盛和塾 読後感想文 第七十八号

稲盛和夫の実学をひもとく 

キャッシュベースで経営する 

  1. キャッシュベースが会計の基本

キャッシュベースの経営というのは “お金の動き” に焦点を当てて、物事の本質に基づいたシンプルな経営を行うことを意味しています。会計はキャッシュベースで、経営をするためのものでなくてはなりません。 

誰でも分かる収支計算があります。製品を売って代金を頂く。その為に、材料仕入代、人件費、販売費、一般管理費をその代金から支払う。利益は販売代金から、すべての支払いがすべて終わった後に残ったお金です。すなわち現金収支の計算が損益計算となっています。 

上記の例を別の観点から言いますと、銀行預金残高が決算期首から期末にどれだけ増えたか、が利益です。どれだけ減ったかが損失です。 

この収支計算が会計の根本的な考え方なのです。会計の知識がなくても誰もが解かるのです。 

  1. キャッシュをきちんと把握せよ

現代の企業会計では、企業の活動を一年毎に区切って損益計算をします。近代会計では⁺収支計算をベースとしてではなく、会社の経済価値が増えた時、例えば販売があった時、収益を計上、経済価値が減少した時、例えば製品を出荷したり、人件費等経費が発生した時、費用を計上します。収益-費用=利益として、一年間の利益を計算します。これが発生主義といわれる会計方法です。例えば販売したとしても、入金は翌月になることもあります。材料を購入しても、人を雇っても、給与の支払いは翌月になることがあります。その結果、決算書にあらわされる損益の数字の動きと、実際のお金の動きが直結しなくなり、経営者、従業員には会計というものがわかりにくいものになってきました。社会が発展し、会社を取り巻く環境が変わり、外部報告用の決算書、株主、政府報告等、会計が複雑になりました。会社の価値を報告する、損益を報告する等、外部報告を目的とした、発生主義に基づいた会計方法、財務諸表報告の為の会計(財務会計)が要求されることとなりました。 

また一方では会計の原則に戻り、会社経営の為の会計、管理会計によって経営に直接役立つ会計が必要となっているのです。そこで、プリミティブな会計方式、キャッシュベースの会計、“キャッシュ”に着目して、正しい経営判断を行うべきと考えたのです。 

約束手形:会社によっては製品を納入してもすぐに現金で支払わず、約束手形三か月で支払うことがあります。現金化するのには三か月待つ必要があります。 

売掛金:会社によっては製品納入しても月末締め、翌月月末払いということもあります。立場の弱い企業ですと、台風手形(二百十日)を受けざるを得ないこともあります。 

買掛金:仕入れの時は即金では支払わず、約束手形(三か月)で支払うこともあります。 

支払いを遅らせますと、銀行口座に残高が多くなり、儲かったように見えるのです。近代的な損益計算書を作成しないと、現金だけを見ていますと、ものすごくお金があって儲かったと勘違いします。 

近代会計学では、売った代金は売掛金、あるいは約束手形として処理されます。仕入の時は買掛金として、或いは支払い手形として記帳します。いずれ、これらは支払わなければなりません。従って、現金だけに注目するのではなく、売掛金・受取約束手形の入金予定、買掛金・支払手形の支払い予定 - キャッシュフローをきっちりと毎週、毎月見ておく必要があるのです。 

会計がわかっていないと経営はできない 

  1. 多くの経営者が会計の重要性がわかっていなかった

儲かったお金はどうなっているか。

利益はあがっているそうだが、その儲かったお金はどうなっているのか。配当金を支払うという話だが、儲かっているのにどうして配当金の支払いの為に決算資金として銀行借入をするのか。というようなことがよく問題になります。 

