盛和塾 読後感想文 第七十八号

稲盛和夫の実学をひもとく 

キャッシュベースで経営する 

  1. キャッシュベースが会計の基本

キャッシュベースの経営というのは “お金の動き” に焦点を当てて、物事の本質に基づいたシンプルな経営を行うことを意味しています。会計はキャッシュベースで、経営をするためのものでなくてはなりません。 

誰でも分かる収支計算があります。製品を売って代金を頂く。その為に、材料仕入代、人件費、販売費、一般管理費をその代金から支払う。利益は販売代金から、すべての支払いがすべて終わった後に残ったお金です。すなわち現金収支の計算が損益計算となっています。 

上記の例を別の観点から言いますと、銀行預金残高が決算期首から期末にどれだけ増えたか、が利益です。どれだけ減ったかが損失です。 

この収支計算が会計の根本的な考え方なのです。会計の知識がなくても誰もが解かるのです。 

  1. キャッシュをきちんと把握せよ

現代の企業会計では、企業の活動を一年毎に区切って損益計算をします。近代会計では⁺収支計算をベースとしてではなく、会社の経済価値が増えた時、例えば販売があった時、収益を計上、経済価値が減少した時、例えば製品を出荷したり、人件費等経費が発生した時、費用を計上します。収益-費用=利益として、一年間の利益を計算します。これが発生主義といわれる会計方法です。例えば販売したとしても、入金は翌月になることもあります。材料を購入しても、人を雇っても、給与の支払いは翌月になることがあります。その結果、決算書にあらわされる損益の数字の動きと、実際のお金の動きが直結しなくなり、経営者、従業員には会計というものがわかりにくいものになってきました。社会が発展し、会社を取り巻く環境が変わり、外部報告用の決算書、株主、政府報告等、会計が複雑になりました。会社の価値を報告する、損益を報告する等、外部報告を目的とした、発生主義に基づいた会計方法、財務諸表報告の為の会計(財務会計)が要求されることとなりました。 

また一方では会計の原則に戻り、会社経営の為の会計、管理会計によって経営に直接役立つ会計が必要となっているのです。そこで、プリミティブな会計方式、キャッシュベースの会計、“キャッシュ”に着目して、正しい経営判断を行うべきと考えたのです。 

約束手形:会社によっては製品を納入してもすぐに現金で支払わず、約束手形三か月で支払うことがあります。現金化するのには三か月待つ必要があります。 

売掛金:会社によっては製品納入しても月末締め、翌月月末払いということもあります。立場の弱い企業ですと、台風手形(二百十日)を受けざるを得ないこともあります。 

買掛金:仕入れの時は即金では支払わず、約束手形(三か月)で支払うこともあります。 

支払いを遅らせますと、銀行口座に残高が多くなり、儲かったように見えるのです。近代的な損益計算書を作成しないと、現金だけを見ていますと、ものすごくお金があって儲かったと勘違いします。 

近代会計学では、売った代金は売掛金、あるいは約束手形として処理されます。仕入の時は買掛金として、或いは支払い手形として記帳します。いずれ、これらは支払わなければなりません。従って、現金だけに注目するのではなく、売掛金・受取約束手形の入金予定、買掛金・支払手形の支払い予定 - キャッシュフローをきっちりと毎週、毎月見ておく必要があるのです。 

会計がわかっていないと経営はできない 

  1. 多くの経営者が会計の重要性がわかっていなかった

儲かったお金はどうなっているか。

利益はあがっているそうだが、その儲かったお金はどうなっているのか。配当金を支払うという話だが、儲かっているのにどうして配当金の支払いの為に決算資金として銀行借入をするのか。というようなことがよく問題になります。 

ほとんどの経営者は忙しく、会計学を勉強している時間がない。また、会計も複雑になってきています。こういうことでますます会計がわかりづらくなっていると思われます。 

“稲盛和夫の実学”が出版されました。多くの企業経理担当者が読まれたそうです。世の中の経営者の多くが実は会計を知らずに漠然と経営をされています。経理担当者がこの本を読んで、社長に“京セラの稲盛さんの本を読んで下さい”というそうです。会計の重要な原則、重要性について、いくら説明しても聞き入れてくれなかった社長が“それなら私も読んでみよう”と読んでくれたと聞いています。 

  1. 利益はどこにあるのか

配当するお金がなくて、わざわざ銀行から借りてくるというのでは、儲かったと言えるのだろうか。経理部長いわく“それでも儲かったと言うのです。”そこで損益の数字の動きと実際のお金の動きとをはっきりと結び付けて説明する必要があることに気がつきました。経理部長は貸借対照表の各勘定の動きを追いながら、資金の源泉と使途をあらわした資金運用表を作成しました。こうして現金収支のみからなる会計であるならば出て来ない売掛金、受取手形、棚卸資産、固定資産、買掛金、借入金等、さまざまな勘定科目が貸借対照表にあらわされていることがわかったのです。 

利益を出しても売掛金、棚卸資産が増加すれば、お金は吸い取られてしまっているし、借入金を返済すればお金が消えてしまいます。 

全ての取引が現金取引ならば、貸借対照表の中に受取手形、売掛金、貸倒引当金、棚卸資産という項目は必要なく、現金があるのみで済みます。ところが物を売ってもまだ代金をもらっていない場合があるものだから、売掛金という科目が必要ですし、受取手形がある場合は、受取手形という科目が必要です。こうしますと利益がでたからといって資金があるとは限らないのです。 

  1. キャッシュフロー偏重は危険

資金運用表は、財務諸表の一部として表示されるようになっています。資金運用表には以下の三つの資金移動に分類されています。

  • 営業活動によるキャッシュフロー 事業展開による資金の動き
  • 投資活動によるキャッシュフロー 設備投資、投資有価証券等の取引
  • 財務活動によるキャッシュフロー 借入金、資本金等の財務活動 

キャッシュフローは非常に大切な経営管理の一部ですが、最近、ウォールストリートでは、キャッシュフローをベースに企業評価することが多く見られます。しかし単純にキャッシュフローが良いから、現金残高が増えたからと言って、業績が良いとは限らないのです。営業活動以外の投資活動や財務活動によってキャッシュフローが良くなることもあるのです。 

損益計算では赤字(営業活動)がでているけれども、キャッシュフロー計算書では黒字だから、よい企業経営と考えてはいけないのです。キャッシュフローだけに注目して偏った経営をしてしまうケースが見受けられます。 

資産か費用か 

  1. 資産か費用かは経営を左右する重要な問題

収益と費用がお金の動きから切り離されて、損益計算書が作成される発生主義会計が近代会計の財務諸表の主流となっています。しかし経営の原点は現金主義会計で考えられなければなりません。キャッシュベースで考えるべきです。 

例として、バナナの叩き売りを挙げてみます。バナナの叩き売り人は村の秋祭りでバナナを売って儲けようとします。

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バナナ叩き売屋は500円儲かったと思いました。ところがそこに税務署が来て言うのには、リンゴ箱、布、棒はまだ使えるはずで、これは資産で、費用として経費にすることは認めません。ですからあなたは2000円の利益があったわけですから、税金1000円を支払うべきですと言ってきました。 

税務署はリンゴ箱、布、棒はりっぱな財産だと言います。本人は明日には他の工地に移るので、財産はすべて捨てていく予定でいました。リンゴ箱を買ったお店へ行き、買い取ってくれないかと頼みました。お店は “タダだったらもらってもいいよ” と返事して来ました。結局、リンゴ箱、布、棒は資産としての価値はないのです。 

会計上は資産として計上されるかも知れないが、本当に財産としての価値があるのかは経営者が判断すべきものです。経営者にとって捨てるものは、経費として落とすべきです。あるものを資産とするか費用とするかは会計的には大きな違いがあるのです。 

  1. 実態に即した減価償却を行う

バナナ売りのケースでは、経営者は道具すべて一千五百円は経費処理します。従って利益は五百円なのです。これから税金二百五拾円を支払い、手許には二百五拾円残るだけです。キャッシュフロー、収支計算で二百五拾円が残るのみなのです。

会計が解っていない経営者は、単純に売上三千円-仕入-千円=利益二千円と考えてしまいます。 

例として、ファインセラミックスの粉末を固め、形を作るための金型の話です。

会計上は金型は資産として計上され、減価償却されます。金型にも色々な種類がありますが、税務上は一括して耐用年数2年と定められています。 

ファインセラミックスの原料というのは酸化アルミニウムなど非常に硬度の高い粉末です。ですから金型は1年も保ちません。金型自体が摩耗してしまうのです。税務上の耐用年数2年は、京セラの金型には合っていないわけです。税務署との話し合いで、金型は経費処理することになったのです。 

  1. 使い物にならない資産は早く処分する

貸借対照表の固定資産の中には有形固定資産があります。

その中に、機械器具があります。長年工場を運営していますと、古い機械器具が固定資産台帳に載っています。これらの古い機械器具、例えば金型等は、将来使う見込みのないものもあります。しかも残存範価があり、毎年減価償却をしているものもあります。 

廃棄すべき金型や機械が資産として残っているわけです。こうした古い機械器具は、直ちに廃棄処分し、損失として処分すべきものです。その分だけ損益計算書では利益となっているのです。 

それだけではありません。古い機械器具はスペースを取ります。保険料等、管理費用もかさみます。経営上、余分な経費が発生しているのです。 

  1. 減価償却の2つの側面

減価償却というのは、お金を借りて機械を買って長期にわたり返済していくようなものです。一千万円の借入をして、一千万円の機械を買います。10年間で減価償却をしますと、毎年銀行に百万円返済するのと同じことです。10年後には銀行からの借入を返済することになるのです。 

一方、借入をしない場合は、毎年百万円ずつ預金をして10年後には一千万円の預金がたまることになります。原価償却は機械を更新するための資金となります。 

  1. 損益計算書の利益と手許の現金を一致させるような経営を目ざす

儲かったお金がどこにあるかを正確に把握しておくことは、経営の基本です。しかも経理が何日もかけて作った決算書を見て初めて、どこにあるかをつかむというのでは“キャッシュフローの経営”にはならないのです。すでに過去のものとなった事実に対して、これからアクションをとることは出来ません。経営はあくまで“リアルタイム”で眼前の事実と取り組まなくてはなりません。 

決算は経理が何日もかけて、決算整理における様々な会計上の評価、判断をして、損益を算出します。しかし手許にある現金は、その瞬間瞬間に残高を明確につかむことができます。自分で使えるお金がリアルタイムで把握できていなければ、激変する経営環境の中で会社を経営していくことはできません。 

ですから、経理が時間をかけて算出する損益ではなく、まぎれもなく存在する“キャッシュ”に基づいて経営のかじ取りを行うべきものです。しかし、決算上の損益というものも、企業活動の成果として極めて重要なものであり、株主への配当、税金等、目を離すことはできません。 

そこで、会計上の損益と手元のキャッシュフローとの間に介在するものをできるだけ少なくすることが必要となります。会計上の利益から出発してキャッシュフローを考えるのではないのです。経営そのものを“キャッシュベース”現金主義で考えることが経営の中心なのです。 

損益計算書の損益と、手元のキャッシュがイコールになるような経営が出来るようにすべきなのです。 

土俵の真ん中で相撲をとる

お金のことを常に心配していては仕事ができない。そのため、ぎりぎりの資金繰りは決してしないようにしなければならない。 

よく手形決済の為に走り回り、売掛金回収に、買掛金支払い延期、ともすれば給与の遅配等、資金繰りに時間を費やすようでは、経営はできません。金策に走り回っているのは、事業家としての仕事ではないのです。 

  1. 松下幸之助ダム式経営

松下幸之助氏の講演会がありました。“ダム式経営”についてでした。幸之助氏は会社を経営する時、ダムを作ることで、川がいつも一定の水量で流れているように、“ダムの蓄え”を持って事業を進めていかなければならないと説かれました。講演の後の質問の時に、ある経営者が幸之助氏に質問しました。

“どうやったらそのような余裕のある経営ができるのでしょうか。”

幸之助氏は“その答えは自分も知りません。しかしそのような余裕のある経営が必要だと思わな、あきまへんな”と答えた。聴衆の多くが笑いました。塾長はこの言葉に深く心を動かされたようです。 

何かを成そうとするときは、まず心の底からそうしたいと思い込まなければならない。“わかっているけれど、現実にはそんなことは不可能だ”と少しでも思ったら、どんなことも実現することはできません。 

“土俵の真ん中で相撲をとる。”土俵際ではなく、まだ余裕のある土俵の真ん中で相撲をとるようにするという意味です。“ダム式経営”と同じ考え方です。 

幸之助氏は、次のように話されました。

“雨が降ると川に鉄砲水が流れる。日照りが続くと、川に水がなくなり、乾いてしまう。そうならないように、ダムを作って、水が多い時はダムに水を貯め、日照りが続いたらダムの水門を開いて一定の水量がいつでも流れるようにすべきです。つまり、調子のいいとき、景気のいい時には貯えて、景気の悪い時には貯えたものを出しながら一定の経営ができるようにすべきです”  経営には余裕がなければなりません。 

幸之助さんは二つのことを説かれました。

1)      余裕のある経営

2)      強い想い

聴衆の1人が、質問しました。

“中小企業の我々も余裕のある経営が大事だと、あなたに言われなくてもみんな思っています。余裕のある経営をしたいと思うけれども、その日暮らしになってしまうから困っているのです。余裕のある経営をするには、具体的にどういうことをすればよいか、教えて下さい” 

幸之助さん “余裕のある経営が必要と思わなあきまへんな” それを聞いた一部の聴衆は話していました。“松下さんはたいへん儲かっているから、余裕のある経営を簡単に言ってはるけれども、余裕のない我々中小企業にはできない” “どうすれば余裕のある経営をできるのかと質問しているのに、“思わなあきまへんな” では答えになっていない” などと言っていました。 

ほとんどの人は、思ったことを実現しようとするのですが、強い持続した思いがなく、出来ない理由を考えて、あきらめます。自分を許してしまうのです。自分がこうしたいと本当に思いますと、周囲の人からの支援の手が差しのべられることがよくあります。周囲の人から助けてあげようと思われるくらい、強い持続した思いが大切です。 

  1. 土俵の真ん中で相撲をとれば、経営は安定する

資金繰りで困られる企業が多くあります。約束手形の期日が今日だ。銀行口座には充分な残高がない。ギリギリになってから金策に追われる。約束手形の期日はわかっているのですから、いつでも支払えるように準備しておかなければなりません。土俵際に追いつめられて、あわてふためいて“勇み足”になったりして負けてしまう。つまり倒産してしまうのです。 

  1. 銀行からの借り入れに頼らない

世の中の経営者の中には、銀行から借金して、それを元手にして事業拡大していこうと考えている方が多いと思います。しかし銀行は、天気の良い日には傘を貸すが、雨が降れば傘を取り上げるのです。銀行の側から見ますと、お金を貸しても返済してくれなければ銀行の経営が成り立ちません。雨が降ったら、借りた傘は取り上げられるというのが当たり前なのです。どんな時でも雨に濡れないようにしておかねばならないのです。 

経営者の中には、銀行からお金を借りられるだけの信用力があるということは、事業家として成功するための必須条件だと考える人が多いようです。ただし銀行借入をしますと、利息と元本の支払いがあります。 

銀行に支払う金利は経費ですから、5%の金利としますと税引後の金利は約2.5%となり、銀行から借りた資金を使って事業をした方が、有利と考えられます。銀行金利が高い時は、確かに大きな節税になります。事業規模を拡大し、確かな利益が見込まれる時は、銀行借入も必要です。しかし、これは天気の良い日の話です。 

ただし、雨の日もあります。事業の先行きに雲が見えてきますと、銀行は“貸した金を早く返してくれ”と言ってくるのです。

つまり銀行は、儲かって余裕があり、お金を借りなくてもいい時に、借りてくれと言います。経営が苦しくなってお金が必要になった時は、早く返せと言って来ます。 

京セラは無借金経営をしてきました。銀行借入はありません。 

  1. 自己資本の増加が経営の安定化につながる

現代は技術革新が進み、わずかな間に事業環境が一変してしまうことがあります。予想を上回る膨大な資金を研究開発、新規事業、設備に投入しなければならない事態に追い込まれることがあります。そうであっても、経営者は従業員の生活を守っていかなければなりません。 

