盛和塾 読後感想文 第二十二号

判断のものさしを備える

リーダーは常に判断をしなければなりません。正しい判断をするためには完全に客観的で公正でなければならないのです。リーダーにも “ものさし” のような判断の基準が必要です。自分で判断する為の尺度がない為に、他人の判断や、世間の常識、先例、慣習に頼って判断してしまうということがあります。自分にとって損か得かといった自分勝手な “ものさし” を判断基準にしてしまうリーダーもあります。正しい判断をする為には、“ものさし” となる人生哲学が必要だと思います。 “人間として何が正しいか、” 公正、思いやり、調和、誠実等に基づいた判断基準がリーダーには欠かせないのです。

塾長の述べておられる正しい判断基準は、毎日の絶えざる勉強を必要とします。私は判断基準を間違わないように、判断する前に5分程、間をおいて判断するようにしています。考える時間が必要なのです。  

京セラ会計学

私は会計士として50年間働いてきましたが、京セラ会計学はそのまま、何の迷いもなく受け入れることが出来る国際会計基準であると考えています。 

第一章 本質追求の原則

物事の本質を追求し、原理原則に則り、何が正しいかを追及する。会計の問題についても世間一般の通念のみを追うのではなく、常にその本質を追求し、原理原則に従って処理しなければならないのです。 

1. 儲けた金はどうなっているのか?

事業はお金に始まり、お金で終わります。

儲けたお金はどう使われて、残高はいくらになっているのかを明らかにすることが会計の目的であります。資金の動きは、資金の源泉と使途を表す資金運用表で捉えることが出来ます。

2. 設備投資の借入金限度額 

設備投資の為の借入金は、一定の返済期間があり、毎月、元本の返済と金利の支払いをする形になります。その際、借入金返済金額の上限は税引後利益 + 減価償却費の合計とするべきです。 

3. 常に余裕のある経営をする 

常にお金のことを心配していては仕事ができないので、安心して仕事が出来るように、うんと余裕のある資金繰りをするべきです。京セラでは、“土俵の真ん中で相撲をとる”と云い、土俵の端っこではなく、後ろに余裕のある真ん中で相撲をとるように努めます。土俵際ギリギリまで追い込まれてから、勝負をかけるようなことがあってはならないのです。

私は最低でも、製造経費(労務費、製造間接費)と一般管理販売費の合計三ヵ月分を預金残高としています。又、出来るだけ借入はしないようにしています。 

4. 会計資料は、経営にすぐ役立つものでなければならない 

会計というものは経営者の為にあらねばならない。会計というものは経営者の成績表です。会計とは、将来の経営に役立ち、従業員にも解り易く、しかも即座に経営に役立つ資料を提供するものでなければなりません。これらの経営に役立つ会計資料は、全社社員が経営に参画し、協力を促す為の資料でもあります。 

5. 売価還元原価法 

売価還元原価法の基本的な考え方は、会社の資産は常に正味実現可能価額で表示、管理すべきという保守主義の思想から考えられています。原価計算は通常、原価計算会計原則に基づいています。取得原価を基本とし、資産評価する方法が基本となっています。原価計算に基づいて計算された資産の評価は必ずしも市場が受け入れる価格ではありません。原価が市場価格(正味実現可能価額)を上回ることがあります。従って、売価還元原価法は正しい資産の評価方法であり、安全を見越した評価方法なのです。 

6. 固定資産は経営実態に基づいて耐用年数を決め、償却する 

会社の固定資産の耐用年数は、設備や機械の本当の寿命に基づいて決定し、償却します。税法や会計上の一般的な減価償却耐用年数で償却するのは経済実態を反映していないことが多いと思います。 

7. 銀行は雨が降ったら傘を取り上げる 

銀行から融資を受けるときは、“銀行は企業が資金繰りに困った時には、資金を引き上げる” ということを念頭に置いて、借入する覚悟が必要です。 

8. 決算書は経営者の成績表 

決算書は社長の意志と実行力の所産であり、社長の経営に対する考課状でもあります。

決算書は企業の活動状況がすべて一目で分かるようでなければならないのです。 

9. 経理を知らない者は経営者にはなれない。 

経営者は貸借対照表、損益計算書、資金繰り表を他の役員や株主に解説することが出来なければなりません。  

第二章 保守主義の原則 
1. 将来に備えた保守堅実の会計

保守危機感の会計は企業を守る為に、どのような情況の中でもビクともしない防衛体制の姿勢です。会計とは保守堅実を守ろうとする考え方であるべきです。損失となりそうな項目は費用に計上する一方、収益は現金主義を念頭に置き、抑えるだけ抑え、将来の収益に備えるようにします。 