ほとんどの経営者は忙しく、会計学を勉強している時間がない。また、会計も複雑になってきています。こういうことでますます会計がわかりづらくなっていると思われます。 

“稲盛和夫の実学”が出版されました。多くの企業経理担当者が読まれたそうです。世の中の経営者の多くが実は会計を知らずに漠然と経営をされています。経理担当者がこの本を読んで、社長に“京セラの稲盛さんの本を読んで下さい”というそうです。会計の重要な原則、重要性について、いくら説明しても聞き入れてくれなかった社長が“それなら私も読んでみよう”と読んでくれたと聞いています。 

  1. 利益はどこにあるのか

配当するお金がなくて、わざわざ銀行から借りてくるというのでは、儲かったと言えるのだろうか。経理部長いわく“それでも儲かったと言うのです。”そこで損益の数字の動きと実際のお金の動きとをはっきりと結び付けて説明する必要があることに気がつきました。経理部長は貸借対照表の各勘定の動きを追いながら、資金の源泉と使途をあらわした資金運用表を作成しました。こうして現金収支のみからなる会計であるならば出て来ない売掛金、受取手形、棚卸資産、固定資産、買掛金、借入金等、さまざまな勘定科目が貸借対照表にあらわされていることがわかったのです。 

利益を出しても売掛金、棚卸資産が増加すれば、お金は吸い取られてしまっているし、借入金を返済すればお金が消えてしまいます。 

全ての取引が現金取引ならば、貸借対照表の中に受取手形、売掛金、貸倒引当金、棚卸資産という項目は必要なく、現金があるのみで済みます。ところが物を売ってもまだ代金をもらっていない場合があるものだから、売掛金という科目が必要ですし、受取手形がある場合は、受取手形という科目が必要です。こうしますと利益がでたからといって資金があるとは限らないのです。 

  1. キャッシュフロー偏重は危険

資金運用表は、財務諸表の一部として表示されるようになっています。資金運用表には以下の三つの資金移動に分類されています。

  • 営業活動によるキャッシュフロー 事業展開による資金の動き
  • 投資活動によるキャッシュフロー 設備投資、投資有価証券等の取引
  • 財務活動によるキャッシュフロー 借入金、資本金等の財務活動 

キャッシュフローは非常に大切な経営管理の一部ですが、最近、ウォールストリートでは、キャッシュフローをベースに企業評価することが多く見られます。しかし単純にキャッシュフローが良いから、現金残高が増えたからと言って、業績が良いとは限らないのです。営業活動以外の投資活動や財務活動によってキャッシュフローが良くなることもあるのです。 

損益計算では赤字(営業活動)がでているけれども、キャッシュフロー計算書では黒字だから、よい企業経営と考えてはいけないのです。キャッシュフローだけに注目して偏った経営をしてしまうケースが見受けられます。 

資産か費用か 

  1. 資産か費用かは経営を左右する重要な問題

収益と費用がお金の動きから切り離されて、損益計算書が作成される発生主義会計が近代会計の財務諸表の主流となっています。しかし経営の原点は現金主義会計で考えられなければなりません。キャッシュベースで考えるべきです。 

例として、バナナの叩き売りを挙げてみます。バナナの叩き売り人は村の秋祭りでバナナを売って儲けようとします。

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バナナ叩き売屋は500円儲かったと思いました。ところがそこに税務署が来て言うのには、リンゴ箱、布、棒はまだ使えるはずで、これは資産で、費用として経費にすることは認めません。ですからあなたは2000円の利益があったわけですから、税金1000円を支払うべきですと言ってきました。 

税務署はリンゴ箱、布、棒はりっぱな財産だと言います。本人は明日には他の工地に移るので、財産はすべて捨てていく予定でいました。リンゴ箱を買ったお店へ行き、買い取ってくれないかと頼みました。お店は “タダだったらもらってもいいよ” と返事して来ました。結局、リンゴ箱、布、棒は資産としての価値はないのです。 

会計上は資産として計上されるかも知れないが、本当に財産としての価値があるのかは経営者が判断すべきものです。経営者にとって捨てるものは、経費として落とすべきです。あるものを資産とするか費用とするかは会計的には大きな違いがあるのです。 