もし資金に余裕がなければ、このような事態に対して、積極的に手を打つことができません。経営者は必要に応じて使えるお金、すなわち自己資金を十分に持てるようにしなければならないのです。そのためには、内部留保を厚くする以外に方法はないのです。 

貸借対照表の資本の部が自己資本です。自己資本=総資産-負債です。資産の部は流動資産(お金、売掛金、棚卸資産等)と固定資産(土地、建物、機械設備等)から成り立っています。負債は流動負債(1年以内に返済予定借入金、支払手形、買掛金等)と固定負債(1年以上の長期借入金等)から成っています。自己資本は資本金、資本余剰金、利益余剰金から成っています。この自己資本は、もともと資本金として受け入れた元本と利益余剰金から成っています。利益余剰金は長年会社が生み出した税引後利益を累計したものです。 

この自己資本を多くして、その資産の占める割合を大きくしていくことは、経営の安定化につながります。 

  1. キャッシュベースの経営が自己資本を増やす

借入による資金調達には次のような問題があります。

  • 市場における金利、資金需給の動向、政府や金融機関の政策や方針
  • 借入時期、承認時期が資金需要のタイミングに合わない
  • 銀行への書類提出・会議に多大の時間がかかり、銀行側の事務処理費用、弁護士費用、評価費用が請求される
  • 返済計画の提出、細かい事業予算の作成等の時間 

一方、自己資本の源泉は二つあります。

  • 営業からの税引後利益
  • 減価償却費 

安全に経営をしようと思えば、減価償却費プラス税引後利益で返せる範囲のお金で設備投資をします。

自己資本を高め、なるべく早く借入を返済するようにする。高い自己資本比率はキャッシュベース経営の結果なのです。 

キャッシュベースの経営がもたらすもの 

  1. キャッシュの動きと利益の動きを直結させる

近代会計は発生主義にもとづいて発展してきました。ところが会計そのものは非常に高度で複雑なものになってしまいました。発生主義に基づいた利益が、実際に手元にあるお金の動き、キャッシュフローとは結びつかないものになっています。 

アメリカでは貸借対照表、損益計算書と並んで“キャッシュフローステートメント”が正規の決算報告書を構成するものとして位置づけられ、決算書には必ず含まれるようになっています。 

ところで、このキャッシュフロー・ステートメントは発生主義に基づいて算出された利益に対して、減価償却費などの、非現金取引の伴なわない項目を調整したものです。間接的にキャッシュフローをとらえたものであり、実際の収支をまとめたものではありません(間接法)。キャッシュベースの経営とは、経営そのものを実際の“キャッシュ”の動きと利益とが直結するように近づけていくことなのです。 

一生懸命努力して、経理が、一千万円の利益が出ましたと報告したとします。経営者は“そうではありません。売掛金の回収も残っています。棚卸資産の仕入にお金を使いましたので、銀行口座には資金は溜まってはいないのです”こういうことができるだけ起こらないように、仕入は“当座買い”します。余計なものは買わない、必要な時しか仕入はしないという風に、できるだけ、利益とキャッシュが近づくようにするのです。 

  1. 発生主義による複雑化

商業が発達していない時は、すべて物々交換、キャッシュベースで取引を完了させていました。商業が発生した為に、現金取引以外に信用取引が発生してきました。発生主義では品物を相手に渡した時点で収益として勘定します。現金は後で受け取ります。仕入の時も、品物を受け取った時に仕入として勘定します。現金は後で支払います。これが発生主義による収益・費用の勘定処理です。現金主義とは、収益・費用の認識時点が異なるのです。 

  1. 高い自己資本比率が企業に永続性を持たせる

税引前利益から税金を納めて、残った利益が自分が自由に使えるお金になるように経営していきます。これがキャッシュベースの経営です。キャッシュベースの経営とは、利益が出たなら、その利益は現金で残っているという経営です。 

アメリカではキャッシュフローステートメントを見る時、EBITDA(Earnings before interest, tax, depreciation, and amortization)税引前利益、支払利息、減価償却費の合計で企業の業績評価をします。たとえ赤字でもキャッシュフローが良ければ、よしとすることがあります。ときには金利が安いので借入をして、自社株を買って、株価を上げようとする会社が後をたちません。自己資本比率が大幅に悪化してしまいます。 

アメリカでは自己資本が小さくて利益を出す会社は自己資本利益率が高く、優良企業と評価されます。 

しかし、自己資本を膨らませていく経営は、外部から多額の負債をかかえて経営するより安定した経営ができるようになります。自己資金比率は50%維持することが望ましいと思います。 

会社はゴーイング・コンサーン、永遠でなくてはなりません。従業員の生活を守っていくことは、企業の社会的役割だからです。 

全国世話人会での講話より

塾長は75歳になられました。若い頃に経験されたことを今、再現することは難しくなっています。機関紙 “盛和塾” を第一号から学んでいただきたいと語っています。塾長が若い頃に話したこと、若い頃に書いたことをもう一度再現することは簡単にできるはずはないのです。是非、繰り返し読んで学んでいただきたいと述べています。 

体験発表を通じて自らの経営の足らざるを知る

各塾で自主的に行っている体験発表が勉強になっているという報告があります。 

塾長は講演を引き受けたなら、塾生や聴衆の方々の前で、バカな自分をさらけだしたくない、またなんとかお役に立てるような話をしたいとも思うのです。一か月も前から心配になって、一生懸命に何を話すべきかを考え、それをまとめた上で講演に臨むということが習い性になっています。*塾長の過去に話した内容は、相当練りに練ってあるわけです。 

自分の経営をまとめて体験発表をする、その経験を積むことで自分の経営をよりしっかりとしたものにしていく。体験発表の準備をしていく中で、“経営の原点十二ヶ条”の中で、実行できていないこと、あれもこれも抜けていると気がつきます。体験発表を行えば、聞いている他の塾生から、いろいろと抜けている点の指摘を受け、それを学び、実行していく努力をします。自分自身の経営を改繕していくのに非常に役立ちます。 

人に話をしようと思って自分の経営を振り返ってみた時に、自分に足りないところがあることに気がつきます。その気づきを自分の経営に落とし込んでいくのです。 

塾長は、人に話をすることで自分の経営を反省し、その反省によって経営を完全なものへと改繕を絶え間なく繰り返していったのです。自分の経営を冷静に第三者の目で見つめ直してさらによいものへと改繕していくのです。体験発表は非常に有益なのです。

盛和塾 読後感想文 第七十七号

会社経営の原理原則を貫く 

コーポレートガバナンスのあり方について、議論が盛んに行われています。そのため法律を作り、規則を細かく作成し、その実施について監督する制度を作る等が導入されて来ました。しかし本当の問題は、経営者が会社を経営するために不可欠な座標軸を見失い、会社経営の原理原則を見失ってしまっていることにあると思われると塾長は語っています。 

会社経営はトップの経営哲学により決まり、全ての経営判断は “人間として何が正しいか” という原理原則に基づいて行うべきものです。 “それでは実際の会社経営において、具体的にどうすればよいのか” ということが求められています。稲盛和夫の実学は、具体的な経営論である会計学を論ずることを通して、会社経営のあり方、経営の具体的な考えを明らかにしようとして書かれました。 

稲盛和夫の実学をひもとく 

“採算向上の原則”と“ガラス張り経営の法則”はコーポレートガバナンスを具体的にどうすればよいかに応える会計学なのです。 

採算の向上を支える採算向上の原則 

時間当り採算表について

京セラの経営手法であるアメーバ経営の基本は部門別採算制です。製造部門と営業部門に分かれます。 

アメーバ経営 (部門別採算制) の目的は以下の通りです。

  1. 市場に直結した部門別採算制度の確立。

市場の動きを素早く、営業・製造部門に取り入れ、市場の動きに応えることができるようにする。

  1. 経営者意識を持つ人材の育成

アメーバを担当する責任者が一つの経営を任され、社長としての経験を積む。

  1. 全員参加経営の実現

パートタイマーの人も含めた全員が経営に参画し、改善提案をし、仕事の中で実践していく。こうすることにより仲間意識を育てます。 

  1. 時間当りの求め方

 “時間当り” とは1時間の労働で、いくらの付加価値を生み出したかを表すものです。その計算方法は以下のようになります。 

アメーバが社外に出荷した製品の金額 “社外出荷” と社内で売った製品の金額 “社内売” の合計を “総出荷” と呼びます。これはアメーバの売上高に相当します。この “総出荷” 額から、社内から買った製品の金額、 “社内買” を引いた金額を “総生産” (ネット生産額)と呼びます。総売上高に相当します。 

次に原材料費、外注加工費、電力水道料、交際費、旅費交通費等を控除して “控除額” を算出します。しかし、人件費はこの控除額には含まれません。というのは、人件費は “時間当り” 付加価値の一部だからです。“総生産” から“控除額” を差引き “差引売上” (付加価値) が算出されます。 

活動に要した各アメーバの “総労働時間” を求め、 “差引売上” をこの総労働時間数で割ります。これが “時間当り” (1時間当りの付加価値) です。 

時間当り = (社外出荷+社内売-社内買-控除額)÷総労働時間 

表A 製造部門アメーバ 時間当り採算表(例)

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表B 営業部門アメーバ 時間当り採算表(例) 

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製造部門アメーバ時間当り採算表(表A)では、差引売上(付加価値) は二千万円、時間当りは五千円です。 

仮に総労働時間の人件費が一千二百万円としますと、時間当り人件費は三千円(12,000,000円÷4,000時間)となります。そうすると三千円の人件費で五千円の付加価値を生み出し、生産性は五千円÷三千円=1.67となります。 

営業部門も同様に、時間当り採算表(表B) を作成します。営業部の場合は製造部門から仕入れた製品を売ります。製造部は高く売りたい、営業部は安く買いたいと両社で激しい激論が発生し、部門間に亀裂が発生し、社内の調和が図られなくなります。これではアメーバ経営の目的に外れてしまいます。こうした場合は会社的な考えのもとに経営トップも交えて製造部、営業部トップが話し合い、両者の立場をそれぞれ理解する必要があります。その一つの解決方法として、受取口銭率を過去のデータを元に決め、両者が納得する口銭率を決定します。 

表Bでは、営業部門アメーバ時間当り採算表、時間当りは七千円となっています。 

営業部は各地に営業所がありますから、営業所別に採算を見ることができた方が精微な経営を行うことができます。アメーバ経営では地域別の小さな単位のアメーバに営業部門を分け、アメーバ毎に採算を見ていきます。 

  1. 人間関係を保つために、利益ではなく時間当りを用いる

営業部門の中で、いくつかのアメーバ営業所がありますが、各営業所の利益という指標で営業所の業績を評価しますと、A営業所では五千円の利益、B営業所では一千万円の利益、C営業所では二千万円の損失となります。 

このように利益のみで業績を評価しますと、“A営業所は五千万円の利益を出しているのに、C営業所は二千万円の損を出しているではないか。東京のC営業所の職員の給与は、我々A営業所の職員の給与より2割ほど多いではないか、我々はもっと給料をもらっていいはずだ”となるのです。利益というものでドライに業績を表現すれば、このようにぎくしゃくした関係が発生します。“時間当り” はこうした問題が発生しない様に、採算制度に取り入れました。 

“時間当り”から人件費を差し引けば1時間当りの利益が算出されます。こうすれば、“時間当り”のブレークイーブンが簡単に算出されます。表Aではブレークイーブンは三千円、表Bでは人件費が一千五百万円としますと(人件費一千五百万円÷3000時間)、五千円となります。 

採算表は、末端の従業員やパートさんにも開示して、皆がこの職場でどれだけの業績を上げたのかわかるようにしなければなりません。リーダーだけではなく、末端の作業者ひとりに至るまで経営者意識を持ってもらい、皆に業績向上のための具体的な行動をとってもらうためです。 

採算の責任を管理できる範囲でアメーバに持たせる 

  1. 有価物屑、機械設備処分に伴う損益は、アメーバが負担する/帰属する

時間当り採算と会計との関連

時間当り採算では、アメーバの構成メンバー全員が自らのアメーバの経営状況をリアルタイムに、手に取るように理解できることが一番重要です。 

日々の経理処理は、正確、明解、迅速(Perfection Principle, One to One Principle, Do It Right Away Principle)でなければなりません。発生したものは、ただちにアメーバの収益、または費用として認識され、正確に記帳されなければなりません。一対一対応の原則、迅速性の原則、完全主義の原則の実践であるわけです。 

生産実績、出荷実績についてはアメーバは個々の内容と実績統計を把握しており、翌朝の売上・生産日報により確認されます。資材経費や支払経費もつねにアメーバによって把握されており、翌朝に配賦される経費日報により検証されます。 

各アメーバは経営の実態をとりまとめられた数字による全体的な姿(マクロ) と、その数字を構成するものを具体的に(ミクロ) 理解することもできます。 

アメーバで発生した貴金属の屑の売却、機械設備の売却処分損益もそれを処分したアメーバの損益となります。 

アメーバでコントロールできる収益費用は、いずれかのアメーバの責任において発生しているはずなので、発生したときにどの部門のものかが明確になるようなシステムになっているのです。 

アメーバは “アメーバ自らが責任をもって経営する” という考えのもとに経営していますから、発生した費用をどのアメーバが負担するのかで、アメーバ間に問題が起きたり、アメーバの知らない費用が突如振り替えられてくる、というようなことがあってはならないのです。 

2.  アメーバは工場総務の費用は負担するが、本社の管理部門の費用は負担しない

いくつかのアメーバがある工場等で、アメーバ経営をサポートする際に発生する間接費、アメーバに対してサービスを直接提供する工場や事業所の総務、人事、資材、経理などの間接部門の費用も “共通費用” としてアメーバが納得できる方法で負担してもらいます。 

間接部門のメンバーは、自分達がアメーバの収益によって支えられていることがよくわかり、出来るだけ経費を切り詰め、より効果的でかつ効率的にアメーバに対するサービスを提供しようと努めます。 

本社管理部門は、直接アメーバに日常的に接触することはありません。このようにアメーバが直接に影響を及ぼすことのできない本社経費をアメーバに負担させないようにします。本社経費は各事業部門に “一般管理費” として負担させるようにします。本社管理費用の中には、研究部門の費用も含まれます。本社管理部門の経費は営業外収益-受取利息配当金-資金運用収益で負担する方法も考えられます。 

工場管理部門の費用は、各アメーバの従業員数によって配賦します。しかし、アメーバから、工場管理の費用が大きすぎる、節約するようにクレームが発生することもあります。人数割りでの共通費配賦をするのには、当然アメーバに納得してもらわなければなりません。 

中小企業の場合は、本社管理費用は各事業部門に負担してもらい、間接的にアメーバへの配賦がなされる場合が一般的です。社長をはじめ本社の役員は節約に努めなければなりません。 

西郷南洲の遺訓集の中で “万民の上に位する者、己を慎み、品行を正しくし、驕奢を戒め、節倹を勉め、職事に勤労して人民の標準となり、下民その勤労を気の毒に思う様ならでは政令は行われ難し” と述べています。 

上の人が節約して頑張るさまを見た下の人が、あそこまでの頑張りは可哀想だと同情してくれるようでなければ、人を治めていくことはできないのです。 

3.  経費を負担すべき部門が負担すべき 経費移動

アメーバ経営における費用負担は、厳密に取り扱われています。各事業部門に毎日経費がチェックされ、共通費の配賦が各工場に、各工場から工場内のアメーバへと配賦されます。発生した費用を実際に負担、または分担すべき部門に対して“経費移動”という経費の付け替えが発生します。経費移動は同一工場内のみならず、会社をまたがって行われるので、事務処理は増えるが、あらゆる会計処理が公正、公平に行うことによってのみ、アメーバのモラルや活力が維持されるのです。 

アメーバ経営は管理会計システムの上に成り立っています。社内への会計と対外的な決算である財務会計の報告とは、異なった目的・性格を持っています。しかし双方とも経営の実態を正確に認識するためのものであり、整合性があるべきものです。決算ベースの会社全体の業績目標が各々の事業部の “時間当り採算ベース” の業績目標と密接に結びつけられていなければなりません。 