2. 未経過分を資産に計上しない

試験研究費、開発費、設立費用等の繰越資産はすべて、経費処理をするべきです。 

3. 内部留保を厚くする 

どのような非常事態に直面しても十分対応出来るよう、常に余裕のある資産を持っていなければならないのです。自己資本比率を高めて無借金経営をしていくことが必要です。  

第三章 ハングリー精神の原則 

1. ケチケチ精神 

自分が仕事を全うする為に必要な参考書は自分で買います。ホテルはなるべく安く、交通の便利なところに泊まります。社内コンパは会社社員寮を使う等、ケチケチ精神を発揮するのです。

2. 中古品を使う 

機械設備は、中古品を工夫して使うべきです。中古品が、新しい機械設備より生産性に

劣るとしても、購入価格あるいは労務費と比較して有利であるならば、中古品を購入し

ます。 

3. 固定費の増加を警戒する 

固定費、人件費、減価償却費、賃料等、固定費増を抑えるべきです。固定費が減少すれば損益分岐点が下がり、利益確保が容易になる為です。 

4. 予算制度は無駄遣いの素 

事業計画を作り、予算制度を作ることがありますが、お金を使う予算計画はすぐに実行され、お金が使われてしまいます。しかし、それに見合う売上げは、事業計画を大幅に下回ることがよくあります。従って、出費を前提とする予算制度は無駄遣いの温床なのです。設備投資、交際費、支店開業等は、一件毎稟議制度で処理されるようにすべきです。

第四章 健全資産の原則 

1. 売れない資産価値はゼロ 

いつ売れるか判らない製品、商品は不良資産です。強い筋肉質の会社にする為には、不良資産を抱えない強い財務体質を目指すべきです。毎月の棚卸しも、社長自ら陣頭指揮を執り、担当者と一緒になって倉庫、工場で検品すべきです。私も倉庫に一年以上放置され、埃が被っていた原料を発見しましたし、袋から原料が床に散乱しているのを見つけました。これらは不良在庫です。

2. 金型は経費 

金型は業種により数年間使用され、数年の耐用年数で償却されます。業種によってはお客様の商売の中で、一回しか使われない金型もあります。こうした金型は、経費処理されるべきものです。

税法では金型の耐用年数を定めていますが、その耐用年数はビジネス上の耐用年数を大幅に超えているのです。会計課社員は、税法上の耐用年数を当たり前として、採用していることが多いと思われます。経営者は経営を理解した上で、ビジネス上の経営実態を反映した会計処理を指示しなければなりません。 

3. 資材一升買い論 

会社は余分なものを買ってはいけません。その日その日に必要なものを買う “一升買い”の原則で物を購入します。仕入れたものはすぐに使用し、経費処理すれば、棚卸し管理は不必要です。物価高騰に対しても、物価の値上がりを見越して大量に仕入れを行うよりも、メーカーはメーカーに徹して生産で儲けるという姿勢が正しいと思います。この “当座買い” 方式は、コスト削減に繋がります。余分に材料や原料があれば、人間は気を緩めて材料や原料を無駄遣いします。又、期末在庫も少ない、倉庫の使用スペースも小さい、管理費用の手間も少ない、保険料も少ない等と、当座買いには大きなメリットがあります。 

たとえば、購入数量が少ない為、その原価が割高になることもありますが、絶対額は少量購入の場合の方が、大量購入より少ないはずです。 

4. 資産運用は元本保証で

資金運用する場合は、元本保証の固定金利の預金、国債等、ほぼ元本保証のもので運用するようにします。 

5. 不動産投資は自社工場のみ

浮利は追わず、利益は額に汗して。利益は本業のビジネスをすることにより、手に入れるもの。不動産投資により利益を生み出そうとするのは本来の事業目的から、はずれています。不動産投資は自社社屋や自社工事のに限ります。

経営の原点12か条

1.  事業の目的、意義を明確にする

公明正大で大義名分の高い目的を立てる 

2.  具体的な目標を立てる

立てた目標は常に社員と共有する 

3.  強烈な願望を心に抱く

目標達成のためには潜在意識に透徹するほどの強く持続した願望を持つこと

4.  誰にも負けない努力をする

地道な仕事を一歩一歩、堅実に弛まぬ努力を 

5.  売上を最大限に、経費は最小限に 

6.  値決めは経営

値決めはトップの仕事、お客も喜び自分も儲かるポイントは一点である 

7.  経営は強い意思で決まる

経営には岩をも穿つ強い意志が必要 

8.  燃える闘魂

経営にはいかなる格闘技にも勝る激しい闘争心が必要 

9.  勇気を持って事に当たる

卑屈な振る舞いがあってはならない  

10.  常に創造的な仕事を行う

今日より明日、明日より明後日と、常に改良改善を絶え間なく続ける。創意工夫を重ねる 

11.  思いやりの心で誠実に

12. 常に明るく前向きで、夢と希望を抱いて素直な心で経営する 

六つの精進

1.  誰にも負けない努力をする

2.  謙虚にして奢らず

3.  反省ある日々を送る

4.  生きていることに感謝する

5.  善行、利他行を積む

6.  感性的な悩みをしない 

第五章 採算向上の原則 

時間当りの付加価値をベースとして、目標数値を達成するシステム、アメーバ経営管理システムを構築する。各事業部の一時間当たりの付加価値が運命共同体である会社に対してどれだけ貢献したかを公表し、全社の目標達成を確認する。アメーバ経営を通じて、全員参加の経営を目ざし、採算向上を図る。

