に発生します。社内買 (C) が社外からの仕入よりも高くなっている場合は、社内買 (C) は発生しません。社外から購入するからです。

控除額 (F)

控除額 (F) の中には原材料費、消耗品、燃料費、電力料、外注加工費、修理維持費、減価償却費、出荷費用等が含まれます。この中にはアメーバの従業員の人件費は入りません。

製造部門アメーバ 時間当り採算表(例)

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  1. グロスマージンに注目する

社内へ売った“社内売”、社外へ売った“社外出荷”の二つを足して、“総出荷”となります。“総出荷”から、社内から買った“社内買”を引いて“総生産”となります。“総生産”から原材料費、外注加工費といった人件費以外の“控除額”を差し引いたものが差引売上 = 付加価値となります。時間当り採算表では、そのアメーバ(部門)がいくらの付加価値を生産したかがわかるようになっています。ですから付加価値は基本的には会社の製品市場価値とアメーバ(部門)でのコスト削減努力の二つの要因で決まるのです。付加価値の高い製品、独自性のある製品、市場価値の高いものを、営業部、研究開発部、製造部の強い協力体制で創意工夫して開発していきます。一方、製造部では何とかして製造コストを削減しようとします。

流通業の場合は、商社のように、売上高の拡大を目指すことが多いと思われます。時間当り採算表を作成しますと、売上高、仕入高、電気代、交通費等、人件費を除く諸々の経費を引き、付加価値が算出されます。この時間当り採算表の中では、とくに売上高、仕入高に注目する必要があります。グロスマージン(売上総利益)が非常に大切です。

売上高が10億円ある。仕入高は9億円で、売上総利益は1億円しかなかった。そこから経費を使えばほとんど利益はありません。売上総利益率が10%では、いくら経費を削減しても採算は合いません。経営者はもっと売上総利益率の取れる商品を扱わなければなりません。仕入を採算表で控除額、原材料、外注加工費などと同じ扱いにしてしまうと、どれほどの売上総利益率が出ているのか見えにくくなります。

経営者はどのようにして付加価値を増大させるか、考えなければなりません。上述のように、売上総利益(グロスマージン)をどう確保していくのか、経費削減と同様に、考慮していくことが肝要です。

  1. 時間当り採算表は設計が肝心

流通部門アメーバの場合、採算表を有効活用するためには、製造部門アメーバとは多少異なった工夫が必要です。仕入高を控除額の中に入れてしまうと、経営状態がはっきりと見えて来ません。

添付のように、仕入高を控除額に入れず、売上高と対比させて売上総利益 (グロスマージン)を見ていくようにします。

流通部門アメーバの時間当り採算表(例)の中では、  社外出荷の売上総利益率は 20,000 / 130,000 = 15.38%  社内出荷の売上総利益率は 10,000 / 50,000 = 20%

となっています。この売上総利益(グロスマージン)の下の控除額を差し引き、差引売上(付加価値)が算出されます。

このように流通部門アメーバでは、売上総利益(グロスマージン)と控除額を分けて検討することが大事です。

経営の要諦は、売上を最大に経費を最小にすることなのですが、流通の場合は、売上総利益(グロスマージン)が最大にならなければなりません。そして採算表にある控除額を最小にするのです。

売上総利益(グロスマージン)を最大にするのは経営者の役割です。控除額に対しては、採算表を従業員に充分理解してもらい、協力して経費最小を目指すことが肝要です。全員の協力があって、はじめて“売上を最大に、経費を最小に”の経営原則を実施していくことが可能なのです。

流通部門アメーバ 時間当り採算表(例)

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  1. 業績は付加価値を総時間で割った“時間当り”で評価する

業績の評価は、いくら利益を生み出したのかではなく、いくらの付加価値を生み出したかによって評価します。利益をもって評価しますと、利益のあったアメーバは、利益が上がったのだから、我々のアメーバは他のアメーバとは違うのだという風に増長します。利益を出せなかったアメーバは赤字を出して落ち込んでしまいます。そこで各アメーバの付加価値を、労働時間数で割るようにして、各アメーバの成績を時間当り付加価値がいくらだったかをベースにして評価するようにするのです。