時間当り採算を用いて全員参加経営を実現する 

時間当り採算と月次決算

1.   時間当り採算制度では、モノやお金の動きが必ず会計伝票と共に“一対一対応”によって処理され、その積み上げられた数字をそのままとりまとめるという単純な様式を採用しています。アメーバ毎の“時間当り採算”は、自分たちの仕事の結果がそのまま数字となったものです。

時間当り採算制度と会社決算とを結びつける役割を果しているのは、月次決算です。月次決算では、時間当り採算の一時間当り付加価値と会社決算上の数字を結びつけ、各事業部が決算上の利益において会社全体にどの程度貢献しているかを具体的に示しています。 

月次決算報告とは、各事業部ごとの時間当り採算制度を決算書のフォームで表現したものであり、毎月各事業部で検討されます。時間当り採算は経営管理部門が、月次決算報告は経理部門が作成し、時間当り採算にあらわれない人件費を費用として利益を計算しています。時間当り採算は、経理部門ではなく事業所・工場など各現場にある経営管理部門が作成します。 

例えば、時間当り採算制度と営業部・製造部で採用しています。営業部は製品の製造部から仕入(社内買)をして社外に売り(社外売)が発生します。営業部門の経費を差し引き(社外売-社内買-経費=付加価値)、付加価値が計算されます。 

付加価値から営業部の人件費を差し引きますと、営業部の月次決算書が作成されます。

製造部門では、在庫を一定と仮定して、同様に時間当り採算を計算し、付加価値が算出されます。付加価値から製造部の人件費を差し引きますと、製造部の月次決算書が作成されます。 

営業部の社内買と製造部の社内売を相殺しますと、工場全体の月次決算書が作成されます。こうして営業部・製造部が工場全体の利益にどれだけ貢献したのかが、わかります。 

  1. あらゆるモノとカネの動きは伝票と一対一で対応させる

時間当り採算は、モノとカネの一対一対応によって集約されたデータベースによって作成されます。月次決算を作成するのにも、同じデータベースに基づいて作成されるのです。月次決算の累計には期末実施棚卸による各棚卸資産の期末評価を中心とする決算修正が加わり、会社の年度決算書となります。 

アメーバ経営では、アメーバが自らの責任で作成する日次予定及び年次マスタープランが重要な役割を果たします。アメーバ経営の本質は、アメーバのメンバー全員が現在の自らの姿を文字通りリアルタイムで正確に把握し、目標を達成するために必要な行動を次々ととっていけるということです。 

時間当り採算表では、予定と実績が対比された様式になっています。 

予定は、目標は、経営者の意思の表現であり、自らの手で新たにつくり出そうとしていくものを描いたものです。予定は決して変更されるようなものではなく、アメーバのメンバーと一緒に何としても達成するもので、どんな環境の変化に対しても、変更してはなりません。 

時間当り採算表や月次決算書の中の数字は、売上も経費もすべて一対一対応の原則に基づいて処理されなければなりません。カネが動いても、モノが動いても、必ず伝票がついて回ります。管理会計部門は伝票を集計すれば全てのモノ、カネの動きが見えるわけです。 

一対一対応の原則は、時間を要します。しかしこの原則を守らない場合、不正が起きた時、事の経緯を追うことが出来ず、手の打ちようがないのです。或るいは後ほど、誤りが発生した時、訂正する為に時間の浪費につながります。



 

盛和塾 読後感想文 第七十六号

売上を最大にし、経費を最小にする 

経営の経験や知識がなくても、利益を確保するには単純に売上から経費を引いた残りが利益と考え、売上を最大に、経費を最小にする。その結果として利益が増える。この原則を実践してきたことが京セラを高収益の会社へ導いたと塾長は語っています。

通常、売上が増えれば経費がそれに応じて増えていくと考えがちです。しかし、高収益をあげるには、とにかく売上を最大に、経費を最小にするための創意工夫を徹底的に行うことが肝心です。

物事の本質が何かと単純化して考えることが大切です。複雑なものの本質が何かと考え、基本的なポイントを捉えることが経営にとって大切なことだと思います。

“稲盛和夫の哲学”をひもとく 採算の向上を支える 

企業の会計にとって、自社の採算向上を支えることは、最も重要な使命です。採算を向上させていくためには、売上を増やしていくことはもちろんですが、それと同時に製品やサービスの付加価値を高める努力が不可欠です。付加価値を向上させるということは、市場にとって価値の高いものをより少ない資源で作り出すということです。

採算の向上は経営を管理する“管理会計”の役割であり、企業の業績と財務状態を正しく外部に報告する“財務会計”とは目的が異なります。しかし“管理会計”も“財務会計”も経営にとって等しく必要な会計です。経営者は管理会計が財務会計の決算にどう関連していくのかを正確に把握していなければなりません。

京セラでは、管理会計と“アメーバ経営”と呼ばれている小集団独立採算制度による経営管理システムが両輪として、経営管理の根幹をなしています。経営哲学という基盤の上に、会計学とアメーバ経営という二本の柱によって支えられているのです。

時間当り採算表の用い方

経済的発展をもたらすものは、仕事を通じて創造する新しい経済価値です。経済価値をより多く生み出すには、できるだけ少ない経費でより多くの経済価値を生み出す必要があります。すなわち最小の経費で最大の売上を得ることです。

消費する資源を少なくする、倹約精神に徹することです。お客様が必要とする製品やサービスを提供するために費やすあらゆる支出に一切無駄があってはなりません。製品をつくる為に使う材料、原料、消耗品、燃料、電力、また設備投資、管理費用、全ての項目で可能な限り節減をしなければなりません。

売上を増やそうとすると、通常それに比例して経費も増えると考えられます。しかし、あらゆる知恵と工夫をこらして、経費はつねに徹底して切り詰めるようにすることが大切です。

時間当り採算表とは“売上を最大に、経費を最小に”という経営原則を実現していく為に、売上から経費を差し引いた価値-付加価値を創り出す為のシステムなのです。企業が存続していく為には、付加価値を生み出し、高めていくことが必要なのです。

この付加価値を、誰でもわかるように、単位時間当りの付加価値を計算して“時間当り”と呼び、付加価値生産性を高めていくための指標としました。経営管理部門に毎月、時間当り採算表を作成してもらい、現場の従業員にも採算が簡単に理解出来るようにします。添付参照。

  1. 時間当り採算表の項目について

製造部門のあるアメーバのネット生産高・総生産 (E) は社外に売った社外出荷(B)、社内に売った社内売  (C)、社内から買った社内買 (D) から計算されます。

 総生産 (E) = 社外出荷 (B) + 社内売 (C) - 社内買 (D) 

工場がいくつかの工程に分かれている場合、各工程は、それぞれが一つの事業として成り立つ単位で分割され、独立採算のアメーバとなります。

社内買 (C) は、社外から買うよりも、安くなっている時に発生します。社内買 (C) が社外からの仕入よりも高くなっている場合は、社内買 (C) は発生しません。社外から購入するからです。

控除額 (F)

控除額 (F) の中には原材料費、消耗品、燃料費、電力料、外注加工費、修理維持費、減価償却費、出荷費用等が含まれます。この中にはアメーバの従業員の人件費は入りません。

製造部門アメーバ 時間当り採算表(例)

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  1. グロスマージンに注目する

社内へ売った“社内売”、社外へ売った“社外出荷”の二つを足して、“総出荷”となります。“総出荷”から、社内から買った“社内買”を引いて“総生産”となります。“総生産”から原材料費、外注加工費といった人件費以外の“控除額”を差し引いたものが差引売上 = 付加価値となります。時間当り採算表では、そのアメーバ(部門)がいくらの付加価値を生産したかがわかるようになっています。ですから付加価値は基本的には会社の製品市場価値とアメーバ(部門)でのコスト削減努力の二つの要因で決まるのです。付加価値の高い製品、独自性のある製品、市場価値の高いものを、営業部、研究開発部、製造部の強い協力体制で創意工夫して開発していきます。一方、製造部では何とかして製造コストを削減しようとします。

流通業の場合は、商社のように、売上高の拡大を目指すことが多いと思われます。時間当り採算表を作成しますと、売上高、仕入高、電気代、交通費等、人件費を除く諸々の経費を引き、付加価値が算出されます。この時間当り採算表の中では、とくに売上高、仕入高に注目する必要があります。グロスマージン(売上総利益)が非常に大切です。

売上高が10億円ある。仕入高は9億円で、売上総利益は1億円しかなかった。そこから経費を使えばほとんど利益はありません。売上総利益率が10%では、いくら経費を削減しても採算は合いません。経営者はもっと売上総利益率の取れる商品を扱わなければなりません。仕入を採算表で控除額、原材料、外注加工費などと同じ扱いにしてしまうと、どれほどの売上総利益率が出ているのか見えにくくなります。

経営者はどのようにして付加価値を増大させるか、考えなければなりません。上述のように、売上総利益(グロスマージン)をどう確保していくのか、経費削減と同様に、考慮していくことが肝要です。

  1. 時間当り採算表は設計が肝心

流通部門アメーバの場合、採算表を有効活用するためには、製造部門アメーバとは多少異なった工夫が必要です。仕入高を控除額の中に入れてしまうと、経営状態がはっきりと見えて来ません。

添付のように、仕入高を控除額に入れず、売上高と対比させて売上総利益 (グロスマージン)を見ていくようにします。

流通部門アメーバの時間当り採算表(例)の中では、  社外出荷の売上総利益率は 20,000 / 130,000 = 15.38%  社内出荷の売上総利益率は 10,000 / 50,000 = 20%

となっています。この売上総利益(グロスマージン)の下の控除額を差し引き、差引売上(付加価値)が算出されます。

このように流通部門アメーバでは、売上総利益(グロスマージン)と控除額を分けて検討することが大事です。

経営の要諦は、売上を最大に経費を最小にすることなのですが、流通の場合は、売上総利益(グロスマージン)が最大にならなければなりません。そして採算表にある控除額を最小にするのです。

売上総利益(グロスマージン)を最大にするのは経営者の役割です。控除額に対しては、採算表を従業員に充分理解してもらい、協力して経費最小を目指すことが肝要です。全員の協力があって、はじめて“売上を最大に、経費を最小に”の経営原則を実施していくことが可能なのです。

流通部門アメーバ 時間当り採算表(例)

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  1. 業績は付加価値を総時間で割った“時間当り”で評価する

業績の評価は、いくら利益を生み出したのかではなく、いくらの付加価値を生み出したかによって評価します。利益をもって評価しますと、利益のあったアメーバは、利益が上がったのだから、我々のアメーバは他のアメーバとは違うのだという風に増長します。利益を出せなかったアメーバは赤字を出して落ち込んでしまいます。そこで各アメーバの付加価値を、労働時間数で割るようにして、各アメーバの成績を時間当り付加価値がいくらだったかをベースにして評価するようにするのです。

時間当りの数値が小さい場合は、採算を高めるように、従業員が努力してくれることを期待するのです。

京セラにおける原価の考え方 

大企業の製造部門では、一般的に過去のデータなどを元にして標準原価を設定しています。実際の原価と比較することで原価管理を行う、標準原価計算が管理会計の常識となっています。製造部門は設定された目標である標準原価を達成するために、最大の努力をします。標準原価の目標は、各部門がより高い目標に挑戦するために自ら設定するのではなく、原価管理部やマネジメントの過去の実績に基づいて作られた標準原価を達成することが目標となります。

アメーバ経営では、独立した経営組織であるアメーバが自ら設定する目標は、そのアメーバの生産高と付加価値であって、原価ではないのです。まず受注をできるだけ多く獲得し、その受注に基づく生産を最小の経費で実現できるように計画し、実行するのです。結果として付加価値を最大にするのです。

アメーバ経営では、主役は最小の経費で最大の売上をもたらすように智慧を生み出す人の集団であり、焦点があてられるのは、そのアメーバが全体として生み出す付加価値なのです。一方、標準原価計算における原価管理システムの主役は製品という“モノ”であり、焦点があてられるのは個々の製品の工程別の原価なのです。

  1. 製造部門こそプロフィットセンター

現在の会計学では、標準原価を算出することが一般的です。しかし、標準原価方式には大きな問題があります。

テレビを製造しているケースがあります。数ヶ月前に作った実績を元に原価を計算します。しかしテレビのマーケットプライスはどんどん下がっています。この値段まで下がるだろうと標準原価を決めます。製造部門では、標準原価を達成すべく、購入部品の値段交渉をしたり、色々な努力をして目標の原価で作ります。営業部門は標準原価で製品を買い取り、いくらで売るかを決定し、売ります。その売上と原価の差額が売上総利益(グロスマージン)であり、このグロスマージンから販売管理費を引けば、営業利益がでます。

この場合、製造部門は指示された原価に合わせて作ることを仕事としているだけで、利益に貢献しているという意識は持っていません。指示された原価を守りさえすれば、製造部門の目標は達成されたことになります。標準原価よりさらに低い原価で作るという努力をすることにはなりません。このように、標準原価方式を採る会社では、何千人もいる製造部門の従業員たちに会社の利益に貢献するという実感はわからないのです。利益を出すのは営業部門が生み出すグロスマージンから販売費を引いて、利益だとされており、利益を生み出したのは、あくまで製品を売った営業部なのです。

テレビにせよ電化製品は急激に値段が下がっていきます。決められた原価で作っても、売る時にはすでにマーケットプライスがそれを下回っているケースも数多くあります。売れば売るほど赤字が増えていきます。“マーケットプライスがあまりにも急激に下がったために原価割れで売るしかなかった。それは私の責任ではない”と営業部はいいます。一方、製造部門は言われた原価で作ったのだから、自分達の責任ではないといいます。誰にも責任がないまま大巾な赤字になってしまいます。これが標準原価方式の実体なのです。

製造部門こそプロフィットセンター(企業内において、利益に責任のある部門)であるべきなのです。マーケットプライスは刻々と変化していきます。製造部門はマーケットの動きに合わせて利益が出るように考えて、生産していかなければならないのです。京セラでは“営業が利益を生み出すのではない。製造が生み出すのだ。営業には製造部が作ったものを売る手数料を払えばよい。”と定めているそうです。例えば営業部に10%の手数料を支払います。営業はその手数料の中から、電話代、交通費、人件費、レント代等、経費を払って利益を出します。製造部門は利益を出せるように時々、刻々と動いているマーケットプライスから10%引いた価格内でモノを作り、さらにコストダウンを続けていかなければなりません。

  1. 在庫評価は売価還元方式

標準原価方式の場合では、この製品は標準原価でいくらと決まっていますから、そのまま在庫評価のベースとして決算をします。しかし、マーケットプライスが標準原価よりも下がってしまっている場合は、経営の実態が見えにくくなります。標準原価で在庫評価しますと、一見会社は利益が出ているように見えます。しかし実際は、在庫は原価割れを起こしていますので、在庫を売る時には損が発生するのです。

会社として資産として計上されるものは、会社の将来の利益に貢献するものだけなのです。余分なものは経費であり、損失なのです。在庫評価も、利益に貢献することをベースとして評価すべきものなのです。これが売価還元法式なのです。製品の原価率が70%とします。マーケットプライスが下りますと、原価はマーケットプライスの70%となるわけです。それが在庫評価額となるのです。

月次の利益変動幅を小さくする

標準原価方式に基づいた在庫評価をしない理由の一つは、製品が完璧(かんぺき)でなければ市場価値はないと考えるのです。仕掛品は完璧な製品ではないのです。従って、仕掛品は年度末以外は評価の対象としていないのです。通常の会計上は製造途中の仕掛品も製品と同じようにその原価で評価されます。仕掛品は、コストの集合体というだけで、購入して頂くお客様にとっては何の価値もないものなのです。

アメーバ経営での時間当り採算制度においては、支出した製品費用から原価計算によって評価される仕掛品価値と差し引いて製造原価を計算するということはせず、製造費用は、その月に発生したすべてのものとしており、複雑な製造原価計算制度は採用していないのです。何故ならば、ユーザーである顧客から見れば、未完成な製品など何の価値もないものだからです。

  1. その月に買ったものは、その月に経費として落とす

通常の財務会計では、毎月、原材料、仕掛品、製品と、原価を算出して製造原価計算書、損益計算書、貸借対照表を作成しています。しかし中小企業の場合は、月次決算では実施棚卸はしませんから、正確な損益は算出されていないのが普通です。多くの会社では、原材料や仕入商品を月末に正確に把握せず、増減を考慮せずに月次決算をしています。そうしますと、月によっては利益が出たり、出なかったりして、月次決算をしている意味がありません。