  1. 実態に即した減価償却を行う

バナナ売りのケースでは、経営者は道具すべて一千五百円は経費処理します。従って利益は五百円なのです。これから税金二百五拾円を支払い、手許には二百五拾円残るだけです。キャッシュフロー、収支計算で二百五拾円が残るのみなのです。

会計が解っていない経営者は、単純に売上三千円-仕入-千円=利益二千円と考えてしまいます。 

例として、ファインセラミックスの粉末を固め、形を作るための金型の話です。

会計上は金型は資産として計上され、減価償却されます。金型にも色々な種類がありますが、税務上は一括して耐用年数2年と定められています。 

ファインセラミックスの原料というのは酸化アルミニウムなど非常に硬度の高い粉末です。ですから金型は1年も保ちません。金型自体が摩耗してしまうのです。税務上の耐用年数2年は、京セラの金型には合っていないわけです。税務署との話し合いで、金型は経費処理することになったのです。 

  1. 使い物にならない資産は早く処分する

貸借対照表の固定資産の中には有形固定資産があります。

その中に、機械器具があります。長年工場を運営していますと、古い機械器具が固定資産台帳に載っています。これらの古い機械器具、例えば金型等は、将来使う見込みのないものもあります。しかも残存範価があり、毎年減価償却をしているものもあります。 

廃棄すべき金型や機械が資産として残っているわけです。こうした古い機械器具は、直ちに廃棄処分し、損失として処分すべきものです。その分だけ損益計算書では利益となっているのです。 

それだけではありません。古い機械器具はスペースを取ります。保険料等、管理費用もかさみます。経営上、余分な経費が発生しているのです。 

  1. 減価償却の2つの側面

減価償却というのは、お金を借りて機械を買って長期にわたり返済していくようなものです。一千万円の借入をして、一千万円の機械を買います。10年間で減価償却をしますと、毎年銀行に百万円返済するのと同じことです。10年後には銀行からの借入を返済することになるのです。 

一方、借入をしない場合は、毎年百万円ずつ預金をして10年後には一千万円の預金がたまることになります。原価償却は機械を更新するための資金となります。 

  1. 損益計算書の利益と手許の現金を一致させるような経営を目ざす

儲かったお金がどこにあるかを正確に把握しておくことは、経営の基本です。しかも経理が何日もかけて作った決算書を見て初めて、どこにあるかをつかむというのでは“キャッシュフローの経営”にはならないのです。すでに過去のものとなった事実に対して、これからアクションをとることは出来ません。経営はあくまで“リアルタイム”で眼前の事実と取り組まなくてはなりません。 

決算は経理が何日もかけて、決算整理における様々な会計上の評価、判断をして、損益を算出します。しかし手許にある現金は、その瞬間瞬間に残高を明確につかむことができます。自分で使えるお金がリアルタイムで把握できていなければ、激変する経営環境の中で会社を経営していくことはできません。 

ですから、経理が時間をかけて算出する損益ではなく、まぎれもなく存在する“キャッシュ”に基づいて経営のかじ取りを行うべきものです。しかし、決算上の損益というものも、企業活動の成果として極めて重要なものであり、株主への配当、税金等、目を離すことはできません。 

そこで、会計上の損益と手元のキャッシュフローとの間に介在するものをできるだけ少なくすることが必要となります。会計上の利益から出発してキャッシュフローを考えるのではないのです。経営そのものを“キャッシュベース”現金主義で考えることが経営の中心なのです。 

損益計算書の損益と、手元のキャッシュがイコールになるような経営が出来るようにすべきなのです。 

土俵の真ん中で相撲をとる

お金のことを常に心配していては仕事ができない。そのため、ぎりぎりの資金繰りは決してしないようにしなければならない。 

よく手形決済の為に走り回り、売掛金回収に、買掛金支払い延期、ともすれば給与の遅配等、資金繰りに時間を費やすようでは、経営はできません。金策に走り回っているのは、事業家としての仕事ではないのです。 