  1. 時間当り採算性向上 

付加価値採算制度のシステムを設定したとしても、その効果が簡単にあらわれるわけではない。経営トップが直接現場に行き、従業員と対話をする、会議を通じて、あるいは職場のコンパの中で、時間当り採算制度を説き、従業員の理解を求める努力をすることが大事です。 

付加価値=会社、従業員が生み出した価値。付加価値=売上高から原材料等、製造経費を差し引いた金額をいいます。 

付加価値採算制度があるからと言って、経営が改善されるわけではありません。現場に行き、従業員に理解してもらう、一緒にその制度をどう活用して行くかを徹底して議論することが不可欠です。何の目的で、時間当り採算制度が必要なのか、それは運命共同体である会社や同僚や自分にとって、どういう意味があるかを議論し続けることが、制度に血を通わすことになります。 

  1. 従業員の頑張り 

従業員一人ひとりが採算性ということを意識して、頑張ってくれないかぎり、アメーバ経営 ― 時間当り採算制度は機能しません。採算性を向上させる正しいルールと、従業員が一心同体となった努力がなければ、採算性の向上はありえないのです。  

第六章 完璧主義の原則 

  1. 現場を知る 

社長は全社の方向を知ると同時に現場に精通していなければならない。そうすることにより、間違いのない完璧な仕事が達成可能となります。 

トップは足繁く現場へ出向いて現場の雰囲気や実態を知る必要があります。創業者は、苦労しただけに現場の細かいことから会社全体のことをすべて理解しています。そうすることによって従業員にパーフェクトな指示を出すことが可能になり、パーフェクトな製品やサービスをお客様にお届けすることが可能となります。 

  1. 100%を目ざす 

どの仕事でも100%達成していなければならない。“目標売上高達成95%でまあまあいいわ”ではないのです。目標売上高は100%を達成しなければ意味がないのです。 

会計上の間違いを見つけられて、消しゴムで消して直して “済みました。” とすることがあってはいけません。なぜ間違いが発生したのか、原因を徹底的に調べる必要があります。 

製品の場合ですと、ちょっとした表面上の傷でも、見逃すことは出来ないのです。これではお客様に受け取っていただくことはできないのです。 

100%の目標をたてたならば、ゴールはあくまで100%です。妥協は許せないのです。 

  1. 月次決算書を読む 

月次決算書が作成され、毎月レビューをしていますと、数字が語りかけてきます。その会社、事業部の仕事内容が数字として表われているからです。現場を知っていますと、異常な数字が現場での仕事上のトラブルを告げることが多々あります。例えば売掛金の回収が遅れている顧客が発見された場合、よく調べますと契約内容が明確でない為、顧客が支払いに応じないというようなことがあります。こうした問題は会計の問題というよりは営業上の問題でもあります。売上計上が間違っていたという結論にもなりかねません。トップは月次決算書の数字を読み執ることを要求されているわけです。  

第七章 一対一の原則 

取引きの内容は一つひとつ分解し、明細を明らかにして処理しなければならない。明細をチェックせずに合計であっていればよいとして処理してはならない。“どんぶり勘定” をしてはならない。 

  1. モノと金の動きの記帳 

伝票(取引記録)あるいは取引記録なしで、モノや金が動くことがあってはならない。モノと金が動いた時のみ、取引記録がなされなければならない。 

例えば、お客様からの督促で製品をお届けすることがあります。急いでいるものですから、納品伝票なしのまま製品をお届けしてしまうことがあります。後日納品伝票をお届けすると “いや、その製品は受け取っていないですよ。” と言われることがあり、お互いの信頼関係にヒビが入ってしまいます。 

他のケースでは大手商社の営業部員が、長年のお客様に電話で、“今年の売上目標が達成出来なくて困っています。今回だけ一千万円の売上をたてますので宜しくお願いします。翌月に返品処理しておきますので、お宅には迷惑かけないようにします。” と依頼して、モノが動いていないのに売上伝票(請求書)を発行する。こうしたことがあってはなりません。 