こうしますと、経費を削減しようと従業員と会議をしても、決算に大きなバラツキがありますから、どのような手を打ったらよいのかわからなくなってしまいます。

こうしたバラツキは、原材料、仕掛品、製品在庫があり、毎月末増減することにより発生します。大量に原材料を仕入れ、在庫が増えますと、在庫管理ができていない場合、仕入だけが経費として計上されますから、当月は大巾なロスが発生します。翌月は原材料仕入がゼロだったとしますと、経費はゼロとなり、大巾な黒字となってしまうのです。原材料、仕掛品、製品の管理が行き届いており、原価計算が正しくされておりますと、こうしたバラツキは発生しません。しかし手間ひまがかかるため、実際には難しいのです。

アメーバ経営では、その月にアメーバが買った原材料、部品は、その月に経費として落とします。原材料が手許に残っているのに経費に落としてしまうのは、たしかに、おかしいのです。しかし、そもそも、使い切れないほど買ってはいけないのです。“当座買いの原則”-要るものは要るときに要る量だけ買うべき。安いからといって大量に買ってはいけないのです。

そうしますと、今使わなくても、買ったものは経費になってしまいますから、すなわち赤字になりますから、要る分しか買わないことになります。仕入れた原材料がすべて製品となり、売却されるようになりますと、売上-仕入=売上総利益(グロスマージン)となり、月次決算も非常に単純になってきます。生産規模が変わらない場合、原材料在庫、仕掛品在庫、製品在庫の計算は一定となります。

会社経営がうまくいっていない会社は、毎月の決算の利益幅が大きく変動してしまっています。管理がよくされている会社の月次決算は、利益幅がフラットとなり、安定しています。

盛和塾 読後感想文 第七十五号

会計は現代経営の中枢 

企業を長期的に発展させるためには、企業活動の実態が正確に把握されなければならない。真剣に経営に取り組もうとするなら、経営に関する数字はすべて、いかなる操作も加えられない、経営の実態をあらわす唯一の真実を示すものでなければならない。損益計算書や貸借対照表のすべての科目とその明細表は、誰から見ても、ひとつの間違いもない完璧なもの、会社の実態を100パーセント正しく表すものでなければならない。会計の資料は、経営者を目標まで正しく到達させるための指標なのです。 

その為に会計の基本的な原則が必要なのです。

  1. 迅速性の原則 - 直ちに会計処理をする
  2. 一対一対応の原則
  3. ダブルチェックの原則
  4. 筋肉質の経営原則
  5. 採算向上の原則
  6. 現金主義の原則
  7. 保守主義の原則
  8. ガラス張り経営の原則
  9. 当座買いの原則-必要なものを必要な時に

このような会計原則を実践していくことにより、正しい経営・長期的に企業を成長・発展させることが可能になります。こうした会計原則は、企業の経営思想の表われとも考えられるものですから、社長自ら理解し、社員に伝え、実践していくことが大事です。 

完璧主義の原則 

完璧主義とは、あいまいさや妥協を許すことなく、あらゆる仕事を細部にわたって完璧に仕上げることを目指すものであり、経営においてとるべき基本的な態度です。 

マクロとミクロ リーダは常にパーフェクトな決断を求められます。社長の経営判断は、その会社の運命を左右します。社長は従業員とその家族、顧客、株主、協力会社に対し、重大な責任を負っているのです。 

その責任を果たすため、経営者たるものは会社全体のマクロな仕事と同時に部下のやっているミクロの仕事も十分わかっていなければ、完璧な仕事はできないのです。 

創業者は、現場の細かいことから会社全体のことまでよくわかっています。二代目、三代目の社長は、現場のことをあまり知らないことが多いようです。創業者からマクロの帝王学は教わっていても、ミクロの現場のことはわかっていない。その為、経営者として本当の意味で会社を動かせないのです。会社のトップとして本当に自分の思う通りに経営をしていこうとするならば、足繫く現場へ出て、現場のふんいき、従業員の仕事の内容を知らなければなりません。マクロだけでなく、ミクロもわかっていなければ、経営者は自由自在に会社を経営することはできません。 

二代目社長は現場に出向け

創業者である塾長は、会社を始めた当初は末端の仕事にも携(たずさ)わりました。門の前の店が汚れていれば、自分で箒を持って掃除をしましたし、便所が汚れていれば、その掃除もしなければなりませんでした。そういう末端の仕事も行っていましたから、作業現場に誰がいて、そこでどのような仕事をしているかということまでわかっていました。 

従業員数が一万人近くになっても、塾長は足繫(あししげ)く現場に周りに、その理解に努めていました。アメーバ別の月次時間当り採算表を見ますと、責任者や従業員の顔まで思い出すことができたそうです。 

二代目、三代目経営者の方々のほとんどは、こうした叩(たた)き上げの経験がないまま、常務・専務などの役員に据(す)えられます。叩き上げの幹部連中に囲まれて、現場に疎(うと)い息子があとを継いで経営していくことになります。 

小さなことが見える人には大きなことが見えず、大きなことが見える人には小さなことが見えないのが普通です。しかし、中小零細企業といえども、経営していく以上は、現場で行われる小さなことも、会社方針決定といった大きなことも、同時に見ていく能力が要るのです。 

二代目、三代目は、従業員よりも早く出社して末端の仕事をする、常務・専務としての仕事をする時間を抑えて、大半の時間は現場に出向き、汗みどろになって現場の人たちと一緒に働く、そうすることにより、マクロとミクロの両方の能力を身につけ、りっぱな経営者が誕生するのです。 

100%達成でなければ

昨今の製造業では“不良品がゼロ”というのが当たり前というほど、品質に対する要求は厳しくなってきています。それはすべてのプロセスにおいて完璧な仕事ができていない限り、実現することは出来ない品質レベルです。とくに研究開発や製造では、わずかなミスさえ許されず、常に完璧な仕事が求められているのです。 

  1. ほんのわずかな不良品が会社を危うくする

新しい製品開発研究の場合、いくつかの薬品を混ぜることがありますが、どの物質の量とどの物質のどの量と混ぜ合わせるのか、混ぜる時間、温度、等を厳密に決め、それを目を離さずに観察して、工程が予定通りに進んでいるか、反応は思った通りになっているか、大変な労力と時間を要します。実際、開始から一週間、一か月経って、最終的にこういう薬品を加えて、ようやく新しい物質ができます。 

こうした作業の中で、もし最後の段階で量を少しでも間違えば、一か月かけて99%まで完成しかけていても一瞬にして灰に帰してしまいます。 

ソニーのリチウム電池の事件ですが、ノートパソコンの中で発熱・発火するという問題が起こりました。原因は製造工程で金属粉が混入したためにショートしたそうです。ソニーは不良品の回収をしたわけです。お客様が使っているパソコンのバッテリーを換えるだけのことですが、ソニーは回収に500億ほどの見込みを立てているそうです。しかし、この500億のロスだけではなく、お客様からの信用もなくしてしまったのです。 

このように不良品は、企業の存亡を左右するような大問題になってしまうのです。 

  1. 日米間の品質管理の考え方の差

アメリカでは航空宇宙分野では、最先端の技術を要する製品を作っています。大変厳しい品質を要求されます。AQL(Acceptable Quality Level、合格品質基準)という、この製品にはこうしたレベルの品質を最低保障しなさい、という基準がありました。人間が作る以上、100%はありえない。“千個のうち2個の不良品以下ならば、認めてあげましょう”と決めてあるのです。もちろん製品によってAQLの要求は異なります。最初から完璧になどできないと買う側が認めていて、不良品を見込んで買ってくれる。不良品が出た時には、お客様から苦情が出ます。しかし我社の製品はAQLをクリアしていますと主張しますと、“その通りだ”と認めてくれるのです。 

アメリカの製品の品質は不安定だといわれるようになりました。日本製品は故障が少なく、信頼性が高いといわれるようになりました。あらゆる分野で日本製品が優勢となって来ました。アメリカもパーフェクトを目指して品質管理の方法を導入するようになって来ています。 

ところが経理など事務職では、間違えば“すみません、すぐ直します”消しゴムで消して “はい、訂正しました” とするわけです。間違えば、消しゴムで訂正すればよいという感覚で仕事をしている人には、完璧な仕事は決してできないのです。 

少々の間違いぐらいは仕方がないと思う人がほとんどです。投資計画、採算管理にしろ、基礎となる数字に少しでも誤りがあれば、結局経営判断を誤ってしまうのです。 

完璧主義をまっとうするのは難しいことですが、その完璧主義を守ろうとする姿勢があるからこそ、ミスが起こりにくくなるのです。パーフェクトを目指してもミスがゼロになるわけではないかもしれない。しかし、だからといって99パーセント正しければよいということにはなりません。99パーセントで結構なら今度は90パーセントでも仕方がないということになる。いや、80パーセントでもいいじゃないかということになってしまうのです。そうすると会社の経営はどんどん甘くなっていき、社内の規律も絡んで、会社の業績も悪化していくのです。 

100パーセントは100パーセントなのです。売上や利益の計画にしても “100パーセントに達しなかったが、90パーセント出来たからよいではないか” とは受け入れられません。製造や営業の経営目標に対する実績についても、開発スケジュールや管理の仕事の正確さについても、完璧主義を貫くべきです。 

  1. 鉛筆で書く数字ひとつも完璧に

アメーバ経営の時間当り採算表を説明する時に、採算表の数字に誤りがあることが判明しました。経理部長は “あっ、そうでした”と言って消しゴムを持ってきて数字を直す。そして悪びれもせず、“はい、訂正しました” と採算表を直してくるのです。 

今訂正したのは2万円だ。製造現場では一円単位のコスト削減に苦慮しているのだから、一円の書き間違いさえも許せない。もし製造現場でそういうミスをすれば、全部が不良品になってしまいます。すなわち経理部長の作成した時間当り採算表は不良品です。不良品によって同僚に間違った情報を提出し、同僚の時間を無駄にして、判断を誤らせてしまうかもしれないのです。経理部長は、自分の作成した不良製品がどういう影響を及ぼすか考えて見ることが大事です。 

鉛筆でひとつ書くにも真剣でなければならないのです。 

厳しいチェックでパーフェクトを目ざす

経営において責任ある立場の人々が、自ら完璧主義を貫くよう肝に銘じていれば、資料の中のつじつまの合わない部分や数字のバランスが崩れているところに敏感に注意がいくようになります。そうしますと、資料をつくる側も自然に完璧主義が身につくようになります。会社全体に完璧主義を浸透させようとするのであれば、それが習い性となるまで数字をつくる側とチェックする側が努力していくことが必要不可欠なのです。 

  1. 完璧主義を習い性とせよ

経理部長は、経理社員が作成した損益計算書、貸借対照表を、数字の一つひとつについて、細心の注意を払うことが習い性になっていなければなりません。また、提出される資料が完璧にそろっているか、もれがないかもチェックすることが必要です。 

損益計算書             -        目次 本年度/昨年度対比

                              -        本年度通算(Year to Date) 本年度/昨年度対比

貸借対照表             -        月次 本年度/昨年度対比

                              -        期定明細表 本年度/昨年度対比

                              -        銀行勘定調整表

                              -        売掛金年令調査表

                              -        棚卸明細 製品グループ、原材料グループ

                              -        固定資産台帖

                              -        買掛金年令調査表

                              -        借入金明細表 

経営者や従業員が必要とする正確な資料が、完全に作成されていることが大事です。数字の正確性及び全部の資料が、タイミングよく作成されなければなりません。 

  1. 有意注意の日常を送る

何をするにしても対象物に対して集中して意を注ぐ、経営者はマクロとミクロをわからなければならないのですが、とくにミクロを理解するためには、経営者は、どんな些細なことにも全神経を集中して注意するということを習い性としなければなりません。 

大きな経営判断を迅速にしなければならないことがあります。常日頃からどんな些細なことにも注意を払うという習慣がついていますと、いざというときに、素早い正しい判断ができるのです。 

有意注意の日常を送っている経営者は、研ぎ澄まされた感覚をもっていますから、すばらしい判断ができるのです。大きな問題の前触れとなる小さなほころびを見抜く力、そこまで見抜けるようになるために、有意注意を習い性として、数字をひとつ書くにしても緊張感を持つようにしなければなりません。 

  1. たとえ難しくても100%を追求し続けよ

サッカーの練習の中で、ゴールへのシュート、練習も大変な努力が必要です。相手のゴールキーパーのちょっとしたスキをついて、コーナーにボールを蹴り込んでいかなければなりません。試合では、練習以上にゴールにシュートし、得点するのは、その成功率は、恐らく50%以下だと思います。 

100%ゴールに蹴り込むことは難しいかもしれません。難しいけれども100%でありたいと思って、選手が練習に励む、コーチもその気持ちで指導に当たる。100%を追求することが大事です。“100%を要求しても無理だ。要求することがおかしい” と思って指導しておれば、80%、やがて70%に妥協するようになってしまいます。 

ダブルチェックの原則 

ダブルチェックとは、経営のみならず、あらゆる分野で人と組織の健全性を守る保護メカニズムです。仕事が公明正大にガラス張りの中で進められるということは、その仕事に従事する人を不測の事態から守ることになります。その結果、事務そのものの信頼性と会社の組織の健全性を守ることになります。

人に罪を作らせない

塾長は“人の心をベースに経営する”を根幹として京セラの経営にあたって来ました。“人の心”を一番大切にする。ところが、“人の心” はうつろいやすく、不確かなものでもあります。しかし、一旦心が通い合いだしますと、これほど頼りになるものは他にはありません。 

このように人の心は一番頼りにできるのですが、ふとしたはずみで過ちを犯してしまうという弱い面もあります。人の心をベースとして経営するとするなら、“人の心” が持つ弱さから社員を守るという思いも必要です。ダブルチェックの原則はここからスタートしました。人間不信や性悪説を背景としたものではなく、むしろ従業員に対する愛情であり、人に間違いを犯させてはならないという考え方なのです。 

よしんば出来心が起こったとしても、それができないような仕組みを作っておけば、1人の人間を罪に追い込まなくても済むのです。ダブルチェックの原則は、従業員が人間として正しく仕事に従事することができる為の、保護システムなわけです。 

  1. ダブルチェックで従業員に罪を犯させない

経理を任され、金庫を預かっている人が、家庭の事情で出費がかさんで二万円ほど足りなくなった。とりあえず今日二万円だけお借りしよう、三日後に主人の給与が入ってくるから、その時に返せばよい、と思って金庫から二万円を出してしまう。しかしこういう人は、お金の使い方が良く分かっていないため。二万円の返済もできず、また金庫から借りてしまう。盗もうとしたのではないのです。 

出来心で盗んでしまうこともあります。自分が記帳から出納まですべて一手にまかされている、誰もチェックはしない。十万円くらいくすねてもわからないだろう。そんなに大それた悪いことではないだろうと、出来心がふっと湧いて来る。 

ダブルチェックを行い、出納を勝手に扱えないようにしてあげれば、出来心が起こっても不正を働けなくなります。 

  1. 経営者はシステムの一貫性を厳守せよ

社員に罪を作らせないように、ダブルチェックのシステムを作るのはいいのですが、その際には会社のすべての業務に一貫性がなければならないのです。モノを買うにしてもカネを払うにしても、すべての業務において一貫してダブルチェックが行われなければなりません。 

製造部から依頼された部品の購入があったとします。購買部は検品した後、検収表、請求書、注文書を添付した支払い依頼を経理部に提出します。経理部は一連の書類を確認した後、支払います。このようにダブルチェックシステムは機能します。 

経理課長は今日は忙しい、支払い伝票は後で作成するから、とりあえず払っておくように、と指示してしまうことがあります。ダブルチェックせずに支払いをしてはならないと決まっているのに、そのルールを破ってしまう。 

よくあるケースは、社長が一貫性を破ってしまうケースです。“出張するのに現金十万円用意してくれ。後で出張申請書を作成するから” と言って伝票もないまま経理からお金を持っていく。社長は出張から帰ってきたらきちんと精算するので問題はない、と思うのです。しかし、課長や社長がダブルチェックのシステムを破ってしまうのを見た従業員は、“課長や社長も特例を設けたのだから” とルールを破ってしまうのです。 