  1. 松下幸之助ダム式経営

松下幸之助氏の講演会がありました。“ダム式経営”についてでした。幸之助氏は会社を経営する時、ダムを作ることで、川がいつも一定の水量で流れているように、“ダムの蓄え”を持って事業を進めていかなければならないと説かれました。講演の後の質問の時に、ある経営者が幸之助氏に質問しました。

“どうやったらそのような余裕のある経営ができるのでしょうか。”

幸之助氏は“その答えは自分も知りません。しかしそのような余裕のある経営が必要だと思わな、あきまへんな”と答えた。聴衆の多くが笑いました。塾長はこの言葉に深く心を動かされたようです。 

何かを成そうとするときは、まず心の底からそうしたいと思い込まなければならない。“わかっているけれど、現実にはそんなことは不可能だ”と少しでも思ったら、どんなことも実現することはできません。 

“土俵の真ん中で相撲をとる。”土俵際ではなく、まだ余裕のある土俵の真ん中で相撲をとるようにするという意味です。“ダム式経営”と同じ考え方です。 

幸之助氏は、次のように話されました。

“雨が降ると川に鉄砲水が流れる。日照りが続くと、川に水がなくなり、乾いてしまう。そうならないように、ダムを作って、水が多い時はダムに水を貯め、日照りが続いたらダムの水門を開いて一定の水量がいつでも流れるようにすべきです。つまり、調子のいいとき、景気のいい時には貯えて、景気の悪い時には貯えたものを出しながら一定の経営ができるようにすべきです”  経営には余裕がなければなりません。 

幸之助さんは二つのことを説かれました。

1)      余裕のある経営

2)      強い想い

聴衆の1人が、質問しました。

“中小企業の我々も余裕のある経営が大事だと、あなたに言われなくてもみんな思っています。余裕のある経営をしたいと思うけれども、その日暮らしになってしまうから困っているのです。余裕のある経営をするには、具体的にどういうことをすればよいか、教えて下さい” 

幸之助さん “余裕のある経営が必要と思わなあきまへんな” それを聞いた一部の聴衆は話していました。“松下さんはたいへん儲かっているから、余裕のある経営を簡単に言ってはるけれども、余裕のない我々中小企業にはできない” “どうすれば余裕のある経営をできるのかと質問しているのに、“思わなあきまへんな” では答えになっていない” などと言っていました。 

ほとんどの人は、思ったことを実現しようとするのですが、強い持続した思いがなく、出来ない理由を考えて、あきらめます。自分を許してしまうのです。自分がこうしたいと本当に思いますと、周囲の人からの支援の手が差しのべられることがよくあります。周囲の人から助けてあげようと思われるくらい、強い持続した思いが大切です。 

  1. 土俵の真ん中で相撲をとれば、経営は安定する

資金繰りで困られる企業が多くあります。約束手形の期日が今日だ。銀行口座には充分な残高がない。ギリギリになってから金策に追われる。約束手形の期日はわかっているのですから、いつでも支払えるように準備しておかなければなりません。土俵際に追いつめられて、あわてふためいて“勇み足”になったりして負けてしまう。つまり倒産してしまうのです。 

  1. 銀行からの借り入れに頼らない

世の中の経営者の中には、銀行から借金して、それを元手にして事業拡大していこうと考えている方が多いと思います。しかし銀行は、天気の良い日には傘を貸すが、雨が降れば傘を取り上げるのです。銀行の側から見ますと、お金を貸しても返済してくれなければ銀行の経営が成り立ちません。雨が降ったら、借りた傘は取り上げられるというのが当たり前なのです。どんな時でも雨に濡れないようにしておかねばならないのです。 