時間当りの数値が小さい場合は、採算を高めるように、従業員が努力してくれることを期待するのです。

京セラにおける原価の考え方 

大企業の製造部門では、一般的に過去のデータなどを元にして標準原価を設定しています。実際の原価と比較することで原価管理を行う、標準原価計算が管理会計の常識となっています。製造部門は設定された目標である標準原価を達成するために、最大の努力をします。標準原価の目標は、各部門がより高い目標に挑戦するために自ら設定するのではなく、原価管理部やマネジメントの過去の実績に基づいて作られた標準原価を達成することが目標となります。

アメーバ経営では、独立した経営組織であるアメーバが自ら設定する目標は、そのアメーバの生産高と付加価値であって、原価ではないのです。まず受注をできるだけ多く獲得し、その受注に基づく生産を最小の経費で実現できるように計画し、実行するのです。結果として付加価値を最大にするのです。

アメーバ経営では、主役は最小の経費で最大の売上をもたらすように智慧を生み出す人の集団であり、焦点があてられるのは、そのアメーバが全体として生み出す付加価値なのです。一方、標準原価計算における原価管理システムの主役は製品という“モノ”であり、焦点があてられるのは個々の製品の工程別の原価なのです。

  1. 製造部門こそプロフィットセンター

現在の会計学では、標準原価を算出することが一般的です。しかし、標準原価方式には大きな問題があります。

テレビを製造しているケースがあります。数ヶ月前に作った実績を元に原価を計算します。しかしテレビのマーケットプライスはどんどん下がっています。この値段まで下がるだろうと標準原価を決めます。製造部門では、標準原価を達成すべく、購入部品の値段交渉をしたり、色々な努力をして目標の原価で作ります。営業部門は標準原価で製品を買い取り、いくらで売るかを決定し、売ります。その売上と原価の差額が売上総利益(グロスマージン)であり、このグロスマージンから販売管理費を引けば、営業利益がでます。

この場合、製造部門は指示された原価に合わせて作ることを仕事としているだけで、利益に貢献しているという意識は持っていません。指示された原価を守りさえすれば、製造部門の目標は達成されたことになります。標準原価よりさらに低い原価で作るという努力をすることにはなりません。このように、標準原価方式を採る会社では、何千人もいる製造部門の従業員たちに会社の利益に貢献するという実感はわからないのです。利益を出すのは営業部門が生み出すグロスマージンから販売費を引いて、利益だとされており、利益を生み出したのは、あくまで製品を売った営業部なのです。

テレビにせよ電化製品は急激に値段が下がっていきます。決められた原価で作っても、売る時にはすでにマーケットプライスがそれを下回っているケースも数多くあります。売れば売るほど赤字が増えていきます。“マーケットプライスがあまりにも急激に下がったために原価割れで売るしかなかった。それは私の責任ではない”と営業部はいいます。一方、製造部門は言われた原価で作ったのだから、自分達の責任ではないといいます。誰にも責任がないまま大巾な赤字になってしまいます。これが標準原価方式の実体なのです。

製造部門こそプロフィットセンター(企業内において、利益に責任のある部門)であるべきなのです。マーケットプライスは刻々と変化していきます。製造部門はマーケットの動きに合わせて利益が出るように考えて、生産していかなければならないのです。京セラでは“営業が利益を生み出すのではない。製造が生み出すのだ。営業には製造部が作ったものを売る手数料を払えばよい。”と定めているそうです。例えば営業部に10%の手数料を支払います。営業はその手数料の中から、電話代、交通費、人件費、レント代等、経費を払って利益を出します。製造部門は利益を出せるように時々、刻々と動いているマーケットプライスから10%引いた価格内でモノを作り、さらにコストダウンを続けていかなければなりません。