こうしますと、ダブルチェックのシステムは崩壊してしまうのです。自分が導入したダブルチェックのシステムを社長自ら破壊してしまっては、経営はできません。 

ダブルチェックの原則を間違いの発見・防止のためのテクニックと考える人もいます。しかし、本当の目的・考えは人を大切にする職場を作るために、全社員が守るべきルールなのです。お互いにチェックし合い、お互いの間違いをなくしていこうとする緊張感のある職場づくりが目的なのです。 

具体的なシステムの構築は経営者の仕事

入出金の取り扱い

入出金の管理においては、お金を出し入れする人と入金伝票を作成する人を必ず分けることが原則です。 

小口現金の場合

例えば、毎月月初めに$500の現金があったとします。出納係は他の部署から支払い伝票や領収書を受け取り、現金を支払います。その時、残りの現金と領収書の金額の合計はいつも$500になっています。 

現金出納記帳担当者は、支払い伝票/領収書をベースに入出金-現金出納帳を作成していきます。 

こうして現金出納者と記帳者は別々の人が担当します。 

“その会社の経理がしっかりしているのか、だらしないのかを知るには、現金出納帳を見るのが一番だ。少額の現金出納もばかにしてはいけない、すべてに影響するのだ” 

資材の支払いの場合

支払い担当者は、伝票が正しく発行されたものかどうかをチェックして支払うのですが、伝票に基づいてであって、自分の意思や判断によるものではありません。支払いが必要な部署の職員は、支払い伝票を正確に記載し、証拠書類を用意して支払い担当者(経理部)に支払いを依頼しなければなりません。購買担当者は発注書/検収伝票/納品書/請求書を確認します。 

入金処理の場合

振り込みがあった場合は、その入金に関わる売掛金担当部署に連絡し、入金内容を明確にした伝票を起票してもらい、入金処理をします。お金を扱う担当者は入金伝票を発行してはならないのです。 

入金を確認した経理担当者は、得意先の売掛金を消し込みします。このようにして、入金はダブルチェックのシステムに沿って処理されなければなりません。 

会社印鑑の取り扱い

印鑑の管理について、塾長は、忙しくて時間がない為、自分なりのシステムを考えました。印箱は二重にして、外箱は手提げ金庫、内箱は小型の印鑑箱とする。そして内側の鍵の管理者である捺印者(経理部長)と外箱の鍵の管理者(経理課長)とを必ず別の者によって管理し、相互にチェックできる様にしたのでした。 

内箱は必ず外箱の中に保管します。捺印する時だけ内箱は外箱から出します。内箱を閉める時はあるべき鍵が収納されていることを別の人(経理課長)に確認してもらって施錠してもらいます。内箱/外箱は耐火金庫の中に保管されています。耐火金庫の開閉はまた別の者(経理係長)が行います。 

耐火金庫を開ける人、外箱を開ける人、内箱を開ける人/捺印する人、というように分けておくのです。 

金庫の管理

耐火金庫がシリンダー錠とダイヤル錠とを備えている場合は、必ず両方を施錠し、印鑑箱と同じように別々の者が開錠するのです。金庫は営業時間内でも施錠し、必要があって開ける時は、必ず立会人を置いて、複数の人間で金庫からの出し入れを行うようにします。 

購入手続

例えば製造部が物品やサービスの購入をする時は、購買部に購入依頼伝票を発行します。購買部から発注してもらいます。製造部が仕入業者に直接電話したり、値段や納期の交渉をすることは禁じるべきです。 

製造担当者は物を作るプロであって、物を買うプロではありません。今ではその製品が市場に溢れていて、値段が暴落していることを知らず、以前に買った高い値段のままで発注してしまう、ということにもなりかねません。購買部に任せれば、十分にマーケットの値段を調べた上で、一番適切な値段で買ってくれます。製造部が勝手に発注・購入したことにより、結局は高いものを買ってしまって損をすることになります。 

ダブルチェックは、業者に対する確実な支払いを保証することにもなります。製造部が業者に直接連絡して、すぐに部品を納入してくれ、発注伝票は後で発行するから、と業者に依頼します。業者は発注書も納品書もなしで部品を届けてくれました。業者から、“何ヶ月経っても、あの時の支払いがありません” と購買部に連絡が入りました。購買部が調べましたが、発注伝票がないのです。製造部の担当者に問い正しても、“どうだったかな、そうだったかな” という返事が返って来ました。結局、業者の方に大変な迷惑をかけてしまいました。 

この例からもわかりますが、ダブルチェックのシステムの則(のっと)り、購買部門を通してモノを買うことが必要なのです。 

反対に京セラでは、ある会社の研究部門の人から “すぐ持って来い、急ぐんだ” と電話が入り、夜中、部品を納入しました。その人に品物を渡し、受注伝票も渡しました。しかし受領票をもらっていなかったのです。京セラでは売上となっています。お客様の研究部門では、買ったことになっていませんでした。 

売掛金・買掛金の管理

営業は通常の営業活動はもちろん、売掛金の入金まで責任を持つというのが原則です。売掛金の管理は、営業管理部が行い、残高の明細を営業に報告して、契約通りの入金をうながすとともに、滞留しているものについて、その原因と対策を明確にして、早急に解決するよう指示します。営業担当者は営業管理部が発行する領収書を持って、客先に集金しに行きます。小切手、手形はすぐに本社経理部に送られ、入金処理がなされます。営業管理部は売掛金の消し込みをし、売掛金管理をします。同時に本社経理部も売掛金管理をし、営業管理部の売掛金と毎月照合します。客先から振り込まれた入金も本社経理部の管理下にある銀行口座に入金処理され、営業管理部に入金報告をし、売掛金元帳の消し込みをします。 

売掛金については営業に責任があります。各営業所営業経理と本社経理はそれぞれ売掛金入金、残高を管理します。 

買掛金については、購買管理部は検収にともなう買掛金計上、買掛金残高を担当し、買掛金支払は本社経理部が担当して集中管理します。買掛管理部からの請求書支払いの依頼があった場合、経理部はその請求書の承認を確認し、支払いをします。 

このように売掛金・買掛金の管理についてもダブルチェックを徹底します。このダブルチェックのシステムが会社で機能しているか確認するのは、社長の重要な仕事なのです。部下がやっているからいいじゃないか、ではいけません。 

作業屑の処理

作業屑を業者に売却することがあります。この時、担当者1名に任せ、業者に作業屑を売却していることがあります。業者の不正確な秤量(ひょうりょう)が見過ごされることがよくあります。担当の従業員が業者と結託して、リベートをもらう不正が起こって来ます。社長は従業員が罪を犯さないようにしなければなりません。担当者を2名にして、秤量の確認や売値の検討をして、業者に売却するようにすべきです。 

もとから悪い人間であったためではなく、ダブルチェックを受けず、業者にそそのかされ、ついつい出来心で罪を犯してしまった。屑処理といえどもダブルチェックをして社員に罪を作らせない様にしなければなりません。 

自動販売機、公衆電話の現金回収

自動販売機が社内に設置されている場合があります。総務担当者の1人に任せているケースがあります。小さなことですが、お互いにチェックできるように必ず2人で金額を確認し、毎回、経理部担当者に報告すべきです。金額の大小とは関係なく必ずダブルチェックの原則は守ることが大事です。 

一見当たり前のことですが、当たり前のことを確実に守らせていくことこそが、実際には難しいのです。ただし、これを指示するだけでは徹底されないのです。トップ自らが、本当にダブルチェックの原則が守られているか、現場に出向き、時々チェックすることが必要です。繰り返し確認していくことで、制度は社内に定着していきます。

盛和塾 読後感想文 第七十四号

アメーバ経営には、フィロソフィーが欠かせない 

アメーバ経営はフィロソフィーの共有からはじまる

  1. 自ら考え方、哲学を構築し、従業員と共有せよ

経営にとって一番大事なのは、経営者と従業員の考え方を同じくすることがアメーバ経営を行うことの最初のステップです。企業内で経営者と従業員が同じ考え方、哲学を共有することが経営にとって一番大事なことです。

その為には、社長が立派な考え方、哲学を自分自身で構築していく必要があります。“人生・仕事の結果 = 考え方 x 熱意 x 能力”という方式を塾長は説いています。絶えず、フィロソフィーを勉強していき、自分の信念にまで高めていくことが必要です。

自分の信念にまで高めたフィロソフィーを、機会あるごとに、熱っぽく語ることで、全従業員が共鳴し受け入れてくれるようにするのです。朝礼や会議、社内報、コンパを通じて従業員に考え方を共有してもらおうと努力することが大事です。

  1. 使う者” “使われる者の関係から家族的な関係へ

社長として会社を率いていかなければならない経営者と従業員とは、置かれている立場に大きな違いがあります。経営者はその責任を自覚すればするほど、緊張感と責任感に押しつぶされるような思いで頑張っています。 

この緊張感、責任感を誰かに分担したいと思うのですが、担ってくれる人はなかなかいません。従業員に語りかけ、みんなを自分と同じような考え方にしていこうとしても、なかなか、そうはなってくれません。中には、全く無視するもの、不平不満をぶつけてくる者、ついには辞めてしまう者もおります。残った従業員はあまり頼りにならない。 

経営者は労働者を搾取している。経営者・資本家の言うことを聞いても、結局搾取されることには変わりないと考える従業員もいるでしょう。 

大企業の中でも、経営者と従業員が共通した考え方を持っているような例は少ないと思われます。共有しようという努力をしていないところでは、経営者と従業員の間では、考え方が大きく乖離しているのが普通です。 

そうではなく、経営者と従業員が家族のような関係であればよいと塾長は考えました。単に“使う者”と“使われる者”という関係ではなく、親が子を思い、子も親を思うように、経営者と従業員が互いに相手のことを優しく思いやる、家族のような関係を会社の中に作ればよいと考えます。“大家族主義”という考えを会社の中に導入し、共有してもらうようにするのです。所詮は赤の他人ですから、簡単に従業員が分かってくれるわけではありません。 

経営者はどのような考え方のもとで会社を経営していくのか、考え方・哲学を確立し、その共有を図ることで、仲間意識を持てるようにします。勉強会、“気づき”ノート、朝礼、コンパ、社員旅行等を通じて、アメーバ経営の話をする中で、“大家族主義”の浸透を図るのです。 

ところが、“考え方は自由じゃないか”人がどんな考え方で会社に勤めるか、どんな考え方で人生を歩くのか、個々人の自由ではないかと考えるのが通常だと思います。“大家族主義”の考え方に同意・共感してくれるようになるのには、時間も労力も費やさなければできないことです。確かにどのような考え方をしようとも自由ですが、うちの会社で一緒にみなとやっていくと思うのなら、是非理解してもらいたい。理解してもらえない、逆に反発する人は、この会社にいてもらう必要はないとまで、言わざるを得ないこともあります。 

  1. フィロソフィーを共有し、成功を収めている塾生企業

京セラフィロソフィーでもって、考え方、哲学を経営者が勉強し、社員と共有するようにすることが大切です。そうすれば、社員との間に一体感、連帯感が生まれ、運命共同体として、会社の団結力が強まっていくのです。 

アメーバ経営はこうして、考え方、哲学を社員と共有することから始まります。まずは経営者自身がフィロソフィーを確立し、それに従って日々の経営判断、行動ができるまで高めていくことが大切です。 

平和堂の夏原さん、マルゴイの澤田さんは盛和塾でのフィロソフィーを勉強され、それを従業員と共有することができ、会社を大きく発展させることが出来ました。創業者や先代が成し得なかったような高みに企業を押し上げることができたのです。 

  1. アメーバ経営は経営のパートナーを育成する

経営者と従業員がお互いの気持ちを理解でき、お互いがお互いの為に尽してあげようと思う心が社内にできれば、さらに経営者に欲が出てきます。自分と同じように経営責任を担ってくれる人、パートナーがほしいと思うのです。

経営意識を持つ人材の育成

どんな会社でも、経営者とは孤独なものです。トップとして最終的に決断をし、責任を負わなければならないので、つねに心細さがつきまといます。自分と苦楽をともにし、共同経営者としての責任を感じてくれる社員が心の底から欲しいと思います。

会社が小さいときには、たとえ忙しくても、経営者が会社全体をひとりで見ることができます。しかし会社が大きくなるに従い、製造、営業、開発、会社のすべてをひとりで見ていくことは次第に困難になります。製造はA君、営業はB君、開発はC君、総務経理はD君と各部門ごとに責任者を任命していくことが必要になってきます。営業部だけでも、会社が大きくなりますと、東部、西部、中西部、南部というように組織を分けていくことになります。製造部門でも、採算を細かく見ていこうとしますと、製造部の責任者がひとりで管理していくことは不可能になります。製品品種別、工場別に責任者を配置することが必要になってきます。

会社が大きくなったとしても、組織を小さなユニットオペレーションに分けて、独立採算にしておけば、そのリーダーが自分のユニットの状況を正しく把握できるようになります。小さなオペレーションを任されたリーダーも、少人数の組織であるが故に、日々の仕事の進捗状況や工程管理などの組織運営を容易に行うことができ、特別な経験や能力や専門知識がなくても、自部門の運営が的確に行われます。

それだけではなく、小さなユニットであっても、そのリーダーは経営を任せられますと“自分も経営者のひとりだ”と意識を持つようになります。そうしますと、リーダーに経営者としての責任感が生まれてきます。と同時に業績をよくしようと努力をします。従業員として“してもらう”立場から、リーダーとして“してあげる”立場になります。この立場の変化こそ、経営者意識の始まりです。

そうしますと、“一定時間を働けば、一定の報酬がもらえる“という立場から180度変わって、今度はメンバーの報酬を払うために自らが稼ぐ立場になります。こうして経営責任をともに負ってくれる共同経営者がリーダーの中から次々と誕生してきます。

これがアメーバ経営を行う目的の、二番目の目的です。アメーバ経営の目的のひとつは、一般の従業員を経営者意識をもった共同経営者に育成していくことにあります。

会社を小さなユニットに分割し、その経営を社員に任せることにより、今までは“してもらう側”にいた人が、リーダーとしてひとつの部門の管理運営をしなければならなくなります。その管理責任をしなければならなくなる瞬間から、今度は“してあげる側”として考え方が180度変わり、経営者としての自覚を持つようになるのです。

ベテランの人をリーダーとして配置していきます。しかしその時点ではまだ経営者としての力量は分かりませんから“このくらいのオペレーションであればこの人は経営できるだろう”と考え、その人に見合ったユニットの運営を任せていきました。このように ON THE JOB TRAINING、まさに現場での実践を通じて育てていきます。

会社組織を分割し、“あなたはこの部門の経営責任を持つのですよ”といわれても、その人たちは経営を知りません。損益計算書が理解できなければ、小さな組織も経営することは出来ないのです。会計の素養のないユニットリーダーに経営者としての一翼を担ってもらうために社長は誰にでもわかるような損益計算書を作る必要があるのです。一言で言えば、時間当たりの採算表を作り、誰が見てもすぐに経営状態がわかるようにするのです。

  1. 組織分割の条件は独立採算ができる単位

アメーバ経営では、会社の組織をそれぞれ独立して採算を見ることが出来る単位に分割します。明確な収入が存在し、その収入を得る為に要した費用も明確に算出できるような単位でしか分割をしてはならないのです。 

製造業の場合、会社は営業と製造に分けられるとします。製造部が大きくなりますと、製造Ⅰ、製造Ⅱ、製造Ⅲというふうに分け、営業部は支店A、支店B、支店Cというふうに分けていきます。こうして組織を分割して、それぞれの組織に経営を担ってもらう責任者を任命していきます(図参照)。

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ラーメン屋展開で3店舗のラーメン屋を経営しているとします。ラーメン屋は麺がいります。麺は自分で作った方が、買うよりも量も多いので、自分のところで作る場合もあります。自社で麺をつくったときの原価と、外部から仕入れたときの価格と比べてみて、自社で作ったほうが安いとなれば、自社で作る部門を設けることになります。スープも自社でつくることもあります。面もスープも自社でつくることになりますと、各店舗の店長は支給された麺とスープを使って、店舗ごとの独立採算で経営をしていくことになります。 