モノと金と伝票(取引記録)がいつも対応している一対一の原則を守れば、会計の数字をごまかすことは出来ないはずです。 

  1. 売掛金、入金、買掛金、出金のチェックも一対一の原則で 

売掛金の入金があった場合は通常コンピューター売掛金プログラムで処理しますから、その入金がどの請求書のものなのか、コンピューターにインプットして、請求書番号で確認して、入金処理、売掛金の消し込みをします。 

売掛金の入金処理を合計して、総勘定元帳で仕分けをしてしまい、後日、総勘定元帳の売掛金残高と売掛金補助簿の残高に誤差がでるようではいけません。 

買掛金の支払いも同様に、支払う時には、どの請求書の支払いをするのか請求書番号を確認してから、買掛金支払処理、買掛金の消し込みをします。 

買掛金出金の場合も合計して総勘定元帳で処理してはなりません。買掛金総勘定元帳残高と買掛金補助簿残高に差異が出てしまいます。 

売掛金入金、買掛金支払いも一対一対応の原則で処理します。 

  1. 売上と仕入れの対応も一対一 

月次決算書を作成しますと、売上高、売上原価が示されます。月毎に売上総利益率が大巾に変動しているのを発見することがあります。会計上、収益費用対応の原則があります。それは収益が計上されていますと、その収益或いは売上高はどうして達成されたのか、どの製品、どの商品を売却したのかを対応して収益(売上高)と費用(売上原価)を対応して成績を判断するという、一対一対応の原則なのです。

例えば、輸入商品を売却した場合、商品は今月出荷し、売上は出荷基準で計上します。ところが輸入関連の書類が翌月に届き、仕入計上を翌月にしてしまいます。こうなりますと、売上計上は今月、しかし仕入計上は翌月ですから、今月の売上総利益率は100%となってしまいます。仕入計上は収益費用対応の原則、一対一対応の原則で今月に計上すべきなのです。

第八章 ダブルチェックの原則 

経理処理上、間違いが発生しないように、また不正や間違いが発生することを未然に防ぐシステムーダブルチェックの原則が大切です。 

  1. 会計記帳者と金銭出納責任者との分離 

会計記帳担当者と金銭出納責任者とは分離し、経理責任者は、両者の入れ替え、交替を適時行う。

これはお金を出し入れする人と、出金依頼申請書を作成する人を全く別の人にするということです。 

  1. 手持ち現金残高 

金銭出納者(現金保管者)が保管する現金残高は、随時会計記帳担当者が実地検査し、経理責任者が確認する。出金伝票(出金申請書)を切っている人が検査をして、現金残高がどの時点でもぴったりと合っていることを確認しなければならない、という意味です。 

  1. 支出の管理 

仕入、賃金、経費の支払い、借入金の返済、銀行預金の現金引き出し等、資金の支出は、その支出をチェックする部署、例えば、買掛金の支払い承認部長が作成した出金伝票により、支払い担当者(買掛金支払い担当者)が支払うようにする。電信送金の場合は、銀行口座へのアクセス支払いには、支出をチェックする部署のマネージャーのパスワードと支払い担当者のパスワードの2つのパスワードが必要とすべきです。これらのパスワードは共有してはなりません。 

  1. 小切手の保管とサインカードの保管 

小切手の保管金庫担当者とサインカードの保管担当者は別々の担当者でなければならない。 

  1. 金庫の開閉 

金庫には、鍵とダイヤルがありますから、鍵の担当者とダイヤルの担当者は別の人にする。 

  1. 物品の購入 

物品購入依頼者と物品発注者、物品検収者とは別々とする。現場のある部門からこういう品物を購入してほしいと依頼があった場合、購入依頼書を作成し資材部に提出する。資材部では購入依頼書に基づき発注する。 

  1. 売掛金の管理 

会社の資産・製品や商品を売却(処分)した訳ですから、売掛金残高管理 ― 売上、入金は営業部の責任です。 

一方経理部はすべての入金を受け、売掛金の管理もします。営業部の売掛金残高は経理部の売掛金残高に合っていなければなりません。 

  1. 買掛金の管理 

資材部は買掛金の支払い、並びに買掛金残高の管理をします。資材部責任者及び経営管理責任者がその任にあたります。支払いはすべて経理部で行われます。すなわち資材部と経理部両者で買掛金を管理する、ダブルチェックをします。 

  1. 作業屑の処分 

作業屑の処分に関して、取引業者との現物数量・重量の確認についても必ず2人の関係担当者が立ち会い、現物数・重量の確認をする。 

  1. 数字の計算は必ず2人でする 

これはあらゆる数字は2人で再計算確認するということです。

こうした会計原則を “守らせる”、“実行する” ことが大事です。口先で説明するだけではなく、トップ自ら、そのことが守られているか、何回もチェックする必要があります。繰り返してはじめて、制度というものが社内に定着します。定着するまで、やり遂げることが大切です。