経営者の中には、銀行からお金を借りられるだけの信用力があるということは、事業家として成功するための必須条件だと考える人が多いようです。ただし銀行借入をしますと、利息と元本の支払いがあります。 

銀行に支払う金利は経費ですから、5%の金利としますと税引後の金利は約2.5%となり、銀行から借りた資金を使って事業をした方が、有利と考えられます。銀行金利が高い時は、確かに大きな節税になります。事業規模を拡大し、確かな利益が見込まれる時は、銀行借入も必要です。しかし、これは天気の良い日の話です。 

ただし、雨の日もあります。事業の先行きに雲が見えてきますと、銀行は“貸した金を早く返してくれ”と言ってくるのです。

つまり銀行は、儲かって余裕があり、お金を借りなくてもいい時に、借りてくれと言います。経営が苦しくなってお金が必要になった時は、早く返せと言って来ます。 

京セラは無借金経営をしてきました。銀行借入はありません。 

  1. 自己資本の増加が経営の安定化につながる

現代は技術革新が進み、わずかな間に事業環境が一変してしまうことがあります。予想を上回る膨大な資金を研究開発、新規事業、設備に投入しなければならない事態に追い込まれることがあります。そうであっても、経営者は従業員の生活を守っていかなければなりません。 

もし資金に余裕がなければ、このような事態に対して、積極的に手を打つことができません。経営者は必要に応じて使えるお金、すなわち自己資金を十分に持てるようにしなければならないのです。そのためには、内部留保を厚くする以外に方法はないのです。 

貸借対照表の資本の部が自己資本です。自己資本=総資産-負債です。資産の部は流動資産(お金、売掛金、棚卸資産等)と固定資産(土地、建物、機械設備等)から成り立っています。負債は流動負債(1年以内に返済予定借入金、支払手形、買掛金等)と固定負債(1年以上の長期借入金等)から成っています。自己資本は資本金、資本余剰金、利益余剰金から成っています。この自己資本は、もともと資本金として受け入れた元本と利益余剰金から成っています。利益余剰金は長年会社が生み出した税引後利益を累計したものです。 

この自己資本を多くして、その資産の占める割合を大きくしていくことは、経営の安定化につながります。 

  1. キャッシュベースの経営が自己資本を増やす

借入による資金調達には次のような問題があります。

  • 市場における金利、資金需給の動向、政府や金融機関の政策や方針
  • 借入時期、承認時期が資金需要のタイミングに合わない
  • 銀行への書類提出・会議に多大の時間がかかり、銀行側の事務処理費用、弁護士費用、評価費用が請求される
  • 返済計画の提出、細かい事業予算の作成等の時間 

一方、自己資本の源泉は二つあります。

  • 営業からの税引後利益
  • 減価償却費 

安全に経営をしようと思えば、減価償却費プラス税引後利益で返せる範囲のお金で設備投資をします。

自己資本を高め、なるべく早く借入を返済するようにする。高い自己資本比率はキャッシュベース経営の結果なのです。 

キャッシュベースの経営がもたらすもの 

  1. キャッシュの動きと利益の動きを直結させる

近代会計は発生主義にもとづいて発展してきました。ところが会計そのものは非常に高度で複雑なものになってしまいました。発生主義に基づいた利益が、実際に手元にあるお金の動き、キャッシュフローとは結びつかないものになっています。 

アメリカでは貸借対照表、損益計算書と並んで“キャッシュフローステートメント”が正規の決算報告書を構成するものとして位置づけられ、決算書には必ず含まれるようになっています。 

ところで、このキャッシュフロー・ステートメントは発生主義に基づいて算出された利益に対して、減価償却費などの、非現金取引の伴なわない項目を調整したものです。間接的にキャッシュフローをとらえたものであり、実際の収支をまとめたものではありません(間接法)。キャッシュベースの経営とは、経営そのものを実際の“キャッシュ”の動きと利益とが直結するように近づけていくことなのです。 