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製麺部も独立採算です。小麦粉を仕入れて麺を作り、外部の製麺業者の作る麺よりも安く店舗に供給します。安く供給しても製麺部門に利益が出るように、部門長に経営を任せます。スープもなるべく安くておいしいものを独自に作って各店舗に供給します。スープ部門も独立採算で運営していきます。 

製造部の製麺部とスープ部は、それぞれの売上がいくら、経費がいくらかを算出して、各部の損益を算出します。製造部全体としては、この2つの部門の売上と経費の合計が損益となります。同時に営業部はA店、B店、C店それぞれ売上・経費を合計し、損益を算出します。それらを合計すれば営業部全体の損益を算出することができます。この製造部・営業部の売り上げ、経費、利益が合算され、この会社全体の業績になります。

アメーバ経営と採算表

  1. 素人経営者にもわかるように勘定科目を細かく分けていく

会社の部門別に採算管理をする、どこが儲かっているのか、儲かっていないのか、はっきり分かるように、部門別に採算管理していくことが非常に大事です。売上や経費の中味については、細かく細分化して誰にでも内容が理解できるようにしておきます。 

アメーバ間の利害対立を融和させるのはフィロソフィー

  1. 製造部門と販売部門の利害は対立する

組織を分割していくときに、部門間の利害の対立という問題が発生します。製造部は少しでも高く売りたい、営業部門はなるべく安く買いたい、と利害が対立します。 

会社という同じ船に乗っているのに、協力し合わなければならないにも関わらず、製造と販売の間で利害が対立してもめてしまいます。 

  1. 利害対立を抑えるため、利益配分を工夫する

商品を販売する場合であれば、営業部はコミッションを得るようにして営業部内の採算をあわせようとします。例えばコミッション10%は営業部の収入です。営業部は、在庫負担や広告宣伝費を負担する場合はコミッションは15%~20%等に調整する必要があるかも知れません。 

受注品の場合は、営業部は在庫負担、広告宣伝費用はありません。その場合は、コミッション10%で営業部は採算を合わせるようになります。営業部には営業マン、社内には受注担当者、買掛金担当者、会計担当者の給与、レント代、公共料金、電話料金等、経費が発生します。コミッション収入と上記の経費を引き、採算を見ることになります。 

営業が高いマージンを取りますと、製造部は“だから利益がでないのだ”と言い、逆になりますと営業部へのマージンを再考せざるを得ないことも発生します。 

  1. マージンの設置のみでは利害対立は解消できない

合理的にマージンを設定しても、営業担当と製造担当がそれぞれ自分たちの取り分を増やしてくれと主張し、社内に対立関係ができてしまいます。この利害をスムーズにするために、経営哲学、フィロソフィーが必要になるのです。相手のことを思いやる、利他の心など、フィロソフィーが必要になってきます。相手の事情も聞き、自分の事情も話していき、その中で妥当な線を見つけ、納得のいく一致点を見出す。幹部も、従業員がフィロソフィーを理解し、体得し、それを全員で共有する必要があるのです。 

  • まず経営者は社員とフィロソフィーを共有する。共有する為に絶えず勉強会、コンパ等を通じて、また仕事の中でフィロソフィーを実践していく努力をします。
  • 共同経営者を育てていくためには、会社組織を小さなユニットに分割し、それを任せていく。
  • 任せていく為には、素人でもわかる損益計算書をつくる。

こうした条件を考えながら、共同経営者育成を目指すアメーバ経営を実践していきます。

  1. 無責任な標準原価方式

営業部と製造部の間で、お客様とメーカーという形で激しい値段交渉が行われますと、社内の調和が乱れて会社が立ちいかなくなってしまうことがあります。一般に社内の組織同士を独立採算で運営しないのは、社内での売買交渉が大変難しくなるからです。 

日本の大手メーカーではよく標準原価計算方式をとっていることがあります。売上目標があり、それに基づき製造原価を決めていきます。その製造原価で本当に製造できるかも検討します。営業部の方からも、来年のマーケット情報を予測して、製造部に、この製造原価で製造してくれるよう依頼があります。こうして標準原価が決まります。製造部の目標は、この標準原価となるわけです。この標準原価で製造できれば、製造部の業績はよしとするわけです。 

しかし、競争が激しく、想定していたマーケットプライスよりも下がってしまい、製造部から引き取った標準原価以下で売らなければならないこともあります。不良在庫にするよりは、原価割れの方がましだからと売ってしまいます。利益が大巾に減少、又は赤字になったとか決算の下方修正が起きます。 

この場合、利益を減らし、赤字をつくった責任は誰にもないということになります。製造部は営業から依頼された原価 = 標準原価で作ったのです。営業部にすれば、競争が激化して誰にも予想ができなかった価格になってしまい、当初の値段では売れなかっただけで、営業の責任でもないのです。製造部の責任でもありません。責任は外部のマーケットということになってしまいます。 

  1. 時間当り採算表

各アメーバ部門ごとに損益を見ている方法として、時間当り採算表を使います。この時間当り採算表は、素人にでもわかる損益計算書に相当するものです。付加価値(労働1時間当りどれだけの価値を生み出したか、その価値をドルで表現したものです)計算書とも呼べるものです。  

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総出荷額から総生産額までが売上についての項目で、総生産が製造部の売上高です。控除額が生産に必要な経費項目です。

控除項目を細かくわけていきますと、経費の中味がよく理解できます。自分の部門で利益が少ないのは、控除額のこの項目がかさんでいるからだと、すぐにわかります。このようにして何にお金を使ったのか、すぐにわかるような勘定科目でなければならないのです。

上の例ですと、製造部の純生産額は$100,000、控除額$30,000、差引売上高(付加価値)は$70,000、当月時間当り(総労働時間)1400時間、時間当り生産高は$50となっています。人件費(給料、給与税、健康保険、年金等)が1時間当り$35としますと、製造部は1人当り$15/時の利益をあげていることになります。

経営は飛行機の操縦と同じです。パイロットはコックピットを見て飛行機を操縦します。経営者は採算表を見てアメーバ経営をしていきます。

  1. 採算表は全員で見る

採算表はアメーバの経営を任されたリーダー、経営責任を分担してくれるパートナーだけがみるのではありません。 

各アメーバで月初に予定表を作成します。自分達の部門はいくらの売上をあげようと予定を作り、その為に原材料、電力、水道料金、等を予測します。自分のアメーバの従業員は、もちろんパートの人までも入れて全員で予測していきます。 

月末には、採算の結果が出ます。アメーバのリーダーが自分ひとりで採算表を見るのではなく、部下全員とみていきます。部下の意見も入れて、知恵を出し合いながら、アメーバ経営の採算向上を図ります。 

  1. 社会の調和を保つために、時間当りの付加価値で評価する

採算表を見ますと、総生産(売上)から、経費項目が並んだ控除額(経費)を差し引いた残りである差引売上高があります。これが付加価値です。アメーバに所属する全員がその月には垂らした総労働時間を算出します。この付加価値をこの総労働時間で割れば、その月は1時間当りいくらの付加価値を生み出したのかがわかります。これをアメーバ経営では“当月時間当り”と呼びます。 

アメーバの業績は、利益の絶対額ではかるのではなく、1時間当りいくらの付加価値を生み出したのかで評価されます。採算を利益の絶対額で評価しますと、アメーバ間に利益の差が出ます。そうしますと、利益が多く出ているアメーバは“うちは利益を多くしているのだから、うちのアメーバの人たちの賃金を上げてもよいのではないか”と考えてしまいます。そこでアメーバ経営では、時間あたりの付加価値で評価することになっています。 

総労務費を総労働時間で割り。時間当り労務費と時間当り付加価値を比べると、黒字か赤字か判断できます。こうしますと、パートの人でも自分の部門がどういう採算になっているか分かるわけです。全員参加の経営がアメーバ経営の目的の一つなのです。

盛和塾 読後感想文 第七十三号

高収益企業の作り方 

強い願望を持つことで、企業を高収益体質に導くことができます。塾生の中では、自分の会社も高収益企業にならねばならないと心から思い、その結果、営業利益率10%を超える企業が続出しています。株式公開や上場に至った会社は100を超えています。 

経営者が、我社は高収益企業になるのだ、と心から願い、誰にも負けない努力をすれば、いかなる業種においても高収益は実現できるのです、と塾長は述べています。 

筋肉質経営に徹する 

なぜ筋肉質経営が必要か

企業の体質は筋肉質でなければなりません。人間の体と同じくぶくぶくと太りすぎていたのでは健康によくありません。 

企業は永遠に発展し続けなければならない。その為には、企業を人間の体に例えながら、身体の隅々まで血が通い、つねに活性化されている引き締まった肉体を持つものにしなければならない。経営者は贅肉のない筋肉質の企業を目指すべきなのです。 

上場企業になりますと、どうしても会社をよく見られたいという意識が出てくる。高い株価を維持したい為に、利益をはじめ、すべてのものをよく見せたいと思うようになるのである。しかし見栄をはれば、贅肉ばかりがつき、不要な負担が増すばかりとなります。経営者が自分や企業を実力以上によく見せよういう誘惑に打ち克つ強い意志を持たなければなりません。 

企業の体質を表わす貸借対照表

貸借対照表は企業の資産・負債・資本をまとめたものです。 

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資産合計が多い企業は、沢山の資産を持っているだけに立派な会社であるかのように見えます。会社が少し大きくなりますと、りっぱな本社社屋をつくろうという誘惑にかられます。土地を買い、立派な外観の建物を作ります。そうしますと、資産合計金額は膨らみます。 

ではどうして、その資産を調達したのでしょうか。もし銀行から借り入れをして立派な本社をつくったとしますと、土地・建物の代金と同じ金額が短期借入金、又は長期借入金に計上されます。資産を増やしていきますと、負債・資本合計も増えていきます。 

スリムで筋肉質の経営とは、資産を少なくして、なるべく増やさないようにする経営です。資産を小さくしますと、負債・資本も少なくなります。小さい資産の会社だから弱い企業ではありません。 

企業の損益を表すものが損益計算書です。 

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売上高が多く、売上原価、一般管理販売費が少ない、利益が大きい。 貸借対照表では資産が少ない、負債が少ない、そういう会社が良いのです。

逆に売り上げの伸びもなく、経費も沢山使っている、利益もほんのわずか、資産の額は大きい、負債も多い、という企業は、逆に、よい会社とは言えません。健全とは言えないのです。

新品でなく中古品で我慢する

オフィス用の机、椅子、会議室のテーブル等、企業は事務用器具・家具が沢山必要です。その時は新品ではなく、新品の半額以下の中古品を購入するのです。大企業が不要になった什器備品が沢山、中古市場に出回っています。 

製造設備を購入する場合も、どうしても現場の技術者は新品の機械を買いたがるが、性能が優れた機械があっても、安易に買わず、中古品で我慢します。現在手許にある機械をいかに使いこなすかを徹底的に考え、創意工夫をこらすようにします。 

次のような分析をしてみるのも、一つのアイデアです。

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中古機械の方がコストははるかに少なくなっています。受注量が新品機械を年間通じて100%稼働させることが出来るのならば、新品機械購入は正しい経営判断と言えます。しかし生産性向上は新品機械導入により可能ですが、実際はそれがそのまま経営効率の向上につながるとは限らないのです。 

  1. 有形固定資産の導入時には損益計算書に留意せよ

新しい機械を見ますと、誰もが手に入れたいと考えます。しかし中古機械の価格の何倍もします。一方では生産効率が中古機械と比べますと、数倍も優れています。どうすべきか大変迷うと思います。 

新しい機械を購入しますと、貸借対照表の資産の部に計上されます。会社に現金預金が充分にある場合は、現金預金が減り、機械設備として固定資産が増加します。現金預金がその分だけ減少することになります。つまり資産合計は増えません。 

ところが充分な現金預金がない場合は、銀行から借り入れをして機械設備を導入します。負債の部に長期借入金が計上されます。資産の部に機械設備、負債の部に長期借入金と膨れ上がります。 

長期借入金には金利がかかってきます。機械を5年で償却しますと、減価償却費も取得価額の1/5となります。 

一方、少額の設備を購入した場合は、その設備を買うための借入金も少なく、金利も少ないし、減価償却費も少なくて済みます。 

とはいっても中古機械の生産性は、新しい機械のスピードの半分以下です。また、中古機械の場合は人件費も多くかかるはずです。減価償却費、金利、生産性、人件費等、損益も同時に考えることが必要なのです。 

本社ビルの建設も同じことです。業績がいいと、本社ビルを建てたいという見栄心が発生し、土地を購入し、本社建物を建設します。土地・建物、資産は増え銀行借入金も増えてしまうことがよくあります。こうした大きな投資は会社の損益に長期にわたり影響を及ぼすのです。 

  1. 減損会計導入で、より顕著になった筋肉質経営の優位勢

取得原価主義の会計が原則です、すなわち取得した時の価格が貸借対照表に計上されます。ところがバブルの時期に購入した土地は値下がりが激しく、市場評価額で査定し直すことになったのです。減損会計が導入されたのです。時価が原価より低い場合は、現在の価値に引き下げ損益計算書に損失を計上することになったのです。 

三洋電機も減損会計により一千億円の損失を計上しなければならなかったのです。 

資産の部は減損会計で減少しますが、借入金は不変です。資本の部の利益余剰金が損失の為に大巾に減少し、最悪の場合は繰越欠損が増えることになります。減損会計による損失の減損計上は利益余剰金、資本余剰金、資本金の合計より大きくなることもありました。債務超過といいます。

減損会計を先送りしている企業もあり、含み損がどんどん大きくなってしまうことがあります。ブクブクと膨れ上がった脂肪を取り除くことになった途端に、たちまち体力がもたなくなり、危機的状況になってしまうのです。 

  1. 経営体質の違いで明暗が分かれたイトーヨーカ堂とダイエー

イトーヨーカ堂の伊藤雅俊さんは、スーパーを全国展開していく時、自分で土地を買って建物を作り、店を出していくというやり方をとられませんでした。イトーヨーカ堂は賃貸方式で出店していきました。 

ダイエーの中内功さんは賃貸方式では家賃が発生する。自分には信用があるから、銀行借入により土地を入手し、建物を建設するというやり方をしたのでした。貸借対照表上の土地建物は10年後には値上がりも期待できる。しかもリースと違い、レント代も支払う必要がないと考えたのです。 

一目しますと、ダイエーの中内功さんの方がイトーヨーカ堂の伊藤雅俊さんよりはるかに賢いように見えます。 

イトーヨーカ堂に賃貸する会社は、土地を買い、建物を建設し、銀行借り入れをし、利息を支払っても利益が出るから賃貸しているのです。イトーヨーカ堂は賃貸会社の減価償却、金利等の経費と、賃貸会社の利益 = レント代を支払っているのです。この利益はイトーヨーカ堂の手元には残らないのです。 

ダイエーは資産が肥大化し、借入金も増え、負債も肥大化していったのです。金利負担が重くのしかかり、デフレになり、土地・建物の価値が下がります。ダイエーの業務は大変悪化したのです。 

貸借対照表を見て、筋肉質の経営をしていくことの大切さは歴然としています。 

健全会計に徹する“セラミック石ころ”論

京セラのセラミック部品は、受注生産品です。テレビ用の絶縁部品にこういう計上の絶縁部品が欲しいと言われて、客先の要望に応じてセラミック部品を作ります。客先がテレビ用の絶縁部品を作ることを依頼して来た時、そのセラミック部品は売却され、価値があるのです。もうほかのタイプのものに手直しすることはできない、お客様使用の部品なのです。 

客先から2千個のセラミック部品の発注があった。しかしひょっとしたら追加があるかも知れない。追加で500個くらいは作って、在庫として保存していこうということになった。しかし、この500個は通常単価100円ですが、発注がお客様から来ないかも知れません。捨てるにしてはもったいない。評価はゼロにしようとします。しかし税務署は、評価ゼロとするのであるならば、捨てなくてはならない。捨てない500個分は、製造原価で評価すべしと主張します。 