  1. 在庫評価は売価還元方式

標準原価方式の場合では、この製品は標準原価でいくらと決まっていますから、そのまま在庫評価のベースとして決算をします。しかし、マーケットプライスが標準原価よりも下がってしまっている場合は、経営の実態が見えにくくなります。標準原価で在庫評価しますと、一見会社は利益が出ているように見えます。しかし実際は、在庫は原価割れを起こしていますので、在庫を売る時には損が発生するのです。

会社として資産として計上されるものは、会社の将来の利益に貢献するものだけなのです。余分なものは経費であり、損失なのです。在庫評価も、利益に貢献することをベースとして評価すべきものなのです。これが売価還元法式なのです。製品の原価率が70%とします。マーケットプライスが下りますと、原価はマーケットプライスの70%となるわけです。それが在庫評価額となるのです。

月次の利益変動幅を小さくする

標準原価方式に基づいた在庫評価をしない理由の一つは、製品が完璧(かんぺき)でなければ市場価値はないと考えるのです。仕掛品は完璧な製品ではないのです。従って、仕掛品は年度末以外は評価の対象としていないのです。通常の会計上は製造途中の仕掛品も製品と同じようにその原価で評価されます。仕掛品は、コストの集合体というだけで、購入して頂くお客様にとっては何の価値もないものなのです。

アメーバ経営での時間当り採算制度においては、支出した製品費用から原価計算によって評価される仕掛品価値と差し引いて製造原価を計算するということはせず、製造費用は、その月に発生したすべてのものとしており、複雑な製造原価計算制度は採用していないのです。何故ならば、ユーザーである顧客から見れば、未完成な製品など何の価値もないものだからです。

  1. その月に買ったものは、その月に経費として落とす

通常の財務会計では、毎月、原材料、仕掛品、製品と、原価を算出して製造原価計算書、損益計算書、貸借対照表を作成しています。しかし中小企業の場合は、月次決算では実施棚卸はしませんから、正確な損益は算出されていないのが普通です。多くの会社では、原材料や仕入商品を月末に正確に把握せず、増減を考慮せずに月次決算をしています。そうしますと、月によっては利益が出たり、出なかったりして、月次決算をしている意味がありません。

こうしますと、経費を削減しようと従業員と会議をしても、決算に大きなバラツキがありますから、どのような手を打ったらよいのかわからなくなってしまいます。

こうしたバラツキは、原材料、仕掛品、製品在庫があり、毎月末増減することにより発生します。大量に原材料を仕入れ、在庫が増えますと、在庫管理ができていない場合、仕入だけが経費として計上されますから、当月は大巾なロスが発生します。翌月は原材料仕入がゼロだったとしますと、経費はゼロとなり、大巾な黒字となってしまうのです。原材料、仕掛品、製品の管理が行き届いており、原価計算が正しくされておりますと、こうしたバラツキは発生しません。しかし手間ひまがかかるため、実際には難しいのです。

アメーバ経営では、その月にアメーバが買った原材料、部品は、その月に経費として落とします。原材料が手許に残っているのに経費に落としてしまうのは、たしかに、おかしいのです。しかし、そもそも、使い切れないほど買ってはいけないのです。“当座買いの原則”-要るものは要るときに要る量だけ買うべき。安いからといって大量に買ってはいけないのです。

そうしますと、今使わなくても、買ったものは経費になってしまいますから、すなわち赤字になりますから、要る分しか買わないことになります。仕入れた原材料がすべて製品となり、売却されるようになりますと、売上-仕入=売上総利益(グロスマージン)となり、月次決算も非常に単純になってきます。生産規模が変わらない場合、原材料在庫、仕掛品在庫、製品在庫の計算は一定となります。

会社経営がうまくいっていない会社は、毎月の決算の利益幅が大きく変動してしまっています。管理がよくされている会社の月次決算は、利益幅がフラットとなり、安定しています。