一生懸命努力して、経理が、一千万円の利益が出ましたと報告したとします。経営者は“そうではありません。売掛金の回収も残っています。棚卸資産の仕入にお金を使いましたので、銀行口座には資金は溜まってはいないのです”こういうことができるだけ起こらないように、仕入は“当座買い”します。余計なものは買わない、必要な時しか仕入はしないという風に、できるだけ、利益とキャッシュが近づくようにするのです。 

  1. 発生主義による複雑化

商業が発達していない時は、すべて物々交換、キャッシュベースで取引を完了させていました。商業が発生した為に、現金取引以外に信用取引が発生してきました。発生主義では品物を相手に渡した時点で収益として勘定します。現金は後で受け取ります。仕入の時も、品物を受け取った時に仕入として勘定します。現金は後で支払います。これが発生主義による収益・費用の勘定処理です。現金主義とは、収益・費用の認識時点が異なるのです。 

  1. 高い自己資本比率が企業に永続性を持たせる

税引前利益から税金を納めて、残った利益が自分が自由に使えるお金になるように経営していきます。これがキャッシュベースの経営です。キャッシュベースの経営とは、利益が出たなら、その利益は現金で残っているという経営です。 

アメリカではキャッシュフローステートメントを見る時、EBITDA(Earnings before interest, tax, depreciation, and amortization)税引前利益、支払利息、減価償却費の合計で企業の業績評価をします。たとえ赤字でもキャッシュフローが良ければ、よしとすることがあります。ときには金利が安いので借入をして、自社株を買って、株価を上げようとする会社が後をたちません。自己資本比率が大幅に悪化してしまいます。 

アメリカでは自己資本が小さくて利益を出す会社は自己資本利益率が高く、優良企業と評価されます。 

しかし、自己資本を膨らませていく経営は、外部から多額の負債をかかえて経営するより安定した経営ができるようになります。自己資金比率は50%維持することが望ましいと思います。 

会社はゴーイング・コンサーン、永遠でなくてはなりません。従業員の生活を守っていくことは、企業の社会的役割だからです。 

全国世話人会での講話より

塾長は75歳になられました。若い頃に経験されたことを今、再現することは難しくなっています。機関紙 “盛和塾” を第一号から学んでいただきたいと語っています。塾長が若い頃に話したこと、若い頃に書いたことをもう一度再現することは簡単にできるはずはないのです。是非、繰り返し読んで学んでいただきたいと述べています。 

体験発表を通じて自らの経営の足らざるを知る

各塾で自主的に行っている体験発表が勉強になっているという報告があります。 

塾長は講演を引き受けたなら、塾生や聴衆の方々の前で、バカな自分をさらけだしたくない、またなんとかお役に立てるような話をしたいとも思うのです。一か月も前から心配になって、一生懸命に何を話すべきかを考え、それをまとめた上で講演に臨むということが習い性になっています。*塾長の過去に話した内容は、相当練りに練ってあるわけです。 

自分の経営をまとめて体験発表をする、その経験を積むことで自分の経営をよりしっかりとしたものにしていく。体験発表の準備をしていく中で、“経営の原点十二ヶ条”の中で、実行できていないこと、あれもこれも抜けていると気がつきます。体験発表を行えば、聞いている他の塾生から、いろいろと抜けている点の指摘を受け、それを学び、実行していく努力をします。自分自身の経営を改繕していくのに非常に役立ちます。 

人に話をしようと思って自分の経営を振り返ってみた時に、自分に足りないところがあることに気がつきます。その気づきを自分の経営に落とし込んでいくのです。 

塾長は、人に話をすることで自分の経営を反省し、その反省によって経営を完全なものへと改繕を絶え間なく繰り返していったのです。自分の経営を冷静に第三者の目で見つめ直してさらによいものへと改繕していくのです。体験発表は非常に有益なのです。