経営上、資産とは価値を生み出すことのできるものなのです。上記500個分が売れるかどうか分からない場合は、保守主義の考え方から、評価はゼロとすべきなのです。 

こうした資産が工場の倉庫の中に蓄積していくことが多々あります。これがタブタブの、ぜい肉のついた貸借対照表となってしまうのです。ですから、経営者は棚卸を人にまかさず、自分の目で見て、自分の手で触れて行うべきものなのです。自分も一緒になって検品をし、こまめに見て回るようにすべきものです。 

  1. 確固たる経営哲学がなければ、貸借対照表のスリム化はできない

資産の部にある流動資産、固定資産が減れば、減った分だけ資本の部の利益余剰金が減ってしまいます。 

長期滞留の材料があったり、不良品があったり、それらが棚卸資産として計上されていることがよくあります。これらの不良在庫は将来利益をもたらすことはありません。すなわち資産としては、貸借対照表に計上してはならないものです。これらの不良在庫を帳簿から落としてしまえば、利益はその分だけ減ります。 

筋肉質の経営というのは、棚卸資産も徹底的に落とし、資産合計を少なくする経営です。経営者の中には、会社は銀行借入があるので、損失を今期計上するわけにはいかない、棚卸資産の評価減は、今年はやめておこう、利益が大きく出た時に損金に落とせばよい、と考えてしまうのです。こういうことが何年も続き、ますます業績が悪化していきます。 

株式公開している会社では、株主に会社を立派に見せたり、自分の経営者としての手腕をよくみせたいという気持ちがどうしてもあります。 

貸借対照表をスリムにしていく為には、こうした外部からの圧力・見栄で経営するのではなく、確固たる経営哲学を持っていなければ出来ないのです。 

固定費の増加を警戒する

固定費は売上や製造量の規模にかかわらず変動せず、時の経過と共に発生するものです。一方変動費は売上や製造数量に応じて変動するものです。固定費の主なものは固定資産に関わる減価償却費、人件費も大きな項目です。設備投資が増えれば減価償却費は増えます。人数も増えれば人件費も増えます。間接部門での人員はいつのまにか増えているということになりやすいのです。 

筋肉質の経営には、原材料等の操業費に連動する変動費を下げるだけではなく、固定費も一定ぐあい下げていくことにより、利益を高めていくということが大切です。 

会社の経営が損益分岐点(売上 – 売上原価 - 一般管理販売費 = ゼロ)となる売上高をできるだけ下げていく、その結果として利益を増加していくことが筋肉質の目標です。

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新しい機械設備を購入しますと、固定費(減価償却費 + 利子)が増えます。生産性は向上しますが、しかし生産性を向上する為には、大幅な売上拡大が必要なのです。確かに大量の受注を受けても新しい機械設備を使えば短期間に生産が達成されます。製品一個当りの製造時間が短縮され、このメリットは売上増があるという前提なのです。 

固定費が増加しますと、損益分岐点はどんどん高くなり、ますます売上増が要求されます。固定費が一定ですと、売上増と変動費増の差額が利益増となります。 

固定費を低くして、変動費もできるだけおさえていきますと、売上増は直ちに利益増に結びつきます。 

こうした経理の基本は経理担当者は理解しておられます。問題は社長が理解していないことがよくあるのです。積極経営でどんどん設備投資をしようとする社長には、上記のように固定費の増加が利益を圧迫していくのだということを頭で理解していても、競争相手のやっていることや、景気動向をもとに、新しい機械設備を購入したり、本社社屋を建設したりすることがあるのです。 

投機は行わない 額に汗した利益が大切

投資とは、自らの額に汗を流して働いて利益を得ることであって、苦労せずに利益を収めようとすることではない。事業経営はバクチではありません。 

都銀の行員が“不動産が値上がりしています。みなさん土地を買って転売して儲けておられます。御社は利益が上がった分、当行に預金をしていただいて、それはありがたいことです。世間では金を借りてでも土地を買っておられます。御社にはいくらでもお貸しします。値上り確実な不動産もたくさんありますので、是非紹介させていただきたいのですが”塾長に言ったそうです。この話は“自分で汗を流して稼いだものしか利益ではない”とお伝えして終りにしたと塾長は述べています。 

世の中の動きにあおり立てられると、それに逆って自分の意思を貫くということは難しいことかも知れません。多くの社員に対して責任を負う経営者は、他人を見てその真似をするのではなく、あくまでも自分の中にある原理原則や行動の規範に従うべきである。時勢に付和雷同し、流されてはいけません。 

西郷南洲は遺訓二十五.で語っています。 人を相手にしないで、常に天を相手にするよう心がけよ。天を相手にして自分の誠を尽し、決して人の非をとがめるようなことをせず、自分の真心の足らないことを反省せよ。 

バブル景気の機、投機に走った人達が、バブルがはじけて大損をしました。その時、当事者は投機をすすめた人達を非難しました。自分の中にある原理原則や行動の規範を大切にすべきだったのですが、他人の意見や世の中の動きにつられて、間違った行動を執ってしまったのです。

投機的利益というのは、自分の本業とは関係のないところであげる利益です。損益計算書でいいますと、営業外利益のことです。 

予算制度は合理的か 当座買いの精神

来年度の事業計画を立てる場合、例えば売上20%増しにしよう。そうしますと人員も20%増し、経費も20%増しといった事業予算が作られることがあります。

しかし、実際には、売上は20%も増加しません。肝心の売上が計画通りに増えないことが多いからです。売上が増えないかと尋ねると“頑張っているのですが、今は不況でなかなかうまくいきません。現状を挽回するためには、さらに思い切って人員を増やす必要があります”と経費が先行していくことが多いのです。売上だけが計画通りに増えないということを肝に命じておく必要があります。 

使うほうの予算だけは順守され、入ってくる方の売上は期待通りには増えない。これが予算制度の実態です。 

従って、予算制度に基づいて経費を使うのではなく、原材料の購買について、毎月必要なものは毎月必要な分だけ購入する。お酒でいうなら一斗ではなく一升だけ買う。自分が今日飲む分だけ購入する。一斗買えば、一生買うよりも安いですが、余分なものは買わない。身軽になっておくのです。 

使う分だけを当座買いするから、高く買ったように見えるが、社員はあるものを大切に使うようになる。余分にないから倉庫も要らない。倉庫が要らないから在庫管理も要らないし、在庫金利もかからない。これらのTotal Cost(全部原価)を計算すると、その方がはるかに経済的なのです。 

  1. 人間の心理にかなった“当座買い”

“一升買い”は、もともとお金がないものだから、お酒でも醤油でも一升しか買えない貧乏人の生活態度を表わしたものです。 

例えば、お寿司屋さんでお刺身を食べる時、白人のお客様は、さしみ醤油皿に満杯にお醤油を入れて、刺身を泳がせて食べているのを良く見ます。テーブルにお醤油の小瓶が置いてあるものですから、余ろうがどうか全く感知しませんし、又、お醤油はタダです。人間の心理とはおかしなものです。つまり無駄遣いをしているのです。 

“多く買えば安くなるものを必要な分だけしか買うなといって、わざわざ高い値で少しだけ買う。なんでそんなバカなことをいうのですか”と反論する人もあると思います。

しかし、先述のように、Total Cost(全部原価)を考える、仕事の全体の流れを考えますと、目の前にある原材料の単価を比較するだけでは充分ではないのです。 

  1. 材料仕入から製品出荷までのよどみない美しい流れを

材料を使った場合には、その分製品となって出て行くというスムーズな流れにしますと、経営状態が即座にわかります。使った材料はすべて経費に落とす。そうして製品は同時に出荷され、売上に計上される。滞留在庫は少なく、すべての製品が出荷され、売上に計上されるというシステムですと、製品棚卸残も少なくなるのです。 

  1. 当座買いは棚卸資産を圧縮する

使う分だけしか買わないですから、貸借対照表の資産の部にある棚卸資産も抑えることができます。当座買いをしますと、原材料在庫も少なくて済みますから、棚卸資産も少なくて済みます。それだけではなく、不良在庫とか長期滞留の原材料も少ないか、又は一切発生しないのです。 

“当座買いの原則”は筋肉質の経営を実現するために大事な原則です。

盛和塾 読後感想文 第七十二号

善に見る習慣をつける 

正しい判断を行うためには、状況に対する正しい認識ができなければなりません 事実は一つしかあり ませんが、認識は観察者の視点によって左右されてしまいます。観察者の心のフィルターによて現象 は見られますから、同じ事実が善(よきこと)にも悪(あしきこと)にも解釈されます。事実というものは観察者の心のフィルターによって “漉(こ)しとられるもの” なのです。 

このフィルターは観察者の心ですから、観察者に都合のよいものは善(よきこと)、都合の悪いこと(あしきこと)となるのが通常です。正しいフィルターを持つ身には、“人間として何が正しいのか” という判断基準を絶えず保持する為、毎日の努力が必要なのです。 

例えば毎日朝から晩まで、休みなく仕事に打ち込んでいる人がいるとします。一生懸命に生きようと しているまじめな人なのです。その働きぶりは善(よきこと)と言えます。しかし、家族や奥さんの目から見ると、家族のことを少しも考えない夫と見られるかも知れません。 

この家族の場合、働きづくめの夫、と妻は、この機会に家族全員で話し合うという機会を持つことが 出来、家族会議を通じて、家族のきずなが強くなると思います。働きづくめの夫のことを肯定的に捉 えることによって、良き結果が生まれるのです。 

どちらも正しいと思うのですが、世の中には簡単に、これは善(よきこと)、これは悪(あしきこと)と判断できることばかりではないのです。しかし、そうであるならば、その人の持っている善意を信じ、ものごとを善に見ていく習慣をつけるべきだと、塾長は述べています。 

否定的なものの見方は、人を成長させることもなく、問題の解決ももたらしません。しかし肯定的な 見方に基づく認識や判断は、良き結果をもたらすのです。 

天を相手にせよ 自分の心の中の誠、真心を尽す 

“西郷南洲翁遺訓”

強いリーダーシップと謙虚さを矛盾なく発揮せよ

 遺訓十九 昔から主君と臣下が自分は完全だと思って政治を行うような世は、うまく治まった時代はない 自分は完全でないと考えるところから、はじめて下々の言うことも聞き入れるも のである。自分が完全だと思っているとき、人が自分の欠点を言い当てると、すぐに怒るから 、賢人や君子というようなりっぱな人は、おごりたかぶっている者に対しては決してこれを補 佐しないのである。

1.自信過剰剰を排し、謙虚であれ

いろいろな人から意見を聞き、自分の考えをまとめていく謙虚さが必要です。中小企業で従業員を抱える企業のトップであれば、強いリーダーシップを発揮する必要があります。 

その際、自信過剰に陥ってはならないのです。先代から働いてこられた番頭さん、ベテラン営業職員、工場長、先輩の方々の意見を十分に聞き入れて、間違いのない経営をしていかなければなりません。 

しかし、りっぱな経営ができればできるほど、それが長く続けば続くほど、経営者は自信を強め、やがて自信過剰になり、暴走することが往々にしてあります。 

経営で苦労しているとき、つまり逆境のときには、こうしたことは起きないのですが、経営が順調で発展し続けているときに、企業の大小に関係なく経営者の暴走が起こってしまうのです。 

歴史ある大企業の場合ですが、サラリーマン社長が長期にわたって権力を握り続ける場合には、ときには自信過剰に陥り、暴走することがあります。特に中興の祖と言われるよう な人ほど、そういう傾向があります。中興の祖が自信過剰になって暴走し、独裁者とまで 言われるようになり、晩節を汚すケースが多くあります。 

創業者の場合、徒手空拳(としゅくうけん)で会社をつくり、会社経営に成功しますとどうしても自信過剰に陥る可能性があるのです。

2.両極端の性格を併せ持て

“謙虚にして驕らず” という考え方を守り、周囲の人たちの意見を聞いて経営をしていけばよいのかというと、それだけでは不充分です。 

経営の原点十二ヶ条、3. 強烈な願望を抱く. 4. 誰にも負けない努力をする. 7. 経営は強い意 志で決まる. 8. 燃える闘魂、とあるように、トップには、一度決めたことを成し遂げるため、強引なまでに部下を引っ張っていく、岩をもうがつ強い意志力が必要です。 

経営者には、強烈なリーダーシップを持つと同時に、謙虚さを兼ね備えていなければならないのです。“独裁と協調” “強さと弱さ” “非常と温情” という相矛盾する両面を持っていなければならないのです。強いリーダーシップだけでは、独裁者に陥ってしまい、暴走してしまいます。一方では謙虚にみんなの意見、助言を得ながら、自分のやり方を変えていくことも必要なのです。 

しかし、企業集団をダイナミックに引っ張っていくためには、謙虚さだけで、迫力が足りないのです。強いリーダーシップと謙虚さ、この両方が経営には必要なのです。 

この両極端のジレンマは、経営だけに限ったことではないのです。“欲張って自分だけよくなろうという利己主義ではいけません。人生にも利他の心が要ります” 

しかし、家族を養うためにも、従業員を守るためにも、お金が要ります。博愛主義で周囲 の人たちみんなを幸せにしてあげようと、自分の会社の利益をないがしろにしていては、 自分の家族や会社の従業員を守っていくことはできないのです。 

自分の家族や従業員の生活を守っていく為には、利己が必要なのです。しかし、利己が過剰になってはいけないのです。“足るを知る” ということが大切なのです。 

互いに矛盾する利己と利他を自らの心の中で調和させていき、どう実行していくのか。経営でも人生でも、自らに課された課題なのです。 

リーダーはある局面で、どんな困難に直面してもひるまず、“我に続け” と自信を持って集団を引っ張っていく強いリーダーシップを発揮し、別の局面では、暴走しかねない性格を抑え、慎重にみんなの意見を聞き、撤退することも辞さない勇気もいるのです。こうした矛盾する二つの性格を使い分けることのできる人が、りっぱなリーダーなのです。 

商売をするにも慈愛が必要

遺訓二十四 道というのはこの天地のおのずからなるものであり、人はこれにのっとって行う べきものであるから、何よりもまず天を敬うことを目的とすべきである。天は他人も自分も平 等に愛したもうから、自分を愛する心をもって人を愛することが肝要である。 

道とは天道(てんとう)ともいい、道理に従ったもの 原理原則に従った道ということだと思 います。子供の頃よく聞かされた “誰にもばれないだろうと思って悪さをしたつもりでは。だけど、お天道さまが見ておられるのよ” 

西郷南洲は“畏(おそ)れ敬(うやま)うべき天は、公平無私(こうへいむし)なもので、全てを愛し給(たま)うはずだ。だから自分を愛する心を持って他人を愛さねばならない” と言っ ています。 

江戸時代の学者、石田梅岩(ばいがん)は“商(あきな)いは自分だけがうまくいけばよいとい うものではなく、天も立ち我も立つことを思うものだ”と言っています。自分が儲(もう)けよ うと思って行うのが商売だが、相手も儲かるようにするのが鉄則だと言っているのです。 

自分の心の中の誠を相手にせよ

遺訓二十五  人を相手にしないで、常に天を相手にするよう心がけよ。天を相手にして自分の 誠をつくし、決して人の非をとがめるようなことはせず、自分の真心の足らないことを反省せ よ。

1.天を相手にせず、人を相手にして起こったバブル

天を相手にせよ、とは(天=誠、真心のこと)、誠、自分の心の中にある真心を相手にし て商談にのぞむようにすることです。人を相手にするのではなく自分の誠、真心を基礎と して何事もなすべきだということです。 

バブル経済の時代には、不動産業者、銀行は、日本中の企業に不動産投資・投機を薦めました。日本中のみなが浮ついた儲け話にのり、投機に走ったのです。その結果、1億円もするゴルフ会員権を買ったのですが、バブル崩壊後には50万円になっていたのです。 

儲け話があった時、天の道、道理を踏まえているかどうかを考えなかったのです。みなが 天ではなく、人の話を相手に投機に走ったのです。額に汗もせず、右から左へとお金をまわしていくだけでボロ儲けができるとみな信じたのです。 

バブルがはじけましたら、投機をした人々は “銀行、不動産業者が金も用意するからと薦め たので、買いたくもなかった不動産を買ってしまった” と他人を咎めだしたのです。西郷 南洲は“点を相手にして己れを尽し、人を咎めず、我が誠の足らざるを尋ぬべし” と言っています。自分の誠が足らなかったから失敗したのだと考えるべきなのです。

2.人を相手にしては、真実は見抜けない

バブル以外にも、M資金という信じられないような話がありました。“第二次大戦後、米軍 が日本に莫大な資金を残した” “戦時中、日本政府軍部は、国民から集めた金、ダイヤモン ドを日銀の地下に保管した。それを換金した莫大な資金が国民に知らされず保管されてい る” M資金と呼ばれていました。このM資金は日本復興の為の資金で、りっぱな企業経営者 に使っていただくことになっている、とまことしやかに語られていました。 

“あなたのようなりっぱな経営者には無利子です。手続きをしますので振込手数料がいります。振込手数料は貸付金の数%です。この分だけ先に払って下さい” 

信じられない話なのですが、一部大手の企業がこの手口にひっかかったのです。 

人を相手にせず、天を相手にしていれば、だまされなかったはずです。“それは本当だろうか。ありえないのではないか” と自分の誠に照らしていく。人を相手にせず自分の中の判断基準である道理、原理原則に沿って判断していくようにすべきです。    

感性的な悩みをしない

遺訓二十七 過ちを改めるにあたっては、自分からあやまったと思いついたら、それでよし。 そのことをさっぱり思いすてて、すぐ一歩前進することだ。過去のあやまちを悔しく思い、あ れこれと取りつくろうと心配するのは、例えば茶碗を割ってそのかけらを集めてみるのも同様 で、何の役にも立たぬことである。 

ほとんどの人は、自らの過ちを認めることを嫌い、取り繕おうとします。そもそも過ちを認め ようとしないのです。 

自分が過ちを犯したと気づいたのなら、クヨクヨ思い悩む必要はない。今度は失敗しなように 、次の一歩を踏み出していけばよい。クヨクヨといつまでも悔やみ続けると身体を壊してしまいます。 

道を行うことで困難に直面しても 業が消えると思えばよい  

遺訓二十九 道を行うものはどうしても困難な苦しいことにあいますが どんな難しい場面に立っても、そのことが成功するか失敗するかということや、自分が生きるか死ぬかということに少しもこだわってはならない。事をなすには上手下手があり、物によってはよくできる人やよくできない人もあるので、自然と道を行うことに疑いをもって動揺する人もあろうが、人は道を行わねばならぬものだから、道を踏むという点では上手下手もなく、できない人もいない 。だから一生懸命、道を行い、道を楽しみ、もし困難なことにあってこれを乗り切ろうと思うならば、いよいよ道を楽しむような境地にならなければならぬ。自分は若い時代から困難という困難にあって来たので、今はどんな事に出会っても、心が動揺するようなことはないだろう 。それだけは実にしあわせだ。

1.艱難辛苦(かんなんしんく)がつくりあげた西郷の動かざる心

道理を行うということは、誠を尽し、道理にしたがってことを進めていくことです。原理 原則を守って行動する。筋を通して行動することです。そうしますと、必ず困難に遭遇するものと西郷南洲は言っています。 

西郷は薩摩の下級武士の生まれで、たいへん貧しい中で育ちました。その後、三度の島流 しにあい、茅葺屋根(かやぶきやね)の吹きさらしの牢に入れられ、辛酸(しんさん)を なめてきました。この逆境の中で、立派な志をさらに固いものとして人間性を高め続けた のです。 

 西郷は筆舌(ひつぜつ)に尽くし難い経験をして来ただけに “また大変な困難に遭って来た から、たとえどんなことがあろうとも心が動揺することはない。これはたいへん幸せなことだ” と言っています。 

2.道を踏み行えば困難に遭う

商売をしていく中で、先輩や友人に “おまえのような四角四面で原理原則だの道理だのと言っていては、堅苦しくて近所付き合いもできないだろう。ビジネスをするには、もっとく だけた、もっと世慣れた考え方で妥協しなければならない。商売をする場合には、もう少 し融通を利かせなさい” と言われます。 

盛和塾で言われている “人間として正しいことをしなければならない。それでは商売ができるわけがない。そこはもうちょっと融通を利かせてほしい” と考える人もいます。 

四角四面で筋を通せば通すほど、世の中は窮屈(きゅうくつ)になり、人から疎(うと) んじられ、いろいろな困難に遭遇していく。過ちを犯して招いた困難ではなく、筋を通したために招いた困難です。 

例えば、業界の中で筋を通した為に、村八分にされて、必ず談合を迫られます。業界の中 ではリーダーがいて、そのリーダーを中心に話し合いですべて決まってしまうのです。“談 合は不正だ。談合はしません” といえば、業界からアウトローとして排斥され、たちまち注 文もなくなって干上がってしまいます。

3.困難に遭えば過去の業が消える

京セラが遭遇した困難がありました。京セラは人口股関節を研究開発しました。厚生省の認可も受けて売り出しました。たいへん性能が良く、有名な大学病院等で使われ始めまし た。 

その病院の一つから人工膝関節(ひざかんせつ)の依頼がありました。厚生省の認可が必要でした。しかし病院側からの強い依頼に負けて、厚生省の認可を受けずに人口ひざ関節 の販売をしてしまいました。このことが後日、国会で問題になりました。 

悪徳商売をする京セラと新聞、雑誌に書かれ、世間に顔向けできないことになってしまっ たのです。その時に西村擔雪(たんせつ)老師(臨済宗妙心寺派管長)を訪ねました。“新聞等で御存知かと思いますが、大変なことに遭遇してしまい、困惑しております。やまし いことはしていないつもりです” と話しました。 

 “生きているからそういう困難に遭遇するのです。死んだらそんな困難に遭遇しません。生きている証拠ですよ。前世か現世か知らないが、それは過去にあなたが積んできた業(カ ルマ)が縁に触れて今結果となって出て来たものです” と擔雪老師が言われました。 

“たしかに今は災難に遭われ、たいへんかもしれません。しかしあなたが作った業が結果となってきたということは、その業が消えたことになります。考えようによっては、嬉しいことではありませんか” 

どれほど悪く書かれても、やましいことはしていないのだから、業が消えたと喜ばしいと考えなければならない、と塾長は語っています。 

“困難は過去の業が消える時なのだ” と思うようにする。   

自然界に存在する普遍の法則と人生

1.考え方のベースには善意が求められる

人生は心に何を思うかによってすべてが決まる。心に抱く思いがその人の人生を決めてい きます と塾長は述べています。 

思いが人生を決めるのですが、その思いはすべて善意に基づいたものでなければならない 。“優しい思いやり” がベースにならなければならない。 

一般的に企業経営の場合、同業他社を出し抜いたり、騙したり、裏切ることは戦略・戦術 のひとつと思われています。しかし、人生と同じく、企業経営の場合も、戦略・戦術を立 てる場合、あくまで善意で考えていかなければなりません。そうすることにより、その企 業は長期的に成長・発展していくのです。

2.勇気を持ち、誰にも負けない努力をする

自然界を見ればわかりますように、強くなければ生きられないようになっています。人間 も、生きていく為には強くなくてはなりません。この強さとは、相手を倒す為の強さでは なく、自分が生きていくために必要な強さです。自分自身に対して“何くそ”と努力するので す。逆境から立ち直っていく際には、勇気がいるのです。 

勇気を持つことで、我々は生き抜いていくことができるのですが、努力も必要なのです。“ それも、誰にも負けない努力” をしなければならないのです。 

自然界の中でも、必死に努力をしなければ、生きることはできません。地球上に生きてい る動植物すべてが、必死に生きる努力を払うことで、生きていくことが出来るのです。 

経営戦略・戦術を組むときに、不正なこと、人間としてやってはいけないことをベースに した場合には、一時的にうまくいったように見えても、長い目で見た時は決してうまくいきません。素晴しい優しい思いやりをベースに戦略・戦術を組めば、成功を長く持続する ことができるのです。

3.才覚と知恵だけでは真の成功につながらない

戦後の日本では宗教が軽んじられてしまい、逆に無宗教であることがインテリの象徴のようになってしまいました。学校の成績、一流大学卒といった形に見えるものさしで、リーダーを決めるようになってしまったのです。その結果、人間として正しいことを貫いていこうという考えが希薄化してしまいました。才覚や知恵をもって策略を巡らし、うまく世の中を渡っていく人の方があたかも知恵者のようにいわれてきました。こうした才覚や知恵をベースとした成功は一時的なもので、決して長続きはしません。素晴しい評価を受けていた会社が、策略を巡らして、手練手管に走り、結果として倒産していくことがよく見られます、と塾長は語っています。

4.善意で物事を解決していけば素晴らしい人生がひらける

善い思いは人間の健康にも良い影響を与えます。優しい思いやりは顔に表われます。優し い思いやりの心を持っていますと、暗い顔にはなりません。優しい思いやりの心でいます と、例え病魔に襲われても、体によいといわれています。善なるもの、優しい思いやりの ベースにした思いを自分の心の中に描き、生きていけば、人生は必ずうまくいくはずです 。財産よりも名誉よりも、何よりも常に善き思いを心に抱くことが一番大事なことなのです。 

Ralph Waldo Trine (ラルフ ウォルド トライン) の著 “人生の扉を開く “万能の鍵 ” の書いた 本の中に以下の文があります。 

“あなたが抱くどの考えも力となって出ていき、どの考えも同じ考えを引き連れて戻って来 ます。これは不変の原則です。あなたが抱くどの考えも、身体に直接に影響を及ぼす。愛 や優しい感情は自然で正常であり、宇宙の永遠の秩序に則っている。神とは愛なのだから、愛や美しい感情は生命を分かち与え、身体を健やかにするうえに、あなたのたたずまい を美しくし、声を豊かにし、あらゆる意味であなたをますます魅力的にする。さらにまた、すべてに対して愛を抱く度合いに応じて愛が戻ってくるから、それがあなたの心に直接 に影響を及ぼすから、あなたには外からも大生命力が与えられる。そうなれば、精神的な 生活も物質的な生活もつねに生き生きとして人生が豊かになる” 

愛は人に与えるものですが、同時にその愛は与えた度合いに応じて、自分に返ってきて、 自分を幸せにしてくれるのです。それは不変の原則と Ralph Waldo Trine (ラルフ ウォルド トライン) は述べています。

5.三つの煩悩を抑えていく

人は優しい思いやりのある心を常に抱くようにすべきなのですが、人間は誰でもそのようには出来ないのです。では、どうしてですか、どうしていつも優しい思いやりのある心を持ち続けることができないのでしょうか。何故なら人間にはみな本能があるからです。優しい思いやりのある心とは異なり、邪悪な心に類するものが本能なのです。お釈迦様は “煩悩”といっておられます。我々が生きていくためには、どうしても自分の肉体を維持してい かなければなりません。肉体を維持していこうとすると、自分が物を独占しようという利 己的な思い、行為が、つまり “欲” が必要なのです。また自分に危害を及ぼすものに対して抵抗しようとする “怒り” が、又、自分の欲望が満たされない為に “愚痴(ぐち)”つまり “怨(うら)み” “恨(つら)み”  というネガティブな思いを心の中に抱いてしまうのです。“貪欲” “怒 り” “愚痴” の三毒が煩悩となって心の中に巣(す)くうのです。 

これらの三毒が過剰になった場合、身を滅ぼしていくことになるとお釈迦様はおっしゃっ ています。煩悩を抑えていかなければ、美しい思いやりの心は出て来ません。欲、怒り、愚痴は人間が生きていく為に神様が与えてくれたものですが、重要なことは、過剰になら ないように抑えることです。 

世のため、人のため、優しい思いやりの心をもたなければならないと、自分の理性に訴え、自 分自身を正していかなければなりません。毎日毎日繰り返し、自分を正していかなければ それが心に定着することはないのです。放っておくと、悪しき煩悩が心の中に渦巻くので す。人間の心の中には常に煩悩が出て来ますから、それを繰り返し抑えていくことが大事 ですと、塾長は述べています。 

6.優しい思いやりの心が周囲も幸せにする

自分の貪欲、怒り、愚痴を少しでも抑える、世のため人のために何かしてあげようという 優しい思いやりの心を育てるように、自分に繰り返し言い聞かせることが大切です。優し い思いやりのある心が少しでも定着していきますと、それが心の中に占める比率がだんだ んと大きくなっていき、その人の日常の行動として現われて来ます。非情も優しい思いや りのある心になってくるのです。煩悩がまさっている人が周りにおられても、思いやりの ある人の心、気持ちに惹かれて、すべての人がなごやかな気持ちに変わっていくと思いま す。 

いつもブツブツ文句を言っている人、正義感から出た抗議かも知れません。しかし常に愚 痴、不平不満をもらし、不愉快な思いで生きている、勝ち負けにこだわったり、損得にこ だわったり等、否定的な思いを心の中に抱いていますと、その人を幸せにはしません。周 囲の人にも悪影響を及ぼします。 

優しい思いやりに満ちた戦略・戦術を立て、自分自身が苦労し一生懸命努力する。たとえ 逆境にあっても、どんな不幸に見舞われようとも、愚痴をこぼさず、それにめげずに明る い未来を想像し、勇気をもって努力を重ねる。そういう生き方をしておれば、人生は必ず 素晴らしい方向へ変わっていくのだと思うと、塾長は述べています。 

7.逆境が成長を促す自然界の法則

剪定(せんてい)した庭木がものすごい勢いで伸びます。自然に生えている木に比べて、 剪定した庭木のほうが早く伸びていきます。剪定しなかった木はそんなに大きく伸びることはありません。剪定するというのは木を傷めつけるわけです。傷めつけられた木はその傷みをバネにしてすごい勢いで成長します。 

経営でも、苦しんだり、健康を害して病気で苦しんだりします。しかしそのような逆境は 我々を強くし、立派にしていくために自然が与えてくれた試練と考えることができます。 

その他にも例があります。麦は 冬の間に麦踏をしてか弱い芽を踏みつけて折ってしまいま す。ところが春になれば、麦は大きく育ってくるのです。 

自然界の法則と同じく、我々人間も苦しい逆境や病気は自分をもっと強くする為に天がく れた試練と考えられると思います。 

8.心の底を耕し、雑草の種を除く

ジェームズ・アレン著の “原因と結果の法則” (A MAN THINKS)の本に出てくる一節です。 

 “人間の心は庭のようなものです。それは知的に耕されることもあれば野放しにされること もありますが、どちらの場合も何かが生えてきます。もしあなたが自分の庭に美しい草花 の種を蒔かなかったら、そこには雑草の種が無数に舞い落ち、雑草のみが生い茂ることに なります。 

優れた園芸家は庭を耕し、雑草を取り除き、美しい草花の種を蒔き、それを育(はぐく)みつづけます。同様に私達も、もし素晴らしい人生を生きたいのならば、自分の心の庭を掘り起こし、そこから不純な誤った思いを一掃し、そのあとに清らかな正しい思いを植え付け、それを育みつづけなくてはなりません“ 

心というものは庭のように手入れをしなければなりません。手入れをしないと雑草が生い 茂ることになります。煩悩の中でも、貪欲、怒り、愚痴、このような思いが出ないように 手入れをしないと、すぐに悪しき心が雑草のように茫々と生えてきます。そのような雑草 をひっこ抜き、あなたの心の庭を耕し、優しい思いやりに満ちた草花の種を植えなさい。 そうすればあなたの人生を素晴しいものにする美しい花が咲きます。咲いた花は必ず実を つけ、あなたに潤いのある人生を与えてくれるでしょう。 

常に自分の心の手入れをして善き思いを心に抱くような生き方をするということが、大変 大切なのです。この宇宙は愛によってできています。愛とは美しい思いやりの心です。し たがって、あなたの美しい思いやりのある心、気高く純粋な心というのは宇宙の流れに合 致する非常に力強い力を持っているのです。

9.気高く純粋な心が第二電電(KDDI)を成功に導いた

気高く、純粋な心に臨んだビジネスは必ず成功を収めるのです。第二電電(KDDI) は一般 大衆のために通信料金を安くしてあげたいという純粋な思いのみでスタートしました。気 高く純粋な気持ちだけで頑張っていくうちに、第二電電はいつの間にか 新規参入した会社 の中で先頭を走りだしたのです。 

世のため人のために何か本当に善いことをしてあげたいといった気高い、純粋な思いを抱 き、誰にも負けない努力を重ねていくことが、人生においても経営においても素晴らしい 結果をもたらしてくれるのです。